報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道士達の上京紀行 ~白馬村~」

2021-12-29 20:01:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月31日14:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 昼になっても雪は降り止まなかった。
 稲生勇太は自室で、スマホの天気予報を見ていた。

 勇太:「まあ、東京や埼玉は晴れてるみたいだし、雪も積もってないみたいだな。中央本線まで出られれば大丈夫かな……」

 その時、部屋がノックされる。

 勇太:「はい」
 ダニエラ:「稲生様。出発のお時間でございます」

 勇太専属のマリアのメイド人形がやってきた。
 メイドながらその表情はポーカーフェイスであり、おおよそ接客を担当するパーラーメイドはできそうにない。
 しかし稲生に対する忠誠心は本物のようで、ロシア料理やイギリス料理がメインのこの屋敷で、夜食にお握りや味噌汁を作って来てくれたりと、その甲斐性は素晴らしいものがある。

 勇太:「分かった」

 勇太はスマホをジャンパーのポケットにしまった。
 荷物はダニエラがエントランスまで持って行ってくれる。

 勇太:「お待たせしました」

 エントランスホールまで行くと、既にマリアが待っていた。

 マリア:「あとは師匠か」
 勇太:「まさか、またまだ寝てるなんてことは……」
 マリア:「いや、それは大丈夫。私の人形が総出で起こして、今、手取り足取り出発の準備をさせている」
 勇太:「そ、そうか。てっきり、『あと5分』を1時間以上繰り返すものだと……」
 マリア:「ランチの後で昼寝させるとそうなるから、師匠には『覚醒のハーブティー』を飲ませておいた」
 勇太:「す、すごい……」

 一瞬、マリアが不気味な『魔女の笑み』を浮かべた。
 しかし、勇太はそれで心が揺さぶられた。
 恐怖ではなく、恋愛である。
 勇太はマリアの『魔女の笑み』に一目惚れして、何度も彼女になってくれるよう頼み込んだのだ。
 もちろん、『魔女の笑み』は別に魔法でも何でも無く、ただ単にマリアの嗜虐的な笑みである。
 別にMではないと思っている勇太であるが(もちろんSだとも思っていない)、何故かマリアの嗜虐的な『魔女の笑み』には惚れてしまったのである。
 後にイリーナが勇太を入門させる為、マリアに何かしたのではないかという疑惑が持ち上がっているが、イリーナは肯定も否定もしていない。
 しかし後に、マリアも勇太と打ち解けていくうちに残虐な魔女の性格はナリを潜め、却って『魔女の笑み』を浮かべる機会が減ってしまったのは皮肉である。

 マリア:「先に荷物積んでおいたら?師匠が乗れば、すぐに出発するから」
 勇太:「分かった」
 マリア:「どうせここまで来ても、車に乗るのにまた一苦労するだろうからな」
 勇太:「え?」

 勇太はマリアの言ったことの意味が分からず、首を傾げた。
 屋敷の外に出ると、辺り一面銀世界であった。
 確かに屋敷の周りは除雪されているが、屋敷の外まで道があるのかどうかは怪しい。
 物言わぬ運転手が待機していて、勇太の荷物を受け取ると、ハッチを開けて中に積んだ。
 イリーナの要望通り、黒塗りのベンツGクラスである。
 一部の国家では軍用ジープにも使われるほどである為、確かにこういう悪路では持って来いの車だろう。
 その為、Sクラスなどと比べると高級感は無いはずなのだが、やはりベンツというだけで高級感を感じるのは日本人だからだろうか。
 勇太が先に助手席に乗ろうとした時だった。

 マリア:「はいはい、師匠。雪道ですからね、転ばないように気をつけるんですよ」

 屋敷からイリーナが出て来た。
 薄紫色のローブを羽織り、フードを被っている。
 運転手がすぐに助手席後ろのドアを開けた。

 マリア:「車高の高い車ですよ?大丈夫ですかぁ?」

 マリアがまた『魔女の笑み』を浮かべている。
 見た目はアラフォーの姿をしているイリーナであるが、齢1000年以上の老魔女に乗れるかどうかを楽しんでいるかのようだ。

 イリーナ:「もちろん、想定済みさね」

 一瞬、イリーナの姿が雪煙に消えたように見えた。

 イリーナ:「何してるの?早いとこ乗りな」

 次の瞬間、運転席の後ろに座っているイリーナが、勇太達の方を向いて言った。

 勇太:「て、テレポーテーション!?」
 マリア:「く……!」

 齢1000年強の大魔道師は、いわゆる超能力にも精通しているようである。
 とにかく、残りの弟子2人も車に乗り込んだ。
 そして、車が出発する。
 一応、車内は暖房が効いている。

 勇太:「凄い雪だ。本当に大丈夫ですか?」

 助手席に座っている勇太が、運転席に座っている運転手に言った。
 運転手はコクコクと頷いている。
 普通の車なら、雪にはまって動けなくなってもおかしくない有り様だった。
 いくらジープタイプの車とはいえ、除雪車の代わりにはなれないはずだが……。
 雪をザザザ、ボボボと掻き分けるようにして車は進む。
 そして、何とかいつものトンネルに入った。
 トンネルの入口付近には雪が吹き溜まっていたが、それも掻き分けるようにしてスッポリと中に入る。
 さすがにトンネルの中に雪は無く、そこは安定したスピードで進む。

