報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「聞き込み調査」

2023-04-04 20:42:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日12時30分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 旧々国道4号線北側→さいき食堂]

 高橋「あっ、行き止まりだ!」

 私達は食堂の前を通り過ぎ、県道に格下げされた旧国道4号線の更に旧道を進んだ。
 道路脇の反射板付きのポールに『平泉町』と書かれていることから、県道ですらなくなり、更に町道に格下げされたのだろう。
 そんな旧々国道だが、途中でプッツリと切れていた。
 具体的には簡易的なバリケードが置かれており、その先は土手になっていた。
 階段があったので昇ってみると、その先は衣川の河川敷だった。

 愛原「こりゃ、道路の痕跡は無いな……」

 だが、よく見ると土手が少し新しいような気がした。

 愛原「グーグルマップの航空写真だが、今ここにいる。で、確かに川を挟んだ向こう側にも旧道らしき道が見える。高橋が言っていたのは、この道だろう」
 高橋「きっとそうですよ!」
 愛原「と、いうことは……」
 高橋「ものの見事に干されましたね、この食堂……」

 老朽化によるものなのか、それとも東日本大震災で壊れたりしたのかは不明だが、それにしても、これは……。
 同じ場所に橋を架け替えることはせず、別の場所に移転という形を取った為にこのようになってしまったのだろう。
 現橋はもっと高い所に架かっているので、老朽化によるものと、震災によるダメージと、嵩上げが目的だったのか。
 それにしても、これとは別に、現国道4号線のバイパスには、もっと立派な橋が架かっているはずだが……。
 だからまあ、もうこんな所に橋は要らないと判断されたのか……。

 リサ「先生、お腹空いた」
 愛原「ああ、お昼にしよう」

 もっとも、今回は橋や道路の調査に来たのではない。
 聞き込みに来たのである。

 高橋「先生。この建物に見覚えはありますか?」
 愛原「いや、無いなぁ……」

 尚、食堂は、車通りが少なくなった現在でも、営業を続けているようだ。
 一応、周りにも建物などは建っている為、観光客ではなく、地元民が食べに来るのだろう。
 食堂は2階建てで、1階が食堂になっていた。
 仮にここが民宿だったとすると、2階が民宿になっていたのだろうか。

 女将「いらっしゃい」

 店の中に入ると、建物の外観もそうだが、内装も一気に昭和に戻ったかのような雰囲気だった。
 昭和生まれの私は、その雰囲気に、思わず言葉を失った。

 高橋「3名っス」

 喋れなくなった私に代わり、高橋が人数を言う。

 女将「こちらへどうぞ」

 三角巾を着けた50代後半くらいの女将が、テーブル席を勧める。
 メニューはオーソドックスなものだった。
 店内には昼時ということもあり、他にも客はいたのだが、全員が地元民らしく、地元あるある話で盛り上がっており、アウェイ感が凄い。
 もっとも、この旧々道が現役の国道だった頃は、観光客などの余所者も普通に客として来ていたはずである。
 いや、むしろドライブイン的な雰囲気があることから、長距離トラックの運転手が食べに来るといった感じだろうか。
 店の前の駐車場は横に長く、大型トラックが入ってきて、そのまま店に横付けできるような感じになっている。

 高橋「どうしますか、先生?」
 愛原「先に注文しよう」
 リサ「そうしよう!」
 愛原「リサ、フードを取っていいぞ。但し、人間の姿のままでな?」
 リサ「分かった」
 愛原「俺は焼肉定食にしよう。皆は?」
 高橋「じゃあ、俺も同じので」
 リサ「わたしは肉鍋定食」
 愛原「マジかよ」

 まあ、いいだろう。
 少し時間が掛かる食事の方がいいかもしれない。

 愛原「すいませーん!」
 女将「はーい!」

 常連と思しき客と談笑していた女将を呼ぶと、私達は料理を注文した。
 リサは斉藤玲子とそっくりだという。
 この女将がもしも知り合いだったり、血族だったりしたら、リサを見て、何かに気づかないだろうか。
 だが、この時、私はうっかりしていた。
 もうすっかり習慣づいてしまった為、マスクをしっ放しだったのだ。
 これではリサのことに気づき難いだろう。

