翌日になり、ユタと威吹は民宿を出た後、商店街に立ち寄った。花屋では花束、洋菓子店ではケーキを買った。
「手土産無しじゃ、ブッ殺されるのが関の山だからってかい?」
そんな様子を見て、威吹が言った。
「そういうつもりじゃないけど、確かに何かをお願いするのに、そもそも手ぶらというのも非常識だよね」
それにそうユタは応える。
1日2本しか無いバスに乗り込み、それでまた例の森へ向かった。街中を出発する時は乗客も7~8人くらい乗っているのだが、街から離れれば離れるほど乗客はいなくなり、やっぱり最後にはユタと威吹しかいなくなるのだ。一体、どういう利用客を想定しての路線なのだろうか?
「僕達以外に、この森に来る人達っているんですか?」
降りる時にユタは、運転手に聞いてみた。
「時々、林業関係者が乗りますよ」
昨日とは違う運転手は、そう答えた。だからこそ、明らかにそうでないユタ達が不審がられたのか。
(でも林業関係者って、自分の車で来るんじゃ……???)
森の中に入った時、ユタはふとそう思った。林業のことは、あまり詳しくない。
また違う問題が出されるのかと思ったが、1度クイズに合格すれば、あとは普通の道標になるのだろう。ユタ達が近づくと、まるでタッチパネルのモニタみたいに矢印が浮かび上がるのだった。
威吹は無言で、ユタに話し掛けようとはしない。実は民宿を出るまで、口論になったのだった。ユタの作戦は1つ。それは、ユタが単独で魔女の元を訪れること。あまりに危険だと威吹は猛反対した。だが、ユタには魔女が完全に訪問お断りのような気がしなかったのだ。恐らく魔女は、威吹が気に入らなかったのではないかと思った。初音ミクみたいな人形を投げつけたのを見たのかもしれないし、元々妖怪が嫌いなのかもしれない。それなら印象が悪いのは当然だ。
それでも威吹は、ユタの単独乗り込みに猛反対だった。しかしここまで来て帰るわけには行かず、ほぼ無理やり同意させたのである。
「とにかく危険だと分かったら、すぐに逃げるんだよ?」
「ああ」
「1日待つ。それで戻って来なかったら、屋敷に火を放つ」
「それ、僕ごと焼き殺すってことかい?」
「ごめん。直接乗り込むわ」
「そうして」
ユタ自身、威吹が同行しても意味が無いような気がしたので……。
再びあの屋敷の玄関前に立つ。
「こんにちはー!」
やっぱり鍵は開いていて、ドアが開いた。そして、やはり薄暗いホールがある。
「昨日お邪魔した稲生ユウタでーす!どなたかいらっしゃいませんかー!?」
大声で奥に向かって呼びかける。
「お前、また……!」
上から声がした。すると、吹き抜けの階段の上に険しい顔をした女主人と護衛(?)の人形が3体宙を舞っていた。
「昨日はすいませんでした」
キリスト教の修道服、フード部分と十字架が無くて、色調も黒から青色にすると、女主人が着るような服になるのではないだろうか。とにかく、服装もおよそ魔女に似つかわしくない。本当に魔女なのだろうか?この屋敷に仕えるメイド長とかじゃないよな???
「お詫びに、これを……」
ユタが花束とケーキの入った箱を差し出すと、女主人は一瞬意外そうな顔をした。
「……何も知らないようだから、言っておく」
「は?」
「私は“魔道師”だ。そして、魔道師は食事の義務は無い」
「……え?」
「魔道師は永遠を生きる。だから、食事の義務は無い」
「ええっ?」
「ま、せっかくだから……」
女主人は人形達に目配せした。武器を持っていない人形が3体やってきて、代わりに花束と箱を受け取り、どこかへ持って行った。
「話を聞こう」
「あ、ありがとうございます!」
案内された応接室のような所は玄関ホールや廊下と違い、日光が差し込む明るい部屋だった。テーブルを挟んで、ソファに向かい合って座る。
「僕、稲生ユウタと申します」
「マリアンナ・ベルゼ・スカーレット。マリアでいい」
「よろしくお願いします」
マリアという名の魔道師は、表情が変わらなかった。着ている服や容姿からして、まるで彼女自身もお人形さんみたいだ。
そこへ、先ほどの人形達がケーキを切り分け、紅茶と一緒に持ってきた。
「魔道師になると、永遠を生きるんですか?」
「そうだ。だから厳密に言えば、人間ではない。しかし、妖怪でもない」
あくまで食事をしなくてもいいのだが、嗜好として、たまにはしてもいいのだろう。
「どうして、この森にお1人で?」
すると、マリアは不愉快そうな顔になった。
「そんなことを聞きにわざわざ来たのか?」
「あ、いえ!すいません」
「さっさと本題に入れ」
「は、はい。あ、あの、死生樹って知ってますか?」
「死生樹?」
「はい。その葉っぱを使えば、どんな死体もたちどころに生き返るっていう奇跡の葉っぱです」
「ふむ……」
マリアは眼鏡を掛けて、百科事典のような本を開いた。眼鏡もよく似合う。
「この本は?」
「師匠から一人前になった記念に頂戴した魔道書だ」
「……あの、何も書いてませんけど?」
ユタが見ると、全てのページが白紙だった。
「それでいいのだ。魔道書は、基本的に人に見せるものではない」
「はあ……」
ペラペラとページを繰っていたマリアだったが、あるページで手を止めた。
「これだな」
そして、本をユタの方に向ける。そして、右手の人差し指を紙に当てると、文字と絵が浮かんだ。
最初は外国語で書かれていたが、文字が崩れたと思うと、日本語表記に変わった。
(何だか、タブレットPCみたいだなぁ……)
「葉っぱの特徴は、楓の葉を固く大きくしたような感じ。人間の手よりも大きい」
「そんなにですか?それで、この死生樹はどこに?」
すると、魔道書が元の白紙に戻った。
「その前に、私から質問させてもらう。正直に答えろ」
「は、はい」
何を聞いてくるのだろうか。教えてやる代わりに、魔術の実験台になる覚悟があるか?という内容だろうか?
