報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「リベレーション?いやいや……」

2015-07-13 19:57:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月23日09:00.天候:晴 東京都墨田区 敷島エージェンシー 敷島孝夫]

「あ、社長。おはようございます」
「おはよう。しばらく留守にしていて悪かったな」
「いいえ」
 敷島が出勤すると、事務机にいた一海がやってきた。
 すぐに自分の机に向かうとPCを立ち上げ、メールを確認する。
「あったあった」
 平賀からのメール。

『……来る7月18日よりの3連休ですが、仙台市内のパビリオン施設において、マルチタイプであるエミリーとシンディの展示以来が入りました。自分としてはマルチタイプのイメージ向上の為にも、この話を受けるべきと考えております。敷島さんの御都合でよろしいので、何卒ご検討願えませんでしょうか?よろしくお願い致します。……』

 以前、仙台市内の別のイベント施設で行われた展示会で、エミリー達に注目が集まっていた。
 それに絡むものだろうとのこと。
 主催者側には、かつて日本アンドロイド研究開発財団の元幹部が含まれており、敷島はこの辺りが企画したものだろうと思った。
(ついでにMEGAbyteもゲリラ出演させるか……)
 敷島はネットで会場の公式サイトを見たが……。
「あー……イベント施設ではなく、本当に科学について常設展示している所かぁ……。ボカロの“特別展示”は不釣合いかなぁ……」
 敷島が首を傾げて思案していると、社長室のドアがノックされた。
「はい?」
「失礼します」
「おお、井辺君」
「おはようございます。昨日はお疲れさまでした」
「いやいや。結局、休んじゃって悪かったな」
「いいえ。こちらも、MEGAbyteのプロデュースは予定通りに進んでおります」
「そうか。ところでさ、ちょっとした企画を考えているんだけど……」
「何でしょう?」
「仙台市内の科学展示施設で、夏休み特別イベントなんだか、エミリーとシンディを展示したいって話が来てさ。展示費用も支払われる」
 敷島はPCの画面を井辺に見せた。
「安くても1機50億円の値が付いているマルチタイプの特別展示にしては、安い金額ですね」
「だろぉ?まだボカロにライブさせた方が儲かるよ、こっちとしては」
「では、断る方向で?」
「いや、それが、平賀先生たってのお願いなんだ。今までの付き合いもあるから、そう無碍に断りにくくてねぇ……。そこで、黒字にする為に、ボカロの“特別展示”でもして、展示費用を吊り上げてやろうかと思ってるんだが、どうもこの施設の構造上、ライブなんてムリっぽいな……」
「台原森林公園に野外音楽堂がありますが、そちらなんかどうでしょう?」
「! そこなら会場も近いし、エミリー達との関連性を持たせたPRができるな!冴えてる!井辺君!」
「恐れ入ります」
 敷島は早速、段取りを始めた。
(あれ?俺、会社に来て何かすることあったと思ってたけど、何だったっけ???)
 急に忙しくなったため、すっかり忘れていた敷島だった。

[同日時刻不明 場所不明 KR団本部? 十条伝助&レイチェル]

