報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「3号機 VS 7号機」

2015-07-06 20:09:28 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月21日12:30.天候:晴 埼玉県秩父市・和名倉山中 8号機のアルエット]

 バチバチと体中のあちこちから火花が飛び散り、頭からは血のように赤いオイルが漏れ出している。
(体が……動かない……)
 自分を追う敵だと言われ、配下のバージョン4.0をけしかけたが、簡単にやられてしまった。
 そして、搭乗していた400も高い崖からの転落による衝撃には耐えられず、バラバラに壊れた。
 アルエットは地面に投げ出され、手足を動かそうとしてもモーターの唸り声が空しく響くだけで、ピクリとしか動かない。
(わたし……壊れちゃうの……?)

『強制シャットダウンを行います。10秒前』

 まもなく“意識”の断ち切れる彼女の前に、とある人影が現れた。
 しかし顔を確認する前に、シャットダウンしてしまったのである。

[同日12:35.同場所 アルエット、シンディ、レイチェル]

「待ちな」
 シンディは、初音ミクや鏡音リンにも似た年恰好の少女を抱えて立ち去ろうとしている妹機に、背後から声を掛けた。
 その右手はライフルに変形している。
「あら?姉さん、奇遇ね?」
 レイチェルは足を止め、視線をチラッと向けた。
「その手に抱えているコ、アタシに渡してもらおうか」
「何の話?あなたはバージョン400に乗っていた、人間の女の子を捜しているんでしょう?」
「見え透いたウソを付くんじゃない!何でアタシがバージョン400を追っていたことを知ってるの!……そこにいるの、8号機のアルエットだね?そのコを引き渡しなさい」
「イヤだ。……と、言ったら?」
 シンディは変形させていたライフルに銃弾を装填した。

 そして……

 人の立ち入らない山中に、まるでここが戦場であるかのような銃の発砲音が響き渡った。
「アルエットを連れてこいって命令なのよ!そう簡単に渡せないわ!」
「あー、そう!そこは奇遇だね!アタシも同じ命令をオーナーとユーザーから受けていてね!だいたい、何でアンタのユーザーはアルエットを欲しがってるの!」
「そんなの知らないわよ!」
 銃の発砲だけでなく、組み付くなどの取っ組み合いの戦いも始める。
「年長のアタシに譲りな!末っ子の癖に!」
「先に作られたからって、威張ってんじゃないよ!」

 ……姉妹ゲンカ?もはや……。
 同型機同士が争っても、なかなか一向に勝負がつかない。
 で、
「ちょ、ちょっとタンマ!」
 と、シンディ。
「なに!?時間稼ぎは見苦しいわよ!」
「そ、そうじゃない!アルエットがいない!」
「はあっ!?何で?何で何で?損傷が激しいから動けないはずなのに……!?」
「と、とにかく捜すよ!スキャンして!」
「電源が切れちゃってるから、GPSで追えないよー!」

[同日13:30.道山中 ツキノワグマのジャンピエール&アルエット]

 ザッザッザッとアルエットを背中に乗せて進むジャンピエール。
 何だか山の中が騒がしく、他の動物達から猟師達が争っているという話を聞いたので、様子を見に行った。
 そしたら、件の金髪の女と焦げ茶色の髪の女が鉄砲を撃ちまくっていた。
 近くに少女が倒れていたので、取りあえず連れて行くことにした。
 先日、その少女には獲物の確保を手伝ってくれたからである。
 あの女達も不思議だが、この少女も不思議だとジャンピエールは思った。
 右手から不思議な光を放ったかと思うと、獲物が倒れていたのだ。
 3日3晩食わずだったので、助かった。
 不思議な力を持った人間の少女だと思っているジャンピエールは、この少女が遭難して崖から落ちたのだろうと思っていた。
 取りあえず、人間達がいる場所まで連れて行こうと思ったのである。
 何だかよく分からないが、あそこで鉄砲撃ちまくっている女達は助ける気配が無いみたいだし。

 で、そんな彼がアルエットを連れて来た場所といえば……。

「わ、わーっ!く、クマだーっ!」
 何故だか登山道から外れた岩場にいる眼鏡の男と、鉄砲を撃ちまくっていた女の金髪よりは、もう少しくすんだ色の金髪の女だった。
 男の方は逃げる準備をしていたが、女の方は何だかよく分からない道具を向けていた。
 どうやら、鉄砲の類ではないようだが……。
 ジャンピエールは背中に乗せたアルエットを下ろすと、
(肉をくれたお礼だぜ。あとはその人間達に助けてもらいな)
 と、藪の中に入って行った。

[同日同時刻 道山中 登山道を少し外れた岩場 敷島孝夫、アリス・シキシマ、アルエット]

「な、何だったんだ?今のクマわぁ……?」
「あれはアジアン・ブラック・ベア(ツキノグマの英名)ね。アタシの電動ドライバーに恐れを成したのよ、きっと」
「……いや、違うと思う。それより、そのコは何だ?」
 敷島はツキノワグマが置いて行った少女に駆け寄った。
「まさか、食い殺した後だから、あとの処理よろしくってことじゃないだろうな?」
 敷島はうつ伏せに倒れている少女の前まで来ると、仰向けにした。
「あっ!?このコって……!」
 敷島には見覚えがあった。
 太平洋上を航行していた貨物船スター・オブ・イースタン号。
 この船底貨物室で眠っていた8号機のアルエットにそっくりだった。
「酷い損傷ね」
「あのクマがやったのか?」
「ベアに襲われたくらいで、こんな傷ができるとは思えないけど……」
「てか、シンディは何をやってるんだ!?」

[同日同時刻 道山中・別の場所 シンディ&レイチェル]

「アンタがアタシの変な所撃つから、GPS壊れちゃったじゃないのよ!」
「姉さんこそ、私のレーダー壊しちゃって!どうしてくれるの!現在位置が把握できないわ!」

 ……役立たずのマルチタイプが2機、山中に取り残されるの図。

「今日のところは引き分けね、姉さん?」
「はあ?引き分けって……痛み分けのドローじゃないのよ!」

 結局シンディが緊急用のジェットエンジンを吹かし、上空に上がった所で、事情を知った敷島がLEDライトを上空に向かって振って場所を合図したという。
 てか、それではまるで敷島達が遭難したかのようだ。
 別れ際に、レイチェルはシンディに言った。
「あなた達の中に敵が1人いるから、気を付けるのよ?」
「そうやって、アタシ達の中をかく乱させる気?」
「信じる信じないは、あなた次第」
「フンっ。どこかで聞いたようなセリフを……」

 レイチェルは敷島達の居場所を確認しただけで何もせず、そのまま飛び去ってしまった。
 てなわけで、満身創痍ながらアルエットを手にすることができた敷島達の勝利であろう。

 てか、最大の功労者はツキノワグマのジャンピエールさんだったりするw
コメント (25)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする