報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「藤野の葛藤」

2015-07-24 22:00:57 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月18日18:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町)十条達夫の家 十条達夫&レイチェル]

「はい、ご飯できたよ〜」
 レイチェルは食卓の上に食事を並べた。
「お年寄りだからといって、少食ではダメだからね。あなたは数少ない、ロボット工学の世界的権威なんだから」
「う、うむ……。老兵は死なず……とはいうが、正しくそれでな。ワシはもう隠居して、若い学者達に任せるつもりなのじゃ」
「そんなこと言わないで。材料さえあれば数日でメイドロボットが作れて、マルチタイプも1ヶ月足らずで作れるなんて、若い博士じゃムリだわ」
 レイチェルは達夫にビールを注ぎながら言った。
「……明日、私は伝助博士の命令を優先させられる。それが何を意味してるか、分かるよね?」
「本当に兄貴は、ワシを……」
「ええ。私に間違い無くそう命令している。分かるでしょ?そこのメイドロボットと同様、マルチタイプだってオーナーやユーザーの命令は大事なの。私は設定で、明日は絶対に伝助博士の命令を聞くようにされている。だからお願い。夕食を食べたら、どこか遠くへ逃げて」
「……あいにくじゃが、それはできぬ相談じゃよ」
「どうして!?」
「ワシはアルエットの帰りを待つ義務がある。製作者としてな」
「そんなの……アルエットに連絡すればいいじゃない!」
「それはダメじゃ。お前のことじゃから、その通信記録を傍受するじゃろう。そして明日、伝助のロボットと化したお前は、それを元にアルエットを捜し当てるじゃろう。伝助のことじゃ。ワシへの処刑より、アルエットの確保を優先するのではないかね?」
「……そうかもしれない。恐らく、姉さんとはまたガチバトルになると思うけど……」
「学者として、予想されるその事態が起こるのを、黙って見てはおれんよ。予想されるのなら、何としてでも回避する。その為には、ワシのこの命など惜しくないわい」
「じゃあ、せめてもう1つの伝助博士の条件を飲んでくれる?それで何とか宥めるから」
「……あいにくと、日寛上人の御本尊はここには無いよ」
「は!?どこへやったの!?」
「トップ・シークレットじゃ。恐らく明日、謗法の者共の手に渡るくらいなら、御本尊だけでも避難してもらうわい」
「あなたの所属寺院は!?」
「……教えられんの」
「わ、私はきっと明日……命令次第では、お寺を焼き払うことになる。それでもいいの?」
「それはちと困るのぅ……。学者の兄弟ゲンカに、御宗門を巻き込むのは心苦しい」
「だったら!あんな小さい掛け軸、あなたの命と比べたら……」
「御本尊を命に代えても守り抜く。これが、下附を許された者に与えられた使命じゃよ」
「……私に1つ、命令して欲しいんだけど」
「何かね?」
「『人けの無い所で舌を噛み切れ』って……」
「お前が自爆する気か」
 マルチタイプなどの人間型ロイドの場合、舌を噛み切ると自爆装置プログラムが作動する仕組みになっている。
「学者として、ロイドを自爆させるわけにもいかんの」
「どうして……!分からない……!」
「お前が人間のことを理解した時……いや、恐らく理解できぬまま、ロイドとしての一生を終えることになるじゃろう。……お前が作った最後の晩餐、美味しく頂くことにするぞ」

 レイチェルは最後立ち去る時、日付が変わる前に、どこか遠くへ避難するよう、再度申し出た。
 できれば、シンディかエミリーの所に行くのが良いと。
 さすがのレイチェルも同型機相手では苦戦を強いられるし、同型機であっても白兵戦を得意とする長姉のエミリーと取っ組み合って勝てる気がしない。
 彼女らの保護を受けると良い、と。
 だが、達夫はそれをやんわりと断ったのである。

[同日同時刻 宮城県仙台市青葉区・台原森林公園 鏡音リン・レン]

 公園内の野外音楽堂における初日のミニライブが終わる。
「みんなーっ!どうもありがとーっ!」
「ありがとうございまーす!」
 リンとレンは最後の歌を歌い終えると、観客に向かって大きく手を振った。
「リンとレンはこれからも精一杯がんばりまーす!だからぁ、これからも応援よろしくねー!」
「よろしくお願いしまーす!」
 MCも入るのがライブの醍醐味。
「因みに因みにィ、明日は誰が来るんだっけー?」
「確かKAITOだよ」
「聞いた?明日はうちのイケメン担当、KAITOっとが単独ライブをやってくれるよーっ!」
「ボク達とは違う雰囲気です。明日も是非来て、KAITOの歌を聴いてあげてください」
「みんなーっ!よぉろしくねーっ!!」
 リンとレンはMCを終えると、ステージ裏に引っ込んだ。
「お疲れさん、2人とも」
「社長!」
「ねぇねぇ!リン達のライブどうだった!?」
「凄く良かった。ライブ自体は無料だが、お客さんも盛り上がってたし、関連グッズの売り上げ、大きく期待できるな」
「お役に立てて何よりです」
 レン自身も嬉しそうに笑うと、ペコリと頭を下げた。
「リン達、明日はどうするの?」
「明日は都内で仕事だろ?取りあえず、今日の新幹線で帰ってくれよ。もちろん、キップは用意する」
「はーい」