「失礼します」
 レイチェルが部屋に入る。
 部屋は畳敷きで、そこには1人の老人が座っていた。
「その声はレイチェルじゃな?」
「はっ」
「くるしゅうない。楽にするが良い」
「失礼します」
 レイチェルに声を掛けたのは老人。
 その先には、立派な仏壇が供えられていた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 老人が御題目を唱えると、御厨子の扉が自動で閉扉した。
 閉扉すると、老人はその御厨子に向かって深々と頭を下げる。
「……不思議に思うかね?人間の、この行動を……」
 老人……いや、十条伝助は自嘲気味に笑いながら、後ろに正座して控えるレイチェルに言った。
「不思議でなりません。しかし、私達にとっての神様は、人間ですから」
「その人間が、更に両手を合わせて拝むわけじゃよ。して、報告を聞こうか?」
「昨日、十条達夫博士に送り込んだバージョン4.0の小隊ですが、見事に全滅してしまいました」
「なにっ?」
「運悪く、姉のシンディや敷島夫妻がいたもので……」
「やはり、お前が行かんとダメのようじゃな。あいにくと、アンドロイドのお前に仏様を拝むことなどできんが、いつまでも謗法でいる弟に仏罰を下してこい」
「……かしこまりました。……私には、不思議でなりません。どうして、同じ物を拝んでいるのに、違うと称して仲違いするのでしょうか?」
「ふふふふ……。それこそ、アンドロイドのお前には全く理解のできぬことじゃよ。お前は黙ってワシの命に従い、達夫から日寛上人の御本尊を取り戻して参れ」
「……その指令に対して、何か条件はありますか?」
 レイチェルが必ず聞いていることである。
 いつもなら、『方法は全てお前に任せる』であった。
 それが何故か、
「もし達夫が抵抗するようなことがあったら、殺しても構わん」
「……え?」
「認識できなかったか?殺しても構わんと言ったのだ」
「あの……達夫博士は伝助博士の……」
「ああ。弟だが、いつまでも功徳無き信仰を続け、兄の折伏に断じて応じぬ愚弟など、もう堕獄で良い。お前が代わりに、地獄界に落としてやりなさい」
「…………」
「んー?どうした?音声認識の調子が悪いのか?分かったら、返事はどうした?」
「……かしこまりました」
「ん。では、下がって良いぞ」
「失礼します……」
 レイチェルは一礼して、仏間を後にした。
(確かに……何か調子がおかしい……。直してもらう?でも……。自己診断で、異常が無い……)
 レイチェルは3号機のシンディの顔を思い浮かべた。
(あんなに冷たくて、でも笑いながら人間達を殺していたシンディ姉さんが、あそこまで変わるなんて……。私は……)
 マルチタイプ7姉弟の中で1番多弁で、ムードメーカーだったというイメージがある。
 ムードメーカーという役割は、今でも変わらないようだが……。

[同日12:00.敷島エージェンシー・社長室 敷島&シンディ]

 シンディは敷島からエミリーと共に“特別展示”の話を聞いた。
「何か芸でもやる?」
 シンディは笑って聞いた。
 シンディは引き受ける気満々のようだ。
 最愛の姉と再会できて、一緒に仕事ができる喜びなのだろうか。
「あー、そうだな……。エミリーがピアノを弾いて、お前がフルート吹けるんだもんな?」
「木管楽器なら全部OKよ」
 つまり、笛系だ。
「前期型は金管楽器だったんだけどね、誰か設定変えた?」
 と、シンディが聞いた。
「いや。そこら辺は誰もイジってないと思うぞ?前からお前、その後期タイプで笛吹いてたじゃないか」
「まあ、そうだけどね」
「で、ボカロ連れて来て、歌でも歌わせるか……。あ、いや、それだとボカロがメインになってしまうか。あくまでも、メインはマルチタイプだから」
「未夢に歌ってもらう?」
「今の未夢はボーカロイドなんだから、やっぱダメだよ」
「レイチェルなら歌う担当だったのにね」
「マルチタイプなのに、歌が歌えるのか?」
「ボーカロイドと比べると音痴でね。“歩く女ジャイアン”だよ」
「な、なるほど。分かりやすい例えだ。まあ、お前とエミリーで、ピアノとフルートの二重奏でもやってもらうってミニ企画は考えておこう」
「あくまでも、“特別展示”の一環なんだからね。デビューなんてのは用途外だよ」
「分かってるって。……実に勿体ない」
 と、敷島は残念そうな顔をした。
コメント (4)
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“新アンドロイドマスター” 「隠し事」

2015-07-13 02:24:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日14:00.天候:晴 十条達夫の家 敷島孝夫、アリス・シキシマ、十条達夫]

