報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント前夜に語られた過去の真相」

2017-06-07 12:05:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日20:00.天候:晴 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 敷島:「これで明日からのイベントは完璧だな。皆、よろしく頼むよ」

 イベント会場となる札幌ドームから戻った敷島達。
 敷島の言葉に全員が頷いた。

 鏡音リン:「わっかりました〜!リンにお任せ!」
 MEIKO:「相変わらずだねぇ」
 井辺:「今夜は皆さん、ゆっくり休んでください。どこか不具合のある方は、些細なことでも良いのですぐに申し出てください。監視端末だけでは把握できない小さな不具合もあるようですので」
 萌:「はい!」

 萌が手を挙げた。

 萌:「最近、夜になると『眠く』なるんですけどォ……」
 井辺:「ほお?それでは平賀教授の方に……」
 萌:「いえっ!井辺さんに『温めて』もらうと直ると思います!」
 井辺:「充電はちゃんとしておいてくださいね」
 萌:「ええ〜!?」
 シンディ:「あんたはせっかく妖精として、私達よりも気軽に飛べるんだから、上からの撮影よろしくね」
 萌:「ぶー」
 敷島:「平賀先生、夕食にしましょうか。井辺君も」
 平賀:「そうですね。さすがにお腹は空きました」
 井辺:「ありがとうございます」

 ロイド達はそれぞれの客室に戻り、人間達はホテル内のレストランに向かった。

 井辺:「個室タイプの和食とは……。接待の時にしか来ないですよ」
 敷島:「ま、たまにはこういう所もいいだろう。平賀先生への接待ってことで」
 平賀:「えっ、やめてくださいよ。自分、そんなに接待されるような立場じゃ……」
 敷島:「いや、そういう立場ですよ」
 井辺:「私もそう思います」
 敷島:「それに、秘密の会議をするにはちょうどいい」
 井辺:「秘密の会議ですか」
 敷島:「そう」

 敷島はおしぼりで手を拭いた。

 敷島:「井辺君は酒行けるっけ?」
 井辺:「ええ、まあ」
 敷島:「先生は大丈夫でしたよね」
 平賀:「敷島さん、長い付き合いでしょう?」
 敷島:「そう。長い付き合い、ですよね」
 井辺:「?」
 敷島:「先生、まずは一献」
 平賀:「どうも」
 敷島:「それで井辺君にお願いしたいのは……」
 井辺:「はい」
 敷島:「本社から掲げられた目標額を超えないことには納得できないだろう。下回ったりでもすれば、峰雄伯父さんからブッ飛ばされるからね。『ノルマも達成できないヤツは、ドーン!』ってね」
 井辺:「は、はあ……」
 敷島:「今回の件、イベントについては実はカムフラージュなんだ。だから、目標額を大きく超えるとか、そういうことまでは考えなくてもいい。峰雄伯父さんから『ドーン!』されない程度、目標額に達成するだけでいい。俺と平賀先生の本来の目的は、このイベントの後にある」
 平賀:「敷島さん、それは……」

 敷島が何か出そうとした時、八寸が運ばれて来たので一時中断。
 その後で出したのは、北海道全域の地図。

 敷島:「『オホーツク旅情歌』の歌詞に出てくる地名と地名を線で結んだものです。当初は歌のタイトルに従って、本当にオホーツク海に向かって線を引っ張りました。しかし、これは表向きのものだったのです。兵器ロボットとして開発されたミクが海洋投棄された場所を指していただけに過ぎない。しかしそれは、平賀先生がエミリーに頼んで回収済みということですね」
 平賀:「そうなんですよ。確かに南里先生の仰る通り、あれを平気で稼働させたら、エミリー達でも食い止めることができるかどうかといった性能を持つロボットだったらしいです。でも、研究対象としては十分に価値があるので、あのまま捨ててしまうのは勿体無いと思いまして……」
 敷島:「でも今のミクは……というか、私が一番最初に出会ったミクの『ボディ』ともまた違うわけでしょ?」
 平賀:「違う?」
 敷島:「初めて私が南里研究所に来た時、先生はミクをバラバラにした状態で研究所に持ってきました。あれ、よく考えたら不自然ですよ。表向きは『持ち運びしやいから』ということでバラバラにしたそうですが、別にバラバラにしなくたって人間の少女の等身大なんだし、七海に運ぶのを手伝わせれば良かったわけですよ。それをしなかったのは、他に理由があったんじゃないかって」
 平賀:「よく、お気づきになりましたね。そんな、昔の話……」
 敷島:「今さら遅いでしょうがね」

