報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「再びの田島へ」

2020-12-01 19:53:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月27日20:29.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 会津鉄道会津田島駅]

〔「長らくの御乗車、お疲れ様でした。まもなく終点、会津田島、会津田島です。1番線に入ります。お出口は、左側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、ご注意願います。会津田島から先のお乗り換えをご案内致します。湯野上温泉、芦ノ牧温泉、西若松方面、普通列車の会津若松行きは、4番線から20時32分の発車です。本日の最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。本日も会津鉄道をご利用頂き、ありがとうございました」〕

 結局、あれから列車には何も起こらなかった。
 アニメや映画の如く、車内ではバイオハザードが発生し……なんて事態も想定していたのだが、杞憂に終わったようである。

 善場:「どうやら無事に着けそうですね」
 高橋:「人騒がせなクソガ……いや、BOWだな」

 ついには場内信号機を越えた先の踏切をも過ぎて、電車はホームに入った。

 善場:「恐らく……何の命令も受けていないのでしょうね」
 高橋:「どういうことだ?」
 善場:「アメリカの試作型は何の命令も受けていないにも関わらず、制御不能となって暴走しました。しかしエブリンに限らず、制御できているBOWは基本命令が無いと何もしません。ここにいるリサがそうです」
 高橋:「それもそうだな」

 電車が止まって、ドアが開いた。
 向こうのホームには、ディーゼルエンジンのアイドリング音を立てて停車している気動車が停車している。
 東武浅草から続く電化区間はここまで。
 ここから北は、非電化区間となる。
 もちろん3人は乗り換えるつもりは毛頭無く、そのまま改札口へ向かう。

 駅員:「ありがとうございましたー」

 会津田島駅は自動改札口が無く、ブースに駅員が立って、そこでキップの回収が行われる。
 駅舎内には観光物産館などもあるが、もう最終列車の時間とあっては営業していなかった。

 高橋:「ホテルはこの前泊まった所か?」
 善場:「いえ、今回は違います」
 高橋:「違う?」
 善場:「こっちです」

 3人は駅舎の外に出ると、駅前ロータリーを左に回った。
 前回は右回りでロータリーを出たが……。

 善場:「あのホテルです」
 高橋:「近っ!」
 リサ:「コンビニがある。ヤマザキショップ……?」
 善場:「館内に自販機くらいあるでしょうが、何か不足なものがあったら、今のうちに買っておいた方がいいかもですね」
 高橋:「タバコ買って来る」
 リサ:「お菓子……いいですか?」
 善場:「食べ過ぎない程度にね」

[同日21:00.天候:晴 同町内 グリーンホテルミナト]

 この地に古くから営業しているホテルということもあり、建物は年季が入っている感じである。
 こちらはカードキーではなく、従来からの鍵である。
 高橋がシングルで、リサと善場がツインであった。

 善場:「明日は9時半頃に病院に行きますので、よろしくお願いします」
 高橋:「了解」

 エレベーターを5階で降りると、そこでリサは高橋と別れた。

 善場:「ここですね」

 善場がカギを開ける。

 善場:「前回と違って、今回は愛原所長を迎えに行くだけという形なので、そんなに予算が下りなかったんですよ」

 善場はそう言った。

 リサ:「でも、駅見える」

 窓からは会津田島駅がよく見えた。
 いわゆる、トレインビューというヤツである。
 もう最終列車の時間が終わっているが、それでもホームには夜間滞泊と思しき車両が停車していたし、保線作業を行うのか、その車両が動いていた。
 善場はライティングデスクの上にノートPCを置いた。

 善場:「ちょっと事務作業がありますので、先にお風呂入っててください」
 リサ:「はい」

 リサはバスルームに行った。
 ベタなビジネスホテルの法則通り、3点ユニット式であるが、そこの洗面台とは別に洗面所があった。
 リサはバスタブに湯を入れている間、テレビを点けてみた。
 因みにビジネスホテルのユニットバスの入り方も、研究所を出て愛原から教わった。
 その為、他のリサ・トレヴァーは知らないだろう。

