報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「森脇警備員の情報」

2021-11-05 20:03:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月19日18:00.天候:晴 東京都豊島区池袋本町 豊島学園大学通用門]

 森脇:「じゃ、お先ー」
 警備員:「お疲れさまでした」

 森脇さんが立哨中の若い警備員に挨拶して、通用門を出て来た。

 愛原:「森脇さん!」
 森脇:「ん?」

 私はコロナ対策で着けているマスクを少し外して素顔を見せた。

 愛原:「覚えてますか?愛原です!あの、東京駅地下街警備で一緒になった愛原です!社員旅行でも一緒でしたよね!?」
 森脇:「おお!愛原君かー。久しぶりだなー。元気にしてたかー?」

 森脇さんは白髪の目立つ髪が特徴で、眼鏡を掛けていた。
 熊谷さんが白髪染めをしていて、髪をオールバックにし、どちらかというと色白なのに対し、森脇さんは色黒である。

 愛原:「はい、おかげさまで!熊谷さんから、森脇さんがここの大学の現場で働いていると聞いて、近くを通ってみたもので、立ち寄ってみました。偶然お会いできて良かったです!」

 なんてな。
 本当は今日、森脇さんが日勤で18時に上がることを知っていて来た。

 森脇:「そうかそうか。それは良かった」
 愛原:「あの、良かったら、これから一杯どうですか?」
 森脇:「おー、そうだな。明日は公休だし、これから一杯やるか」

 明日が公休で、酒豪の森脇さんは帰り際に必ず一杯引っ掛けることも私は知っていた。

 森脇:「ただな、緊急事態宣言のせいで、もう都内の店じゃ、酒が提供されなくなったからな。寂しいもんだ」
 愛原:「そうですねぇ……」
 森脇:「ま、せっかくこうして愛原君と再会できたことだし、ノンアルで我慢するか。よし、俺について来い。俺の行きつけの店で飲もう」
 愛原:「ありがとうございます!」

 私は森脇さんについて行った。

[同日18:20.天候:晴 同区南池袋 JR池袋駅→山手線1751G電車8号車内]

 私達は帰宅客で賑わう池袋駅構内に入った。
 緊急事態宣言が出されているが、そんなに人が少なくなったわけではないように思える。

 森脇:「キミもこっちの方角なの?」
 愛原:「はい。今、菊川に住んでいます」
 森脇:「菊川か。江東区との境目だな」
 愛原:「そうですね」

〔まもなく7番線に、上野、東京方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 リサがいれば、どうしても電車は先頭車と最後尾に乗らなくてはならないが、今回はいないので中間車に乗る。
 もっとも、森脇さんがそれらを狙って乗るのなら、そうすることになるが。
 しかし、鉄ヲタでもない森脇さんは、わざわざ電車の端っこまで行くことはなかった。
 普通に階段やエスカレーターに程近い車両の所で電車を待った。

〔「7番線、ご注意ください。山手線外回り電車の到着です」〕

 パァァンと電子音の警笛を鳴らして、電車が入線してきた。
 東京でも特に賑わう新宿から来た電車ということもあり、車内はすし詰めの満員であるが……。

〔いけぶくろ~、池袋~。ご乗車、ありがとうございます〕

 この駅で、ぞろぞろと降りてくる。
 池袋駅もターミナル駅の1つであるが、新宿ほど人が多くないのか、多くの人が乗り込むとはいえ、車内の混雑は痴漢が出るほどではなかった。
 座ることはできなかったものの、黄緑色の吊り革に掴まることはできた。

〔「山手線外回り、田端、上野、東京方面行きです。まもなく発車致します」〕

 ホームから発車メロディが流れて来た。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 駆け込み乗車があったのか、ドアが何回か再開閉して、それからやっとドアが閉まった。
 この時間、3分おきに電車が走っているのだが、それでも駆け込み乗車が無くなることはない。
 カクンと少し急発進ぎみに電車が走り出した。

〔この電車は山手線外回り、上野、東京方面行きです。次は大塚、大塚。お出口は、右側です。“東京さくらトラム”都電荒川線は、お乗り換えです〕

 森脇:「ところで、愛原君は今、探偵をやっているんだって?」
 愛原:「そうです」
 森脇:「すると、俺に何か聞きたいことがあって来たってことかな?」
 愛原:「すいません。情報料として、私が今夜出させて頂きますんで」
 森脇:「はっはっはー。いいよいいよ。俺なんかの情報で良ければ」

 森脇さんは勘が鋭いようだが、単なる年の功だろうか。

[同日19:00.天候:晴 東京都台東区上野 某居酒屋]

