報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「『1番』からのメッセージ」

2020-12-16 20:06:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月30日13:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所・応接室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所ほ経営している。
 今日は東京拘置所に収容されている高野君の面会に行き、そこから帰って来たところだ。
 午後からはその時の模様を善場主任に報告することになっている。
 だがその前に1つ、思わぬハプニングが起きた。
 事務所に戻って来て、一息つく為に、私はコートとスーツの上着を脱いだのだが、スーツの内ポケットに見覚えの無いメッセージカードが入っていたのだ。
 そのカードの表紙は、あの旧アンブレラのロゴマークであった。
 紅白のビーチパラソルを上から見た図をデザイン化したものである。
 因みに“青いアンブレラ”は同じ型のロゴマークであるが、紅白の赤い部分を青色(メディアによって水色だったり、青緑だったりする)にしたものである。
 その為、“青いアンブレラ”に対し、旧アンブレラのことを『赤いアンブレラ』と呼ぶこともある。

 善場:「……それで、そのメッセージカードには何と?」
 愛原:「英語なんです。まずは『I found it!』です」
 善場:「『見つけた』ですね。その後は?」
 愛原:「『I want to be Second instead.』です」
 善場:「『私は2番に取って変わる』ですか」
 愛原:「と、いうことは……?」
 善場:「愛原所長は『1番』本人または代理人と接触したことになります。そして、そのメッセージカードを渡されたのでしょう」
 愛原:「ちょ、ちょっと待ってください!私には身に覚えが無いです!」
 善場:「しかし現に、スーツの内ポケットに入っていたわけでしょう?いつから入っていたのですか?」
 愛原:「このスーツ、クリーニングに出して、引き取ったのが昨日です。なので、今日初めて着ています」
 善場:「もしもクリーニングに出す前から入っていたのであれば、クリーニング関係者が見つけているでしょう。まずは徹底的にポケットの中身を確認するでしょうからね」
 愛原:「まさかクリーニングの最中に入れられた?」
 善場:「可能性はありますが、そのスーツが愛原所長の物だと分かるのは、実際に取り次いだ店員くらいでしょう。その店員はどんな感じでしたか?」
 愛原:「50代くらいのパートのオバちゃんって感じでしたけど……」
 善場:「うーん……。何か違う気がします」
 高橋:「先生、今朝の満員電車は?」
 愛原:「え?」
 高橋:「何せ痴漢が出るくらいの満員でしたからね。こっそり先生のスーツにカードを入れるなんてことも……」
 愛原:「いや、オマエなぁ……」

 私は高橋の突拍子も無い言葉に呆れるところだったが、しかし……。

 愛原:「うっ……!」
 善場:「何ですか、満員電車で痴漢って?」
 高橋:「いや、アネゴん所に行く時、地下鉄がメチャ混みだったんよ」
 善場:「まあ、平日の朝ラッシュですからね」
 高橋:「でね、運悪ィことに、近くのJRなんかが止まっちゃって。それで余計混んだわけ。したら、先生の横にいるJCが痴漢に遭いやがって。で、そこからもう大騒ぎよ。岩本町駅に着いた時……」

 高橋が武勇伝を善場主任に語っている間、私は背筋が寒くなるのを抑えられなかった。
 そうだ。
 あの女子中学生、私に助けを求める時、わざと私にぶつかってきた。
 あれは私に助けを求める為、わざとそうしたのだろうと思っていた。
 だが、どうやら違う。

