報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「岩手バス紀行」

2023-04-03 20:14:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日11時41分 天候:晴 岩手県一関市駅前 JR東北本線545M列車先頭車内→一ノ関駅]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、一ノ関です。一ノ関では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 田園地帯の牧歌的な景色が広がる中を走行していた電車だったが、さすがに一関市の市街地に近づくと、建物が増えてきた。
 取りあえず、鉄道の旅はここで終了である。

 

 愛原「何とか着いたな」
 高橋「ここから、バスに乗り換えっスね」
 愛原「そういうことだ」
 高橋「一服して……」
 愛原「いや、待て。バスの発車まで、10分も無い」
 高橋「えっ?」
 愛原「だから一服は、現地に着いてからにしてくれ」
 高橋「マジっスか……」
 リサ「禁煙ターイム!」
 高橋「うるせっ!オメーもおしがまタイムだ!」

 おしがまとは、おしっこがまんの略である。

 リサ「今の電車の中ではジュース飲んでないし、さっき電車のトイレに行ってきたから」
 高橋「和便は嫌だって言ってたろ?」
 愛原「いや、高橋。701系のトイレは洋式だよ」
 リサ(^_^)v
 愛原「というわけで、行くぞ」

 私達は西口の改札口に向かった。
 幸いこの電車が到着した1番線ホームに、最も近い改札口であり、バスも西口のロータリーから出る。

[同日11時50分 天候:晴 JR一ノ関駅→岩手県交通21系統車内]

 バス会社の岩手県交通は、国際興業バスのグループに入っているせいか、バスの塗装も、それにそっくりである。
 中にはオリジナル塗装のバスもあったりするのだが、私達が乗車したバスは国際興業バスとそっくりな塗装であった。
 いや、もしかしたら本当に国際興業の中古車なのかもしれない。
 バスに乗り込んだ私達は、1番後ろの座席に座った。
 バスは大体1時間に1本くらいの割合で運転されているようである。
 観光地である中尊寺に行くバスではあるが、あまり地元の路線バスで行く需要は無いのか、観光客らしき姿は見られなかった。

〔「11時50分発、平泉駅前、中尊寺経由、イオン前沢行き、発車致します」〕

 バスはダイヤ通りに出発した。
 尚、岩手県交通では盛岡市内などではICカードが使えるようだが、この一関管内では導入されていないようだ。
 その為、私達は現金で乗ることになる。

〔お待たせ致しました。毎度ご乗車くださいまして、ありがとうございます。このバスは平泉駅前、中尊寺を経由し、イオン前沢まで参ります。途中、お降りの際はお近くのボタンを押して、お知らせください。次は大町通り、大町通りでございます〕

 愛原「住所によると、降りるバス停は中尊寺の先にあるらしい」
 高橋「そうですか」
 愛原「まあ、観光するわけじゃないけどな」
 高橋「そりゃそうですよ」
 リサ「でも、先生が子供の頃、家族旅行で泊まった旅館ってのは気になるかも」
 高橋「そうだな!まだ思い出しませんか!?」
 愛原「無理だろー。大体、顕正号の時の記憶すら戻ってないんだぞ」
 高橋「今度行く食堂が、先生が泊まった民宿であったことを祈りますよ」
 愛原「俺は外れてほしいけどな」

[同日12時20分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 衣川橋バス停]

 バスはどうやら、国道4号線のバイパスではなく、旧国道を走行しているようだ。
 いくらバイパスが開通したとて、バス路線も自動的にそちらに移行されるわけではない。
 峠のバイパス開通時においては、旧道は廃道化される傾向が多く、その場合はどうなるのかは分からない。
 だが、一ノ関バイパスや平泉バイパスの場合はそれが開通しても旧国道が廃道になるわけではなく、地元民の生活道路として残されているようだった。
 路線バスは、そんな道を走行する。
 それでも週末の観光地は混雑するのか、毛越寺や中尊寺付近で渋滞に巻き込まれた。
 平泉バイパスが建設されたのは、この渋滞を回避する為である。
 そして、平泉駅から観光客が乗って来た。
 で、中尊寺バス停で降りて行く。