 愛原「リサ、マスクを取れ」
 リサ「う、うん」

 リサは黒いマスクを取った。
 即ち、黒い短いスカートの下に穿いているのも黒いショーツだということか。

 愛原「あー、皆。何か、喉乾かないか?」
 高橋「あっ、あー、そうっスね。じゃあ、ビールも行きますか」
 愛原「アホ。仕事中だ。ソフトドリンクだよ」

 ついでに、リサの顔を見てもらうことにする。

 愛原「すいませーん」
 女将「はいはい」
 愛原「飲み物もお願いします。ウーロン茶2つと、オレンジジュース1つ」
 女将「ウーロン茶2本とオレンジジュース1本ね。すぐお持ちします」

 どうやら、厨房には別に誰かがいるようだ。
 この店の主人か誰かだろうか。

 女将「はい、ウーロン茶とオレンジジュース」
 愛原「ありがとう。ところで女将さん」
 女将「何です?」
 愛原「このコの顔に、見覚えは無いですか?」
 リサ「こんにちは」

 リサはニッと笑おうとしたが、そうすると牙が見えてしまうので、それはやめた。
 代わりに口は閉じたままで、口角を上げることにする。

 女将「さーて……?どっがで会ったっけねぇ……?」

 女将は首を傾げた。

 愛原「恐らく、だいぶ昔……。何十年も前になるかと思います。……具体的には、50年前……」
 女将「はあ???」
 常連客「おーい、ハナちゃん!ビール追加だよ!ビール!」
 女将「あー、ハイハイ!今持っでぐがら!すんませんね」
 愛原「ああ……」

 女将が立ち去ると……。

 高橋「人違いっスかね?」
 愛原「いやあ、何しろ50年も前の話だ。いきなり思い出せと言われても、そりゃ困るだろうよ」

 ましてや女将は50代後半といったところ。
 もし仮にその頃からこの店に関係していたとしても、かなり小さい頃だろう。
 そんな時、例え斉藤玲子と会っていたとしても、覚えているかどうか怪しいものだ。
 しょうがない。
 今度はピンポイントに斉藤玲子のことを聞くか。

 女将「はい、焼肉定食、お待ちどうさん」
 愛原「どうもどうも」
 高橋「あざっす!」

 豚肉の生姜焼きみたいなものを想像していたのだが、牛肉のカルビを何枚かタレで焼いたものだった。
 それに御飯と味噌汁、漬物やキャベツが付いている。
 肉鍋定食は、1人用の鍋に野菜や牛肉を味噌で煮込んだものだった。
 但し、ホテルや旅館のそれと違って、固形燃料で煮るというようなことはしない。

 女将「はい、こちら肉鍋定食ね」
 リサ「いただきまーす!」
 愛原「女将さん、この店、結構古いみたいですけど、いつから営業しているんですか?」
 女将「あー、かなり古いですよ。私が嫁いで来る前から、既に営業してましたから」
 愛原「その頃って、民宿とかもやっていたって本当ですか?」
 女将「よく御存知ですねぇ。まあ、何年か前には民宿は畳みましたけどね。もうこの道も寂れちゃって、泊まりに来るお客さんもいなくなったもんですから」

 それでも、何年か前までは民宿が営業されていたのだ!

 愛原「そうですか。実は……」
 常連客「おーい、ハナちゃん!つまみ持って来てけね!?」
 女将「何だい、こっちは接客中だよ!すんませんねぇ」
 愛原「いえ……」
 高橋「あの酔っ払いオヤジ、邪魔してきやがりますね。俺が裏に連れて行って、ボコしてきますか?」
 愛原「いや、そんなことはしなくていい!」

 だいいち、他にも客がいるというのに……。
 お昼時が過ぎて、店が空くまで待った方が良さそうだ。
コメント
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