報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「招かざる客」

2015-07-10 19:18:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日12:30.天候:晴 十条達夫宅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ、アルエット、十条達夫]

「フム。もうデイライト社が嗅ぎ付けたか」
「アルエットの修理の場所、その他材料を提供した見返りに、ライセンス契約の話に際してよろしくと」
「年金も少ないしな。多少は協力せんとダメじゃろうな」
「ありがとうございます。年金が少なくても、博士のように手に職のある人なら大丈夫なんじゃないですか?デイライト・コーポレーションとなら、もう老後も安泰ですよ」
「まあ、どうだかな……」
 と、その時、ドアがノックされた。
「はい?」
 ドアを開けて来たのは、アルエット。
「おお、アルエット。どうした?」
「すき焼き、もうできたのかい?」
「いえ、それが……」

 敷島がキッチンに行くと、アリスが困った顔をしていた。
「どうした、アリス?」
「舞茸はあるんだけど、白菜が無いのよ」
「マジか!……鍋と言ったら白菜だろ?」
「キャベツならあるんだけど、これ代わりに入れる?」
 と、アリスはキャベツ一玉を右手でヒョイと上げた。
「いや、ダメだな。すき焼きの具材として、白菜は欠かせない」
 敷島が腕組みをして難しい顔をした。
「ちょっとアンタ!白菜が無いなんて、どういう了見だい!?」
 シンディが執事代行のバージョン4.0Cを怒鳴りつけた。
「イ、イヤ、シカシ……。白菜ガ無クテモ、スキ焼キハデキマスノデ……」
「ああッ!?そんなこと言ってんじゃねーよ!」
「ウルトラ・ワガママ女!」(←逆ギレの4.0C)
「ンだと、てめコラ!ガスボンベ引っこ抜いて、コンロの燃料にしてやろうか?ああッ!?」
 バージョン・シリーズの燃料は天然ガス。
 背中にガスボンベを背負っている。
 ダメージを受けると爆発するのはこの為。
「お、おい、お前ら。ケンカは……」
「仕方が無い。ワシがちょっくら買ってこよう」
「達夫博士!?」
「アリス君やシンディは料理中じゃし、敷島君やアルエットはこの辺の地理に詳しくない。Cは動きが鈍いしの」
「……モ、申シ訳アリマセン」
「後でアタシがもう少し素早く動けるよう、カスタムしてあげるわよ」
 と、アリス。
「ドクターのオ手ヲ煩ワセテシマッタ……」
 orzになる4.0Cだった。
「けっ、ざまぁみろ」
 悪態をつくシンディだった。
「どうする、タカオ?この分だと、白菜が来る前にできちゃうけど?」
「肉はだいぶあるんだ。先に食ってていいんじゃないか?」
「そうね!」

[同日12:45.同場所・ダイニング 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ、アルエット]

「このお肉、柔らかーい!」
「うん。さすが米沢牛だな。身内に送って来る分というのは、あいにく出荷できなかったものを横流ししているんだろうが、それでも高級和牛の名に恥じない味だ」
 敷島が大仰に感想を言う。
「シンディ、ご飯よそってくれ」
「はーい」
「日本人はライスが好きねー」
「すき焼きとて、こっちの感覚じゃ、おかずだからな」
 シンディが敷島に茶碗を渡した時だった。
「! 接近反応!」
 シンディの両目がギラッと光り、家の外に向けられる。
「何だ、敵か?」
「バージョン4.0の反応がするわね。ちょっと片付けてきます」
「おう、よろしくー」
「ヨロシクオ願イシマス」
「オマエも来るんだよ!このスカポンタン!……あ、アルエットは中にいていいからね」
 アルエットに対しては、優しい声で言う。