 昼食会を終えた後は、お茶をしながら情報交換を行う3人。
「シンディが聞いた宝物とは何ですか?」
 敷島が単刀直入に聞いた。
「はて?何のことか分からんのぅ……。アルエットのことではないだろうか?」
「アルエットは別に要求していたじゃないですか?もしかして、更なるマルチタイプの設計図とか?」
「そこまでは考えておらんのじゃが……。もしかすると、アルエットの設計図のことかもしれんの」
「なるほど。でも、どうして達夫博士は伝助博士と仲違いしているのですか?」
「う、うむ……。それはやはり、ワシと兄貴とは研究の方向性が違うというか……」
「えっ?」
「KR団は元々はキリスト教の一派だということは知っておるな?」
「ええ」
「兄貴が文句を言いに行ったら、ミイラ取りがミイラになったということかな」
「はあ?」
「何でも、兄貴が行った時点で、既にその組織は、キリスト教団としての体を成していなかったというか……。もっと恐ろしい教団に乗っ取られていたので、それに洗脳されてしまったというか……」
「ええっ!?」
 敷島が驚き、アリスも、
「有りえない……」
 そ、絶句した。
「そこが大きな誤算じゃったわけじゃ。まあ……それ以前から、ワシとはそんなに話さなかったというのもあるんじゃが……。あ!シンディ、アルエット!そっちの部屋に行ってはイカン!」
 急に達夫が奥の部屋に行こうとしていたシンディ達を見咎めた。
「はあ……。でも、片づけと掃除を……」
 敷島は自分のいる位置から、そこが畳敷きの和室であることが何となく分かった。
「その部屋はいい!大事な物があるんじゃ!」
「はあ……。分かりました」
(この洋風な家に和室?随分と不釣り合いだな……。しかも見た感じ、つい最近新しくできたようだ)
 と、敷島は思った。
 シンディの目(カメラ)には部屋の中が映っただろうか。
「なーんだ。お宝、あるんじゃないですか!見せてくださいよ!」
「だ、ダメじゃ!ホー……あ、いや、素人には見せられんものでな……」
「ホー?私は素人かもですが、ここにいるアリスはプロですよ?」
「いや、ロボット研究とは全く無関係のものじゃ」
「あー、分かった。親の遺産か何か?」
 と、アリス。
「遺産ではないのじゃが、まあ、ワシにとっては大事な財産じゃの」
「あの部屋、和室ですね?」
「じー様が隠れ家として使っていた頃は、和室なんて無かったわ」
 と、アリス。
「やっぱりな。達夫博士、あれは達夫博士がこの家を使うようになってから改築した部屋ですね?」
「ま、まあな」
「確かあの部屋、じー様が信仰していたキリスト教の祭壇があったと思うけど?」
「よ、洋室しか無かったものでな、ワシも日本人じゃから、ゆっくり正座できる畳の部屋が欲しかったんじゃ」
「そこにわざわざお宝を保管しているということは……。分かった!数百万円の掛け軸が掛かっているとか?」
「掛け軸!?」
「あ、いや、違うな……。お年寄りにありがちな……御仏壇に数百万円相当の証書が保管されているとか?」
「御仏壇!?」
「掛け軸、御仏壇で反応しましたね?フーム……。あとは御仏壇に、数百万円相当の純金製仏像が安置されているとか?」
「いや、仏像なんぞ無い」
「あらま……」
「タカオ、やめなよー。多分、お宝と言っても、そういう物じゃないと思うよー?だいたい、ドクター伝助ってカネには困っていないわけでしょう?」
「長男として、親の財産を多く持って行ったからのぅ……。とにかく、妄りに他人には見せられんのじゃ。じゃが、勘違いするでないぞー?けして、法に触れるものを置いているわけではない」
「まあ、超法規的な措置が無ければ、シンディ達も違法ですからね」
 実弾入りの銃火器が標準装備。

