[12月2日12:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
高野君への面会で東京拘置所に行った後、事務所に戻ると、斉藤社長からの依頼書がファックスされていた。
それに目を通していると、ボスから電話が掛かって来た。
ボス:「私だ」
愛原:「ああ、ボス。お疲れ様です」
ボス:「昼休みの最中、申し訳ない。そちらに斉藤社長からの依頼書が行ったと思うが、引き受けてくれるかね?」
愛原:「はい。大丈夫です」
ボス:「そうか。では、私から斉藤社長には伝えておくから、詳しい資料をメールしてもらおう。今日中に来るだろうから、しばらく待ってもらいたい」
愛原:「分かりました」
私は電話を切った。
本当にボスは、ここぞという時にはタイムリーに連絡を入れて来る。
一体、正体は誰なのだろう?
高橋:「またレズガキのお守りっスか?」
愛原:「そんなところだ」
高橋:「全く。探偵を何だと思ってんスか、あの社長は……」
愛原:「いや、今度の仕事は渡りに舟かもしれないぞ」
高橋:「? どういうことっスか?」
愛原:「今度の日曜日、聖クラリス女学院中等部と東京中央学園墨田中学校で女子空手部の交流試合があるらしい。絵恋さんも参加するから、俺達は護衛として付いて行って欲しいとのことだ」
高橋:「あいつに護衛なんて要ります?化け物をピヨらせることができるヤツですよ?」
愛原:「しかし、もしあの学校に『1番』がいるとしたら、巻き込まれる恐れがある。そんな時、バイオハザードを何度も潜り抜けた俺達の護衛が必要だってことらしいな」
高橋:「どっちかっつーと、探偵よりかはガードマンの仕事って感じですね」
愛原:「まあな」
もちろん身辺警備を一手に引き受ける警備会社は存在する。
だが、普通の暴漢相手ならそれで事足りるだろうが、何しろ相手はBOWだからな。
海外ならむしろそこで“青いアンブレラ”の出番なのだろうが、いかんせん日本では活動停止を食らってしまった。
最初のうちは日本の警備会社に毛を生やしたような活動にしておいたら、取り締まられることもなかっただろうに、“青いアンブレラ”は日本をナメてるとしか思えない。
いや、むしろヘタすりゃ“青いアンブレラ”が出張ってもおかしくないバイオハザードをナメている日本政府の方がおかしいのだろうか。
もしも新型コロナウィルスがゾンビウィルスに変異しようものなら、後者の論が正しいということになる。
高橋:「しかしあんなことがあったってのに、開催するんですね」
愛原:「ミッション系の学校だからな。『神の御加護さえあれば大丈夫』とでも思ってるのかもな」
高橋:「全然大丈夫じゃなかったと思いますけどね」
愛原:「まあな。まあ、俺の勝手な想像だ」
[同日15:30.天候:晴 同事務所]
リサ:「ただいま」
斉藤絵恋:「こんにちはー」
日本広しと言えど、JCが気軽にやってくる探偵事務所なんて、ここだけだろう。
だが、ちょうどいい。
愛原:「おー、お帰り。斉藤さん、いらっしゃい」
高橋:「神聖な事務所をたまり場にすんじゃねぇ」
愛原:「まあ、どうせヒマだからいいよ」
高橋:「はあ……」
愛原:「給湯室の冷蔵庫にジュースがあるから」
リサ:「はーい」
斉藤:「ありがとうございます」
2人は給湯室にあるダイニングテーブルに向かった。
ここで宿題をやるのが定番になっている。
愛原:「今日は、あのメガネのコはいないのかい?」
リサ:「コジマは午後から病院に行ってる」
愛原:「そうか」
斉藤:「リサさんが『捕食』してくれてるおかげで、小島さんのお腹の病気も調子がいいんですよ」
愛原:「そりゃあ良かった。それより斉藤さん、ちょっと飲みながらでいいから聞いてくれるかな?」
すると斉藤さん、リサとの一時を邪魔されるのがイラッと来たか、眉を潜めて言った。
斉藤:「これから宿題をやらせて頂くんですけど?」
愛原:「ああ、そうかい……」
だが、リサが斉藤さんを軽く睨み付けた。
今のリサは人間に化けた第0形態だが、睨み付ける瞬間のみ、瞳が赤く光った。
リサ:(なに先生の頼み断ってんの?いい度胸してんじゃん。逆らったらどうなるか、分かってるよね?)
そんなことを言いたげだ。
斉藤:「ひぅ……!ご、ごめんなさい!な、なんでしょうか?」
愛原:「ああ……えーと……。さっき、斉藤さんのお父さんから仕事の依頼を受けたんだ。何でも今週日曜日、空手の対外試合があるらしいね?」
斉藤:「あー、そのことですか。よりにもよって、連続猟奇殺人事件が起きた聖クラリスですよ?何で中止にしないのって思いましたね」
愛原:「会場はその聖クラリス女学院なんだってね」
斉藤:「そうなんです。あそこの武道館の方が、うちより新しくてきれいなので」
愛原:「そうなのか。で、私と高橋がキミの護衛役を任されたのでよろしく」
斉藤:「そうなんですか。まあ、私は護衛なんて要らないって言ったんですけどね。父の心配性のせいで、巻き込んでしまって申し訳ありません」
斉藤さんはやや憤慨気味に言った。
愛原:「どうだろう?この際だからリサも、関係者として一緒に連れて行くことはできないだろうか?私達はキミの護衛役として一緒に学校に入れるみたいだが、リサも一緒の方がキミはもっと安心だろう?」
斉藤:「そうですね!ていうか、リサさんの応援があれば心強いです!……そうですね。リサさんには、空手部のマネージャー助手ということにしておきましょう」
愛原:「よろしく頼むよ」
これでリサを潜り込ませれば、『1番』のことがもっと分かるかもしれない。
何しろ同じリサ・トレヴァーだ。
同族のことは、もう気配などで分かるだろう。
斉藤:「高等部では女子剣道部の交流試合もあるそうなので、盛り上がれそうですね」
愛原:「えっ、そうなの!?」
私は咄嗟に栗原蓮華さんの顔を思い浮かべた。
斉藤:「そうなんです。えーと……高等部には1年生で、しかも左足が義足でありながら、段位を持つ強い剣道部員がいるそうです」
愛原:「栗原さんだ!……因みに、因みにだよ?更に他に武道の交流試合はあるの?」
斉藤:「いいえ。中等部では女子空手部、高等部では女子剣道部だそうです。それがどうかしましたか?」
私と高橋は顔を見合わせた。
これは何たる偶然!……というには、あまりにも話が出来過ぎてはいないだろうか?
もしかして、大いなる罠が仕掛けられているのでは?
うん、何かそんな気がしてきた。
愛原:「とにかく、俺達とリサが護衛に行くから。もし斉藤さん、危険だと思ったら、急いで逃げるんだよ?」
斉藤:「えぇ?」
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
高野君への面会で東京拘置所に行った後、事務所に戻ると、斉藤社長からの依頼書がファックスされていた。
それに目を通していると、ボスから電話が掛かって来た。
ボス:「私だ」
愛原:「ああ、ボス。お疲れ様です」
ボス:「昼休みの最中、申し訳ない。そちらに斉藤社長からの依頼書が行ったと思うが、引き受けてくれるかね?」
愛原:「はい。大丈夫です」
ボス:「そうか。では、私から斉藤社長には伝えておくから、詳しい資料をメールしてもらおう。今日中に来るだろうから、しばらく待ってもらいたい」
愛原:「分かりました」
私は電話を切った。
本当にボスは、ここぞという時にはタイムリーに連絡を入れて来る。
一体、正体は誰なのだろう?
高橋:「またレズガキのお守りっスか?」
愛原:「そんなところだ」
高橋:「全く。探偵を何だと思ってんスか、あの社長は……」
愛原:「いや、今度の仕事は渡りに舟かもしれないぞ」
高橋:「? どういうことっスか?」
愛原:「今度の日曜日、聖クラリス女学院中等部と東京中央学園墨田中学校で女子空手部の交流試合があるらしい。絵恋さんも参加するから、俺達は護衛として付いて行って欲しいとのことだ」
高橋:「あいつに護衛なんて要ります?化け物をピヨらせることができるヤツですよ?」
愛原:「しかし、もしあの学校に『1番』がいるとしたら、巻き込まれる恐れがある。そんな時、バイオハザードを何度も潜り抜けた俺達の護衛が必要だってことらしいな」
高橋:「どっちかっつーと、探偵よりかはガードマンの仕事って感じですね」
愛原:「まあな」
もちろん身辺警備を一手に引き受ける警備会社は存在する。
だが、普通の暴漢相手ならそれで事足りるだろうが、何しろ相手はBOWだからな。
海外ならむしろそこで“青いアンブレラ”の出番なのだろうが、いかんせん日本では活動停止を食らってしまった。