 善場:「愛原所長、どうなさいました?」
 愛原:「高橋……」
 高橋:「何スか?」
 愛原:「俺達は……『1番』に会ったのかもしれない」
 高橋:「ど、どういうことっスか?」
 愛原:「痴漢に遭ってたあの女子中学生が『1番』で、これを私に渡して来たんじゃないか?」
 高橋:「ええーっ!?」
 善場:「その女子中学生、どんな感じでしたか?」
 愛原:「確か……いかにも通学途中といった感じでした。グレーのセーラー服を着ていて、髪は腰まで伸ばしてて、でも俯いていたので、顔は前髪に隠れてよく見えませんでした。マスクもしていましたしね」
 善場:「年恰好だけなら該当します。その制服、どんな感じでしたか?」
 愛原:「どんな感じって言われても、グレーのセーラー服ということくらいしか……」
 善場:「で、痴漢とその中学生は警察に引き渡したわけですね?」
 愛原:「そうです。駅事務室に連れて行きました。その後で警察が来たので……」
 善場:「分かりました。岩本町駅を管轄する警察署に問い合わせることにします。当然、被害者からも事情を聴取しているでしょうからね」
 愛原:「あとは都営新宿線沿線の中学校で、グレーのセーラー服を制服にしている所を探せばいいのか」
 善場:「そうとは限りませんね。もしかしたら、近隣の鉄道線が止まったので、迂回してきただけかもしれませんし」
 愛原:「それもそうか」
 高橋:「マジっスか。まさか、あのJCが『1番』だったなんて!」
 愛原:「かもしれないし、代理人かもしれない。だが、本人である可能性が高いな。代理人だと、その代理人も俺達のことを知らないと務まらないから」
 善場:「とにかく、これで前進しましたね。これから愛原所長は気をつけてください」
 愛原:「えっ?」
 善場:「『1番』はもう愛原所長のことを知っているということです。高橋助手、あなたもです」
 高橋:「上等だ。俺のマグナムで頭撃ち抜いてやるぜ」
 愛原:「『2番』のリサにも効かないのに、『1番』が倒せるわけないだろう。……そうだ。この情報、栗原蓮華さんに教えてあげてもいいですか?『1番』を追っているのは我々だけではないので」
 善場:「その必要は無いでしょう」
 愛原:「えっ!?」
 善場:「『2番』を倒せなかった栗原さんが、それより強いと目される『1番』を倒せるとは思えません」
 愛原:「別に、倒すんじゃなくても……。一緒に捜査に協力してもらうとか……」
 善場:「愛原所長方ですら民間人なのに、ましてやこちらの依頼を受けてもいない部外者を危険に晒すわけにはいきません。確かに、『3番』以降の欠陥体は倒せる力はあるようですが、『1番』と『2番』は完全体なのです。ここは私共とBSAAで対処すべきかと思います。愛原所長方におかれましても、身の危険を感じましたら、けして無理をなさらず、速やかに待避またはBSAAに保護を求めてください。私共でも構いません」
 愛原:「……分かりました」
 高橋:「俺達に宣戦布告してからケンカしようって話、意外と正々堂々としてるヤツなんスね」
 愛原:「まあ、確かになぁ……」

 やろうと思えば、あの電車にバイオハザードをもたらして大混乱に陥れることもできたはずだ。
 或いは、ピンポイントで私を殺すか。
 それをせず、こんなメッセージカードを渡してくるだけだとは……。
 ただ、文言を見るに、『1番』の関心は私よりも、『2番』たるうちのリサではないかと思う。
 リサは今学校にいるが、果たして大丈夫なのだろうか?
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“私立探偵 愛原学” 「高野との面会」

2020-12-16 15:32:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月30日10:00.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は高野君が収容されている東京拘置所までやってきた。
 ここに来る途中、痴漢の捕り物があったおかげで到着時間が遅れ、面会できないかと思っていたのだが、大丈夫だった。

 愛原:「面会時間は15分だけだそうだ。意外と短いな」
 高橋:「俺が収監されてた時は、もっと長かったような気がしますが……」
 愛原:「そりゃオマエ、面会しに来てたのは弁護士さんだったんだろ?弁護士さんの場合は無制限だろ」
 高橋:「あ、そういうことっスか」

 ようやく受付番号を呼ばれ、私達は面会室に向かった。

 高橋:「向こう側がどうなってるのか、俺は知ってますよ」
 愛原:「ああ、そう」

 本来は要らない情報だ。

 愛原:「おお、高野君!久しぶり!」

 高野君は未決囚である為、普通の私服であった。

 高野:「愛原先生、この度はとんだ御迷惑をお掛けしました」
 愛原:「あ、ああ。いや、気にするな」
 高橋:「ゴメンで済めばサツは要らねーよ、アネゴ」
 高野:「だから、警察以上の組織が来たわけじゃない」

 警察官は地方公務員だが、善場主任達は国家公務員だ。
 そういうことか。

 高野:「事務所の方、忙しいでしょう?こんな時にこんなことになって申し訳ないです」
 愛原:「まあ、何とかやってるから、事務所の方は心配するな。それより、拘置所の方はどうだ?」
 高野:「快適とまでは行きませんが、まあまあ上手くやってます」
 高橋:「雑居の方か?」
 高野:「独居房ね。私は組織犯罪の関係で捕まったものですから、そういった関係者と鉢合わせにならないよう、独居坊にされたみたいです」
 愛原:「気楽な反面、話し相手がいないから退屈か」
 高野:「まあ、そうですね」
 愛原:「ここに収容経験者がいる。経験者の言に従って、そういう高野君に差し入れをしておいた。他にも必要なものがあったら、何でも言ってくれ」
 高野:「ありがとうございます」
 愛原:「執行猶予が出たら、またうちの事務所に来てくれ。俺達はいつでも待ってるから」
 高野:「ありがたい御言葉です」
 愛原:「で、ここでその執行猶予が出される条件だ。キミは元アンブレラということで、その組織犯罪に関わった罪でそこにいるわけだ。ところが、あまりにもキミが取り調べを素直に受け過ぎたことで、逆にそれを怪しんでいる人がいる。つまり、キミにとってはアンブレラでさえも腰かけ程度の組織であり、だからそれを売ったんだと。で、他にメインで所属している組織があるはずだ。それを聞いてくれ、と」
 高野:「ある人物というのは、NPO法人を隠れ蓑にした政府組織の下級役職の女ですね?」
 愛原:「それ以降はキミの想像に任せる。で、どうなんだ?」
 高野:「そうですねぇ……。分かりました。これは先生、お仕事で来られたわけですね?」
 愛原:「もちろん、それ抜きでもキミに面会したいというのはあったよ」
 高野:「そうですか。それでは、先生のお顔を立てて、1つだけネタ晴らししましょう。確かに、私は日本アンブレラにはスパイとして潜入していた者です。いわゆる、産業スパイってヤツですね。外国ではそれだけで犯罪になりますが、スパイ側にとっては幸いにも日本では犯罪になりません。そういう法律が無いので」

 せいぜい不法侵入とか、窃盗罪とか、その辺りか。
 捕まえる理由にするならば、な。

 愛原:「キミに産業スパイをさせていた組織の名前は?」
 高野:「次回へ続きます。以上」
 愛原:「そう来たか」
 高野:「でも先生。あの女には、私が産業スパイだったってことを認めさせたってことで、先生のお手柄になりますよ」
 愛原:「それだけで報酬くれるかなぁ……」
 高野:「あの女は頭がいいですから、日本アンブレラにスパイさせることで得する組織がどこかってことを調べますよ」
 愛原:「なるほどな」

 ライバル企業とか、あるいは株主総会で弱みを握る為の総会屋とか、その辺りかな?

 愛原:「しょうがない。キミがいた組織については、また出直して聞くことにしよう」
 高野:「まだ少し時間がありますね。せっかく来て下さったので、もう1つだけお話ししましょう。リサ・トレヴァーの『1番』は見つかりましたか?」
 愛原:「いや、まだだ」
 高野:「恐らく『2番』のリサちゃんと同様、人間のフリしてどこかで普通に生活していると思います」
 愛原:「どうして分かる?」
 高野:「『0番』と『2番』が普通に都内で生活しているのに、『1番』だけ単独で生活するとは思えないので」
 愛原:「なるほどな。……『0番』や『2番』と違って、大勢の人間を捕食したにも関わらず、のうのうと普通の生活をしているのか?」
 高野:「恐らくは。『2番』のリサちゃんも、先生の前ではいいコのフリしていますが、実際は結構腹黒いですよ?」
 愛原:「なに?」
 高野:「『1番』も同じ。或いはそれ以上でしょう。で、私が懸念しているのは、『1番』は捕食の習慣があることなんですよ」
 愛原:「つまり、今は普通の生活をしているが、いずれはまた人間を捕食するようになるってことか?」
 高野:「はい。それも事件化した時には、既にまた行方不明という……」
 愛原:「なるほど」

[同日10:43.足立区足立 東武鉄道小菅駅→東武スカイツリーライン1045T先頭車内]

〔まもなく1番線に、日比谷線直通、各駅停車、中目黒行きが7両編成で参ります。……〕

 高野君との面会を終えた私達は、最寄り駅の小菅駅に向かった。
 そこで電車を待っている間、私は善場主任に面会の結果をメールで伝えた。

 愛原:「取りあえず一旦、事務所に戻ろう。あとは主任の返事待ちだ」
 高橋:「はい」

 電車がやってくる。
 東武鉄道の車両だった。
 朝のラッシュもとっくに終わり、しかも各駅停車なので、車内は混んでいない。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 私達は先頭車に乗り込んだ。
 東京拘置所最寄り駅とはいえ、各駅停車しか止まらない小さな駅では、停車時間は僅かである。
 すぐに発車した。

〔次は北千住、北千住です。この電車は日比谷線直通、各駅停車、中目黒行きです。東武スカイツリーライン、浅草方面はお乗り換えです。……〕

 愛原:「お」

 その時、スマホが震えた。
 すぐに確認すると、善場主任からだった。
 是非とも直接報告を聞きたいので、午後に事務所に伺いたいとのことだった。
 私はもちろん快諾した。
 果たして、高野君が産業スパイだったことを認めたというだけで満足してくれるかどうか……。
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