 敷島はお猪口の酒を口に運んだ。

 敷島:「今のミク……あの時初めて会ってから、今までにボディは更新していたりするけども、少なくとも基本設計は変わっていない。というか……下の客室にいるミクは、海洋投棄されたミクとは違う個体なんですよね」
 平賀:「それもお分かりでしたか?」
 敷島:「ええ。海洋投棄されたものが、いくら先生の腕を持ってしても、修理して再稼働させることはできないと思います」
 平賀:「そこまで分かってしまったら、もう秘密にはできませんね」
 敷島:「ここは個室ですから、どうぞ話してください」
 平賀:「分かりました。確かに、敷島エージェンシーのトップアイドル、初音ミクと自分がエミリーに回収させたロボット兵器は別個体です。確かに当時の自分の腕前……いや、今でも無理でしょうね。海水が部品の奥にまで入り込んでいた状態だったので。でも、エミリーは覚えていたんですよ。あのロボット兵器の設計データを」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「もちろん、エミリーは口を割りませんでした。南里先生から口止めされていたんでしょうね。でも、一部だけは教えてくれるようになりました。設計の一部と、回収したボディから想像される完成品の姿。そうしてできたのが、初音ミクです」
 敷島:「設計の一部だけでも、どうやってエミリーに口を割らせたんですか?」
 平賀:「エミリーの様子がおかしかったんですよ」
 敷島:「おかしい?」
 平賀:「ええ。つい最近まで、エミリーは『ロボット喋り』をしていたでしょう?」
 敷島:「ええ。自分に相応しいアンドロイドマスターを探す為、わざとロボットのフリをしていたというフザけた理由でしたね」
 平賀:「自分、子供の頃に南里先生とエミリーに会っているんですよ」
 敷島:「らしいですね」

 その時、南里は子供の平賀が自分で設計したというロボットのデータを見て、平賀に天賦の才を見出したとされる。

 平賀:「何ぶん、子供の頃……今からおよそ30年も前の話ですから、記憶が曖昧だったんです。だから黙っていたんですが、確かあの時のエミリー、普通に喋っていたような気がするんですよ」
 敷島:「ええっ!?」
 平賀:「で、それから10年近く経って、自分は南里先生が教授を務める大学に入学したわけですが、その時のエミリーは『ロボット喋り』でしたね。どうしてああなったかは知らない上、南里先生が頑なに『ちょっと諸事情があって、言語ソフトが古いままなんじゃ』としか言わなかったので……」
 敷島:「ふーむ……」
 井辺:「あの、僭越ですが……」

 井辺が手を挙げた。

 平賀:「何ですか?」
 井辺:「素朴な疑問なんですが、どうして社長は南里研究所に呼ばれたんですか?当時社長が所属しておられた大日本電機(現在はデイライト・コーポレーション・インターナショナルにM&Aされて消滅)の命令で、社長に産業スパイを命じたということですが、どうも不自然です。でもこれを後付けの理由としておけば、逆に自然に捉えられるんですが……」
 平賀:「そうですね。エミリーが当時、敷島さんの上司だった者を吊るし上げ……もとい、事情を聞いたところ、やはり敷島さんにスパイ命令を出したのは後になってからのようです」
 敷島:「それで古市課長、全治一ヶ月のケガしてたの!?(※)」

 (※シリーズ初期“ボーカロイドマスター”より。当ブログでは非公開)

 平賀:「なかなか吐かなかったので、2階から1階に放り投げたそうです」

 平賀が呆れた顔で答えた。

 井辺:「エミリーさんもなかなか過激ですね」
 平賀:「元は旧ソ連の暗殺・粛清ロボットとしての人型兵器でしたから……」

 エミリーにとっては、それでも手加減したつもりだったのだろう。

 平賀:「答えを言ってしまうと、大変申し訳無いことを結果的に自分は敷島さんにしてしまったわけですよ」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「エミリーはあの当時から、自分に相応しいアンドロイドマスターを探していました。そして南里研究所としては、外部から営業もできる事務員を即戦力として欲しかった。その両方の需要に答えたのが自分。当時のツテで古市課長を探し当て、彼に部下を差し出せました。それが敷島さんだったんです。古市課長は、自分や南里先生の大学の卒業生でしたからね。エミリーには、『将来のアンドロイドマスターに成り得る人間を紹介するから』と言って、それでようやく、設計データの一部だけならということで教えてくれたんです」
 敷島:「ええ〜……?ということは、私が初めて南里研究所に来た時って……」
 平賀:「はい。まだあの時、ミクは完成途中だったんです。でも、南里先生がどうしても『敷島君に紹介したい』ということで、すぐ持って来るように言われて……」
 敷島:「そういうことだったのかぁ……」
 平賀:「すいません。自分の研究野望の肥やしにしてしまったことになってしまって……。本当に、何と言ってお詫びしたら良いか……」
 井辺:「しかし、それで結果的に今の社長がおられることを考えますと……」
 敷島:「結果オーライだったわけか……」

 敷島は再び酒を口に運んだ。

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