 勇太:「車自体が魔法みたいなものだからなぁ……」

 勇太は呟いた。

[同日14:45.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 村内も雪景色ではあったが、山の中と比べれば除雪がよくされている。
 今はスキーシーズンである為、スキー客を出迎えるべく、除雪車がフル稼働しているようだった。
 そして、車は駅前のロータリーに止まる。
 心なしか雪が弱まり、空の雪雲も薄くなったような気がする。
 屋敷の周りは昼間でも薄暗かったのに、村の中心部は明るかった。.

 イリーナ:「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」

 車を降りて、荷物を下ろす勇太。

 勇太:「先生。まだ時間があるので、足湯に入って行かれませんか?」

 勇太は駅前の足湯を指さした。

 イリーナ:「おお、それもそうだね。あれかい?キミ達が今ハマっている足湯というのは……」
 勇太:「まあ、この時期ですから、足を温めるだけでも違うというのが分かりますよ」
 イリーナ:「フム。どうせ列車内で寝て足がむくむ思いをするくらいだったら、今のうちに入っておくのがトレンドかもね」
 勇太:「そういうことです」

 3人の魔道士は足湯に入った。
コメント (1)
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“大魔道師の弟子” 「帰省前日」

2021-12-29 16:04:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日18:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側大食堂]

〔「……年末は全国的に寒波が襲い、太平洋側でも平野部で雪が降る見込みです。年末の帰省ラッシュが始まっていますが、影響が出るもようです」〕

 食堂内に設置された大型テレビでニュースを観る魔道師達。
 かつてはラジオが設置されていたらしいが……。

 稲生勇太:「いよいよ明日ですけど、大丈夫ですかね?」
 イリーナ:「こっちはね。アタシの予知でも、何とかなるってなってるよ」
 勇太:「先生がそう仰るのでしたら……」

 今日の夕食はビーフシチューが出た。

 勇太:「大糸線は冬は雪の中を走ることを想定していますから、除雪はガッツリやってくれるはずです」
 マリア:「いざとなれば、師匠のルゥ・ラがあるし」

 マリアはワインを口に運びながら言った。

 イリーナ:「マリア、そう簡単に魔法に頼ってはダメなのよ」
 マリア:「でも、日本では、『伝家の宝刀も抜かなきゃ錆びる』って言いますよ?ねぇ、勇太?」
 勇太:「そういう意味の諺だったっけ???」

 魔法の中には日常使いするものもあるし、『伝家の宝刀』的に、普段は使わないものもある。

 イリーナ:「そんなに楽したいんだったら、マリアがやってみれば?」
 マリア:「私はまだ、魔法陣を使わないとできないんですよねぇ……」
 イリーナ:「魔法陣、描けばいいじゃん」
 マリア:「外は雪が積もってるから無理です。屋内だと、天井に頭ぶつけちゃうし」
 勇太:(ドラクエ……洞窟……ルーラ?)
 イリーナ:「それじゃ、勇太君のルート、『電車でGo!』を使うのね」
 マリア:「まあ、この雪の中、ちゃんと列車が走れるというのなら、それでもいいですけど」
 勇太:「それで先生に占ってもらったんだ。そしたら、大丈夫だって……」
 イリーナ:「私達の乗る列車は大丈夫よ。勇太君の普段の行いのおかげね」
 勇太:「そ、そうですか!普段から勤行と唱題を作者以上に一応、やってるもんでぇ……!」(*´∀`*)

 勇太、照れ笑い。
 で……。

 勇太:「あ、もし良かったら、マリアも仏法……」
 マリア:「ざいうー。それより師匠、本当に大丈夫なんですか?」
 イリーナ:「マリア、私の話聞いてた?」
 マリア:「鉄道のことじゃなくて、そもそもこの屋敷から駅までのルートですよ。これについても、対策しておいた方が……」
 イリーナ:「む、それもそうか。屋敷回りはマリアの人形達が総出で雪掻きしてくれるでしょう?」
 マリア:「屋敷の周りはそうです。しかし、道の方は……」
 イリーナ:「心配しなさんな。アタシはアタシで、ちゃんと除雪要員用意しといたから」

