[6月21日06:15.天候:晴 JR大宮駅・埼京線ホーム 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、6時15分発、快速、新宿行きです〕
休日朝の地下ホームで大きな欠伸をする白人女性が1人。
「何だって、こんな朝早くから……」
「しょうがないだろ。池袋発の快速急行が7時過ぎに発車するんだからさ」
敷島は肩を竦めた。
「この朝一の快速で行くとちょうどいいんだ」
〔まもなく20番線に、快速、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
地下ホームに接近放送が鳴り響く。
「着いたら起こして……」
と、敷島の腕を掴むアリス。
「さっきもタクシーの中で寝てなかったか、おい?ブクロ止まりじゃないんだから、ちゃんと起きてくれよ。シンディ、起こす時にちょっとアリスに電流よろしくな?」
「いいんですか?」
「タカオにしてやって」
「了解しましたー!」
「何でだよ!」
〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます。次は、与野本町に止まります〕
平日のこの時間帯なら、既に座席が満席の状態でやってくるが、休日ともなればガラガラだ。
それでも大宮駅で結構な数の乗客が降りてくる。
中にはスーツ姿の男女がいたりするが、この後、東武野田線に乗り換える組だろうか?
〔この電車は埼京線、快速、新宿行きです〕
電車に乗り込む3人。
アリスをドア脇の座席に座らせる。
白い仕切り板に凭れさせて、その分敷島が広く使うつもりだったが、
「俺にかよ!」
その逆隣に座る敷島に寄り掛かるという……。
シンディはその2人の脇、ドアの前に立って微笑ましく見ていた。
〔「この電車は埼京線、快速電車の新宿行きです。次は与野本町に止まります。北与野駅は通過致しますので、ご注意ください。まもなく発車致します」〕
早朝や深夜、住宅街にある駅などは騒音防止の為か、放送や発車メロディの音量を下げているが、地下ホームだと気兼ねないのか、かなりがなり立てている。
〔20番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
電車は時刻通りに発車した。
地下ホームに新型のインバータの音を響かせて、電車が走り出す。
〔この電車は埼京線、快速、新宿行きです。停車駅は与野本町、武蔵浦和、戸田公園、赤羽です。赤羽から先は各駅に止まります。次は、与野本町です。……〕
「ああ、そうそう。8号機のアルエットは、どうして遠くまで移動したの?」
と、アリスが思い出したかのように言った。
「いや、それは俺も知らんよ。直接本人に聞くしかないな」
「アルエットはフランス語で“雲雀”という意味ですから、雲雀を追って行ったのかもしれませんね」
と、シンディが言った。
「んなワケないだろー」
敷島は苦笑いをした。
「荒川の上流……てか源流というか……ま、とにかくその辺りに何かあるかもしれない。KR団の施設とか……」
「だったらレイチェルが知らないなんてことは無いんじゃない?」
「う……」
アルエットがバージョン・シリーズと共に動いているのは確かだ。
千葉の警察署を襲撃し、そこから脱出したのだから。
「幸い、状況からして、サツを襲ったのはそのバージョン連中だけのしわざってことにできそうだ。アルエットが“味方”だといいんだがな」
「そのドクター・タツオ・ジュウジョウとやらは、KR団の仲間じゃないんでしょう?」
「……ということにはなってるが、そもそもレイチェルを使役できる立場というだけで怪しいんだがな」
シンディとの戦闘の時、達夫がレイチェルに中止命令を出さなかったのは、レイチェルが達夫に寄り過ぎたと伝助に憤怒され、破壊処分を免れさせる為だった。
レイチェルはレイチェルで、伝助の為にも動いている所を見せる必要があった。
だからレイチェルも、苦しい立場なのだ。
オーナーとユーザーがケンカ別れしているのだから。
「本当にレイチェルって悪いヤツなのかなぁ……」
「俺達を襲ったんだぞ?悪いに決まってるだろうが」
「でもねぇ……」
シンディがレイチェルから奪った情報には、アメリカ・イリノイ州のオレンジスター・シティの事件のこともあった。
それによると、襲われた研究所はデイライト・コーポレーションのライバル企業で、『電子機器メーカーのアンブレラ』と呼ばれるほどに悪名高い企業であった。
事実、研究所では実験で使われた汚水が下水道に垂れ流しになっており、今では合衆国政府から事業停止命令を食らうほどまでになっている。
KR団の指針は、『ロボットは人間の奴隷である』『ロボットが人間に勝ってはいけない』『その為の環境破壊には断固反対であり、神への冒涜である』『これらの指針を守れぬ者は直接神の裁きを受ける義務があり、我等はその代行者である』とのことだ。
