報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「聞き込み調査」 2

2023-04-06 20:14:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日13時15分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 さいき食堂]

 お昼時も過ぎて、常連客も帰って行く。

 女将「お茶、どうぞ」
 愛原「ありがとう」

 私達のような余所者でも、特に邪険にしてくる様子はなく、食べ終わった私達に食後のお茶を入れてくれる女将。
 内装も昭和のノスタルジーだが、席でタバコが吸えるというのも今や珍しい。

 愛原「女将さん」
 女将「はい、なんです?」
 愛原「ちょっと聞きたいことがあって……」
 女将「何ですかね?」
 愛原「斉藤玲子さんという名前に聞き覚えはありますか?」

 私は単刀直入に聞いた。

 女将「サイトウレイコ?どちらさんです?」
 愛原「50年前、恐らくここに住んでいたと思われる娘さんです。もしも生きていたら、今は60代半ばになっているはずです」
 女将「斉藤……ねぇ……」
 愛原「失礼ですが、こちらの御主人のお名前は何て言うんですか?……あ、因みに私達、東京から着た探偵の者です」

 私は自分の名刺を差し出した。

 女将「探偵さんでしたの!?」
 愛原「はい。とある所から、人捜しを頼まれまして。それが斉藤玲子さんというんです」
 女将「確かに、うちの苗字、斉藤ですけど……」
 愛原「やはりそうか!」
 女将「ちょっとあんた、斉藤玲子さんって人、知らないかい?」

 女将は厨房にいる主人に聞いた。

 店主「いや、知らんねぇ……」
 愛原「ええっ!?」
 店主「いや、私は養子なもので、詳しくは知らんのですよ」
 愛原「どなたか、知っている方はいないですかね?」
 女将「お義母さんに聞くのがいいでしょ?」
 店主「ンだって母ちゃん、ボケ始まっとるど?」
 女将「ンでも、ボケてても、昔の記憶はハッキリしてるって言うっちゃ」
 愛原「何とか、お話し聞けないですかね?」
 女将「はあ……。ちょっと聞いてきます」
 愛原「すいません」

 女将は奥の、住居スペースと思われる方に向かって行った。

 愛原「この上は民宿だったそうですね?」
 店主「そうなんですよ。さすがに赤字が続いたもんで、民宿は廃業したんですけどね」
 愛原「50年前はしっかり営業していたわけですよね?」
 店主「そりゃもう。50年前といったら、両親が切り盛りしていましたから」
 愛原「その頃から、御主人はここへ?」
 店主「だいたい、その辺りくらいです。……あー、そういえば……」
 愛原「何か!?」
 店主「確かに、両親には娘がいたそうです。それが行方不明になったもんで、それで遠い親戚の私が、養子としてここに来たんですよ。ただ、『死んだも同然だから』ってんで、名前も何も教えてはくれませんでしたがね。……お客さん、それが斉藤玲子さんだって言うんですか?」
 愛原「恐らくは……」

 すると、奥から女将と老婆が来た。
 老婆は80歳くらいであった。
 ということは、今から50年前というと、バリバリのアラサーだっただろう。

 大女将「何じゃい?玲子を探しに来た人じゃと?」
 女将「東京から来た探偵さんでね……」
 愛原「すいません。わざわざ出て来て頂いて……」

 すると大女将、リサを見て細めていた目をカッと見開いた。

 大女将「ヒェッ!れ、玲子!?何で生きておるんじゃ!?ば、化けて出たのか!?」
 女将「違うよ、お義母さん。この人は、ただのお客さん。玲子さんにそっくりの」
 店主「50年以上も行方不明になっている人が、今更生きてるわけないだろう!」
 大女将「ば、化けて出たんじゃ!ナンマンダブ!ナンマンダブ!」
 高橋「まるでこの婆さんが、殺して埋めたかのような言い方ですね?」
 愛原「おい、高橋」

[同日14時00分 天候:曇 同町内 さいき食堂]

 ようやく落ち着いた大女将から、何とか話を聞くことができた。
 確かに店主が養子として貰われる前、斉藤玲子はここに住んでいたという。
 かといって、この大女将の実の娘というわけではない。
 大女将とて、親族の養親であった。
 斉藤玲子は、元々は福島県郡山市の生まれ。
 小学生の頃まで住んでいたが、実の母親が病気で他界。
 程なくして継母が実父と結婚したが、継母は所謂ビッチであり、狭い家で継娘がいようが、構わず実父とセックスするような女であったという。
 そして、ついに実父と継母との間に子供が生まれると、余計に家に居場所が無くなった玲子は家出を繰り返し、中学校に入る頃には仙台の親戚の家に預けられるようになった。
 しかしそこでも、虐待というほどの物ではないにせよ、歓迎されたというわけでもなかったようだ。
 そして、中学3年生になった頃の夏休みに、平泉のこの家に滞在するようになる。
 喘息の症状に悩まされていた時、東京から来た医者が1人で泊まった。
 そして夜中、酷い喘息に悩まされていた玲子の症状を収めたのである。
 翌日から、医者と共に玲子の姿もいなくなっていた。

 愛原「その医者というのが、上野医師だな」
 高橋「間違いないっスね」
 愛原「仙台の家と郡山の家は御存知ですか?」
 大女将「あー、ダメじゃダメじゃ!太郎も、あんな女なんかと結婚したりすっから、あんな目に遭うんだべちゃ!」
 高橋「ちょっと、ボケてます?」
 愛原「そのようだな」
 女将「その玲子さん、今はどうしてるのでしょう?」
 店主「それを捜しに、探偵さんが来たんだべや」
 愛原「いえ。恐らくさっき、御主人が仰ったように、もう亡くなってると思いますよ」
 店主「やっぱしなぁ……」
 愛原「福島県の山奥の村で、白骨死体が見つかりましてね。恐らくそれが、斉藤玲子さんでないかと思われます」
 店主「白骨死体!?」
 愛原「私は彼女と上野医師の足取りを辿るように、依頼されたのです。とにかく、ここに斉藤玲子さんと上野医師の接点があって、それから2人が行動したという所までは分かりました」
 大女将「『神様みたいな人だ』って、言ってたっちゃね……」

 大女将がボソッとつぶやいた。

 リサ「分かる。わたしも、愛原先生は、神様みたいな人だと思う」
 高橋「だったら、電撃とか食らわすのやめろや」
 リサ「だーってぇ!」

 この平泉町から、どうやって福島の桧枝岐村まで行ったのかは分からない。

 愛原「上野医師と玲子さんがここを出る時、どこへ行くとかは行ってましたか?『福島に戻る』とか……」
 大女将「『海の方』……海……」
 愛原「海!?どこの!?」
 大女将「
 高橋「寝るな、婆さん!」
 愛原「まあまあ、高橋。お年寄りなんだから、しょうがない!ここから海に行こうとすると……」
 店主「まあ、汽車で行こうとするなら、一ノ関から大船渡線ですね。それで気仙沼とか、盛とか……。あ、今は途中でバスになってますけど……」

 JR大船渡線は一ノ関~気仙沼間は鉄道線だが、気仙沼から先は東日本大震災の影響で、BRTとなっている。
 私達は取りあえず、店を出ることにした。
 そして、ここで得た情報を、すぐに善場主任に報告したのだった。
コメント
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