[同日18:30.仙台市科学館 敷島、リン・レン、平賀太一、シンディ、エミリー、アルエット]

 とっくに閉館時間になり、人けの無い館内。
 そんな中、バックヤードエリアにある会議室では、平賀がエミリー達の整備をしていた。
「お疲れさまです、平賀先生」
「あ、どうも、敷島さん。ライブ、盛り上がったみたいですね」
「リンとレンが優秀なんですよ」
「えへへへ……」
 敷島が2人の頭をポンポンやりながら答えると、リンは嬉しそうに笑った。
「エミリーとシンディはどうです?」
「こちらも、まあまあですね。特に、不具合は見受けられません。オイル交換とラジエーターの調整、それにバッテリーの充電だけでOKです。もしお時間があったら、リンとレンも診ますよ?」
「いいんですか?」
「自分は構いません」
「じゃ、お言葉に甘えて。良かったな、お前達?」
「平賀博士に整備されるんなら安心だねー」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「じゃあ、まずはリンから。そこに横になってくれ」
「はーい!」

 その時、窓の外で水の音がした。
「あれ?いきなり雨が降って来た?」
「そういやさっきから、大雨、雷注意報が出てるんだよねぇ……」
 と、シンディが嫌そうな顔で答えた。
「今夜もゲリラ豪雨に注意ってあるけど、ズバリ当たったわね」
「マジか……」
「リン、雷イヤ……!」
 リンは頭を抱えて、突っ伏してしまった。
「まあ、建物の中にいれば落雷して感電なんてことは無いさ」
 と敷島が言うと、平賀も同調した。
「その通り。レンの整備が終わる頃には、雨も雷も止んでるさ」
「そ、そう?」
「最悪、新幹線が落雷で停電するくらいだ」
「平賀先生、さらっと縁起でも無いこと言わないでくださいよ!こいつら明日、都内で仕事なんだから!」
「申し訳ありません(笑)」
 とまあ、仙台では比較的平和な時間が流れていた。


 明日もその見込である。
 しかし、他の場所では分からない。
コメント (2)
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“新アンドロイドマスター” 「同型機であっても、使用者によって用途が異なる件」

2015-07-24 02:26:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月17日09:00.天候:曇 神奈川県相模原市緑区・十条達夫の家 十条達夫&アルエット]

 アルエットは仙台への出発前、当然ながらその準備をしていた。
「予備のバッテリーだけで、結構大きい荷物になるんだね」
 最新型のモデルだが、使用するバッテリー自体は旧型のシンディと変わらない。
「お嬢様……」
「……って、ダニさん!?いつからそこへ!?」
 部屋の入り口に、いつの間にかメイドロボットのダニエラが立っていた。
「……博士がお呼びです」
「う、うん。今行く」
 アルエットが立ち上がってダニエラについて行くと、向かった先は和室。
「ここって、仏間じゃ……?」
「博士。お嬢様をお連れしました」
「うむ。お前は下がって良い」
 ダニエラはペコリと頭を下げると、和室を出て行った。
「あの、何のご用ですか?」
 達夫は仏壇を背にしていた。
 その厨子は閉められている。
 一旦、達夫の向かいに正座したアルエットだったが、
「左足を出しなさい」
 という指示を受け、アルエットは左足を伸ばした。
 マルチタイプは両足に小物を収納できるスペースがある。
 そこに何か入れるのだと察知し、靴下も一緒に脱ぐ。
 達夫が取り出したのは、一本の巻物。
 大きさはそんなでもない。
 パカッと左足の脛にそれを入れて、すぐに閉めた。
「博士、これは……?」
「ワシのとても大事な物を、お前に託す。いいか?ここに帰ってくるまで、取り出すでないぞ?分かったな?」
「は、はい。分かりました」

[7月18日09:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区・仙台市科学館 エミリー、シンディ、アルエット、敷島孝夫]