元々はキリスト教の一団体だったらしく、その名残で日曜日は一切のテロ活動を行っていない。
鷲田警視や村中課長らのチームがデータを取ってみて分かったことだ。
だから行動するなら、今だということだ。
「日本の神仏は土曜も日曜も関係無いもんねー」
と、敷島は嘯いた。
「月月火水木金金だよ」
「?」
[同日同時刻 東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー 初音ミク]
「朝だ♪夜明けだ♪潮の息吹き〜♪ぐんと吸い込む♪銅色(あかがねいろ)の〜♪」
ミクは何故か軍歌“月月火水木金金”を歌いながら、今日の仕事の準備をしていた。
「なぁに、その歌?」
準備を手伝う事務作業ロイド、一海が不思議そうな顔をした。
「何だかよく分かりませんが、たかおさん……社長がリクエストしたような気がしたんです」
「ええっ?」
尚、戦後になってもザ・ドリフターズが歌っていたもよう。
[同日06:50.西武池袋駅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]
〔「今度の5番ホームに参ります電車は、7時5分発、秩父鉄道線直通の快速急行、三峰口行きと長瀞(ながとろ)行きです。前4両が三峰口行き、後ろ4両が長瀞行きです。途中、横瀬で切り離しを致します。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕
「どっちに乗ればいいの?」
「なるべく荒川の上流に行きたいから、三峰口行きの方だな。先頭車に乗ろう」
ホームには既に行楽客の姿が多く見受けられる。
観光地を持つ鉄道路線の休日ならではの光景だ。
先頭車が来る辺りで電車を待っていると、接近放送が鳴る。
池袋駅に入線してきた電車は、他の通勤電車とは一線を画していた。
周囲の電車が4ドア車なのに対し、その半分の2ドアしか無い。
しかもドア横や連結器付近以外は、4人用の向かい合わせ席が並んでいる。
〔「7時5分発、秩父鉄道線直通、快速急行、三峰口行きと長瀞行きです」〕
「シンディ、アリスの横に座ってくれ」
「ええ」
ボックスシートに向かい合って座る3人。
いつもは立つシンディも、敷島の命令で着席。
「この方が相席になりにくい」
「なるほど」
〔「ご案内致します。この電車は7時5分発、西武秩父線、秩父鉄道線まで参ります快速急行、三峰口行きと長瀞行きです。前4両が三峰口行き、後ろ4両が長瀞行きです。停車駅は石神井公園、ひばりヶ丘、所沢、小手指(こてさし)、入間市、飯能、飯能から先の各駅です。途中の横瀬で切り離しを行います。西武秩父へおいでのお客様、前4両にご乗車ください。後ろ4両は西武秩父駅には参りませんので、ご注意ください。……」〕
窓際にはテーブルがある。
そこに飲み物のペットボトルを置いた。
敷島は途中の売店で買ったおにぎりを、アリスはサンドイッチを食べ始めた。
「三峰口駅に着いたら、シンディに周囲をスキャンさせてみる。達夫博士から、アルエットの個体情報は貰っているからな。それをシンディに読み込ませている」
「これでどこに隠れていても、見つけ出すことができるわ」
シンディは大きく頷いた。
「うん、頼もしい。とにかく、KR団より先に見つけ出す必要がある。奴らの信条からして、今日はテロ活動は行わないはずだが、一応、シンディには警戒してもらう」
「了解」
「じゃ、食べたら寝るから起こしてね」
「お前、俺の話聞いてたか?てか、せっかくの行楽列車なんだから、景色楽しむとかしろよ」
敷島はアメリカ人妻の言動に呆れた。
〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、6時15分発、快速、新宿行きです〕
休日朝の地下ホームで大きな欠伸をする白人女性が1人。
「何だって、こんな朝早くから……」
「しょうがないだろ。池袋発の快速急行が7時過ぎに発車するんだからさ」
敷島は肩を竦めた。
「この朝一の快速で行くとちょうどいいんだ」
〔まもなく20番線に、快速、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
地下ホームに接近放送が鳴り響く。
「着いたら起こして……」
と、敷島の腕を掴むアリス。
「さっきもタクシーの中で寝てなかったか、おい?ブクロ止まりじゃないんだから、ちゃんと起きてくれよ。シンディ、起こす時にちょっとアリスに電流よろしくな?」
「いいんですか?」
「タカオにしてやって」
「了解しましたー!」
「何でだよ!」
〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます。次は、与野本町に止まります〕
平日のこの時間帯なら、既に座席が満席の状態でやってくるが、休日ともなればガラガラだ。
それでも大宮駅で結構な数の乗客が降りてくる。
中にはスーツ姿の男女がいたりするが、この後、東武野田線に乗り換える組だろうか?
