報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「昼食会の前に」

2015-07-10 14:56:48 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日10:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫]

 シンディからの電話が繋がらなかったのは、その時、本当に達夫が電話していたからであった。
「……あいよ。ワシゃまだ生きとるよ。……ああ。いっそのこと、さっさとボケた方が楽じゃろうに、相変わらず頭も冴えたままじゃ。そういうお前の方が大丈夫か?いや、ワシの所に送られて来ても困るんじゃがな。……まあ、ちょうど来客もある予定じゃからいいようなものの……。いや、伝助とは相変わらずじゃよ。……ああ。悪いが、どっちか先にくたばらんと済まんようじゃ。……じゃあ、そういうことで」
 達夫は電話を切った。
 相手は誰からなのだろうか?
「ワシと敷島夫妻の3人じゃから、ちょうど良かったわい」
 達夫はそう呟いて、テーブルの上に置かれたクール宅急便を見た。
 そしてそれを手に、冷蔵庫にしまったのだった。
「ふむ……」
 そして、今度はまた別の場所に電話する。
「ああ、レイチェルか?頼みがあるんじゃが、兄貴からの命令を少し先延ばしにできんかの?」
{「達夫博士。申し訳ありませんが、スケジュールにより、只今は伝助博士の命令が優先になっております。用事は、その後でお申し付けください」}
 そう言われて、通信を切られた。
「……伝助のヤツ、変な設定をしおったな……」
 そして、今度は敷島に電話したのだった。
{「はい、シンディです」}
「む?シンディか?敷島君はどうした?」
{「社長は只今運転中ですので、私が代わりに」}
「そうか。アルエットをこちらに送ってくれる御礼に、キミ達を歓迎する準備をしておる。ただ、その前に、どうやらレイチェルが妨害しそうじゃ」
{「レイチェルが?」}
「どうも兄貴のヤツ、レイチェルに変な設定したらしい。ただ、なるべくお前は戦わないでもらいたいのじゃがな」
{「どうしてですか!?」}
「……いや、何でも無い。なるべくなら、レイチェルと鉢合わせにならんことを祈るよ。じゃ、気をつけて」
 電話を切る達夫。
「兄貴のヤツ、仕掛けおったか……!兄貴の望みは……」

[同日12:15.天候:晴 同場所・十条達夫宅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ、アルエット、十条達夫]