 リサ:「チャンネル少ないねぇ……」
 善場:「まあ、そこは地方ですから」
 リサ:「ねぇ、善場さん」
 善場:「何ですか?」
 リサ:「人間に戻れて良かった?」
 善場:「もちろんですよ。とはいえ未だ経過観察中ですが、特に体に不調は無いので、恐らくもう大丈夫なんだと思います。もちろん、1人でも人間を捕食した者はダメです」
 リサ:「化け物として人間を食い殺したんだから、化け物として殺されろってことね」
 善場:「それもあるんですけど、捕食するのようなヤツらの場合、人間だった頃の記憶が無く、人間だった頃の戸籍も無くなっているので、人間に戻して法の裁きを受けさせることができないのです。なので、BOWのまま殺処分した方が、被害者達も救われるかと」
 リサ:「なるほど。私は?」
 善場:「前の、人間だった頃の戸籍は無くなっています。日本アンブレラは施設から“買い取った”子供をしばらく養育した後、“不慮の事故”で死んだことにしてしまうのです。残念ながら、あなたもそうです。今は愛原リサとしての新しい戸籍で生きています。恐らく、リサ・トレヴァーの中で戸籍を取って人間として生活しているのは、あなたくらいかと」
 リサ:「おー!」
 善場:「よく人間を捕食しないで生きて来ましたね。まあ……体の一部を食べることはしているみたいですが、それはまあ、目を瞑りましょう」
 リサ:「バレてた?」
 善場:「バレバレです。それより、早くお風呂に入りなさい」
 リサ:「はーい」

 リサは自分の荷物の中からTシャツと黒のスパッツ、そして替えの下着を用意した。
 そして、着ている制服を脱いだ時にふと気づいた。

 リサ:(あ……スパッツ下に穿くの忘れてた)

 そこで、また思い出す。

 リサ:「善場さん、高野さん、釈放されるのかなぁ……?」
 善場:「さあ……。どうでしょう?……司法取引に応じてくれるのなら、あるいは……と、言ったところでしょうか」

 日本には司法取引の制度は無いが、高野は特別らしい。

 善場:「ちょっと“青いアンブレラ”はねぇ……。日本で活動するには、勇み足だったのかもね」

 どうやら、色々と日本の法律的にはマズい所が発覚してきているらしい。
 欧米の感覚で日本にも展開してきたのがマズかったようだ。
 在日米軍と同じである。
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“愛原リサの日常” 「再びの東武紀行」

2020-12-01 15:15:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月27日18:42.天候:晴 栃木県日光市 東武鉄道日光線1135電車1号車内→東武鉄道下今市駅]

 電車が新鹿沼駅を発車し、次はいよいよ下車駅の下今市駅となった時、リサはトイレに向かった。
 この電車のトイレは和式と洋式がある。
 男性用個室小便器は無い。
 洋式トイレで用を足すと、同じデッキにある洗面所に向かった。
 今は第0形態という人間そのものの姿になっているものの、どこかに化け物の片鱗はあるものである。
 例えば目。
 黒い瞳をしている者は、光を見ても黒いままだが、リサの場合は金色に変わる。
 あとは歯。
 第1形態時よりはだいぶ丸いとはいえ、犬歯がやはり普通の人間より鋭い。
 まあ、この程度ならまだ「生まれつきの体質」で誤魔化せるレベルであるが。
 あと何より、ちょっとケガしたくらいでもすぐに治癒してしまうところか。
 これは善場もそうであり、形式上は人間に戻ったとしても、その人外的能力は残ったままである。

