[7月17日19:30.仙台市地下鉄南北線・仙台駅→ホテル法華クラブ仙台 敷島孝夫、シンディ、アルエット、鏡音リン・レン]
帰宅ラッシュで賑わう杜の都の地下鉄。
但し、混雑具合は東京メトロや都営地下鉄ほどではない。
それがホームに滑り込む。
〔仙台、仙台。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕
敷島は席を立った。
「うーん……」
何やら考え事をしている。
ドアが開いて、多くの乗客達と共に電車を降りた。
〔仙台、仙台。JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
「社長さん、考え事?」
エスカレーターで改札口に向かう途中、敷島のすぐ後ろに立つアルエットが、更に後ろに立つシンディの方を振り向いて聞いた。
「経営者は色々な事を考えて大変なのよ。こういう時は、話し掛けない方がいいね」
と、シンディは“人生の先輩”としてアルエットに教えた。
だが、敷島が考えていることは、
(最終日、何も無かったら、ちょっとだけ遊んでから帰るか。シンディは……バッテリー抜いときゃ、おとなしくしてるだろう)
「あれ?姉さんから通信リンクだ。……どうしたの、姉さん?」
シンディの通信機にエミリーから着信があった。
{「ドクター・アリスから・命令が・来ている。確認・しなさい」}
「えっ、マジでー?地下深い所にいたから、圏外だったかな?で、何だって?」
{「敷島さんが・良からぬことを・企んでいたら・私も・協力せよとの・ことだ」}
「それ、アタシの仕事だよ?」
{「ドクター・アリスの・ことだ。何か・深い・意味が・あると・思われる」}
「そーかなー?だいたい、姉さんが従う必要は無いよ。あなたのオーナーはドクター平賀夫妻だし、ユーザーはうちの社長だからね」
{「それは・そうだが」}
「ま、社長の浮気はアタシが全力で阻止するから安心してって言っといて」
{「了解・だ」}
エミリーとの通信リンクが切れる。
もちろん、このやり取りはアルエットも聞いていた。
「何の話?」
「社長の奥様がね、社長が真面目にお仕事するよう見張っといてだって。(さすがに浮気を阻止しろとは言えない……)」
「ふーん……」
そうこうしているうちに地上に出る。
「只今の気温28度だって。仙台も蒸し暑いねぇ。社長、熱中症で倒れないでよ」
と、シンディが言った。
「熱中症?」
アルエットが首を傾げた。
「人間のオーバーヒートのことよ」
シンディが従妹に説明した。
「わたしのラジエーター水で良かったら余ってますから」
「いや、大丈夫だ。ホテルの自販機に人間用のラジエーター水(スポーツドリンク)が売られてたはずだ」
「さすが社長。ロイドのボケに、ロボットネタで返すとはね」
と、シンディ。
「こう見えても、ミクをトップスターにプロデュースしたからな。あいつも稼働当初は、メイドロボット以上のボケをかましていたものだ」
「あまりのボケぶりに、姉さんが危うく暴走し掛かったんだってね。もっとも、姉さんがクソ真面目過ぎるだけなんだけど。アタシくらい頭が柔らかくないとねー」
(ロイドとして、頭が柔らかすぎるのもどうかと思う)
と、敷島は喉元まで出かかったが、一応黙っておいた。
「うっ……」
シンディが一瞬、頭をフラつかせる。
「どうした!?」
「あ、いや。今、注意報を3つ一気に受信したものだから、ちょっと処理が重くなっただけ」
「何の?」
「仙台東部に大雨、雷、強風注意報が発令されました」
と、アルエット。
「マジかよ?この蒸し蒸し感はそのせいか」
「ゲリラ豪雨に注意って所だね。雨風はどうでもいいけど、落雷はさすがにカンベンだよ」
南里研究所時代、エミリーが落雷に遭ったことがある。
色々と不具合が出たのだが、敷島が受難だったのは、エミリーに敵と見なされて追い回されたことだ。
追い詰められた敷島だったが、最後の最後でやっと自動復旧した上、バッテリーが切れたのが幸運だった。
「アタシも落雷に遭ったら、社長を蜂の巣にしちゃうかもね。そうならないうちに、早くホテルに戻らないと」
「そういやエミリーが暴走した時、あいつ、ロケットアームくらいしか使って来なかったなー」
「あんまり姉さんは、銃火器を使いたがらないのよ。平賀博士がハンドガン程度だけにしたのは正解だよ」
「そうだな」
ホテルに入る直前、一陣の風が敷島達の間を吹き抜けていった。
「こりゃマジでゲリラ豪雨上等かもな」
アルエットやシンディのスカートが一瞬捲れ上がったりしたが、正体を知っている敷島には何の旨味も感じられない。
「俺は部屋に戻ったら、夕飯食って来るよ」
「アタシも同行するからね」
「ホテルのレストランにしておくよ。それなら問題無いだろ?」
