報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「会場へ向かう」

2020-12-24 21:06:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月6日07:27.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅新宿線ホーム→大江戸線ホーム]

〔1番線の電車は、各駅停車、橋本行きです。もりした~、森下~。大江戸線は、お乗り換えです〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は斉藤社長の依頼で、娘の絵恋さんに付いている。
 そして、絵恋さんは他校との交流試合に参加するところであった。

 高橋:「何もこんな朝早くからよ」

 電車を降りがてら、高橋がそんな文句を言った。

 愛原:「開会式は9時からだ。絵恋さんとしては、早めに到着して、先方の雰囲気を掴んでおきたいんだよ。何しろ、東京中央学園側はアウェイなわけだからな」
 高橋:「そりゃそうですけど……」

 菊川から森下駅までは歩いても行けるのだが、絵恋さんと待ち合わせをして一緒に行く為、菊川駅から電車に乗った。
 都営新宿線には一区間だけ乗る形になる。

 愛原:「場所は六本木。東京中央学園よりも一等地にあるな」
 高橋:「高校は上野にあるんでしょう?東京中央も、そういった意味では一等地だと思います」
 愛原:「まあな」

 東京中央学園は都内各地(一部は千葉県)にキャンパスがいくつか散らばっている。
 イメージとしては埼玉の学校法人、佐藤栄学園に似ている。
 それに対し、これから向かう聖クラリス女学院は初等部から大学まで徒歩圏内に集約されている。

 愛原:「どれ、次は大江戸線か」

 一旦改札口へ向かうコンコースに上がり、それから大江戸線ホームへ向かう階段を下りる。
 平日なら通勤・通学客でごった返している時間だが、日曜日ともなると静かなものだ。

 リサ:「先生、『退魔士』の人、来る?」
 愛原:「栗原蓮華さんか。来るだろう。高等部は高等部で、剣道の交流試合だ」
 リサ:「先生。もしも私が『1番』だったら、多分私の前に直接は現れない。あいつ、臆病者みたいだから」
 愛原:「ということは?」
 リサ:「私だったら、『退魔士』の人を襲うと思う」
 愛原:「なるほど。確かに今、蓮華さんを見ている人はいないな……」

 大江戸線ホームに向かい、そこでしばらく電車を待ちながら私は考えた。
 『1番』とは同族のリサが考えることは一致しているかもしれない。
 そして、同族とはなるべく戦いたくないが、面倒臭い人間はさっさと殺したいと思うだろう。
 そうなると、蓮華さんを狙うか。
 しかし、蓮華さんもそれまで何人ものリサ・トレヴァーの首を刎ねている。
 その中で『1番』が一番強いったって、復讐心に燃える蓮華さんだって強いと思うのだ。
 どうしたものか……。

〔まもなく4番線に、大門、六本木経由、光が丘行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 しばらく思案していたが、なかなかいいアイディアが思いつかない。
 そんな時、接近チャイムと放送が鳴り響いて、私は我に戻った。

〔4番線の電車は、大門、六本木経由、光が丘行きです。もりした、森下。新宿線は、お乗り換えです〕

 ぶどう色に近いワインレッドのラインカラーを帯びた電車がやってくる。
 そして先頭車両に乗り込むと、そこには見知った顔が2つあった。

 善場優菜:「おはようございます」
 栗原蓮華:「おはようございます」

 空いている車内に、善場主任と栗原蓮華さんが乗っていた。
 そこで私はピンと来た。
 そうか!蓮華さんの方は、善場主任に見てもらえばいいんだ!
 或いは、その逆でもいい。
 何でこんなことに気が付かなかったんだろう!
 『1番』のことだから、善場主任に相談すれば、動いてくれるのだ!

 愛原:「おはようございます」

 私達は彼女達の向かい側に腰かけた。
 すぐに短い発車メロディ(乗降促進メロディ)が鳴って、ドアが閉まった。
 そして、電車が走り出す。

〔次は清澄白河、清澄白河。半蔵門線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Kiyosumi-Shirakawa.E14.Please change here for the Hanzomon line.〕

 善場主任はいつも通り黒いスーツを着ているが、蓮華さんは違った。
 もう既に剣道着を着ているようである。
 但し、上にはコートを羽織っていたが。
 で、私が気になったのは持ち物。
 長物を2つ持っている。
 1つは試合に使う竹刀だろう。
 しかしもう1つは……恐らく、『1番』を斬る為の真剣であろう。
 そんなもの合法的に持ち歩けないから、善場主任が付いているのだろう。
 聞けばやはりその通りであった。