〔♪♪♪♪。本日も東武鉄道をご利用くださいまして、ありがとうございました。まもなく下今市、下今市です。……〕

 リサ:「あっ……」

 車内に自動放送が響く。
 この前の時は新型BOWエブリンを名乗る少女の影があったが、今回は現れることはなかった。
 今のところはまだ「気のせい」レベルであることが、逆に気持ち悪い。
 確実に存在するが、今は雲隠れしているリサ・トレヴァー『1番』の方がまだマシだと『2番』のリサは思う。
 リサは急いで自分の席に戻った。

 高橋:「おっ、戻ったか。降りる準備をするぞ」
 リサ:「うん」
 善場:「慌てなくて大丈夫ですよ」

〔♪♪♪♪。「ご乗車ありがとうございました。まもなく下今市、下今市です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お降りの方はお忘れ物の無いよう、お支度ください。お乗り換えの御案内です。上今市方面、各駅停車の東武日光行きは、向かい側1番線から18時52分。東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きは、4番線から18時53分の発車です。会津鉄道線内までご利用のお客様、会津鉄道線乗り入れ、本日の最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。この電車は特急スペーシア“きぬ”135号、鬼怒川温泉行きです。下今市を出ますと、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に止まります」〕

 高橋:「もう終電の時間なのか?」
 善場:「田島の町まで行く最終電車と断っていることから、途中まで行く電車そのものはまだ何本かあるんでしょうね」
 高橋:「いずれによ、乗り遅れ厳禁か」
 善場:「そういうことです」

 

 電車がホームに停車し、ドアが開く。
 やはりここで下車する乗客は多い。
 向かい側のホームで、東武日光行きを待つ乗客が殆どだ。
 前回と違って、今度は東武日光行きがホームで待っているということはなかった。
 3人は階段を昇って、跨線橋を渡り、3番線へ向かう。
 3番線と4番線は本来上りホームだが、折り返し下り列車が使用することもある。
 軽やかに階段を登って行くリサだが、今は特段スカートを短くしているわけではない。
 愛原の前ではそうしているだけで、愛原がいない時は校則に従った長さにしている(膝小僧が隠れるか否かといったくらい)。
 尚、中等部より校則が緩やかな高等部ではそのような規定は無いとのことである。

 

 4番線に行くと、この前乗ったのと同じ形式の2両編成の電車が停車していた。
 金曜日の夜で、行き先によっては最終となる電車であるが、別に混んでいるわけではない。
 普通に先頭車のボックスシートを確保できた。

 

〔「ご案内致します。この電車は18時53分発、東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きです。会津線に乗り入れる、本日の最終電車です。会津線内までご利用のお客様、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 リサ:「ねぇ、ジュース買ってきていい?」
 高橋:「ああ。行ってこい」
 善場:「もう売店は閉店してますからね、ホームの自販機で」
 リサ:「はーい」

 リサは一旦電車を降りると、ホームの自販機に向かった。

 リサ:「何がいいかな……」
 ???:「キリンレモンがいいんじゃない?」
 リサ:「おー、いいねぇ……って!?」

 リサはバッと後ろを振り向いた。

 エブリン:「わたしが見えるの?まだ、感染していないのに、そこはさすがBOWだね。旧型だけどw」
 リサ:「あんた……!」
 エブリン:「『1番』とわたしは“家族”を求めた。そして、『2番』のお姉ちゃんも同じだった。アメリカの同族達は死に、日本の私達は生きている。何だろうね、この違い?」
 リサ:「『1番』を知ってるの!?」
 エブリン:「にひひひ……!」
 リサ:「ちょっと!」

 リサが駆け寄ろうとすると、エブリンを名乗る少女はパッと消えた。
 勢い余って、3番線から線路に落ちそうになったくらいだ。
 幸い、電車が入って来るタイミングではなかったが、もしそうだったら、接触していたかもしれない。

 リサ:「……何なの、あいつ?」

 