 シンディが家の外に出ると、バージョン4.0の集団が10機はいた。
 こんなのが公道を堂々と歩いて、普通は通報されるものだが、恐らくケータイの電波などがかく乱されているのだろう。
「何か用?」
 シンディは集団を睨みつけた。
 無論、用件があるに決まっている。
 おおかたの予想はついているが、シンディは一応聞いてみた。
 時間稼ぎの為でもある。
 ズイッとこの集団の隊長と思しき個体が、1歩前に出て来た。
「用件ハ3ツデアル!1ツ!新型マルチタイプ、8号機のアルエットを直チニ引キ渡セ!2ツ!ソコニイル裏切リ者ノ引キ渡シヲ要求スル!3ツ!……十条達夫博士ニ直接用件ガアル!十条達夫博士ヲ出シテモラオウ!」
「うーん……。2つ目の裏切り者の引き渡しなら応じるけどね」
「エエッ!?ソンナ御無体ナ!」
「白菜も用意できない役立たずなんか要らないわよ!」
「ソコヲ何トカ……」
「ダーメ!お前達!こいつだけ引き渡すから、今日のところは帰ってちょうだい!これなら子供のお使いじゃなくて済むでしょ?」
 さめざめと泣く4.0C。
 で、兵団の方はどうしたものか思案しているのだろう。
 特に4.0隊長からはキュルキュルキュルと、電子頭脳からそんな音が聞こえた。
「……ダメダ。全テノ要求ニ応ジテモラオウ!サモナクバ、ソノチンケナ家ゴト吹キ飛バス!」
 隊長の言葉に呼応するかのように、4.0兵団も右手を銃に変形させた。
「分からず屋どもがっ!だいたい、3つ目のドクター達夫に用件って何なの!?あいにくとドクター達夫は留守なんだけどね!」
「何ッ!?」
「アタシで良かったら、代わりに用件を聞いといてやるわよ」

 キュルキュルキュルキュルキュル……(シンディの言葉に思案する隊長)

「デハ、伝エテモラオウ!十条達夫博士ノ宝物ヲ、十条伝助博士ニ引キ渡スヨウニト!」
「宝物?それは何?」
「十条達夫博士ニ言エバ分カル!」
「分かったわ。間違い無く伝えておくから、今日の所は帰って」
「ダメダ!裏切リ者とアルエットを引キ渡シテモラウ!」
「嫌だ。……と、言ったら?」

 次の瞬間、兵団が銃火器を一斉に発砲してきた。

「オマエ、責任取りな!」
「ウワアアアアッ!」
 シンディは4.0Cを惜しげも無く囮にする。
 兵団の一部がそれに反応している中、シンディはブースターを使って真正面にいる隊長に体当たり。
「ウオオオオオッ!?」
 ついでに周囲にいた兵達も巻き添えを食らい、燃料のガスタンクに引火して爆発した。
「アタシを誰だと思ってるんだい!?偉大なるマルチタイプ、3号機のシンディ様だよ!」
 しかし、兵達はシンディに発砲を続ける。
「くそっ!こいつら、ちょこまかと……!」
 その時、シンディに近づいた1機が、別方向からの攻撃に頭部を破壊された。
「!?」
 それはレーザービーム。
 光線銃を搭載しているのは……。
「アルエット!?」
 家の中から窓越しに、右手の人差し指を突き出し、そこからレーザービームを放ったのだった。
「お姉ちゃんを攻撃しないで!」
「ターゲットを発見!直チニ捕エロ!」
 残りの4.0数機がアルエットの所へ向かう。
「くっ!」
 アルエットはビームを放ったが、戦い慣れしていないせいか、なかなか当たらない。
「アルエット!ライフル・モードからショットガン・モードに切り替えて!」
 シンディが妹機に指示を出した。だが、
「……分かんないよ!どうしたらいいか!」
 まだ自分に搭載された機能を把握しきれていなかった。
 初音ミクですら、製造当初は自分の歌唱機能を知らなかったくらいだ。
 家の中に突っ込む4.0達。
 窓ガラスや壁が壊されるが、そんなことはお構いなしだ。
 だが、それが何故か外に出て来た。
 正確には、何かを追って出て来たと言うべきか。
「あれは、ロボット・デコイ!?」
 ピコーンピコーンと特殊な信号音と光を発することで、人工知能の劣るテロロボットを引き寄せ、そして爆殺する時限爆弾式手榴弾を改造したものだ。
 アリスの発明品である。
 人工知能の劣るのは、概ねバージョン4.0以前のシリーズ。
 マルチタイプやボーカロイドなどの高性能の人工知能を搭載している者には効かない。
 残った4.0達は一発のロボット・デコイに引き寄せられ、家の外に出たところで爆発、全滅した。
「お見事です!ドクター・アリス!」
「ま、こんなこともあろうかと、何発か持って来ておいて良かったわー」
 アリスはドヤ顔で言った。
「シンディ。おかわり」
 アリスは御飯の入った茶碗をシンディに差し出した。
「は、はい!ただいま!」
 シンディが茶碗を受け取り、炊飯器の所に行くと、
「ただいまぁ。ん?何の騒ぎじゃ?」
 達夫が帰って来た。
「達夫博士、白菜は?」
「おーっ、ちゃんと買ってきたわい。それより、何の騒ぎじゃ?」
「バージョン4.0の集団が襲って来たんです。御覧のように返り討ちにはしましたが……」
 と、報告する敷島。
 因みにご存知のように、敷島は何にもしていない。
「こりゃ派手にやったのぅ……」
「ごめんなさい。アタシが油断したから……」
 シンディはしゅんとなって達夫に頭を下げた。
「いやいや。最初に襲ってきた、こやつらが悪い。わしの分も出してもらおうか」
「は、はい!」
「すいません、先に頂いてました」
「良い良い。こんなもてなししかできんが、まあ、賑やかにやってくれ。あー、悪いがシンディ。できることなら、外にいる残骸の処理と家の修理を頼めんかの?」
「あー……ドクター・アリス?」
「ドクター達夫の要望通りしてあげて。まあ、家の修理は応急処置しかできないと思うけど」
「かしこまりました。そういうことでしたら」
 シンディは早速、作業に取り掛かった。
 尚、命令はされていなくても、アルエットも健気にシンディの手伝いを始めた。
「レイチェルは来なかったのか?」
「あれ?そういえば……」
「うん。来なかったわね」
「む?では、あれは先遣隊か?」
「えーっ?また来るのー?」
 敷島はあからさまに嫌そうな顔をした。
「ヒマなロボット軍団だぜ」
「まあ、命令している人間がヒマな老人じゃからの」
 達夫はまるで自分を皮肉るかのように言って、クックッと喉の奥で笑ったのだった。
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“新アンドロイドマスター” 「昼食会の前に」

2015-07-10 14:56:48 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日10:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫]

 シンディからの電話が繋がらなかったのは、その時、本当に達夫が電話していたからであった。
「……あいよ。ワシゃまだ生きとるよ。……ああ。いっそのこと、さっさとボケた方が楽じゃろうに、相変わらず頭も冴えたままじゃ。そういうお前の方が大丈夫か?いや、ワシの所に送られて来ても困るんじゃがな。……まあ、ちょうど来客もある予定じゃからいいようなものの……。いや、伝助とは相変わらずじゃよ。……ああ。悪いが、どっちか先にくたばらんと済まんようじゃ。……じゃあ、そういうことで」
 達夫は電話を切った。
 相手は誰からなのだろうか?
「ワシと敷島夫妻の3人じゃから、ちょうど良かったわい」
 達夫はそう呟いて、テーブルの上に置かれたクール宅急便を見た。
 そしてそれを手に、冷蔵庫にしまったのだった。
「ふむ……」
 そして、今度はまた別の場所に電話する。
「ああ、レイチェルか?頼みがあるんじゃが、兄貴からの命令を少し先延ばしにできんかの?」
{「達夫博士。申し訳ありませんが、スケジュールにより、只今は伝助博士の命令が優先になっております。用事は、その後でお申し付けください」}
 そう言われて、通信を切られた。
「……伝助のヤツ、変な設定をしおったな……」
 そして、今度は敷島に電話したのだった。
{「はい、シンディです」}
「む?シンディか?敷島君はどうした?」
{「社長は只今運転中ですので、私が代わりに」}
「そうか。アルエットをこちらに送ってくれる御礼に、キミ達を歓迎する準備をしておる。ただ、その前に、どうやらレイチェルが妨害しそうじゃ」
{「レイチェルが?」}
「どうも兄貴のヤツ、レイチェルに変な設定したらしい。ただ、なるべくお前は戦わないでもらいたいのじゃがな」
{「どうしてですか!?」}
「……いや、何でも無い。なるべくなら、レイチェルと鉢合わせにならんことを祈るよ。じゃ、気をつけて」
 電話を切る達夫。
「兄貴のヤツ、仕掛けおったか……!兄貴の望みは……」

[同日12:15.天候:晴 同場所・十条達夫宅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ、アルエット、十条達夫]