 善場:「愛原所長も水臭いですよ?『1番』の情報を掴んだら教えてくださいと言ったではありませんか?」
 愛原:「す、すいません。まだ確定はしていない、推理の段階だったので……」
 善場:「それでもいいんですよ。些細なことでも、情報提供は大事ですから」
 愛原:「はあ……」

 正しくその通りだ。
 因みに斉藤さんは、学校指定のジャージを着ている。
 試合の時に着る空手の道着は、手持ちのボストンバッグの中に入っている。

 愛原:「『1番』の目星、誰だかもう付いてるんですか?」
 善場:「何人かは。愛原所長が仰ってた特徴と照らし合わせて、何人かは候補に浮上しました。ただ、候補者達は中等部と高等部に別れてしまっています」
 愛原:「え?」
 善場:「聖クラリス女学院は、東京中央学園と違って、中等部・高等部で制服のデザインを変えるようなことはしないのです」
 愛原:「あちゃー……」

 東京中央学園は男女共通で、中等部のブレザーはシングル、高等部はダブルという違いを付けているのだが。
 だからもし、ここで蓮華さんが制服を着ていたら、彼女はダブルのブレザーを着ているということになる。
 今ここで制服を着ているのはリサだけだ。
 そのリサはシングルである。

 善場:「とにかく、『1番』がどこから攻撃してくるか分かりません。私は彼女を見ていますから、愛原所長は『2番』と行動してください」
 愛原:「分かりました」

 善場主任は元『12番』の『0番』。
 人間に戻れつつも、身体能力はリサ・トレヴァー時代の物を色濃く残す善場主任がいれば心強い。
 
 善場:「何かありましたら、すぐに連絡を」
 愛原:「はい」

 私は善場主任から小型のトランシーバーを渡された。
 なるほど。
 同じ学校の敷地内でも、中等部と高等部は分かれているし、当然会場も別れている。
 こういう時、無線機があるとやり取りしやすいかもな。
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「大会前日」

2020-12-24 15:32:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月5日21:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「うぃ~、次いいぞー」

 風呂から上がった私は、高橋に言った。

 高橋:「うっス!先生の残り湯、堪能させて頂きやす!」
 愛原:「だから、サラッと気持ち悪いこと言うなって」
 リサ:「お兄ちゃん、次は私だからね!先生の残り湯!」
 高橋:「あー、聞こえねぇ!聞こえねぇ!」
 愛原:「オマエらなぁ……」

 私は呆れ顔と苦笑を混じらせながらキッチンへ向かった。

 愛原:「ビール、ビールっと」

 冷蔵庫の中から缶ビールを取り出す。

 リサ:「ねー、私も一口ちょうだい」
 愛原:「出たな!妖怪ヒトクチチョーダイ!あと5年待て!」
 リサ:「えー」
 愛原:「『えー』じゃない!」
 リサ:「でもぉ……」
 愛原:「『でも』じゃない!」
 リサ:「だってぇ……」
 愛原:「『だって』じゃない!」