〔このバスは、イオン前沢まで参ります。次は衣川橋、衣川橋でございます〕

 愛原「次のバス停だったのか」

 観光客がぞろぞろ降りて、ガラガラになった車内。
 下車バス停の名前が出てきたので、私は降車ボタンを押した。

 高橋「あっ!」
 愛原「どうした?」
 高橋「いや……。まだ、旧道があったんスかね」
 愛原「え?」
 高橋「いや、何かそんな痕跡があったんスよ」
 愛原「ふーん……そうなのか」

 私達が走っている道は岩手県道300号線。
 これは国道4号線の旧道である。
 もしも高橋が言っていることが本当だとしたら、旧道の旧道が存在するというわけか。
 そして、バスは衣川の橋を渡る。
 恐らくこれが、バス停の名前にもなっている衣川橋だろう。
 それを渡り、しばらく走ったところで、バスは停車帯のあるバス停の前に停車した。

 愛原「大人3人です」
 運転手「はい、ありがとうございました」

 バスを降りると、何となく倉庫が並んでいる場所だと分かった。
 現役の国道4号線だった頃は、バンバン車が走っていたのだろう。
 また、中尊寺から南は観光客の車で混雑していたが、それを過ぎたこの辺りは、さほど車も多くなかった。
 通過する車も、岩手ナンバーの車ばかりである。
 この旧道を抜け、再び国道4号線と合流すると、東北自動車道の平泉前沢インターがある。
 しかし、今は旧道の南側付近に平泉スマートインターができた為、観光客の車はそちらを利用するようだ。
 もっとも、スマートインターだから、観光バスなどの大型車両は通行できないだろう。

 高橋「先生、あれを!」

 高橋が何かを指さした。
 それは、何か絵が描かれている建物だった。

 高橋「あれが例の食堂じゃないスか!?」
 愛原「そうかもしれないな」
 リサ「お腹空いた」
 愛原「よし。とにかく向かおう」

 私達はバス停から移動した。

 高橋「これは……」

 現地に向かう途中、分岐があった。

 高橋「先生、こいつは旧道の分岐ですよ。きっと昔は、右に入った所が国道だったんスよ」
 愛原「なるほど。オマエ、さっき、似たような分岐を見つけたと言ってたな?」
 高橋「そうっス!きっと、この道を行けば、さっきの場所にぶつかるはずです!」

 と、高橋は意気込んでいたが、そうなると1つ疑問が残る。
 だったら、どうして私達のバスは、そっちの道を通らなかったのかだ。
 例えバイパスが開通したとしても、バス会社は新たにそちらの道で申請しない限り、路線バスは旧道を走らなければならないというのに。
 その疑問は、現地に着いてから分かったのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「東北鉄道紀行」 2

2023-04-03 11:51:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日10時34分 天候:晴 宮城県遠田郡美里町 東北本線2531M列車最後尾車内→JR小牛田駅]

 窓開けをして走っているものだから、トンネル進入時の風が強い。
 これでは確かに蒸気機関車時代、機関車からの煤煙が客車に入ってきて大変だったという話はあながちウソではなかったのだろう。
 今は無煙の電車になったので、入って来るのはただの風だが。

〔まもなく終点、小牛田、小牛田。お出口は、右側です。東北本線、石越、一ノ関方面、“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線と石巻線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「お乗り換えのご案内です。今度の東北本線下り、普通列車の一ノ関行きは、降りたホーム3番線から、10時56分の発車です。……」〕

 愛原「この駅にも、何回も来たっけな」
 高橋「ぶっ飛んだ先生の伯父さんが住んでましたね」
 リサ「『6番』も。あの出来損ない」
 愛原「ま、今日のところは通過するだけだ」

 列車は速度を落として、ポイントを通過し、東北本線上り本線ホームに到着した。
 すぐに上り列車として折り返す為だろう。
 ホームの有効長が長いのは、かつてこのホームを長編成の急行列車も発着していた名残である。
 今ではどんなに長くても、8両編成が最長である。
 運転室から、ATSの警報音が鳴る。
 ジリジリとベルが鳴って、キンコンキンコンと鳴るあのチャイム。
 当然ながら場内信号機は黄色で、その先の出発信号機は赤だから、そういう警報が流れる。
 ドアが開いて、私達は他の乗客達と共に列車を降りた。
 多くの乗客達が跨線橋の階段を登って行く。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、小牛田、終点、小牛田です。車内にお忘れ物など無いよう、ご注意ください。陸羽東線下り、鳴子温泉行きは1番線、東北本線下り、一ノ関行きは3番線、石巻線・気仙沼線下り、柳津行きは4番線です。3番線に到着の列車は、10時44分発、普通列車の仙台行きとなります」〕