「……おい。フツーに着いたぞ。レイチェルはどこだ?」
「……近くに何の反応も無いわ」
 何の戦いも無く到着できた敷島達。
「全く。すぐ大げさなことを言うのは、老人ボケの始まりだぜ」
 敷島は車から降りた。
「アルエット。今日からここがあなたの家よ」
 シンディがアルエットを車から降ろした。
「ここが……」
「アリスも起きろ!着いたぞ!」
「Oh...」
「中でレイチェル達が待ち構えていたりしてな?」
「だから、何の反応も無いって。あるのは……ん?何かのロボット?」
 玄関に行くと、
「イラッシャイマセ!」
 と、出迎えたのは……バージョン4.0!
「社長達、下がって!貴様、やはり待ち伏せか!」
 シンディは右手をマシンガンに変形させた。
「ワーッ!待ッテクダサイ!敵デハアリマセン!」
「ウソつけ!だったら、ドクター達夫を出しな!あ?もしかして、死体になっているとか言うんじゃないだろうな?」
 シンディがギロッと4.0を睨みつける。
 が、奥から、
「おー、スマンのー!歳取ってるとトイレが近くてのー!」
 と、達夫がやってきた。
「達夫博士!こ、このバージョンは?」
「先日、レイチェル達がやってきた際に故障で動かなくなったものを確保して、ワシ風に改造したものじゃ。さすがにリカルドの代わりがおらんと、老体が1人で生活するにはキツくての。4.0のカスタムということで、ワシは勝手に4.0Cとしているが……」
「……ここに来るまでに、全く敵とは会わなかったものでね」
「そうか。ワシの祈りが通じたかの?」
「科学者が占いとは、何とも……」
「占いではないぞい」
「科学的見地ってヤツですか。それより、連れて来ましたよ。あなたの渾身の傑作、8号機のアルエットです」
「おおっ!アルエット!」
 アルエットは、すぐに自分のカメラ(目)に映る老人の姿をスキャンした。
「達夫博士!」
 アルエットも達夫に駆け寄る。
「感動の御対面が終わったら、すぐにDCC(デイライト・コーポレーション・カンパニー)からのライセンス契約の話を……」
 敷島は既に後ろ手で、電卓のテンキーを叩くような感じになっていた。
 秩父営業所の所長とどういった話をしたのかは定かではないが、恐らく敷島自身も儲かる流れに持って行ったのだろう。
「それでその、達夫博士。御礼の件ですが……」
「おお、そうじゃった。実はの、ワシの妹から贈り物が届いての。それが食べ物なんじゃが、ワシ1人で食い切れないので、ちょうどお昼時じゃし、キミ達も一緒にどうかね?」
「いや、あの……デイライト・コーポレーションの……」
「食べ物って何?」
 敷島がツッコミを入れようとすると、アリスが横から口を挟んだ。
「妹は東北の畜産農家に嫁いでおるんじゃが、そこから牛肉が送られてくるんじゃ」
「え?」
 冷蔵庫の中から出て来たのは、米沢牛が500グラムはあった。
「よ、米沢牛?あの日本四大和牛の1つ……。科学者兄妹とは限らないのね」
 敷島は呆れたが、
「ちょうど3人おるし、これからこいつをすき焼きにでもして食わんか?」
「ええっ?いいの!?」
 アリスは涎が出んばかりの顔になった。
「その前に、まず商談をだな……」
「アリス博士、ダメですよ」
「えっ?」
 珍しくシンディが止める。
「ドクター達夫。私達はアルエットをお届けに参っただけです。残飯処理なら他を当たって頂けませんこと?」
「やめなさい、シンディ!」
「ですが、ドクター。ここは言っておきませんと。まるで、何か頼み事があれば、ドクターや社長が食べ物で釣れるという誤解を招き……」
「いいから、シンディ!」
 敷島もシンディを黙らせる。
「いいか?これは助け合いだ。孤独な爺さんのメシにくらい、たまに付き合ってやるくらいいだろう。これも1つの正義だ!」
「うんうん!さすがタカオ!」
「は、はあ……。ドクターや社長がそう仰るのでしたら……」
 敷島自身も米沢牛が食いたかったというのは、【お察しください】。
「では早速、鍋の準備をせんとな」
「材料はあるんですか?」
「ああ。そこの冷蔵庫に入っておるよ。ワシは基本、好き嫌いは無いから、まあ、キミ達で好きな具材を入れてくれ」
「おう。シンディ、手伝ってくれ」
「かしこまりました、社長」
「! シンディ!タカオに料理させないで!昔、南里研究所時代に、ガスコンロ爆発させやがったから」
「ほお……。さすがは、あの東京決戦のヒーローじゃ」
「いや、あれはその……事故……作戦っスよ、作戦!まだ悪堕ちしていたシンディが襲撃に来るって情報を掴んだもんで、迎撃としてプロパンガスを爆発させただけで……」
「ああ。おかさまで、アタシゃ右腕が吹っ飛んだねぇ……」
 シンディは苦い顔をした。
 右腕が吹っ飛ぶということは、銃火器が全て使えなくなったということだから、相当なダメージだ。
「フム。あいにくとこの家のガスもプロパンなんだな……。レイチェルがここに来るという情報は掴んでおるか?」
「い、いえ。あいにく、まだ……」
「レイチェルの迎撃に、そこのガスボンベを使われても困るので、ワシらはできるまで奥にいよう」
「あ、じゃあデイライト・コーポレーションの話を……」
「あー、アルエットや。料理ができたら、教えてくれんかの?」
「はーい!」
「アリス!オレはすき焼きはシイタケじゃなくて、舞茸派だ!分かってるな?」
「分かってるわよ」
 
