報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「イベント最終日」

2015-07-27 19:23:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月20日18:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区台原森林公園・野外音楽堂 巡音ルカ、敷島孝夫、シンディ、アルエット]

「……巡り〜姫〜♪私はぁ〜今ぁ〜♪思い出の日々〜綴っていく〜♪」
 ルカが敷島エージェンシーのボカロの中で、1番の歌唱力を惜し気も無く発揮する。
「ルカさーん!」
「ルカぁ!」
 押し掛けたファンの数は、初日のリン・レン、中日のKAITOよりも多いように見えた。

 1時間に渡るミニライブが終わり、ルカが舞台裏に戻って来た。
「ルカ、お疲れさん!」
「お疲れさま!相変わらず、電撃の流れる歌、歌うねぇ!」
 と、シンディ。
 要は、『しびれる歌』ということだ。
「ありがとうございます」
「よし。すぐに科学館に戻って、平賀先生に整備してもらおう。その後で俺は関係者の人達と打ち上げに参加するから、先にホテルに戻っててもらっていい」
「分かりました。明日の朝の新幹線で帰京ですね?」
「そうだ」

 後で敷島は藤野の十条達夫の家に電話してみた。
{「はい、十条です」}
「あっ、達夫博士ですか?敷島ですが……」
{「おお、どうしたね?」}
「いえ、おかげさまで無事にイベントが終了しましたので、その御報告をと……」
{「おう、そうかね。アルエットはどこにおる?」}
「あー、すいません。ちょっと今、私の傍にはいなくて……。もちろん、イベントでよく働いてくれましたよ。明日、お返しに行きますので、その時、色々お話しさせてもらいます」
{「明日、返しに来てくれるのかね?」}
「ええ。そういうお約束だったじゃありませんか」
{「そうか。では、待っておるぞ」}
「はい。それじゃ、失礼します」
 敷島は電話を切った。
「プッ(笑)。もうボケて来たのか、この爺さんはァ……。ま、とにかく無事で良かった。俺の変な胸騒ぎも、たまには外れるもんだ」

[同日同時刻 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家 キール・ブルー&バージョン4.0‐058号機]

{「はい。それじゃ、失礼します」}
 敷島との電話の後、受話器を切る……バージョン4.0。
「上手ク、敷島孝夫ニ誤魔化シテオキマシタ」
 4.0はさっきまでの電話とは打って変わって、ロボット喋りに戻っていた。
「よくやった。あとは留守電にしておけ」
「ハイ」
 命令するのはレイチェルではない。
 見た目はこの暑い中、黒いタキシードに蝶ネクタイをした男。
 縁無しの眼鏡を掛けているが、時折右目が赤く光る。
「あとは明日まで、このままにしておこう。どうせ孤独な老人だ。誰も訪ねる者などいない」
「ハハッ」
 家の中は荒れに荒らされていた。
「レイチェルのバカ女は気づかなかったみたいだが、恐らく『にっ寛』上人の御本尊は、アルエットが持っているはずだ。その本人が明日戻って来るのなら、それでいいだろう」
「ハイ」

[同日19:15.仙台市地下鉄広瀬通駅 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通はこちらです〕
〔冨士大石寺顕正会仙台会館へは、終点富沢駅でお降りください〕(←いや、だからこういうCMは流れないって!)

 整備を終えたロイド達は敷島や平賀について、地下鉄に乗っていた。
 酒が入るので、平賀は今日は車で来ていない。
「もう既に主催者のお偉いさん達は、会場に着いているようです」
「あらま、気が早い人達ですなー」
「ロイド達の整備は入念に行ってからで良いとのことです。その代わり、コンパニオンとしてエミリーやシンディだけでなく、アルエットやルカも御指名ですが」
「何スか、それ!アルエットは借り物だし、ルカはうちの看板アイドルなんだから、そうおいそれとレンタルできませんがね!」
 敷島はあからさまに不服そうな顔をした。
「あ、因みにルカに関しては、別途、コンパニオン代を出すそうです」
それを早く言ってください!
 敷島の両目に『¥』の記号が浮かんだ。