 すると、外からズシンズシンという音が聞こえる。

 勇太:「な、何だ?」

 勇太が窓の外を見ると、身の丈3メートルはある巨人が何人も雪を掻き分けて道を作っていた。
 外は雪なのに、それを全く気にする様子は無い。

 勇太:「あれは何ですか!?何だか、妖怪ぬりかべを、もう少し人間っぽくしたような……」
 イリーナ:「あれはゴーレムよ。知り合いの錬金術師から借りて来た」
 マリア:「あれがゴーレムですか。実用主義100%なだけあって、見た目はブサイクですね」
 イリーナ:「ブルドーザーが、ポルシェみたいなワケないでしょ。そういうことよ」
 勇太:「そりゃそうだw あれも先生の魔法なんですか?」
 イリーナ:「動力1つにつき、MP10使用」
 マリア:「安いのか高いのか……」
 イリーナ:「要は、車が通れる道ができればいいのよ」
 マリア:「それは確かに」
 勇太:「あと、車をどうするかですね。いくら除雪はできても、今までみたいにタクシーみたいな車で走れるかどうか……」
 マリア:「ミスター藤谷の車みたいなヤツだったら、大丈夫かもな」
 勇太:「藤谷班長の車、ベンツGクラスですもんね」
 イリーナ:「お、そうか。あの車か。よし。明日はあの車で、駅まで行きましょう」
 勇太:「そういうのはすぐに用意できるのが、先生の凄い所ですね」
 イリーナ:「もっと褒めなさい。差し当たり……」
 勇太:「はい?」
 イリーナ:「肩と腰が痛いから揉んで?」
 勇太:「はいはい!」
 イリーナ:「魔法を使い過ぎるとね、あっちこっち体が痛むんよ」
 マリア:「確かに、どっかの老魔女が出てくる映画で、そんなセリフがありましたねぇ……」
 イリーナ:「あ、それ、アタシのセリフ。アタシがスッピーにセリフ提供してあげた」
 勇太:「スッピーって誰ですか!?」
 マリア:(あれ?でも、腰が痛い師匠じゃあ、車高の高いGクラス、乗れなくね?)

 それに気づいたマリアだったが……。

 イリーナ:「あー、勇太君、もっと右ィ……」
 稲生:「ここですか、はいはい!」

 師匠の肩を揉む弟子。
 言葉にすると、何ら不自然は無いのだが……。

 イリーナ:「あぁン!そこそこォ!いいわぁ~!」
 マリア:「いちいちエロい声出さないでください!」

[同日22:00.天候:雪 マリアの屋敷1F西側プレイルーム]

 ちょっとしたカジノバーみたいな部屋がある屋敷だが、今は勇太とマリア、テレビゲームをしている。

〔「高橋、右注意しろ。ゾンビがいる」「分かりました、愛原先生」〕

 愛原:「出た出た」

〔パンパンパンパーン!パンパーン!「アァア……!」〕

 マリア:「勇太、リロード、リロード!」
 勇太:「分かってる」

〔「これで全部のゾンビは倒せたか!?」「そのようです!」「リサ、そこにいるんだろ!?」「ふふふ……」〕

 勇太:「愛原リサが、ここで愛原に対して、一発、攻撃してくるんで。ムービーシーンに入る前に。ここでダメージを食らってしまうと、ボス戦で苦労するので、あえて物陰に隠れておく」

〔「どうしてこんなことをするんだ!?」「先生が結婚してくれないからだよ」「オマエが人間に戻れたら考えるって言っただろうが!」〕

 勇太:「僕もマリアが結婚してくれないから、暴れようかな……」
 マリア:「勇太がマスター(一人前)になったら、改めてプロポーズしてって言ってるじゃん。……ほら、ボス戦!」

〔「先生!今のリサには、何を言ってもムダです!ここは直接、躾けてやりましょう!」「まさか、禁断の第3形態まで変化するとはな」〕

 勇太:「勝利フラグが、まずはリサにロケランぶっ放すんだよ。そうするとリサ、ロケランの弾を素手で弾き返すので……」

〔「ウソでしょ!?」「ロケランを弾き返しやがった!」「先生……言ったでしょ……。今の私には、対戦車ロケット砲すら効かないって。先生が悪いんだよ。結婚してくれないから。このままだと、東京中がゾンビだらけになるよ?」「それは何としてでも防止しなくては!」〕

 勇太:「……先ほど立てたフラグが、ここで役に立つ……」

 すると、バーカウンターの上の電話機がジリジリ鳴る。
 洋風の黒電話である。

 マリア:「何だよ、いい所なのに!」

 マリア、ゲームで手が離せない勇太に代わり、電話に出る。

 マリア:「はい、もしもし?」
 イリーナ:「2人とも、そろそろ寝る準備をしなさい。夜更かしはダメよ」
 マリア:「まだ22時過ぎたばっかりですけど?」
 イリーナ:「日本では22時から深夜割増なのよ?」
 マリア:「タクシーの深夜料金じゃないんですから!」

 地域によっては23時からという所もある。
 マリア、電話を切る。

 マリア:「だいたい、電気代は深夜の方が安いだろうが」
 勇太:「何の話?」
 マリア:「師匠が早く寝ろだって」
 勇太:「ゲームの音、うるさかったかな?この上、先生の部屋だよね?」
 マリア:「時々この屋敷の間取りのおかしさに首を傾げる……」
 勇太:「ホラーの洋館なんて、そんなもんだよ。いいや。取りあえずセーブして、また今度やろう」
 マリア:「どうせ午後出発なんだから、朝はゆっくりでもいいのにね」
 勇太:「まあ、色々と準備があるんだろう」
 マリア:「片付けよろしく」
 ミカエラ:「かしこまりました」

 2人の弟子はプレイルームを出て、それぞれの部屋に戻って行った。
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