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“新アンドロイドマスター” 「水面下の敵とは誰?」

2015-07-10 10:47:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日07:00.天候:晴 埼玉県秩父市・市街地のビジネスホテル 敷島孝夫]

 敷島の枕元にあるスマホが鳴る。
「……へい、敷島エージェンシーでござい……。あ?」
 着信じゃない!アラームだ!
「……仕事の電話かと思った」
 アラームを止めて起き上がる。
「さすがに今日はいい天気だな……」
 カーテンを開けると、朝日が差し込んで来た。
「裏を返せば、絶好のテロ日和ってことでもあるか」
 そう呟きながら、敷島はバスルームに入る。
「朝飯食って、研究所に行ってみるか」

[同日09:00.同市・デイライト・コーポレーション秩父営業所 敷島孝夫&シンディ]

 さすがに平日の朝ということもあって、正面入口も開いていた。
「普通に受付に行けば大丈夫かな?」
 昨日、通用口にいた女性型アンドロイドが受付に座っていた。
「おはようございます。私、こういう者ですが、実は昨日からここの研究施設にいるアリスの……」
 敷島が名刺を出して用件を伝えていると、
「社長!こっちこっち!」
 シンディが通路の奥から手を振っていた。
「勝手に入るワケにはいかんだろう?」
 敷島が眉を潜めると、
「ビジターカードちょうだい」
 シンディがやってきて、受付嬢ロイドにビジターカードを要求した。
 ここでもシンディの方が立場が上なのか。
 どこまで特権階級なのだろう。
「それは・できません」
 と、受付嬢ロイドはエミリーのような喋り方で答えた。
「あ!?なんだって!?」
 さすが、シンディが相手でも動じず、セキュリティを決して弱めない……と、思いきや、
「当館で・発行している・カードは、ゲストカードと・申しまして・ビジターカードと・称するカードは・ございません」
「だから、それを寄越せっつってんの!天然メイドロボ仕様が!
(何か、思考回路がリカルドに似てんなぁ……。もしかして設計者、達夫の爺さんじゃないのか?)
 と、敷島は思った。

[同日09:15.同・営業所内部 敷島、シンディ、アリス、アルエット]

 専用のエレベーターで地下に下りるらしい。
 普通に地下のボタンを押そうとしても、ランプは点灯しない。
 因みにゲストカードをスキャンさせてもダメだ。
 こういう時、特権階級のシンディが役に立つのだが、それとて万能というわけではない。