〔この電車は埼京線、快速、新宿行きです〕
電車に乗り込む3人。
アリスをドア脇の座席に座らせる。
白い仕切り板に凭れさせて、その分敷島が広く使うつもりだったが、
「俺にかよ!」
その逆隣に座る敷島に寄り掛かるという……。
シンディはその2人の脇、ドアの前に立って微笑ましく見ていた。
〔「この電車は埼京線、快速電車の新宿行きです。次は与野本町に止まります。北与野駅は通過致しますので、ご注意ください。まもなく発車致します」〕
早朝や深夜、住宅街にある駅などは騒音防止の為か、放送や発車メロディの音量を下げているが、地下ホームだと気兼ねないのか、かなりがなり立てている。
〔20番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
電車は時刻通りに発車した。
地下ホームに新型のインバータの音を響かせて、電車が走り出す。
〔この電車は埼京線、快速、新宿行きです。停車駅は与野本町、武蔵浦和、戸田公園、赤羽です。赤羽から先は各駅に止まります。次は、与野本町です。……〕
「ああ、そうそう。8号機のアルエットは、どうして遠くまで移動したの?」
と、アリスが思い出したかのように言った。
「いや、それは俺も知らんよ。直接本人に聞くしかないな」
「アルエットはフランス語で“雲雀”という意味ですから、雲雀を追って行ったのかもしれませんね」
と、シンディが言った。
「んなワケないだろー」
敷島は苦笑いをした。
「荒川の上流……てか源流というか……ま、とにかくその辺りに何かあるかもしれない。KR団の施設とか……」
「だったらレイチェルが知らないなんてことは無いんじゃない?」
「う……」
アルエットがバージョン・シリーズと共に動いているのは確かだ。
千葉の警察署を襲撃し、そこから脱出したのだから。
「幸い、状況からして、サツを襲ったのはそのバージョン連中だけのしわざってことにできそうだ。アルエットが“味方”だといいんだがな」
「そのドクター・タツオ・ジュウジョウとやらは、KR団の仲間じゃないんでしょう?」
「……ということにはなってるが、そもそもレイチェルを使役できる立場というだけで怪しいんだがな」
シンディとの戦闘の時、達夫がレイチェルに中止命令を出さなかったのは、レイチェルが達夫に寄り過ぎたと伝助に憤怒され、破壊処分を免れさせる為だった。
レイチェルはレイチェルで、伝助の為にも動いている所を見せる必要があった。
だからレイチェルも、苦しい立場なのだ。
オーナーとユーザーがケンカ別れしているのだから。
「本当にレイチェルって悪いヤツなのかなぁ……」
「俺達を襲ったんだぞ?悪いに決まってるだろうが」
「でもねぇ……」
シンディがレイチェルから奪った情報には、アメリカ・イリノイ州のオレンジスター・シティの事件のこともあった。
それによると、襲われた研究所はデイライト・コーポレーションのライバル企業で、『電子機器メーカーのアンブレラ』と呼ばれるほどに悪名高い企業であった。
事実、研究所では実験で使われた汚水が下水道に垂れ流しになっており、今では合衆国政府から事業停止命令を食らうほどまでになっている。
KR団の指針は、『ロボットは人間の奴隷である』『ロボットが人間に勝ってはいけない』『その為の環境破壊には断固反対であり、神への冒涜である』『これらの指針を守れぬ者は直接神の裁きを受ける義務があり、我等はその代行者である』とのことだ。
元々はキリスト教の一団体だったらしく、その名残で日曜日は一切のテロ活動を行っていない。
