報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

前回の続き 

2013-10-28 19:56:00 | 日記
[11:00.JR仙台駅 敷島孝夫&エミリー]

「“はやて”だって?よく直前で予約できたな。いくら閑散期だからって……」
「イエス。敷島さん」
 エミリーの愛の力は凄い。というか、ただの偶然だろう。敷島達は東京駅までの新幹線特急券と乗車券が1枚になったキップを手に、新幹線改札口へ向かった。
「11時26分発じゃ、昼過ぎに東京着だ。全く。マイペースな爺さんのせいで、東京くんだりだよ」
 敷島がぶつくさ文句を言っていると、エミリーがビニール袋に入った駅弁を買ってきた。
「昼食です」
「ああ。弁当かよ。寂しいなー」
 それでもこういう所を見ると、昔、初音ミクと行動していた頃を思い出す。ミクもこういう時には、よく弁当を買いに行ってくれた。
「あっ、おにい……敷島さん!」
「ん?」
 仙台駅2階から3階へのエスカレータを昇ろうとすると、若い女性の声がした。聞き覚えのある声だ。
「おっ、由紀奈ちゃんか。久しぶりだなー」
 エミリーはメモリーを検索した。20歳前後の黒いロングが特徴の女性。名前が由紀奈……。
(池波由紀奈。初見201×年10月○×日。当時14歳。仙台市泉区中吉台団地……)
 エミリーが自身のメモリーから掘り起こしたものは、紺色のブレザーの制服を着たショートの少女だった。
(鏡音レンにより、衝動的自殺を阻止する。その後、鏡音リンと友好関係を築く)
「これからどこ行くの?」
「急に東京出張が決まってさー。しかも、行ってすぐ帰ってくるムチャぶりプランだよ」
「へー。エミリーさんも気をつけて」
「サンキュー。ミズ池波」
 受け答えしている間でも、エミリーのデータのダウンロードは続く。
(その後、敷島さんとも交遊あり……)
 由紀奈が親しく敷島と接しているのは、そこに理由があるようだ。
「敷島さん。急がないと・列車の・到着する・時間です」
 エミリーが促した。
「おっ、そうか。それじゃまた」
「気をつけてね」

[11:30.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]

「いやー、びっくりしたなー。まさかあそこで、由紀奈と会うなんて」
「イエス」
「もっとびっくりしたのは、“はやて”、直前の予約で2人席が確保できたことだ。どういう功徳だ?」
「イエス」
「……キールのことで頭がいっぱいか、お前は」
「の、ノー……」
 敷島は紐を引っ張ると温まる牛タン弁当に箸をつけていた。
「それにしても、平和になったなぁ……。ウィリーがいなくなって、シンディもいなくなった。ベタな法則だとそれに変わる悪役が出てきそうなものだけど、そういうこともないし」
「イエス」
「悪は栄えず。必ず最後に正義は勝つ、だな」
「イエス」

 列車が東京駅に着くまでの間、敷島とエミリーの関係について軽く説明しよう。
 南里志郎亡き後、遺言に従って遺産を相続した弟子の平賀太一。当然、南里の私有物であるエミリーも相続することになった。しかし、あまり広くない家で、平賀には既にメイドロボットの七海がいる。そしてそれから2年後、平賀はめでたく赤月と結婚した。既に長男がいて、今年中には長女も産まれる予定とのことである。
 エミリーをベビーシッター代わりにする案もあったが、実際問題それ以前に、整備に手が回らなくなる(更にその前に、維持費も掛かる)ことが判明した。そこで、オーナーはあくまで平賀とした上で、財団にエミリーを管理してもらうことにした。しかし事務所内にも置き場所が無い為、敷島が管理者という名目で預かっているわけである。無論、維持費は全て財団持ちで。
 幸い学会(創価ではない)からも注目されているエミリーは“お荷物”になることもなく、ここ最近は科学技術省や防衛省からも目を向けられている。
 従って今は、敷島と生活を共にしている状態である。

[13:05.東北新幹線“はやて”28号、8号車車内 敷島孝夫&エミリー]