〔広瀬通、広瀬通。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 電車が繁華街の駅に滑り込む。
「コンパニオンと言っても、別に普通の恰好でいいんでしょ?」
「まあ、そうですね。人間のコンパニオン頼むにしても、普通のビジネススーツでOKの人達ですし……」
 とはいっても、そこはコンパニオン。
 ビジネススーツといっても、胸元の開いたものを着用している。
「というわけだ。4人とも、頼むぞ」
「イエス」
「分かりました」
「はい」
「……えーと、何をすればいいのでしょう?」
 アルエットだけ、女子中高生の制服風である。
 ……あらぬ誤解を招きそうだが、マルチタイプであるため、確かに違法ではない。
「アタシが教えてあげるよ」
 と、シンディが片目を瞑った。
 アルエット以外は、設定年齢的にも全然OKな顔ぶれなのだが……。

[同日23:00.仙台市青葉区国分町 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

 

「お疲れさまでしたー!」
 ようやっとお開きになり、敷島達が接待した主催者らが続々と帰って行く。
「敷島さん、3日間ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。いいPRになりましたよ」
「後で儲けの額、教えてくださいね」
 平賀はほろ酔い加減で、敷島を肘でつついた。
「いや、はははは!参ったな……」
「ドクター平賀、タクシーが・参りました」
「おーう」
 タクシーが平賀達の前で止まる。
「それじゃ敷島さん、お気をつけて」
「平賀先生も」
 先に平賀がタクシーに乗り込み、運転席の後ろに座る。
「姉さん、たまには東京に来てよ」
「ドクター平賀が・上京・することが・あれば・その機会も・ある」
 そして、アルエットの方を見る。
「私達とは・新旧の・違いが・あれど、マルチタイプに・求められる・人間の・要望は・大きい。与えられた・使命に・けして・背かないように」
 最年長者として、最年少者に指導した。
「は、はい!」
 エミリーは、自分より身長が20センチも低い従妹機の頭をナデナデしてタクシーに乗り込んだ。
 タクシーはドアを閉めて、国分町通を走り抜けて行った。
「じゃあ、俺達も戻ろうか」
「はい」

 ホテルまで戻る敷島達。
 アルエットの顔は不安そうだった。
「どうしたの?」
 シンディが話し掛ける。
「家に……博士の所に電話したの。だけど、出なかった。留守電になってて、出なかったの」
「この時間じゃ、もう寝てるでしょ?」
「ううん。宴会が始まる前だから、まだ寝てないと思うの」
「うーん……。お出かけしてるとか、研究で忙しいから電話に出られないとか、色々あると思うけど……」
「博士、悪い人達に狙われてるんでしょう?」
「まあ、そうだけど、社長がルカのライブが終わった後に電話したら、ちゃんと出たってよ?」
「えっ?」
「だから、心配することは無いと思うよ。ちゃんとアルの帰りを待っててくれてるよ」
「そ、そう?」
「そう。だから、何も心配しなくていいと思う。達夫博士は朝は早いの?」
「うん!朝は6時に起きて、勤行してるよ!」
「ゴンギョー?……何かの儀式かしら?明日、新幹線に乗った時、電話してみたら?どっちみち、今電話したところで、却ってご迷惑でしょ」
「うん」
 新旧マルチタイプ姉妹がそんな話をしている中、敷島とルカは、
「いやあ、ルカのおかげで、コンパニオン代相当せしめることができたよ」
「えーっと……光栄……です」
 ルカは複雑な顔をした。
「売れっ子アイドルと一緒にカラオケなんて、なかなかできないことだからな。リン・レンやKAITOより、いい売り上げを出してくれたと思うぞ?」
「えっと……ありがとうございます」
「明日は青年漫画雑誌のグラビア撮影だったな。頑張ってくれよ」
「は、はい!」

 KR団の陰謀とは裏腹に、平和な時間が流れている敷島達。
 しかし翌日、彼らもまた現実を知ることになる。
コメント (8)
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“新アンドロイドマスター” 「殺人アンドロイド」 3

2015-07-27 15:15:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月20日01:30.神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家・地下室 十条達夫&7号機のレイチェル]

 以下は十条達夫が書いた手記の一部である。
『しばらく静かになっていた外だったが、急にまた騒がしくなった。どうやら、レイチェル達が体勢を立て直してきたらしい。ドンドンと鉄扉が叩かれる音がする。恐らくそのドアは、レイチェルが根気よくこじ開けようとすれば、開かれるだろう。アルエットの帰りを待つ身として辛いことであるが、やはりここを放棄せねばならぬのか。仕方が無い。水路を通って、逃げるとしよう。ここでの手記は、ここまでとする』