 私はリビングのソファに座ると、テレビを点けた。
 バラエティ番組で、芸能人のペットの特集をやっている。

〔「凄い大きい犬ですねぇ!?」「でも性格は大人しいんですよ?」「私が触っても大丈夫なんですかぁ~?」「もちろん!」〕

 リサ:「滑稽だねぇ!」

 リサ、私の隣にダイブしてくる。

 愛原:「ちょっ……!ひっつくな!」
 リサ:「人間と馴れ合うなんて、所詮はペット~!」
 愛原:「オマエが言うな!」

〔「ちょっとドーベルマン、怖いんですけどォ~?」「いやいや!ドーベルマンってのはですね、こう見えて結構臆病な種類なんですねぇ~!」「ホントですかぁ~?」〕

 愛原:「ゾンビ化したドーベルマンは除く」
 リサ:「言えてる。愛原先生達が来た時には既に外に連れ出されてたけど、私がいた研究所には……頭が3つあるケルベロスみたいなヤツもいたからね」
 愛原:「ちょっと待て!それ初耳だぞ!?それ何!?ヘタすりゃ俺達、そいつと戦ってたってこと!?」
 リサ:「まあ、私が最初に目を付けてたんだから、たかだかワンコ如きに先生は殺させないけどね」
 愛原:「そのケルベロスみたいな奴はどうなった!?」
 リサ:「さぁ?あの後さっぱり出て来なかったから、殺処分されたんじゃないの?」
 愛原:「メチャクチャ怖いんだけど、そういうの」
 リサ:「名前をティンダロスって言うんだって」
 愛原:「あ、そのまんまケルベロスじゃないのか」
 リサ:「私の言う事全然聞かないから、全然可愛くない犬だったね」
 愛原:「首が3つある時点で、可愛さマイナスだけどな!」
 リサ:「私にも首輪着けていいよ?リードも着けてね」
 愛原:「オマエが動物系のBOWなら、そうしてるよ。だけど、こうやって人型のBOWなんだから、そんなことするわけにはいかないだろう?」
 リサ:「そうかな?」

 リサはテレビのチャンネルを変えた。
 今度は歌番組である。
 そこでは女性バンドユニットが、ちょうど新曲を披露していた。

 リサ:「ほら、この人、首輪着けてる」

 リサがアップで映った女性ボーカルを指さした。

 愛原:「それはチョーカーって言ってだな、ただのファッションであって、犬猫に着ける首輪とはワケが違うの」
 リサ:「私も似合うかな?」
 愛原:「そりゃオマエは可愛いから、何でも似合うと思うよ」
 リサ:「! おー!」
 愛原:「人間形態よりは、鬼形態の方が似合うかもな」
 リサ:「ほんと!?」

 するとリサは第1形態に変化した。

 リサ:「これとか?」
 愛原:「『飼われてる鬼』ですよってか?いやいや、やっぱダメだな……」
 リサ:「ふーん……?」

 リサ、更に私にひっついてくる。

 リサ:「この姿も好きだよね?『人食い鬼』を押し倒したら先生、最強だよ……?」
 愛原:「ん?」

 リサは少し開けた口から、吐息を漏らした。

 リサ:「先生……」

 リサは妖艶な顔になっている。
 心なしか、リサの体から女の匂いが漂って来た。

 愛原:「リサ、落ち着け!」
 リサ:「食べたい……」

 リサが私の口に吸い付こうとした時だった。
 リサのスマホがブーブー震え出した。

 リサ:「チッ、誰だよ?こんな時間に……」

 リサは舌打ちをすると、テーブルの上の自分のスマホに向かった。

 リサ:「サイトー?何の用?」

 リサは不機嫌そうに出た。
 それっ、今のうちに!

 リサ:「あっ、待て!」

 私はサーッと自分の部屋に逃げると、鍵を掛けた。
 因みに鍵は3つ付いている。
 変化したリサにはどんな鍵を付けていても焼け石に水だが、時間稼ぎにはなる。
 また、リサの部屋には外から鍵を掛けることができる。
 リサが暴走した場合、外から鍵を掛けて閉じ込めるのだが、それとて変化したリサにはやっぱりただのお飾りでしか無いのである。

 斉藤:「り、リサさん、急にお腹が痛くなってきたから、またね……」
 リサ:「あー、漏らす前にさっさと行っといで。今度私の邪魔をしたら、コジマみたいになるからね?」

 リサのヤツ、斉藤さんに植え付けたウィルスを少し活性化させたようだ。
 普段は休眠状態にさせているが、リサの不興を買った場合、活性化させられてしまう。
 リサの場合はまだ力を抑えて胃腸炎を起こさせる程度にしているが、本気を出せばゾンビ化したり、全身から血を噴き出させて殺すこともできる。
 『1番』はそうした。

 リサ:「ちっ、もうちょっとだったのに……」

 リサの悔しそうな声が外から聞こえてくる。
 ドアを開けようとしたが、鍵が掛かっているので諦めたようだ。
 無理やりこじ開けることも可能だが、大騒ぎして追い出されるのは困るので、そこまでは考えられるらしい。
 それにしても、いくら生理前でムラムラしているんだか何だか知らないが、第1形態に変化する度に性欲も強くなっているような気がする。
 リサも年頃の女の子になってきたが、早いとこ人間に戻してあげないと、後で大変なことになるような気がした。

 愛原:「リサ、明日は大事な日だろ?さっさと寝る準備しろ」
 リサ:「はぁい」

 ようやく高橋が風呂から出て来て、やっとリサが風呂に入ると、私はそのタイミングで部屋から出ることができた。
 ところが、私の部屋の前に、さっきまでリサが着けていたブラショーツが置かれていて、改めて私は食欲から性欲の『捕食対象』へと変化したのだと改めて認識させられた。
 いや、両方かもしれない。
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