〔♪(あのチャイム)♪。「まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番ホームから19番ホーム。……」〕
「やけに展開が早いな」
「作者の・都合と・思われます」
 そうそう。って、コラ!……あ、いや、失礼。列車は定刻通りに、都内の都心部を走行していた。出迎えるかのように、車窓には山手線や京浜東北線が並走している。
「そういや東京来たの、5年振りだな。向こうで事務職してると、フケッぱなしだもんなー」
「イエス」
「ボーカロイド・プロデューサーやってた頃は、それこそ回数券使うくらい新幹線乗ってたのになー」
「イエス」
「東京も5年経てば、相当変わってるだろーなー。もはや右や左も分からないくらい……」
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。到着ホーム20番線、お出口は同じく左側です。……」〕
「……取りあえず、右か左かは分かったわ」
「イエス」
 列車は東京駅新幹線ホームに滑り込んだ。
コメント (3)
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冨士参詣深夜便

2013-10-28 02:20:16 | 日記
 ポテンヒット氏の競輪予想は、残念ながら外れたらしい。それにしても、新田という名字。どこかの新宗教の偉い人で、聞いたことがあるような……?まあ、気のせいか。とにかく、次なる戦いに期待したい。

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 “アンドロイドマスター”より。ボツネタ公開。尚、前作“ボーカロイドマスター”より、5年後の世界。

「今度の財団懇親会なんだけど、十条理事だけ、まだ返信無いんだよな……」
 財団事務所の事務室の中でボヤくのは敷島。
「相変わらず、マイペースな博士ですね」
 部下の青年が苦笑いをして、敷島のボヤきに応えた。今、ここでの敷島の肩書は参事という、あまり聞き慣れないものである。一般企業で言う課長クラスになるらしいが、この事務室には敷島を入れて5人しかいない。ここでは南里研究所時代と同じく、総務の仕事をしている。
「ボーカロイド・プロデューサーやってた頃が懐かしいよ」
「今じゃ、あのコ達も各研究機関に引き取られましたからね」
 南里研究所無き後、初音ミク達は他の研究所などに引き取られ、散り散りになってしまった。それでもたまに、関係者が財団を訪れた時などに再会する機会はあるので、完全にお別れになったわけではない。
 最近は巡音ルカが、海外レコーディングに成功したと風の噂で聞いた。
「皆、元気にやってるみたいで、良かったじゃないですか」
「まあね。それにしても十条理事、今日が返信締め切りだって分かってんのかな……」
「そんなに御心配なら、もう1度メールを送信してみては?理事もお歳ですから、体調不良かも……」
「うーん……。十条教授か……。キールの整備は終わってるんだよな?」
「確か、3日前に終わっているはずですよ」
 キール。フルネームはキール・ブルーと言い、十条が試作した執事ロボットである。20代の知的な青年をイメージして作られ、5年前に南里研究所に初お目見えした。
 今では、最も量産化に近いと目されているほどである。
「よーし。エミリーを呼んでくれないか」
「はい」
 部下は内線電話を取ると、受付嬢をやっているエミリーを呼んだ。

 すぐにエミリーはやってくる。5年前との違いはほとんど無い。表情がだいぶ豊かになったくらいか。南里との辛い別れを乗り越えたようだ。
「何か・御用ですか?」
「今すぐ十条理事と面会したい。大至急、アポを取ってくれ」
 敷島が言うと、
「? かしこまりました。ですが・総務部長を・通して・連絡するのが・本筋だと・思われますが?」
 悪く言えば、『口答え』してきた。しかし、これは敷島の想定内である。エミリーは本来、自分で考えて行動する人工知能を搭載している。与えられた命令も、よく自分で精査して最適なプランを考え出す。場合によっては、今のように提案することもある。
 なのに、どうして南里の時は、ただ与えられた命令を愚直にこなすことしかできないロボットであり続けたのかは今でも不明だ。エミリーが自分で封印していたことだけは分かっている。
「超A級の急ぎでね。正攻法だと、またスルーされる恐れがある。そこで、お前の出番だ。お前が十条理事と連絡する場合、直接理事にはしないだろう?間違いなく、“彼氏”に連絡するはずだ。当たりだろ?」
 すると、エミリーはカッと顔を赤らめた。そして、
「すぐに・御連絡致します」
 と、慌てて踵を返した。その際、使役しているメイドロボに、
「今度の・新しいマスターは・随分と・ロボット使いが荒い」
 と、ボヤいたという。この辺も、5年前と変わった。
「なに?エミリーに、彼氏なんていたんですか?」
 今のやり取りを見ていた敷島の部下が意外そうな顔をした。
「まあ、この数年、色々あったんだよ」
 敷島は自分でコーヒーを入れながら答えた。
コメント (5)
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