 前日の打ち合わせではそのままの格好で来たマルチタイプ達だったが、今日からはバドガールの衣装を着ていた。
「あ、あの……社長さん、この格好って……」
 初めて着る衣装に戸惑うアルット。
「いかに人間に近い所まで作られたかを、来館者の皆さんに見てもらう為だ。これも任務の1つだよ」
「そ、そうですか……」
 エミリーやシンディは露出の高い衣装を以前も着たことがあるせいか、特に気にする様子は無い。
「じゃあ、取りあえずロケット・アームでも出してみる?」
「そうしよう。アルエット、その・ボールを・シンディに・投げて」
「は、はい」
 アルエットはステージの上に置かれたボールを拾い上げると、シンディに投げ渡した。
「よっと」
 それをトスし、シンディはエミリーの頭上に高くボールを上げた。
 尚、イベント会場は吹き抜けの部分である。
「ロケット・アーム!」
 エミリーは左手を上げると、有線ロケットパンチで左手首を切り離した。
 上階まで上がったボールをそれで掴む。
「こんなこともできますよー」
 シンディもまた上階の手すりに左手を送り、そのまま体ごと浮き上がる。
 以前、レイチェルと戦った時に戦法として行った技だ。
「うん。掴みはOKだな」
 敷島は会場隅で様子を見ながら頷いていた。

 その後は会場の外で力技を見せたり……。
「このように、トラックも簡単に動かせます。それどころか、持ち上げることもできます」
 最初は見ていただけの敷島だったが、会場が外になった際に臨時で司会を務めたりした。
「えー、敷島エージェンシーでございます。ボーカロイド専門の芸能プロダクションです」
 要所要所で名刺配りをするところが、何とも……。
「敷島さん、マルチタイプのイベントは、あくまで学会の主催なんですから……」
 と、後で平賀に注意されたという。
「あくまでシンディは、敷島さんの秘書兼護衛という表向きの用途なんですからね」
 とも。
 一応イベント用パンフレットなどには、協賛企業として敷島エージェンシーの名前があるのだが、表示の小ささにいささか不満があったようだ。

[同日12:00.十条達夫の家 十条達夫&レイチェル]

「あら?せっかく今日はお昼ご飯作りに来てあげたのに、もうメイドを作ったのね」
 昼食の用意をしているダニエラの姿を見て、レイチェルは不思議そうな顔をした。
「いつ来るかも分からんオマエに、食事の支度など期待しておらんわい。それより、今日は何の用じゃ?」
「今日はあなたの側に就く日じゃない。何か困ったことは無い?話し相手なら私がするよ?あれ?アルエットは?」
「それは言えんな。今日はワシに友好的でも、明日は敵対するような輩にベラベラ喋れんよ」
「そう」
 因みに家の外では、レイチェルが連れて来たバージョン4.0の集団が家の周りを取り囲んでいた。
「ところで、あなたはお出かけしないの?」
「何じゃと?」
「今日じゃなくて明日ね。今日は蒸し暑いけど、明日はカラッと晴れてお出かけ日和みたいよ?」
「まるで、ワシに家を出て欲しいみたい感じじゃな。じゃが、アルエットの帰りを待つ以上、家を空けるわけにはいかんでな」
「ということは、明日帰ってくる?」
「さあな」
「……ん?」
 その時、レイチェルが何かに反応した。
「な、何じゃ?」
「これは……久しぶりね。エミリー姉さんの反応だわ」
「なにっ、エミリーが?」
「私の居場所をGPSで捜してるみたいね。……そんな姉さんは仙台か」
「南里先生が仙台市内に研究所と住居を構えたということは、兄貴からも聞いておるじゃろう?」
「知ってるわ。亡き後、弟子の平賀教授に引き継がれたんでしょう?」
「そうじゃ。そこまで知っておるのなら、エミリーについては隠し立てする必要は無いし、しても無意味じゃな」
「そうね。後でエミリー姉さんにも、挨拶してこなきゃね。……ふふん、なるほどー。てことは、アルエットもそうする可能性が大ってわけね」
「む!?」
「どうやら図星のようね。で、1人で行かせるのは不安だから、シンディ姉さんも一緒に行ってるって?」
「余計な詮索はやめい!」
「はいはい。分かりましたー。……ちょうど、食事もできたようね。食べ終わったら、肩でも揉んであげましょうか」
「……兄貴にも、そのようにしておるのかね?」
「その通りよ。大丈夫大丈夫。力加減はちゃんとあなたのお望み通りにするし、エミリー姉さんも生前の南里博士に似たようなことしていたって話じゃない?」
「う、うむ……」

 確かに今日のレイチェルは友好的だった。
 傍から見れば、祖父孝行をしている孫娘のように見えたかもしれない。
 だが、日付が変われば、この友好的なガイノイドも、豹変する。
コメント (7)
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