「……おい。フツーに着いたぞ。レイチェルはどこだ?」
「……近くに何の反応も無いわ」
 何の戦いも無く到着できた敷島達。
「全く。すぐ大げさなことを言うのは、老人ボケの始まりだぜ」
 敷島は車から降りた。
「アルエット。今日からここがあなたの家よ」
 シンディがアルエットを車から降ろした。
「ここが……」
「アリスも起きろ!着いたぞ!」
「Oh...」
「中でレイチェル達が待ち構えていたりしてな?」
「だから、何の反応も無いって。あるのは……ん?何かのロボット?」
 玄関に行くと、
「イラッシャイマセ!」
 と、出迎えたのは……バージョン4.0!
「社長達、下がって!貴様、やはり待ち伏せか!」
 シンディは右手をマシンガンに変形させた。
「ワーッ!待ッテクダサイ!敵デハアリマセン!」
「ウソつけ!だったら、ドクター達夫を出しな!あ?もしかして、死体になっているとか言うんじゃないだろうな?」
 シンディがギロッと4.0を睨みつける。
 が、奥から、
「おー、スマンのー!歳取ってるとトイレが近くてのー!」
 と、達夫がやってきた。
「達夫博士!こ、このバージョンは?」
「先日、レイチェル達がやってきた際に故障で動かなくなったものを確保して、ワシ風に改造したものじゃ。さすがにリカルドの代わりがおらんと、老体が1人で生活するにはキツくての。4.0のカスタムということで、ワシは勝手に4.0Cとしているが……」
「……ここに来るまでに、全く敵とは会わなかったものでね」
「そうか。ワシの祈りが通じたかの?」
「科学者が占いとは、何とも……」
「占いではないぞい」
「科学的見地ってヤツですか。それより、連れて来ましたよ。あなたの渾身の傑作、8号機のアルエットです」
「おおっ!アルエット!」
 アルエットは、すぐに自分のカメラ(目)に映る老人の姿をスキャンした。
「達夫博士!」
 アルエットも達夫に駆け寄る。
「感動の御対面が終わったら、すぐにDCC(デイライト・コーポレーション・カンパニー)からのライセンス契約の話を……」
 敷島は既に後ろ手で、電卓のテンキーを叩くような感じになっていた。
 秩父営業所の所長とどういった話をしたのかは定かではないが、恐らく敷島自身も儲かる流れに持って行ったのだろう。
「それでその、達夫博士。御礼の件ですが……」
「おお、そうじゃった。実はの、ワシの妹から贈り物が届いての。それが食べ物なんじゃが、ワシ1人で食い切れないので、ちょうどお昼時じゃし、キミ達も一緒にどうかね?」
「いや、あの……デイライト・コーポレーションの……」
「食べ物って何?」
 敷島がツッコミを入れようとすると、アリスが横から口を挟んだ。
「妹は東北の畜産農家に嫁いでおるんじゃが、そこから牛肉が送られてくるんじゃ」
「え?」
 冷蔵庫の中から出て来たのは、米沢牛が500グラムはあった。
「よ、米沢牛?あの日本四大和牛の1つ……。科学者兄妹とは限らないのね」
 敷島は呆れたが、
「ちょうど3人おるし、これからこいつをすき焼きにでもして食わんか?」
「ええっ?いいの!?」
 アリスは涎が出んばかりの顔になった。
「その前に、まず商談をだな……」
「アリス博士、ダメですよ」
「えっ?」
 珍しくシンディが止める。
「ドクター達夫。私達はアルエットをお届けに参っただけです。残飯処理なら他を当たって頂けませんこと?」
「やめなさい、シンディ!」
「ですが、ドクター。ここは言っておきませんと。まるで、何か頼み事があれば、ドクターや社長が食べ物で釣れるという誤解を招き……」
「いいから、シンディ!」
 敷島もシンディを黙らせる。
「いいか?これは助け合いだ。孤独な爺さんのメシにくらい、たまに付き合ってやるくらいいだろう。これも1つの正義だ!」
「うんうん!さすがタカオ!」
「は、はあ……。ドクターや社長がそう仰るのでしたら……」
 敷島自身も米沢牛が食いたかったというのは、【お察しください】。
「では早速、鍋の準備をせんとな」
「材料はあるんですか?」
「ああ。そこの冷蔵庫に入っておるよ。ワシは基本、好き嫌いは無いから、まあ、キミ達で好きな具材を入れてくれ」
「おう。シンディ、手伝ってくれ」
「かしこまりました、社長」
「! シンディ!タカオに料理させないで!昔、南里研究所時代に、ガスコンロ爆発させやがったから」
「ほお……。さすがは、あの東京決戦のヒーローじゃ」
「いや、あれはその……事故……作戦っスよ、作戦!まだ悪堕ちしていたシンディが襲撃に来るって情報を掴んだもんで、迎撃としてプロパンガスを爆発させただけで……」
「ああ。おかさまで、アタシゃ右腕が吹っ飛んだねぇ……」
 シンディは苦い顔をした。
 右腕が吹っ飛ぶということは、銃火器が全て使えなくなったということだから、相当なダメージだ。
「フム。あいにくとこの家のガスもプロパンなんだな……。レイチェルがここに来るという情報は掴んでおるか?」
「い、いえ。あいにく、まだ……」
「レイチェルの迎撃に、そこのガスボンベを使われても困るので、ワシらはできるまで奥にいよう」
「あ、じゃあデイライト・コーポレーションの話を……」
「あー、アルエットや。料理ができたら、教えてくれんかの?」
「はーい!」
「アリス!オレはすき焼きはシイタケじゃなくて、舞茸派だ!分かってるな?」
「分かってるわよ」
 

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