「アリス博士の命令で、社長から目を放しちゃいけないって言われてるものでね。アリス博士はアタシのオーナー。オーナーの命令は絶対」
「……分かったよ。但し、バッテリーを交換してからだ。やっぱり旧型だと、バッテリーの減りが早いな」
旧型マルチタイプは正・副・予備の3つのバッテリーを持っている。
それもまた彼女らの重量化の原因である。
新型のアルエットは、バッテリーを2つだけ搭載とのことだ。
それでいて消耗が旧型よりも遅い。
実はバッテリー以外の燃料と併用とのことだが、それは公表されていない。
平賀の見立てでは、バージョン・シリーズと同じくガスではないかとのことだ。
バージョン・シリーズがLPガスとバッテリー併用なのに対し、アルエットはCNGの可能性が高いとのこと。
[同日20:00.同ホテル・客室 鏡音リン、レン、アルエット]
「……願ぁいを書ぁいた羊皮紙を♪小瓶に入ーれーてー♪海に流ぁせばいつの日か♪願いが叶うでしょう♪」
リンが部屋で自分の持ち歌の1曲を披露する。
ホテルの中なので、音量は低めにして。
レンが時々ハモりパートを歌う。
「天使の歌声だね……」
アルエットが双子の歌に聴き惚れていた。
歌い終わった後で、
「1時間で全部歌えるカナ?」
「いや、無理っしょー!」
と、そんな話をする。
「一応、社長やファンからのリクエスト数から選曲するしかないねー」
「……だね」
と、窓の外で閃光弾が爆発したかのような光が室内に降り注いだ。
「うわっ、ビックリしたー」
「ゲリラ豪雨ね。……今、仙台東部で大雨・雷注意報が警報に変わったわ。強風注意報は継続で、洪水注意報も発令されたから気をつけないとね」
「……だってさ、リン。……リン?」
リンはベッドに潜り込んだ。
「雷怖いよォ……!リン、壊れちゃうよォ……」
「建物の中にいれば大丈夫だと思いますけど……」
「そうだよ、リン。今日はもう休もう。充電もまだだしさ」
「あっ、シャワー使います?」
するとリンが布団から顔を出して、
「アルるん、一緒に入ってくれる?」
「……えっ?いいですけど……」
「というわけでレン、30分くらい出てて。リン達、スッポンポンになるからー」
「はいはい。出たら教えてね」
レンはそう言って、部屋を出た。
(社長の所にでも行ってようかなー)
窓の外は、バケツをひっくり返したような雨が降っている。
逆を言えば、今降ってくれた方が明日の朝は晴れている可能性が高いということだ。
帰宅ラッシュで賑わう杜の都の地下鉄。
但し、混雑具合は東京メトロや都営地下鉄ほどではない。
それがホームに滑り込む。
〔仙台、仙台。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕
敷島は席を立った。
「うーん……」
何やら考え事をしている。
ドアが開いて、多くの乗客達と共に電車を降りた。
〔仙台、仙台。JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕
「社長さん、考え事?」
エスカレーターで改札口に向かう途中、敷島のすぐ後ろに立つアルエットが、更に後ろに立つシンディの方を振り向いて聞いた。
「経営者は色々な事を考えて大変なのよ。こういう時は、話し掛けない方がいいね」
と、シンディは“人生の先輩”としてアルエットに教えた。
だが、敷島が考えていることは、
(最終日、何も無かったら、ちょっとだけ遊んでから帰るか。シンディは……バッテリー抜いときゃ、おとなしくしてるだろう)
「あれ?姉さんから通信リンクだ。……どうしたの、姉さん?」
シンディの通信機にエミリーから着信があった。
{「ドクター・アリスから・命令が・来ている。確認・しなさい」}
「えっ、マジでー?地下深い所にいたから、圏外だったかな?で、何だって?」
{「敷島さんが・良からぬことを・企んでいたら・私も・協力せよとの・ことだ」}
「それ、アタシの仕事だよ?」
{「ドクター・アリスの・ことだ。何か・深い・意味が・あると・思われる」}
「そーかなー?だいたい、姉さんが従う必要は無いよ。あなたのオーナーはドクター平賀夫妻だし、ユーザーはうちの社長だからね」
{「それは・そうだが」}
「ま、社長の浮気はアタシが全力で阻止するから安心してって言っといて」
{「了解・だ」}
エミリーとの通信リンクが切れる。
もちろん、このやり取りはアルエットも聞いていた。
「何の話?」
「社長の奥様がね、社長が真面目にお仕事するよう見張っといてだって。(さすがに浮気を阻止しろとは言えない……)」
「ふーん……」
そうこうしているうちに地上に出る。
「只今の気温28度だって。仙台も蒸し暑いねぇ。社長、熱中症で倒れないでよ」
と、シンディが言った。
「熱中症?」
