報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「森脇警備員との別れ」

2021-11-08 15:43:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月20日00:51.天候:晴 東京都台東区上野 都営地下鉄上野御徒町駅→大江戸線2432B電車最後尾車内]

 結局、酒豪の森脇さんに2次会、3次会と連れ回され、最後には緊急事態宣言などガン無視の酒提供の店に連れて行かれた。

 森脇:「愛原君と一緒だと楽しいねぇ!もう一杯行こうか!」

 なんて……。

 愛原:「でも森脇さん、すいませんけど、そろそろ終電が……」
 森脇:「なに?もうそんな時間か?残念だなぁ……」

 終電の時間になると解放してくれた。

 森脇:「駅まで送って行くよ」
 愛原:「はあ、すいません……」

 私はヨタつく足元に注意しながら、席を立った。

 森脇:「早く店でガンガン飲めるようになるといいねぇ……」

 いや、もう既にガンガン飲んでるじゃないですかぁ……。

 店長:「ありがとやんした!」
 森脇:「ごちそうさんねー」

 酒代は全部森脇さんが払ってくれたが。
 尚、店の暖簾は既に店内に取り込まれており、入口の所には『貸切営業中』という札が掲げられていた。
 通常の営業は20時までの時短営業だが、それ以降は貸切営業なら良いらしい。
 だけど、他にも森脇さんと似たような常連客がいたことから、本当にただ誤魔化す為の『なんちゃって貸切営業』なのだろう。
 森脇さんのような人が常連だから、居酒屋も潰れずに済んでいるのだろうが……。

 森脇:「さてさて。上野御徒町駅はあっちだ。俺について来い」
 愛原:「はあ……」

 森脇さんは、確かに飲んで顔が赤くなっていたものの、意識レベルは通常値である。
 また、私のように足元がフラつくこともなく、しっかりとした足取りである。

 愛原:「それにしても、斉藤さんは残念でしたなぁ……」
 森脇:「本当だよ。何で死んじゃったんだよォ……」

 酒を飲んだことが、却って脳が活性化されたのか、森脇さんは思い出してくれた。
 “トイレの花子さん”の生前の本名を。
 生前の本名は斉藤早苗という。
 斉藤というと、斉藤社長を思い出してしまうが、まあ、斉藤という名字は何も珍しくはないから、たまたま偶然だろう。
 それでも記憶違いの恐れもある為、一応、卒業アルバムは確認してくれるという。

 森脇:「それじゃあ、気を付けて帰れよ」
 愛原:「はい。色々とありがとうございました」
 森脇:「また、いつでも戻ってきていいからな?」
 愛原:「え……?」
 森脇:「うちの会社、人手不足なんだよ。コロナ禍なのに」
 愛原:「ははは……。まあ、探偵がダメになったらよろしくお願いします」

 私はそう答えると、駅への階段を下りた。

〔「大江戸線ご利用のお客様にお知らせ致します。大江戸線、まもなく清澄白河行きの最終電車が到着致します。ご利用のお客様は、お急ぎください。尚、都庁前、光が丘行きにつきましては、本日の運転を終了致しております」〕

 こんな放送が構内に鳴り響く。
 私は急ぎ足で、改札口にSuicaをタッチした。
 駅員達が改札口で、終電利用希望の客達を集めている。

〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
〔「2番線、ご注意ください。本日最終の清澄白河行きの到着です」〕

 まばゆいヘッドライトの灯りを照らしながら、リニアモーター式の電車がやってきた。
 普通、平日の終電というと混んでいるイメージがあるが、この電車は空いていた。
 恐らく、緊急事態宣言の影響だろう。
 鉄道会社によっては、終電時間を繰り上げたところがあると聞く。
 こんなガラガラでは、それも致し方無いだろう。

〔上野御徒町、上野御徒町。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。上野御徒町、上野御徒町です。2番線の電車は、清澄白河行きの最終電車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 私は最後尾に乗り込み、ファインレッドの座席に腰かけた。
 長時間利用は考慮されていないのが、座面は硬い。

〔「2番線から、清澄白河行きの最終電車が発車致します」〕

 発車メロディが鳴った後で、ホーム立ち番の駅員が改札口の駅員と無線でやり取りしながら、終電の乗客を乗せて行く。
 そんなことをすれば発車が遅れるに決まっているが、もう次の電車が無い為、鉄道会社側も、遅延させた現場職員達を咎めることはまず無い。
 そもそも、『客扱い遅れ』に関しては、乗務員側に責任は無いとされている。
 そして、車両のドアとホームドアが閉まった。

 愛原:(もうこんな時間か。高橋にLINEしといて良かった……)

 さすがにもう寝てると思い、終電に乗ったまでは連絡しなくていいだろうと思った。

〔次は新御徒町、新御徒町です。お出口は、右側です〕
〔The next staion is Shin-Okachimachi.E10.〕

 本来なら、つくばエクスプレスの乗り換え駅であるが、そちらはもう終電が終わっている為、乗換案内放送は流れない。
 私は森脇さんから聞き出した情報をメモに書いており、それを鞄にしまった。
 電車内はガラガラで、私以外には数えるほどしか乗っていない。
 コロナ禍前は、もっと混んでいるはずなのに、随分と寂しくなったものだ。

 愛原:「ん?」

 すると、私のスマホが震えた。
 LINE着信の震え方だ。
 私がスマホを見ると、リサからだった。

 リサ:「まだ帰ってこないの?」

 というもの。
 なので私は、『さっき大江戸線の終電に乗った。もうすぐ帰る』というLINEを送っておいた。
 これで良し。

 愛原:「ん?」

 すると、隣の車両から誰かがやってきた。
 制服姿の女子中高生であった。
 こんな時間に何故と思ったが、塾か何かからの帰りだろうか。
 私の向かいに座った。
 そして、スカートのポケットからスマホを取り出して弄り出す。
 特に、問題無しか……。

[同日01:30.天候:晴 東京都江東区白河 地下鉄清澄白河駅]

 え……?何があった……?
 か、体が……動かない……。
 えーと……確か……あれだ……。
 えー……両国駅を出たら……向かい側に座っていた女子中高生が鞄の中から、白い仮面を取り出して、それを着けて……私が立ち上がろうとしたら、体の力が抜けて、倒れたんだっけ……。

 救急隊員A:「1名は呼吸あり!脈拍あり!意識は無し!」

 私はどうやらストレッチャーに乗せられているようだ。
 まるで、夢の世界にいるかのような感覚だ。
 周りは騒々しいはずなのに、それがまるで夢の中が騒がしいかのような感覚……。

 救急隊員B:「いや、意識混濁だ!大丈夫ですか!?分かりますか!?」

 駅の外に出たのだろう。
 しかし、そこも騒然としていたのは分かった。
 うつろな目に飛び込んで来る、いくつもの赤色灯。
 救急車に乗せられた時、私は目が半開きになっているのを救急隊員に見つかった。

 愛原:「…………」

 だが、何も答えられない。
 一体、何が……あったんだ……?
 私は救急隊員の呼び掛けに応えることはできず、再び意識を失った。

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