 リサは青ざめた表情で座席に戻った。

 高橋:「どうした、リサ?」
 リサ:「う、うん……」

 リサは高橋の隣の窓側席に座った。
 そして、向かい側に座る善場に尋ねた。

 リサ:「あの……エブリンって知ってますか?10歳くらいの黒髪の女の子です」
 善場:「エブリンですって?」

 善場の表情が険しくなる。

 善場:「どうして知ってるの?」
 リサ:「さっきそこの自販機の前に現れたからです」
 善場:「!!!」

 善場は急いで立ち上がると、ホームに降りた。
 そして、コートの懐に手を入れながら周囲を警戒する。
 何も無かったのか、しばらくして車内に戻って来た。

 善場:「今はいないみたいですね」
 高橋:「見間違いじゃね?」
 リサ:「違う!そんなことない!」
 善場:「ええ。違うでしょう。リサがそんなウソを吐くとは思えません。参りましたね。エブリンは日本にはいないとされていましたが、どういう経路か、日本に入って来てしまったようです」
 高橋:「エブリンって、あれか。確か、藤野の研修センターで観たけど、新しいBOWらしいな?」
 善場:「そうです。それまでのBOWはウィルスを主体としていましたが、そのエブリンは特異菌というカビの一種を駆使したBOWです。アメリカではその試作品がルイジアナ州の農場で暴れた例が報告されていましたが、まさかもう量産されていたとは……」
 高橋:「リサより強ェのか?」
 善場:「何しろ新型ですから。ただ、こちら……日本のリサ・トレヴァーも、アメリカのオリジナル版とは全く異なる進化を遂げたBOWです。一概にエブリンより弱いと断言はできません。こちらの情報によりますと、ウィルスか特異菌かの違いだけで、こっちのリサ・トレヴァーと似た能力を持っていることが分かっています」
 高橋:「戦ってみねーと分かんねーってわけか」
 善場:「リサ、そのエブリンは完全に敵意を持っていた?」
 リサ:「分かんない。そんな感じはしなかったけど、でも明らかに私のこと、上から目線だった」
 善場:「今は敵対するつもりはないということでしょうか」
 高橋:「分かんねーよ。クソガ……」
 善場:「シッ!」

 突然善場が高橋の口を指で押さえた。

 高橋:「な、何だよ!?」
 善場:「今、あなたがエブリンを貶めようとした発言、タブーです。アメリカではそれは地雷となり、怒った彼女は感染者の特異菌を活性化させて殺したそうですから」
 リサ:「まるで私のウィルスと同じだね」
 善場:「そう。だから一概にあなたがエブリンより弱いとは言い難いのです。向こうがアメリカの試作型と同レベルなのか、或いは強化されているのか、はたまた量産化に当たり、逆に弱体化しているかもしれませんし」
 高橋:「この電車に乗っている可能性もあるのか?」
 善場:「無いとは言い切れませんね。もしも乗っている場合、私達に敵対してくる可能性はありますし。この電車が発車したら、確認に行きましょう。リサ、頼めますか?」
 リサ:「うん、分かった」

 しばらくして、電車は定刻通りに発車した。
 すぐにリサが席を立って、車内を歩く。
 とはいえ、所詮2両編成の電車だ。
 しかも終電とはいえ、完全に空いているボックスシートが無いという程度。
 つまり、立っている乗客は殆どいないということだ。
 リサは乗務員室のすぐ後ろの席から確認した。
 車内にはエブリンと大して歳の変わらない、恐らく部活か塾帰りの小学生らしき者もいたが、あのエブリンとは全く違った。
 リサ自身がクォーターだからか、多少日本人離れした顔立ちであるのと同様、あのエブリンもなかなか彫りの深い顔立ちをしていた。
 だから目立つのである。
 しかし、トイレの中や後ろの乗務員室の前まで確認したが、エブリンらしき少女の姿は見受けられなかった。
 人間には幻覚などで惑わせることができても、同じBOWたるリサには誤魔化せないはずなので、車内にはいないと断言して良いだろう。
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