〔地下3階です。お手持ちのセキュリティカードを、30秒以内にスキャンしてください。30秒を過ぎますと、自動で1階に戻ります〕

『同行の人間に、作者の生年月日を入力して頂いてください』

 と、エレベーターのモニタに出る。
 タッチパネル式のテンキーが表示された。
「社長」
「おう。19810805だな」

〔ドアが開きます〕

 ガラガラとドアが開く。
 地上のオフィスとは違い、無機質な空間が広がっている。
 アリスが籠っていた研究室は、すぐ近くにあった。
「アリスー、おはよう。ご苦労さん」
 研究室に入ると、アリスが椅子に凭れかけて眠っていた。
 しかし、左手にはしっかり電動ドライバーを持ったままだ。
「……本当に、お疲れさん」
「はい、このコがアルエットよ」
「もう起動しているのか?」
 敷島は驚いた様子だった。
「ん?前と様子が違くないか?」
 ロングヘアーだったのが、肩の所で切られたショートになっている。
「ああ。何かね、崖からバージョン400ごと転落したでしょう?それで髪が焦げたもんだから、切ったんだって」
「なるほどな。……ああ、おはようさん。私はボーカロイド専門の芸能プロダクションを経営している敷島孝夫だ」
「アタシ達を修理してくれたアリス博士の旦那様だよ」
「8号機のアルエットです。よろしくお願いします」
「歌は……歌えないよな?」
「歌?ですか?」
「いや、何でもない」
「社長、このコはドクター達夫の物なんだから、勝手に事務所で使っちゃダメよ」
「冗談だって。で、どうするんだ?このまま引き取っていいのか?」
「ドクターは何にも言ってなかったね」
「しょうがねーな。じゃあ、俺がここの責任者と話つけてくるよ」
「アタシはここでドクターの護衛をしてるから」
「ああ。……って、コラ!お前が一緒じゃないと、エレベーター動かないだろ!」
「あっ……」
「お前も何気に天然だな」
「そんなことない。アタシもついさっき再起動したばかりで、まだ全部のソフトウェアが起動しきっていないだけだって。……というわけでアルエット。ここでいいコにして待っててね」
「は、はい!」

[同日10:00.埼玉県秩父市・市街地 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ、アルエット]

「やはり商売上手と言うべきか、何というか……。達夫の爺さんから、ライセンス契約を取れるよう口添えしておいてくれってか」
 敷島は苦笑しながら呟いた。
 彼らは今、近くのレンタカー・ショップにいる。
 藤野まで電車移動が大変なので、車で移動することにした次第。
 ワンウェイ・サービスを使えば、埼玉県秩父市で借りたレンタカーを、同じ埼玉県のさいたま市内の別の店に返しても特別料金は掛からない。
 ハイブリットカーを借りた敷島。
「よし、乗ってくれ」
 敷島はカーナビで、藤野にある十条達夫の家までのルートを入力した。
 住所は知っているので、それを打ち込めば……。
 狭山市辺りまでは国道299号線を行き、そこから圏央道に乗れというものだ。
 これが1番安全なルートらしい。
 因みに徹夜したアリスは、リアシートで寝ていた。

 こうして4人は秩父市を出発した。
「おっ、そうだ。達夫の爺さんに、今向かっていることを伝えてあげよう」
「ああ、じゃあアタシが連絡しておくわ」
 シンディが代わりに敷島のスマホを取る。
「……あれ?話し中かしら?繋がらないわ」
「マジか?あの孤独な爺さんに電話する人がいるとは……」
「え?まさか、KR団が?」
「マジか!……あ、いや。まだ決めつけは軽率だ。そういう時に限って、区役所の福祉課辺りから電話が来てるだけかもしれない。何しろ今日は月曜だからな。役所の窓口も開いてる」
「まあ……そうだけど」
「また後で電話してみよう」
「ええ」
「あ、あの……」
「ん?なぁに?」
 アリスの隣に座るアルエットが話し掛けて来た。
 シンディは下位のロボット達とはまるで違う態度で応える。
 何しろフルモデルチェンジの新型機とはいえ、アルエットはシンディ達は続きの番号を持つマルチタイプなのである。
「このコンセント、使っていいんですか?」
 ハイブリットカーならではの装備、車内コンセントだ。
「いいけど、何か充電するのか?」
「はい。わたしです」
「は?」
「残りのバッテリー、もうすぐ20パーセントになりそうなので……」
「はあ!?」
「アリスのヤツ、充電してなかったのかよ……」
「早く充電しなさい」
「は、はい!」
「……ハイブリットカーじゃなく、普通の乗用車だったらどうするんだよ、全く……」
 敷島は呆れて、アイマスクに耳栓をして仮眠モードに入るアリスをミラー越しに見た。

 ドライブはまだ始まったばかりである。
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