 達夫が手記を書き終え、水路へ続く鉄扉を開錠した。
「さらばじゃな……」
 緊急脱出用のボートに乗り込み、水路へ飛び出す直前、達夫は地下室にある細工を施した。
 水路に出ると同時に爆発が起こり、地上からの鉄扉が吹き飛ぶ。
 どうやらレイチェル達は爆弾を取りに行き、それで鉄扉をこじ開けたらしい。
「KR団デアル!ドクター十条達夫!無駄ナ抵抗ハ止メテ……!」

 ピコーン!ピコーン!ピコーン!

「ムッ!?」
 室内の至る所に仕掛けられた特殊時限爆弾ロボット・デコイ。
 特殊な信号音と光を発し、人工知能の劣るバージョン・シリーズなどをおびき寄せ、そして爆発して彼らを屠るアリスの発明品だ。
 この前、敷島夫妻と昼食会を行った際、サンプルをアリスから譲り受け、こういう非常事態に備えて複製したものだ。
 案の定、飛び込んで来たバージョン4.0の集団はロボット・デコイ数発におびき寄せられ、爆発の直撃を受けてほぼ全滅した。
「バカだね。いきなり飛び込むなんて……。役立たず共がっ!」
 後から入ってきたレイチェルがバラバラに壊れた配下達を侮蔑の目で見て罵った。
「レイチェル様!中カラ、ドクター十条達夫ノ反応ガアリマセン!」
 外で待っていた別の個体が、室内をスキャンした。
「この部屋を爆破するくらいだ。当然、待避しただろうさ。アンタ達は他の部屋を捜しな!」
「アラホラサッサー!」
 だが、レイチェルはすぐに達夫が水路を使って逃げたことに気づいた。
 室内にはもう1つドアがあり、それが半開きになっていたからだ。
(もっと早く逃げてくれていれば……!)
 レイチェルは体がまるで誰かに遠隔操作されているかのように、足の裏の超小型ジェットエンジンを噴かせ、水路を追い掛けた。
 水路を走る水は速かったが、レイチェルの速さには叶わなかった。
「ドクター達夫!」
「!!!」
「お願いだから抵抗しないで!」
 レイチェルの悲痛な叫びが届いたのだろう。
 達夫は両手を上げた。

[同日同時刻 天候:雷雨 宮城県仙台市青葉区 ホテル法華クラブ仙台・客室 敷島孝夫]

 敷島は夜中に目が覚め、バスルームのトイレで用を足した。
 何だか、物凄い胸騒ぎがして眠れないのだ。
 その後、冷蔵庫に入れておいたペットボトルの水を飲む。
(外がゲリラ豪雨だからか?)
 台風の影響が無い東北地方だが、何故か仙台はこの天気だ。
 もっとも、ゲリラ豪雨であるなら、明日……といっても、もう日付が変わっているが、イベント最終日もまた良い天候に恵まれるであろう。
 ツインルームにエキストラベッドを使用して3人部屋とした部屋には、他にシンディとアルエットが“寝て”いる。
 充電が満タンになっても、タイマー設定で朝7時までは“寝て”いるようになっている。
 但し、災害やテロ発生の時はこの限りではない。
 明日は朝一の新幹線で、巡音ルカがやってくる。
 彼女が最後のトリを飾ってくれることになっている。
 ミクよりも歌唱能力の高いルカなら、見事に締めてくれるだろう。
 但し、身体能力はそんなに高くはないため、ソロライブの時はそんなに激しい踊りはしない。
(何か計画に不備でもあったかな?)
 敷島は明日の予定を頭の中で思い出しながら、再びベッドに潜り込んだ。
 しばらくの間眠れず、このまま朝を迎えるかと思ったが、何とか寝付くことができたのである。

 ……悪夢というオプション付きで。

[同日02:00.十条達夫の家・地下室 十条達夫&レイチェル]

 焦げ臭さが充満する地下室に連れ戻された達夫。
「そろそろ教えてくれない?あなたの宝物、『にっかん上人の御本尊』と『アルエットの居場所』。このままだと、あなたを殺してしまうことになるわ」
 レイチェルが配下のバージョン4.0に椅子を持って来させ、それに達夫を座らせている。
 レイチェルは顔は優しそうにしていたが、目は時折光り、いわゆる『目は笑っていない』状態であることが分かった。
 そして何より、右手をライフルに変形させて、それを達夫の頭に向けている。
にっ寛上人の御本尊など、存在しておらんわい。大石寺に存在するのは、にち寛上人の御本尊じゃ。兄貴にそれをよく言い渡しておけ」
「そんなことはどうでもいいの。私は信者じゃないんだし。では、アルエットはどこにいるの?」
「それも言えん!『さあ、このワシを撃つが良い!』」
「どうやら、本当に死にたいようね」
 カチカチカチと、自動でライフルがリロードされる音がする。
(嫌だ!嫌だ!私、もう人殺しなんてしたくない……!)
「!? レイチェル、お前……!」
 達夫は両目から涙を流すレイチェルの姿を見た。
 が、それが世に伝わることは無かったのである。

 何故なら……

 家中に銃声が響き渡ったから。

 街から遠く離れた十条家の惨劇、それに気づいた者は誰もいない。

[同日08:00.天候:晴 JR仙台駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]

〔11番線に8時2分発、“やまびこ”41号、盛岡行きが10両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。まもなく11番線に、“やまびこ”41号、盛岡行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 朝の強い日差しが照り付ける中、東京からの1番列車の接近放送が響いた。
 といっても、東京発の時点では始発列車でも、仙台駅の時点では、既に仙台始発の1番列車が出発しているので、もうそれではないのだが。

〔「11番線、ご注意ください。8時2分発、“やまびこ”41号、盛岡行きが10両編成で到着します。盛岡まで新幹線各駅に止まります。盛岡へお急ぎのお客様は、この後の“はやぶさ”“こまち”1号をご利用ください」〕

 列車が眩いヘッドライトを灯して入線してくる。
 9号車のドアが開くと、そこから複数の乗客と共にルカが降りて来た。
「おはようございます。今日は、よろしくお願いします」
 変装は完璧で、帽子にサングラスという出で立ちであった。
 サングラスを外して敷島に挨拶する。
「ああ、ご苦労さん。よろしく。もっとも、出番は夕方のミニライブの時だから、それまでゆっくりしてくれていいよ」
「調整をよろしくお願いします」
「調整ね……。ま、とにかく行こう。科学館のオープンは9時だから、それまでにこの2人を連れて行かないと」
「はい」

 改札口を出て地下鉄に向かう最中、ルカが言った。
「あの、社長」
「ん?」
「井辺プロデューサーから、伝言があります」
「何だ?」
「昨日、MEGAbyteのライブが山梨県であったそうなんですけど……」
「ああ。確か、甲府だったな。それがどうした?」
「帰りの電車の中で、バージョン4.0を見たそうなんです」
「電車に乗っていたのか!?」
「いえ、電車の中から見たそうです。ちょうど、電車が藤野駅を通過する前、進行方向右側だったそうです。大きな川を挟んだ反対側」
「!」
「井辺プロデューサーは視力が良いですから」
「た、確かに……。眼鏡掛けてやっとこさ1.0ある俺の1.5倍あるもんな。レーシック手術でも受けたんだっけ?」
「それは分かりませんが……」
「藤野駅ってことは、達夫の爺さんの所か……。まあ、あの爺さんのことだから、バージョンが来たところで、どうってことないと思うけどな……」
 そうは言いつつも、敷島は一抹の不安を覚えていた。
(どうする?さすがにこのイベントを放ったからして様子を見に行くわけにもいかないし……。井辺君は井辺君で、MEGAbyteに1日中ついていてやらないといけないし、アリスはこんな時に限って『月のもの』がヒドくて動けねぇとか言ってるし……)
 予定ではこのイベントが終わった後、皆で打ち上げをし、市内でもう一泊する。
 そして明日朝の新幹線で東京に戻り、そのまま中央線に乗り換えてアルエットを返しに行くというものだ。
「ルカ。一応このことは、あの2人……特にアルエットには内緒にしておいてくれ。余計な不安を抱かせると、これからのイベントに支障が出る恐れがある」
「分かりました」
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