鷲田警視や村中課長らのチームがデータを取ってみて分かったことだ。
だから行動するなら、今だということだ。
「日本の神仏は土曜も日曜も関係無いもんねー」
と、敷島は嘯いた。
「月月火水木金金だよ」
「?」
[同日同時刻 東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー 初音ミク]
「朝だ♪夜明けだ♪潮の息吹き〜♪ぐんと吸い込む♪銅色(あかがねいろ)の〜♪」
ミクは何故か軍歌“月月火水木金金”を歌いながら、今日の仕事の準備をしていた。
「なぁに、その歌?」
準備を手伝う事務作業ロイド、一海が不思議そうな顔をした。
「何だかよく分かりませんが、たかおさん……社長がリクエストしたような気がしたんです」
「ええっ?」
尚、戦後になってもザ・ドリフターズが歌っていたもよう。
[同日06:50.西武池袋駅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]
〔「今度の5番ホームに参ります電車は、7時5分発、秩父鉄道線直通の快速急行、三峰口行きと長瀞(ながとろ)行きです。前4両が三峰口行き、後ろ4両が長瀞行きです。途中、横瀬で切り離しを致します。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕
「どっちに乗ればいいの?」
「なるべく荒川の上流に行きたいから、三峰口行きの方だな。先頭車に乗ろう」
ホームには既に行楽客の姿が多く見受けられる。
観光地を持つ鉄道路線の休日ならではの光景だ。
先頭車が来る辺りで電車を待っていると、接近放送が鳴る。
池袋駅に入線してきた電車は、他の通勤電車とは一線を画していた。
周囲の電車が4ドア車なのに対し、その半分の2ドアしか無い。
しかもドア横や連結器付近以外は、4人用の向かい合わせ席が並んでいる。
〔「7時5分発、秩父鉄道線直通、快速急行、三峰口行きと長瀞行きです」〕
「シンディ、アリスの横に座ってくれ」
「ええ」
ボックスシートに向かい合って座る3人。
いつもは立つシンディも、敷島の命令で着席。
「この方が相席になりにくい」
「なるほど」
〔「ご案内致します。この電車は7時5分発、西武秩父線、秩父鉄道線まで参ります快速急行、三峰口行きと長瀞行きです。前4両が三峰口行き、後ろ4両が長瀞行きです。停車駅は石神井公園、ひばりヶ丘、所沢、小手指(こてさし)、入間市、飯能、飯能から先の各駅です。途中の横瀬で切り離しを行います。西武秩父へおいでのお客様、前4両にご乗車ください。後ろ4両は西武秩父駅には参りませんので、ご注意ください。……」〕
窓際にはテーブルがある。
そこに飲み物のペットボトルを置いた。
敷島は途中の売店で買ったおにぎりを、アリスはサンドイッチを食べ始めた。
「三峰口駅に着いたら、シンディに周囲をスキャンさせてみる。達夫博士から、アルエットの個体情報は貰っているからな。それをシンディに読み込ませている」
「これでどこに隠れていても、見つけ出すことができるわ」
シンディは大きく頷いた。
「うん、頼もしい。とにかく、KR団より先に見つけ出す必要がある。奴らの信条からして、今日はテロ活動は行わないはずだが、一応、シンディには警戒してもらう」
「了解」
「じゃ、食べたら寝るから起こしてね」
「お前、俺の話聞いてたか?てか、せっかくの行楽列車なんだから、景色楽しむとかしろよ」
敷島はアメリカ人妻の言動に呆れた。