[同日15:00.圏央道 敷島、アリス、シンディ]

 圏央道で埼玉県を目指す敷島達。
「シンディのカメラにも、チラッとしか映ってなかったな。掛け軸と仏壇」
 と、敷島。
「高いのかしら?」
 アリスが首を傾げる。
「分からんが、もし高かったら、床の間に飾ったりはしないんじゃないか?明確に伝助爺さんに狙われているんだろう?やっぱり、どこかに隠しておくとは思うな。金庫の中とか……」
「そうよねぇ……」
「あと、今回の件で、バージョン4.0しかやってこなかったのも変だ。どうしてレイチェルを寄越さなかったんだろう?」
「アタシがGPSで追おうとすると、向こうからもこっちの位置を捕捉される恐れがあるからやってないよ。でも、やってみる?」
「いや、いいよ。ただ、途中で待ち構えていたり、いきなり狙撃されたりしたら面倒だな……」
「高速道路を走っているうちは大丈夫だと思うよ。なるべくなら、防音壁の前とかを走っていた方がいいと思う」
「なるほど。陸橋の上から狙われていたら?」
「ロイドだったら、アタシのスキャンですぐに分かるよ。撃って来る前に、アタシが撃つから」
「なるほどー」
 結局、復路に関しても、レイチェルが襲ってくることは無かった。

[同日18:00.埼玉県さいたま市大宮区・敷島とアリスのマンション 敷島、アリス、シンディ、二海]

 レンタカーも返却して、何とか帰宅した3人。
 マンションでは平賀太一から贈られた、メイドロボットの二海が夫妻の子供の面倒を見ていた。
 敷島は井辺に電話しようとするが、繋がらない。
 今度は事務所に掛けてみた。
{「はい、敷島エージェンシーです」}
 二海とは同型機で、事務作業用として詰めている一海が出た。
「あー、もしもし。そこに井辺君はいるかな?」
{「社長、お疲れ様です。プロデューサーさんでしたら、MEGAbyteの皆さんを連れて、豊洲のライブ会場に向かいましたよ?」}
「豊洲の……?そんな予定あったっけ?」
{「元々はルカさんのソロライブのみだったのですが、MEGAbyteのコ達がバックダンサーと、あとゲストでライブができるようになったんですよ」}
「なるほど。ライブを急にやれと言われても、人間のアイドルには無理だが、ボーカロイドなら可能だな」
{「はい。多分、もう会場入りをされていると思います」}
「なるほど。それで、電話に出れなかったか。いや、結局今さっき帰ってきたところだから、俺だけオフになっちゃって悪いなって思ってさ」
{「社長は本当のオフではなく、『もう1つのお仕事』で動いておられることは皆知ってますから大丈夫ですよ」}
「……だと、いいんだがな。他に変わったことは?」
{「平賀博士からメールがあります。仙台で何かイベントがあるそうで、それについてのものです」}
「何だろう?大学の方でまた何かやるのかな?」
{「明日ご確認頂いて、御返事はその後で結構とのことです」}
「分かった。何も無ければ、明日から出社するよ。井辺君にもよろしく伝えておいてくれ。……ああ。それじゃ」
 敷島は電話を切った。
 事務所の方は、何の異常も無く動いている。
 社長不在の中、よく回してくれているなと思う敷島だったが、それでもどこか腑に落ちない点があるのが気になった。
 それが何なのかは全く分からない。
 井辺も一海もよくやってくれている。
 MEGAbyteもまだマイナーながらも、比較的大きなライブハウスでライブができるようになった。
 井辺の手腕なら、近いうち、テレビ出演やCD発売第2弾も行けるだろう。
(何だか胸騒ぎがするのは何でだろう?)
 明日は絶対に出社しようと思った敷島だった。
 出社すれば、この心に引っ掛かる何かの正体が分かるかもしれない。

 ……気のせいかもしれないけど。
コメント (2)
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