[7月20日18:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区台原森林公園・野外音楽堂 巡音ルカ、敷島孝夫、シンディ、アルエット]
「……巡り〜姫〜♪私はぁ〜今ぁ〜♪思い出の日々〜綴っていく〜♪」
ルカが敷島エージェンシーのボカロの中で、1番の歌唱力を惜し気も無く発揮する。
「ルカさーん!」
「ルカぁ!」
押し掛けたファンの数は、初日のリン・レン、中日のKAITOよりも多いように見えた。
1時間に渡るミニライブが終わり、ルカが舞台裏に戻って来た。
「ルカ、お疲れさん!」
「お疲れさま!相変わらず、電撃の流れる歌、歌うねぇ!」
と、シンディ。
要は、『しびれる歌』ということだ。
「ありがとうございます」
「よし。すぐに科学館に戻って、平賀先生に整備してもらおう。その後で俺は関係者の人達と打ち上げに参加するから、先にホテルに戻っててもらっていい」
「分かりました。明日の朝の新幹線で帰京ですね?」
「そうだ」
後で敷島は藤野の十条達夫の家に電話してみた。
{「はい、十条です」}
「あっ、達夫博士ですか?敷島ですが……」
{「おお、どうしたね?」}
「いえ、おかげさまで無事にイベントが終了しましたので、その御報告をと……」
{「おう、そうかね。アルエットはどこにおる?」}
「あー、すいません。ちょっと今、私の傍にはいなくて……。もちろん、イベントでよく働いてくれましたよ。明日、お返しに行きますので、その時、色々お話しさせてもらいます」
{「明日、返しに来てくれるのかね?」}
「ええ。そういうお約束だったじゃありませんか」
{「そうか。では、待っておるぞ」}
「はい。それじゃ、失礼します」
敷島は電話を切った。
「プッ(笑)。もうボケて来たのか、この爺さんはァ……。ま、とにかく無事で良かった。俺の変な胸騒ぎも、たまには外れるもんだ」
[同日同時刻 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家 キール・ブルー&バージョン4.0‐058号機]
{「はい。それじゃ、失礼します」}
敷島との電話の後、受話器を切る……バージョン4.0。
「上手ク、敷島孝夫ニ誤魔化シテオキマシタ」
4.0はさっきまでの電話とは打って変わって、ロボット喋りに戻っていた。
「よくやった。あとは留守電にしておけ」
「ハイ」
命令するのはレイチェルではない。
見た目はこの暑い中、黒いタキシードに蝶ネクタイをした男。
縁無しの眼鏡を掛けているが、時折右目が赤く光る。
「あとは明日まで、このままにしておこう。どうせ孤独な老人だ。誰も訪ねる者などいない」
「ハハッ」
家の中は荒れに荒らされていた。
「レイチェルのバカ女は気づかなかったみたいだが、恐らく『にっ寛』上人の御本尊は、アルエットが持っているはずだ。その本人が明日戻って来るのなら、それでいいだろう」
「ハイ」
[同日19:15.仙台市地下鉄広瀬通駅 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ、アルエット、巡音ルカ]
〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通はこちらです〕
〔冨士大石寺顕正会仙台会館へは、終点富沢駅でお降りください〕(←いや、だからこういうCMは流れないって!)
整備を終えたロイド達は敷島や平賀について、地下鉄に乗っていた。
酒が入るので、平賀は今日は車で来ていない。
「もう既に主催者のお偉いさん達は、会場に着いているようです」
「あらま、気が早い人達ですなー」
「ロイド達の整備は入念に行ってからで良いとのことです。その代わり、コンパニオンとしてエミリーやシンディだけでなく、アルエットやルカも御指名ですが」
「何スか、それ!アルエットは借り物だし、ルカはうちの看板アイドルなんだから、そうおいそれとレンタルできませんがね!」
敷島はあからさまに不服そうな顔をした。
「あ、因みにルカに関しては、別途、コンパニオン代を出すそうです」
「それを早く言ってください!」
敷島の両目に『¥』の記号が浮かんだ。
〔広瀬通、広瀬通。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕
電車が繁華街の駅に滑り込む。
「コンパニオンと言っても、別に普通の恰好でいいんでしょ?」
「まあ、そうですね。人間のコンパニオン頼むにしても、普通のビジネススーツでOKの人達ですし……」
とはいっても、そこはコンパニオン。
ビジネススーツといっても、胸元の開いたものを着用している。
「というわけだ。4人とも、頼むぞ」
「イエス」
「分かりました」
「はい」
「……えーと、何をすればいいのでしょう?」
アルエットだけ、女子中高生の制服風である。
……あらぬ誤解を招きそうだが、マルチタイプであるため、確かに違法ではない。
「アタシが教えてあげるよ」
と、シンディが片目を瞑った。
アルエット以外は、設定年齢的にも全然OKな顔ぶれなのだが……。
[同日23:00.仙台市青葉区国分町 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]
「お疲れさまでしたー!」
ようやっとお開きになり、敷島達が接待した主催者らが続々と帰って行く。
「敷島さん、3日間ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。いいPRになりましたよ」
「後で儲けの額、教えてくださいね」
平賀はほろ酔い加減で、敷島を肘でつついた。
「いや、はははは!参ったな……」
「ドクター平賀、タクシーが・参りました」
「おーう」
タクシーが平賀達の前で止まる。
「それじゃ敷島さん、お気をつけて」
「平賀先生も」
先に平賀がタクシーに乗り込み、運転席の後ろに座る。
「姉さん、たまには東京に来てよ」
「ドクター平賀が・上京・することが・あれば・その機会も・ある」
そして、アルエットの方を見る。
「私達とは・新旧の・違いが・あれど、マルチタイプに・求められる・人間の・要望は・大きい。与えられた・使命に・けして・背かないように」
最年長者として、最年少者に指導した。
「は、はい!」
エミリーは、自分より身長が20センチも低い従妹機の頭をナデナデしてタクシーに乗り込んだ。
タクシーはドアを閉めて、国分町通を走り抜けて行った。
「じゃあ、俺達も戻ろうか」
「はい」
ホテルまで戻る敷島達。
アルエットの顔は不安そうだった。
「どうしたの?」
シンディが話し掛ける。
「家に……博士の所に電話したの。だけど、出なかった。留守電になってて、出なかったの」
「この時間じゃ、もう寝てるでしょ?」
「ううん。宴会が始まる前だから、まだ寝てないと思うの」
「うーん……。お出かけしてるとか、研究で忙しいから電話に出られないとか、色々あると思うけど……」
「博士、悪い人達に狙われてるんでしょう?」
「まあ、そうだけど、社長がルカのライブが終わった後に電話したら、ちゃんと出たってよ?」
「えっ?」
「だから、心配することは無いと思うよ。ちゃんとアルの帰りを待っててくれてるよ」
「そ、そう?」
「そう。だから、何も心配しなくていいと思う。達夫博士は朝は早いの?」
「うん!朝は6時に起きて、勤行してるよ!」
「ゴンギョー?……何かの儀式かしら?明日、新幹線に乗った時、電話してみたら?どっちみち、今電話したところで、却ってご迷惑でしょ」
「うん」
新旧マルチタイプ姉妹がそんな話をしている中、敷島とルカは、
「いやあ、ルカのおかげで、コンパニオン代相当せしめることができたよ」
「えーっと……光栄……です」
ルカは複雑な顔をした。
「売れっ子アイドルと一緒にカラオケなんて、なかなかできないことだからな。リン・レンやKAITOより、いい売り上げを出してくれたと思うぞ?」
「えっと……ありがとうございます」
「明日は青年漫画雑誌のグラビア撮影だったな。頑張ってくれよ」
「は、はい!」
KR団の陰謀とは裏腹に、平和な時間が流れている敷島達。
しかし翌日、彼らもまた現実を知ることになる。
「……巡り〜姫〜♪私はぁ〜今ぁ〜♪思い出の日々〜綴っていく〜♪」
ルカが敷島エージェンシーのボカロの中で、1番の歌唱力を惜し気も無く発揮する。
「ルカさーん!」
「ルカぁ!」
押し掛けたファンの数は、初日のリン・レン、中日のKAITOよりも多いように見えた。
1時間に渡るミニライブが終わり、ルカが舞台裏に戻って来た。
「ルカ、お疲れさん!」
「お疲れさま!相変わらず、電撃の流れる歌、歌うねぇ!」
と、シンディ。
要は、『しびれる歌』ということだ。
「ありがとうございます」
「よし。すぐに科学館に戻って、平賀先生に整備してもらおう。その後で俺は関係者の人達と打ち上げに参加するから、先にホテルに戻っててもらっていい」
「分かりました。明日の朝の新幹線で帰京ですね?」
「そうだ」
後で敷島は藤野の十条達夫の家に電話してみた。
{「はい、十条です」}
「あっ、達夫博士ですか?敷島ですが……」
{「おお、どうしたね?」}
「いえ、おかげさまで無事にイベントが終了しましたので、その御報告をと……」
{「おう、そうかね。アルエットはどこにおる?」}
「あー、すいません。ちょっと今、私の傍にはいなくて……。もちろん、イベントでよく働いてくれましたよ。明日、お返しに行きますので、その時、色々お話しさせてもらいます」
{「明日、返しに来てくれるのかね?」}
「ええ。そういうお約束だったじゃありませんか」
{「そうか。では、待っておるぞ」}
「はい。それじゃ、失礼します」
敷島は電話を切った。
「プッ(笑)。もうボケて来たのか、この爺さんはァ……。ま、とにかく無事で良かった。俺の変な胸騒ぎも、たまには外れるもんだ」
[同日同時刻 神奈川県相模原市緑区(旧・津久井郡藤野町) 十条達夫の家 キール・ブルー&バージョン4.0‐058号機]
{「はい。それじゃ、失礼します」}
敷島との電話の後、受話器を切る……バージョン4.0。
「上手ク、敷島孝夫ニ誤魔化シテオキマシタ」
4.0はさっきまでの電話とは打って変わって、ロボット喋りに戻っていた。
「よくやった。あとは留守電にしておけ」
「ハイ」
命令するのはレイチェルではない。
見た目はこの暑い中、黒いタキシードに蝶ネクタイをした男。
縁無しの眼鏡を掛けているが、時折右目が赤く光る。
「あとは明日まで、このままにしておこう。どうせ孤独な老人だ。誰も訪ねる者などいない」
「ハハッ」
家の中は荒れに荒らされていた。
「レイチェルのバカ女は気づかなかったみたいだが、恐らく『にっ寛』上人の御本尊は、アルエットが持っているはずだ。その本人が明日戻って来るのなら、それでいいだろう」
「ハイ」
[同日19:15.仙台市地下鉄広瀬通駅 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ、アルエット、巡音ルカ]
〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通はこちらです〕
〔冨士大石寺顕正会仙台会館へは、終点富沢駅でお降りください〕(←いや、だからこういうCMは流れないって!)