 森脇さんの行きつけは、上野駅に程近い場所にあった。
 こんな所にあるのかと思うような場所だ。
 どちらかというと、御徒町駅の方が近いのでは?と思うほどだ。

 森脇:「まあまあ。再会を記念して、カンパイと行こうじゃないか」

 私と森脇さんはカウンター席に横並びになり、ノンアルコールビールで乾杯した。

 愛原:「ぷはーっ!」
 森脇:「やっぱりアルコールが入ってないと味気無いねぇ。アルコールの入ってないビールなんて、ただのビール味のジュースだよね。なあ、大将?」
 店長:「すいませんね。都がどうしても自粛しろってうるさいもんで……」
 森脇:「ビール味のジュースなんて、子供の飲み物だよなぁ?愛原君」
 愛原:「でも何故か、子供に飲ませちゃダメなんですって」 

 私は御通しをつまみながら言った。
 本来、御通しは有料であるが、アルコールを出せない負い目からか、この店ではそれが提供できない間だけは無料とのことだ。

 森脇:「よく分かんないねぇ。最近の世の中、何でもそうだけど」
 愛原:「そうですねぇ……」
 森脇:「そうだ。先にキミの話を聞いておこうか。俺に何を聞きたいんだい?」
 愛原:「いいんですか?それじゃ御言葉に甘えて……」

 私は咳払いをした。

 愛原:「森脇さんは東京中央学園上野高校の出身だったんですよね?」
 森脇:「ああ、そうだよ。そのよしみで野球の応援とかしていたのに、ここ最近はめっきり弱くなったねぇ……。嘆かわしいことだ」
 愛原:「で、森脇さんが現役生だった頃は、木造の旧校舎だったんですよね?」
 森脇:「そうだ。今は教育資料館として残されているそうだが、やはり取り壊せなかったか……」
 愛原:「取り壊せない理由の中に、“トイレの花子さん”がいるからってのはありますか?」

 すると森脇さんは目を丸くした。

 森脇:「キミぃ、よく知ってるね。そうなんだよ。取り壊せない理由はオーソドックスに、『取り壊そうとすると、祟りがあるから』なんだけど、その『祟り』を起こしているのは“トイレの花子さん”なんだな」
 愛原:「その“トイレの花子さん”の正体が、イジメを苦に自殺した女子生徒の幽霊だということも分かっています」
 森脇:「なに?探偵さんはそんなことまで調べるのかい?」
 愛原:「警察がやらないことを代わりにやるのは、警備員と一緒ですよ」
 森脇:「そうなのか」
 愛原:「私が聞きたいのは2つなんです。森脇さんは、その“トイレの花子さん”の生前を御存知かどうか。それと、白井伝三郎を知っているかどうかです」
 森脇:「なるほど……」

 森脇さんはグラスに注いだノンアルビールをグイッと口に運んだ。

 森脇:「あいにくと、“トイレの花子さん”の名前までは知らない。多分、実家に卒業アルバムがあるだろうから、それで探すことは可能だろう」
 愛原:「後でそれを調べてくれるというのは……」
 森脇:「ああ。明日、休みだから探して調べてみるよ」
 愛原:「ありがとうございます!」
 森脇:「ただ、そのコのことなら何となく覚えてる」
 愛原:「えっ?」
 森脇:「真面目なコなんだが、今一つパッと成績が振るわないコだったな。今で言うところの、“不思議ちゃん”ってヤツか?まあ、“不思議ちゃん”でも成績優秀なパターンもあるようだが、彼女はちょっと違ったみたいだ。ギリギリ及第点は取れていたみたいだが、たまに赤点を取ることもあったからな。イジメられるきっかけとなった補習も、たまたま赤点を取っただけの話だろう」
 愛原:「今から半世紀近くも前のことなのに、よく覚えておいでですね」
 森脇:「同じクラスだったからな。で、顔も少しかわいいんだ。まあ、今生きてたら、しっかり白髪のオバちゃんになってただろうがな。はっはっは」

 やはり森脇さんと“トイレの花子”さんは同級生だった!
 しかし、この60代のオジさんと“花子さん”が歳同じとは……。

 愛原:「白井伝三郎のことは御存知ですか?」
 森脇:「俺達とは違うクラスのヤツだったが、普段から成績優秀のヤツだったんだ。ところが、たまたま試験の日は腹の具合が悪くて、とても試験に集中できなかったらしいんだな。そのせいで赤点を取ってしまったらしい。まあ、もともと理系で、文系はあまり得意ではなかったと言い訳していたらしいが」

 私は森脇さんの話を静かに聞いていた。
 ここではどちらかというと、白井の話よりも“花子さん”の話の方が詳しく聞けた。

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