アルエットが首を傾げた。
「人間のオーバーヒートのことよ」
シンディが従妹に説明した。
「わたしのラジエーター水で良かったら余ってますから」
「いや、大丈夫だ。ホテルの自販機に人間用のラジエーター水(スポーツドリンク)が売られてたはずだ」
「さすが社長。ロイドのボケに、ロボットネタで返すとはね」
と、シンディ。
「こう見えても、ミクをトップスターにプロデュースしたからな。あいつも稼働当初は、メイドロボット以上のボケをかましていたものだ」
「あまりのボケぶりに、姉さんが危うく暴走し掛かったんだってね。もっとも、姉さんがクソ真面目過ぎるだけなんだけど。アタシくらい頭が柔らかくないとねー」
(ロイドとして、頭が柔らかすぎるのもどうかと思う)
と、敷島は喉元まで出かかったが、一応黙っておいた。
「うっ……」
シンディが一瞬、頭をフラつかせる。
「どうした!?」
「あ、いや。今、注意報を3つ一気に受信したものだから、ちょっと処理が重くなっただけ」
「何の?」
「仙台東部に大雨、雷、強風注意報が発令されました」
と、アルエット。
「マジかよ?この蒸し蒸し感はそのせいか」
「ゲリラ豪雨に注意って所だね。雨風はどうでもいいけど、落雷はさすがにカンベンだよ」
南里研究所時代、エミリーが落雷に遭ったことがある。
色々と不具合が出たのだが、敷島が受難だったのは、エミリーに敵と見なされて追い回されたことだ。
追い詰められた敷島だったが、最後の最後でやっと自動復旧した上、バッテリーが切れたのが幸運だった。
「アタシも落雷に遭ったら、社長を蜂の巣にしちゃうかもね。そうならないうちに、早くホテルに戻らないと」
「そういやエミリーが暴走した時、あいつ、ロケットアームくらいしか使って来なかったなー」
「あんまり姉さんは、銃火器を使いたがらないのよ。平賀博士がハンドガン程度だけにしたのは正解だよ」
「そうだな」
ホテルに入る直前、一陣の風が敷島達の間を吹き抜けていった。
「こりゃマジでゲリラ豪雨上等かもな」
アルエットやシンディのスカートが一瞬捲れ上がったりしたが、正体を知っている敷島には何の旨味も感じられない。
「俺は部屋に戻ったら、夕飯食って来るよ」
「アタシも同行するからね」
「ホテルのレストランにしておくよ。それなら問題無いだろ?」
「アリス博士の命令で、社長から目を放しちゃいけないって言われてるものでね。アリス博士はアタシのオーナー。オーナーの命令は絶対」
「……分かったよ。但し、バッテリーを交換してからだ。やっぱり旧型だと、バッテリーの減りが早いな」
旧型マルチタイプは正・副・予備の3つのバッテリーを持っている。
それもまた彼女らの重量化の原因である。
新型のアルエットは、バッテリーを2つだけ搭載とのことだ。
それでいて消耗が旧型よりも遅い。
実はバッテリー以外の燃料と併用とのことだが、それは公表されていない。
平賀の見立てでは、バージョン・シリーズと同じくガスではないかとのことだ。
バージョン・シリーズがLPガスとバッテリー併用なのに対し、アルエットはCNGの可能性が高いとのこと。
[同日20:00.同ホテル・客室 鏡音リン、レン、アルエット]
「……願ぁいを書ぁいた羊皮紙を♪小瓶に入ーれーてー♪海に流ぁせばいつの日か♪願いが叶うでしょう♪」
リンが部屋で自分の持ち歌の1曲を披露する。
ホテルの中なので、音量は低めにして。
レンが時々ハモりパートを歌う。
「天使の歌声だね……」
アルエットが双子の歌に聴き惚れていた。
歌い終わった後で、
「1時間で全部歌えるカナ?」
「いや、無理っしょー!」
と、そんな話をする。
「一応、社長やファンからのリクエスト数から選曲するしかないねー」
「……だね」
と、窓の外で閃光弾が爆発したかのような光が室内に降り注いだ。
「うわっ、ビックリしたー」
「ゲリラ豪雨ね。……今、仙台東部で大雨・雷注意報が警報に変わったわ。強風注意報は継続で、洪水注意報も発令されたから気をつけないとね」
「……だってさ、リン。……リン?」
リンはベッドに潜り込んだ。
「雷怖いよォ……!リン、壊れちゃうよォ……」
「建物の中にいれば大丈夫だと思いますけど……」
「そうだよ、リン。今日はもう休もう。充電もまだだしさ」
「あっ、シャワー使います?」
するとリンが布団から顔を出して、
「アルるん、一緒に入ってくれる?」
「……えっ?いいですけど……」
「というわけでレン、30分くらい出てて。リン達、スッポンポンになるからー」
「はいはい。出たら教えてね」
レンはそう言って、部屋を出た。
(社長の所にでも行ってようかなー)
窓の外は、バケツをひっくり返したような雨が降っている。
逆を言えば、今降ってくれた方が明日の朝は晴れている可能性が高いということだ。