 同じホームに到着するというので、私達は降りて待つことになる。
 試しに、全部の車両を確認してみた。
 一応、全部の車両が仙台行きになっていた。
 たまに地方の路線あるあるで、前2両だけを切り離して、これを更に下り列車に使うなんてこともあったりするので。
 すると、新たに下り列車が別に来るということになる。
 発車標を見ると、2両編成ワンマンということなので、停止位置を確認しておくことにした。
 これだけ長い有効長のホームに、たったの2両というのも面白いものだ。
 2両編成の停止目標から、乗車位置を割り出す。

 高橋「先生、俺一服してきていいっスか?」
 愛原「いいよ」

 地方に行けば、まだ駅構内でも喫煙所は存在する。

[同日10時56分 天候:晴 同駅→東北本線545M列車先頭車内]

 やってきた電車は、今度はロングシートしかない701系であった。
 最近では、ボックスシート付きのE721系も運用に入っていることから、旅情的には後者の方が好ましいが、仕事で来ているので、ぶっちゃけどちらでも良い。
 高橋とリサ的には、私に密着して並んで座れる、こちらの電車でもメリットはあるようだ。

〔ピンポーン♪ この電車は東北本線下り、瀬峰、石越方面、各駅停車の一ノ関行き、ワンマンカーです。田尻、瀬峰、梅ヶ沢、新田、石越の順に、各駅に止まります。まもなく、発車致します〕

 座席は全部が埋まることはなく、昼間の電車といった感じの乗車率だった。
 ワンマン運転ということもあり、運転士が直接ホームに顔を出して、乗降確認をしている。
 そして、ピイッと笛を吹くと、車掌スイッチでドアを閉めた。
 ドアが完全に閉まったことを確認すると、運転席に移動する。
 そして、ガチャッとハンドルを操作する音がすると、電車はゆっくりと小牛田駅を発車した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北本線下り、瀬峰、石越方面、各駅停車の一ノ関行き、ワンマンカーです。これから先、田尻、瀬峰、梅ヶ沢、新田、石越の順に、各駅に止まります。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、田尻です〕

 東北本線の上り本線ホームを逆走する形で出発した為、駅構内を出ると、ポイントを通過して下り本線に移る。
 それから電車は更に加速した。

 愛原「こんなに時間が掛かるんだから、斉藤玲子も、平泉から通うわけがない」
 高橋「ですよねー」

 当時は乗り換えの無い長距離普通列車や、平泉駅にも停車する急行列車とかも運転されていたのかもれないが、それでもさすがに通学圏内だとはとても思えなかった。
 やはり在学中は、仙台に実家があって、そこから通っていたのだろう。
 それが、どこかだ。

 リサ「先生、お昼はどこで食べるの?」
 高橋「もう昼飯の心配かよ?」
 リサ「だって、あと1時間でお昼だよ?」
 愛原「心配するな、俺に考えがある」
 リサ「考え?」
 愛原「俺達は今、どこに向かっている?」
 リサ「斉藤玲子……もしかしたら、わたしのお母さんかもしれない人の実家」
 愛原「そうだ」

 そこで、ふと気づく。
 リサの人間だった頃の苗字が上野だったのだから、やはり斉藤玲子は当時中学生でありながら、上野医師と結婚していたのだろうなと。
 入籍したのは、もちろん16歳以降だっただろうが。

 リサ「先生?」」
 愛原「あ、いや。その家は、何をやっている家だ?」
 リサ「えーと……」
 高橋「食堂っスね?」
 愛原「そうだ。もしも聞き込みをする相手が、何か店をやっていた場合、まずは客としてそこに入るのが鉄則だぞ」
 高橋「! 一流の名探偵の心得っスね!メモっておきます!」
 愛原「そこで昼飯を食いがてら、聞き込みだ」
 高橋「了解っス!」
 リサ「おー!」

 私達を乗せた2両編成ワンマン電車は、私達を更に北へと誘って行く。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする