報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

原案紹介 10 今日はここまで

2013-10-13 20:33:13 | 日記
(視点は再び三人称に戻す)

 応接室で待つユタと威吹。威吹はいつでも刀が抜けるように、妖刀を足の間に挟んで座っていた。
 時折外から、ピアノの音色が聞こえてくる。
「何だこの音楽は?」
「ここの人形の中に、ピアノを弾くのがいるみたいだな」
 訝しげな威吹に、ユタはそう答えた。
 そこへ、マリアが入って来た。右手には魔道書ではなく、バレーボールくらいの大きさの水晶球を持っていた。
「師匠も驚いていてな、今すぐこちらに飛んでくるそうだ」
「ホウキに跨って!?」
「黒い鳥に運んでもらうのか!?」
「……何だその、“ベタな魔法使いの法則”は」
 ユタと威吹の反応に、マリアは呆れた顔をした。
「何度も言うように、魔道師はホウキは使わん。とにかく、移動も全て魔術を使う」
「そ、そうなのか」
「まあ、元々この屋敷に来るつもりであったようだがな」
「へえ……」
「どんな人?」
「私から見れば『バァさん』だな」
「なるほど」
 ユタは大きく頷いた。
「弟子が若い魔女なら、その師匠は老婆なのがベタな法則だ」
「……だから魔女じゃないって」
 いい加減にしろと言わんばかりに、マリアが突っ込んできた。

 屋敷の中にある、大きなのっぽの古時計。これが4回鳴った。16時である。それに合わせるかのように、人形達が浮き足立つ。
「来た……!」
「えっ?」
 師匠の到来ということもあって、マリアが緊張する。威吹も気配を感じたのか、左手で刀を持った。
「言っておくが、我が師に刃物は効かぬぞ」
 マリアは嘲るように言った。
「ただの刃物じゃないさ」
「師匠を迎えに行く。そこで待っていろ」
 マリアは威吹の簡単な反論を無視すると、悠然と部屋から出ていった。

 そして……。
「待たせたな。我が師匠、イリーナ・レヴィア・ブリジッドだ」
 そこにいたのは、薄紫色のワンピースに紺色のフード付きのローブを羽織った、いかにも魔女といった出で立ちの女だった。フードを深く被っているので、顔までは分からない。
「稲生ユウタと申します。ただの人間です」
「妖狐の威吹邪甲だ」
 すると、女はパッとフードを取った。
「おめでとう!私が知る中で、3人目の合格者よ!」
「はい!?」
「!?」
 それは老婆ではなかった。確かにマリアより年上であろうが、それでも30歳には満たないであろう女だった。マリアが人形みたいな美人だとすれば、イリーナはエロ美しいというのか。
「ご紹介に預かったマリアの師匠、イリーナ・レヴィア・ブリジッドです。イリーナって呼んでくださーい」
「言っておくが、ここにいる中で師匠が年長者。だから、敬語。年上には、敬語」
 マリアが補足するように言った。
「オレだって、江戸に徳川の幕府が開府された頃の生まれだぞ!?」
「そうなの?あいにくと私、日本で言うなら、平清盛を知ってるから」
「た、平清盛の頃なの!?」
 ユタも信じられないという顔をした。
「現代でも通用するイケメンだったわねぇ……」
「1桁も2桁も違う……」
「だから、敬語。分かったな?」
「……あの、日蓮大聖人をご存知ですか?」
「聞いたことはあるね。その頃私、日本にいなかったから。ヨーロッパにいたのよ」
「そうでしたか」
「魔術の実験に失敗して、アジア方面に光の球飛ばしちゃったけど、被害が無くて良かったわ」
「……え?」
「師匠。それより、死生樹の葉」
「ああ、そうだったわね」
「お願いします!これをどうやって使えばいいんですか!?」
「簡単なことよ。この葉を煎じて飲めばいいの」
「誰が?」
「誰が誰を生き返らせたいの?」
「僕が僕の好きな人を……ですけど?」
「じゃあ、あなたが飲むのね」
「あの……仰ってる意味がよく……分からないのですが」
「そういうあなたも、死生樹のことがよく分かってないみたいね。マリア、ちゃんと説明してあげたの?」
「面倒だからしてない」
「ダメね。いくらミドルネームが“怠惰”の悪魔から取ったものとはいえ……。ポイントはちゃんと押さえなきゃって言ったでしょ」
「申し訳ない」
「一体、何で僕が飲まなきゃいけないんですか?」
「この死生樹の葉はね、大事な人を失って起きた悲しみを消す効果があるのよ。あなたをここまで突き動かしたのは、大切な人を失ったことによる悲しみね。これを消すには、大切な人を生き返らせる必要がある。そうでしょ?」
「ま、まあ……」
「その悲しみを消してくれるわけだから、まあ効果は期待できると思うけど……」
「ど、どういうことなんですか?この葉っぱで、死んだ人は生き返らないんですか!?」
「マリア」
「……説明していない」
「後でお説教ね。まあ、結論から言えばそうよ」
「そんなぁ……!」
 ユタはテーブルに突っ伏した。
「悲しみを消すというのは、具体的にどういうことなんだ?」
 威吹はユタの肩に手を置きながら、イリーナを見据えて聞いた。
「狐妖怪。年上には敬語」
「いいから。それは、飲んでからのお楽しみってことかしら」
「ふざけるな!」
 威吹はイリーナを睨みつけた。しかし、それを余裕の表情で受け止める。
「ふざけてなんていないわ。少なくとも、魔界に行って苦労した甲斐はあると思うよ?飲んでみて損は無いと思う。まあ、今日はもう街に行くバスは無いし、今夜一晩考えてみたら?保存状態はいいから、明日でもいいと思うよ。マリア、この2人、泊めてあげていいよね?」
「……師匠がそう仰るのなら」
「ついでに私もご厄介になるわ。ちょっとあなた最近、修行をサボり気味みたいだし。例え一人前になったといっても、それはあくまで基本だけ押さえられている状態で、まだまだ積み重ねは必要だって言ったはずよ」
「……はい、すいません」
「ユタ、行こう」
「…………」
 威吹はユタを促した。待ち構えていたかのように、ミク人形が2人を先導する。弟子に説教する師匠の言葉を背にしながら、客室に向かった。
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原案紹介 9