最初のうちは日本の警備会社に毛を生やしたような活動にしておいたら、取り締まられることもなかっただろうに、“青いアンブレラ”は日本をナメてるとしか思えない。
いや、むしろヘタすりゃ“青いアンブレラ”が出張ってもおかしくないバイオハザードをナメている日本政府の方がおかしいのだろうか。
もしも新型コロナウィルスがゾンビウィルスに変異しようものなら、後者の論が正しいということになる。
高橋:「しかしあんなことがあったってのに、開催するんですね」
愛原:「ミッション系の学校だからな。『神の御加護さえあれば大丈夫』とでも思ってるのかもな」
高橋:「全然大丈夫じゃなかったと思いますけどね」
愛原:「まあな。まあ、俺の勝手な想像だ」
[同日15:30.天候:晴 同事務所]
リサ:「ただいま」
斉藤絵恋:「こんにちはー」
日本広しと言えど、JCが気軽にやってくる探偵事務所なんて、ここだけだろう。
だが、ちょうどいい。
愛原:「おー、お帰り。斉藤さん、いらっしゃい」
高橋:「神聖な事務所をたまり場にすんじゃねぇ」
愛原:「まあ、どうせヒマだからいいよ」
高橋:「はあ……」
愛原:「給湯室の冷蔵庫にジュースがあるから」
リサ:「はーい」
斉藤:「ありがとうございます」
2人は給湯室にあるダイニングテーブルに向かった。
ここで宿題をやるのが定番になっている。
愛原:「今日は、あのメガネのコはいないのかい?」
リサ:「コジマは午後から病院に行ってる」
愛原:「そうか」
斉藤:「リサさんが『捕食』してくれてるおかげで、小島さんのお腹の病気も調子がいいんですよ」
愛原:「そりゃあ良かった。それより斉藤さん、ちょっと飲みながらでいいから聞いてくれるかな?」
すると斉藤さん、リサとの一時を邪魔されるのがイラッと来たか、眉を潜めて言った。
斉藤:「これから宿題をやらせて頂くんですけど?」
愛原:「ああ、そうかい……」
だが、リサが斉藤さんを軽く睨み付けた。
今のリサは人間に化けた第0形態だが、睨み付ける瞬間のみ、瞳が赤く光った。
リサ:(なに先生の頼み断ってんの?いい度胸してんじゃん。逆らったらどうなるか、分かってるよね?)
そんなことを言いたげだ。
斉藤:「ひぅ……!ご、ごめんなさい!な、なんでしょうか?」
愛原:「ああ……えーと……。さっき、斉藤さんのお父さんから仕事の依頼を受けたんだ。何でも今週日曜日、空手の対外試合があるらしいね?」
斉藤:「あー、そのことですか。よりにもよって、連続猟奇殺人事件が起きた聖クラリスですよ?何で中止にしないのって思いましたね」
愛原:「会場はその聖クラリス女学院なんだってね」
斉藤:「そうなんです。あそこの武道館の方が、うちより新しくてきれいなので」
愛原:「そうなのか。で、私と高橋がキミの護衛役を任されたのでよろしく」
斉藤:「そうなんですか。まあ、私は護衛なんて要らないって言ったんですけどね。父の心配性のせいで、巻き込んでしまって申し訳ありません」
斉藤さんはやや憤慨気味に言った。
愛原:「どうだろう?この際だからリサも、関係者として一緒に連れて行くことはできないだろうか?私達はキミの護衛役として一緒に学校に入れるみたいだが、リサも一緒の方がキミはもっと安心だろう?」
斉藤:「そうですね!ていうか、リサさんの応援があれば心強いです!……そうですね。リサさんには、空手部のマネージャー助手ということにしておきましょう」
愛原:「よろしく頼むよ」
これでリサを潜り込ませれば、『1番』のことがもっと分かるかもしれない。
何しろ同じリサ・トレヴァーだ。
同族のことは、もう気配などで分かるだろう。
斉藤:「高等部では女子剣道部の交流試合もあるそうなので、盛り上がれそうですね」
愛原:「えっ、そうなの!?」
私は咄嗟に栗原蓮華さんの顔を思い浮かべた。
斉藤:「そうなんです。えーと……高等部には1年生で、しかも左足が義足でありながら、段位を持つ強い剣道部員がいるそうです」
愛原:「栗原さんだ!……因みに、因みにだよ?更に他に武道の交流試合はあるの?」
斉藤:「いいえ。中等部では女子空手部、高等部では女子剣道部だそうです。それがどうかしましたか?」
私と高橋は顔を見合わせた。
これは何たる偶然!……というには、あまりにも話が出来過ぎてはいないだろうか?
もしかして、大いなる罠が仕掛けられているのでは?
うん、何かそんな気がしてきた。
愛原:「とにかく、俺達とリサが護衛に行くから。もし斉藤さん、危険だと思ったら、急いで逃げるんだよ?」
斉藤:「えぇ?」