整備を終えたロイド達は敷島や平賀について、地下鉄に乗っていた。
酒が入るので、平賀は今日は車で来ていない。
「もう既に主催者のお偉いさん達は、会場に着いているようです」
「あらま、気が早い人達ですなー」
「ロイド達の整備は入念に行ってからで良いとのことです。その代わり、コンパニオンとしてエミリーやシンディだけでなく、アルエットやルカも御指名ですが」
「何スか、それ!アルエットは借り物だし、ルカはうちの看板アイドルなんだから、そうおいそれとレンタルできませんがね!」
敷島はあからさまに不服そうな顔をした。
「あ、因みにルカに関しては、別途、コンパニオン代を出すそうです」
「それを早く言ってください!」
敷島の両目に『¥』の記号が浮かんだ。
〔広瀬通、広瀬通。出入口付近の方は、開くドアにご注意ください〕
電車が繁華街の駅に滑り込む。
「コンパニオンと言っても、別に普通の恰好でいいんでしょ?」
「まあ、そうですね。人間のコンパニオン頼むにしても、普通のビジネススーツでOKの人達ですし……」
とはいっても、そこはコンパニオン。
ビジネススーツといっても、胸元の開いたものを着用している。
「というわけだ。4人とも、頼むぞ」
「イエス」
「分かりました」
「はい」
「……えーと、何をすればいいのでしょう?」
アルエットだけ、女子中高生の制服風である。
……あらぬ誤解を招きそうだが、マルチタイプであるため、確かに違法ではない。
「アタシが教えてあげるよ」
と、シンディが片目を瞑った。
アルエット以外は、設定年齢的にも全然OKな顔ぶれなのだが……。
[同日23:00.仙台市青葉区国分町 敷島孝夫、シンディ、アルエット、巡音ルカ]
「お疲れさまでしたー!」
ようやっとお開きになり、敷島達が接待した主催者らが続々と帰って行く。
「敷島さん、3日間ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。いいPRになりましたよ」
「後で儲けの額、教えてくださいね」
平賀はほろ酔い加減で、敷島を肘でつついた。
「いや、はははは!参ったな……」
「ドクター平賀、タクシーが・参りました」
「おーう」
タクシーが平賀達の前で止まる。
「それじゃ敷島さん、お気をつけて」
「平賀先生も」
先に平賀がタクシーに乗り込み、運転席の後ろに座る。
「姉さん、たまには東京に来てよ」
「ドクター平賀が・上京・することが・あれば・その機会も・ある」
そして、アルエットの方を見る。
「私達とは・新旧の・違いが・あれど、マルチタイプに・求められる・人間の・要望は・大きい。与えられた・使命に・けして・背かないように」
最年長者として、最年少者に指導した。
「は、はい!」
エミリーは、自分より身長が20センチも低い従妹機の頭をナデナデしてタクシーに乗り込んだ。
タクシーはドアを閉めて、国分町通を走り抜けて行った。
「じゃあ、俺達も戻ろうか」
「はい」
ホテルまで戻る敷島達。
アルエットの顔は不安そうだった。
「どうしたの?」
シンディが話し掛ける。
「家に……博士の所に電話したの。だけど、出なかった。留守電になってて、出なかったの」
「この時間じゃ、もう寝てるでしょ?」
「ううん。宴会が始まる前だから、まだ寝てないと思うの」
「うーん……。お出かけしてるとか、研究で忙しいから電話に出られないとか、色々あると思うけど……」
「博士、悪い人達に狙われてるんでしょう?」
「まあ、そうだけど、社長がルカのライブが終わった後に電話したら、ちゃんと出たってよ?」
「えっ?」
「だから、心配することは無いと思うよ。ちゃんとアルの帰りを待っててくれてるよ」
「そ、そう?」
「そう。だから、何も心配しなくていいと思う。達夫博士は朝は早いの?」
「うん!朝は6時に起きて、勤行してるよ!」
「ゴンギョー?……何かの儀式かしら?明日、新幹線に乗った時、電話してみたら?どっちみち、今電話したところで、却ってご迷惑でしょ」
「うん」
新旧マルチタイプ姉妹がそんな話をしている中、敷島とルカは、
「いやあ、ルカのおかげで、コンパニオン代相当せしめることができたよ」
「えーっと……光栄……です」
ルカは複雑な顔をした。
「売れっ子アイドルと一緒にカラオケなんて、なかなかできないことだからな。リン・レンやKAITOより、いい売り上げを出してくれたと思うぞ?」
「えっと……ありがとうございます」
「明日は青年漫画雑誌のグラビア撮影だったな。頑張ってくれよ」
「は、はい!」
KR団の陰謀とは裏腹に、平和な時間が流れている敷島達。
しかし翌日、彼らもまた現実を知ることになる。