2013-10-13 19:33:28 | 日記
[13:00.長野県某所の森に建つ洋館 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 私の名はマリアンナ・ベルゼ・スカーレット。長い名前なので、マリアと呼んでくれて構わない。師匠もそう呼んでくれている。ミドルネームはキリストの洗礼を受けたからではなく、魔道師が名乗るものなのだそうで、7つの大罪にまつわる悪魔から取っているのだそうだ。
 先日は面白い訪問者がやってきた。これから気の遠くなる時を過ごすことになる私だが、しばらくの間、記憶に残すことになるだろう。何しろ、私の弱点をいち早く見抜き、負かしたのだ。いくら師匠から一人前と認められたとて、どこかに驕りがあったとするならば自省しなくてはならない。例の弱点の克服は難しいだろうが、それを知られずに……または知られたとしても、それを防ぐことはできたはずだ。
 今朝も、また哀れな訪問者がやってきた。何故なら最近の訪問者にあっては、私の魔術向上の実験台になってもらっているからである。おかげさまで、今では一気に10体もの人形に戦隊を組ませることができるようになった。あくまでも、実験段階ではあるが。
 私の1日はただ魔道書を読み漁り、そして人形作り。魔道師とは、かくも退屈な存在であったか。まあ、師匠もそう言っていたが。因みに唯一緑色の髪で、何故か稲生某が『はつねみく』と呼んでいた人形、私は『ミカエラ』と名付けていたのだが、その名前も悪くないと思った。
 その『はつねみく』が、別の人形が弾くピアノの音色に合わせて歌う仕草をした。無論人形なので、歌はもちろんのこと、喋ることさえできない。だが、ぜんまいを回し、カタカタと音を立てながら、まるで声楽家のような身振り素振りで口をパクパクさせる姿は、いかにも歌っているようにしか見えない。こんな現象は、稲生某が訪問してからだ。奴が何かしたとは思えない。魔道師の素質はあるようだが、修行も積んでいない奴にそんな芸当ができるわけがない。
「分かった。分かったよ。もう少し私が力を付けたら、お前は歌えるようにしてやる。それで好きなだけ歌うがいいさ」
 私は“歌い終わって”、無表情で見つめる『はつねみく』にそう言った。

[15:00.同場所 マリア]

 いつものように人形作りも一段落して、窓際のソファでうたた寝していると護衛の人形が私を起こしてきた。幸い今日はアンジェラの夢を見ることもなく、目が覚めた。……アンジェラって誰かって?まあ……かつて私がまだ普通の人間だった頃に知り合った親友だ。今はこの世の者ではない。今はそんなことどうでもいい。それより、人形達が浮き足立っているのが分かった。どうやら、いつもとは違う訪問者がやってきたようだ。そういう時、さすがの私もエントランスに出向くようにしている。私は師匠からもらった紺色のローブを羽織ると、自室を出た。

[15:05.屋敷のエントランスホール マリア]

「あ、あなた達……!?」
 私は人形達が浮き足立った理由が分かったし、私もその訪問者達を前にして息を呑んだ。そこにいたのは、もう2週間前になるだろうか。その時訪ねて来た稲生某と狐妖怪に他ならなかったからだ。
 稲生某は右側の額に大きな絆創膏を貼り、左腕は骨折したのか、包帯を巻いて吊るしている。右足にも包帯を巻いていて、松葉杖を付いていた。狐妖怪の方は、さしたるケガもしていないようだが……。
「こんにちは。マリアさん。教わった通り、死生樹の葉を取ってきましたよ」
「は!?」
 私は耳を疑った。死生樹というのは魔界という名の幻想郷に自生しているもので、生身の人間は足を踏み入れることすら困難のはずだ。一体、どうやって?
「これでいいんですよね?」
 稲生某は標本ケースに入れた、大きな楓の葉のようなものを差し出した。それは確かに死生樹の葉に他ならなかった。
「……信じられない。人間と……妖怪の分際で……」
「信じようが信じまいが、事実は事実だよ。さあ、約束を守ってもらおうか」
 狐妖怪は私の前に1歩出た。すぐに人形が割って入ったが、私はそれを制した。
「ちょっと、待ってくれ」
「男に二言……って、女か。女でも、誇りある魔道師なら二言はやめろよ!」
 狐妖怪は私を睨みつけた。無論、二言を言うつもりはない。
「いや、まさか本当に持ってくるとは想定外だった。私の師匠を呼ぶから、中で待っててくれ」
「本当だな?」
「本当だ。約束は守る。証拠になるかどうかは分からんが、稲生氏。こっちに」
「は?」
「何をする気だ!?」
「心配ない」
 私は稲生氏の前に立つと、魔道書を開いて呪文を唱えた。そして、彼の前に右手をかざした。その手から、緑色に近い色の光が飛んで稲生氏を包む。その光が消えると……。
「あれ?痛みが消えた?」
「ケガを回復させた。架空の話の中にあるようだが、実際にある」
「うわっ、凄い凄い!」
 稲生某は包帯を取って喜んでいた。まあ、これくらいはサービスしてるやるさ。
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