報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「松島や ああ松島や 松島や」

2018-05-27 10:15:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月11日08:53.天候:晴 JRあおば通駅→JR仙石線最後尾車内]

〔まもなく2番線から、電車が発車致します。黄色い線まで、お下がりください〕

 あおば通駅の発車メロディは“青葉城恋唄”をモチーフにしたものが流れる。
 この路線に使用されている205系電車にはドアチャイムが後付けされているのだが、そのチャイム音が、どう聞いても首都圏JR車内で流れる運行情報のそれ。
 電車は定刻通りに発車した。
 しばらくの間は地下区間を進むことになるが、この地下トンネルの名前を『仙台トンネル』という。
 まあ、その……何だ。
 非常にシンプルなネーミングである。

〔「この電車は仙石線下り、普通電車の高城町行きです。まもなく仙台、仙台です。お出口は、右側です」〕

 放送が物凄い簡易的なのは、次駅までの距離が短いから。
 500メートルしかない。
 首都圏でこれだけ駅間距離が短い所と言えば、日暮里駅と西日暮里駅だろう。
 こちらも500メートルしか無い。
 向こうには英語放送も入っているのだが、その放送が言い終わらないうちに、もう次の駅のホームに差し掛かっている。

 稲生:「下りでも、結構乗ってくるなぁ……」

 仙台駅に到着した電車に、多くの乗客がドカドカ乗って来る。
 あおば通駅ではまだ空席があった電車もこれで満席になり、立ち客も出るようになる。
 仙石線は、そろそろ6両編成化した方が良いような気がするのだが……。
 ま、ホーム延長とか車内トイレ増設とか色々と面倒か。
 尚、発車メロディをあおば通駅に譲った仙石線において、仙台駅ではただの発車ベルである。
 最近では、これとて珍しいものとなったが。
 こちらでは駆け込み乗車があったせいでドアチャイムが何回か鳴ることになったが、首都圏のJR電車に乗り慣れていると、どこかの路線が止まったのかという感覚に捕われる。

〔「今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は仙石線下り、普通電車の高城町行きです。次は榴ヶ岡、榴ヶ岡です。お出口は、右側です。電車のドアは自動では開きません。お降りの際はドア横にございます『あける』のボタンを押して、お降りください」〕

 東北では地下鉄以外、基本的に年中乗降ドアを半自動扱いにしている。
 首都圏では時季や時間帯によるが、例えば上野駅低いホームに停車している中距離電車で体験できる。

 稲生:「ていうか……。埼京線とか武蔵野線に乗ってる気分……」
 マリア:「トンネルを出たら、その線路の上だったりしてね」
 稲生:「それじゃやっぱり冥鉄電車じゃないですか」
 マリア:「HAHAHA...いくら何でも、こんな真っ昼間からは走らないさ

 時折、自動通訳魔法具の効果が無くなるのは地下だからか?
 稲生はこれをポケットWi-Fiに例えたが、得てして妙なものである。

[同日09:36.天候:晴 JR松島海岸駅]

 電車が海沿いに近づく度、威吹の鼻がヒクついた。
 そこは妖狐、鼻がよく利くらしい。
 松島付近は内陸を走る東北本線との並走区間があり、ダイヤが合うと首都圏でよく見られる同方向の電車の並走シーンが見られる。
 かつてはキハ58系快速“南三陸”と103系快速電車が競走するダイヤがあった。
 現在は仙石東北ラインの開通により、そういったシーンは無くなっている。

〔「まもなく松島海岸、松島海岸です。お出口は、右側です」〕

 短いトンネルを出ると、車内放送が響いた。
 東塩釜駅を出ると単線になる仙石線だが、松島海岸駅は行き違い設備を備えた1面2線のホームがある。
 行き違い設備どころか、折り返し設備もある。
 その為、昔は臨時列車などで当駅終点・始発の電車も運行されていた。
 現在は稲生達が乗っているように、次の高城町駅折り返しがセオリーとなっている。

 稲生:「さあ、着きました」

 電車が駅に到着すると、稲生はドアボタンを押した。
 起伏の富んだ狭い土地に駅を造ったものだから、ホームはお世辞にも広いとは言えない。
 観光シーズンになると、ホームが観光客で溢れ返るのだという。
 目の前が海か湖か、ホームが長いか短いかの違いだけで、似たような構造の駅に中央本線の藤野駅がある。

 威吹:「……ックシュ!……ックシュ!」

 潮の香りにやられてか、ついに威吹がくしゃみを何度かした。

 稲生:「大丈夫か、威吹?」
 威吹:「すまん。嗅ぎ慣れぬ潮の匂いだったものでな……」
 マリア:(犬かな……)

 と言いつつマリアもまた内陸の国に生まれ、移住したイギリスも内陸の地域であった為、海は見慣れたものではなかった。
 更なる移住先、日本でも内陸の長野であった為、尚更だ。

 稲生:「でも、2人には非日常だと思うんだ。こういう海の風景を見るのも」
 威吹:「まあ、確かに」
 マリア:「悪霊騒動の時点で、既に非日常なんだけどね。でもまあ、だからこそ、日常的な非日常もいい」
 威吹:「それで、ユタはこの後どうしようってんだい?」
 稲生:「もちろん、海を満喫するつもりだよ」

 稲生が向かう先について行く魔女と妖狐。

 マリア:「海を満喫する、という時点で鉄道趣味からは離れそうだな」
 威吹:「海と言えば、だいぶ前、ユタにお台場まで連れて行ってもらったことがあったが、それ以来だなー」
 マリア:「なにっ?……勇太、私はまだ連れて行ってくれてないよ?」
 稲生:「えっ?あっ、いや、その……マリアさんは……」
 マリア:「私とじゃダメなのか!?」
 威吹:「まあまあ。女には見せられない本を買いに、夏の時期に行っただけでござるよ」
 稲生:「わわわっ、威吹!それ以上はダメ!」
 威吹:「その割には女も随分といたようだが、あの者達は別に目的があったのか?」
 マリア:「勇太、話は後で聞くから」
 稲生:「はい……」

 稲生もまたコミケ戦士の1人であった。

 マリア:「ダニエラから聞いたんだけど、魔道書という割に、随分と薄い本が本棚にぎっしり入っているというぞ?」
 威吹:「うむ。ユタにとっては、立派で貴重な魔道書でござるな」
 稲生:「あ、はい。威吹の言う通りでございます……」

 稲生はうな垂れた様子で、更に海の方へと向かって行った。

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