「手土産無しじゃ、ブッ殺されるのが関の山だからってかい?」
そんな様子を見て、威吹が言った。
「そういうつもりじゃないけど、確かに何かをお願いするのに、そもそも手ぶらというのも非常識だよね」
それにそうユタは応える。
1日2本しか無いバスに乗り込み、それでまた例の森へ向かった。街中を出発する時は乗客も7~8人くらい乗っているのだが、街から離れれば離れるほど乗客はいなくなり、やっぱり最後にはユタと威吹しかいなくなるのだ。一体、どういう利用客を想定しての路線なのだろうか?
「僕達以外に、この森に来る人達っているんですか?」
降りる時にユタは、運転手に聞いてみた。
「時々、林業関係者が乗りますよ」
昨日とは違う運転手は、そう答えた。だからこそ、明らかにそうでないユタ達が不審がられたのか。
(でも林業関係者って、自分の車で来るんじゃ……???)
森の中に入った時、ユタはふとそう思った。林業のことは、あまり詳しくない。
また違う問題が出されるのかと思ったが、1度クイズに合格すれば、あとは普通の道標になるのだろう。ユタ達が近づくと、まるでタッチパネルのモニタみたいに矢印が浮かび上がるのだった。
威吹は無言で、ユタに話し掛けようとはしない。実は民宿を出るまで、口論になったのだった。ユタの作戦は1つ。それは、ユタが単独で魔女の元を訪れること。あまりに危険だと威吹は猛反対した。だが、ユタには魔女が完全に訪問お断りのような気がしなかったのだ。恐らく魔女は、威吹が気に入らなかったのではないかと思った。初音ミクみたいな人形を投げつけたのを見たのかもしれないし、元々妖怪が嫌いなのかもしれない。それなら印象が悪いのは当然だ。
それでも威吹は、ユタの単独乗り込みに猛反対だった。しかしここまで来て帰るわけには行かず、ほぼ無理やり同意させたのである。
「とにかく危険だと分かったら、すぐに逃げるんだよ?」
「ああ」
「1日待つ。それで戻って来なかったら、屋敷に火を放つ」
「それ、僕ごと焼き殺すってことかい?」
「ごめん。直接乗り込むわ」
「そうして」
ユタ自身、威吹が同行しても意味が無いような気がしたので……。
再びあの屋敷の玄関前に立つ。
「こんにちはー!」
やっぱり鍵は開いていて、ドアが開いた。そして、やはり薄暗いホールがある。
「昨日お邪魔した稲生ユウタでーす!どなたかいらっしゃいませんかー!?」
大声で奥に向かって呼びかける。
「お前、また……!」
上から声がした。すると、吹き抜けの階段の上に険しい顔をした女主人と護衛(?)の人形が3体宙を舞っていた。
「昨日はすいませんでした」
キリスト教の修道服、フード部分と十字架が無くて、色調も黒から青色にすると、女主人が着るような服になるのではないだろうか。とにかく、服装もおよそ魔女に似つかわしくない。本当に魔女なのだろうか?この屋敷に仕えるメイド長とかじゃないよな???
「お詫びに、これを……」
ユタが花束とケーキの入った箱を差し出すと、女主人は一瞬意外そうな顔をした。
「……何も知らないようだから、言っておく」
「は?」
「私は“魔道師”だ。そして、魔道師は食事の義務は無い」
「……え?」
「魔道師は永遠を生きる。だから、食事の義務は無い」
「ええっ?」
「ま、せっかくだから……」
女主人は人形達に目配せした。武器を持っていない人形が3体やってきて、代わりに花束と箱を受け取り、どこかへ持って行った。
「話を聞こう」
「あ、ありがとうございます!」
案内された応接室のような所は玄関ホールや廊下と違い、日光が差し込む明るい部屋だった。テーブルを挟んで、ソファに向かい合って座る。
「僕、稲生ユウタと申します」
「マリアンナ・ベルゼ・スカーレット。マリアでいい」
「よろしくお願いします」
マリアという名の魔道師は、表情が変わらなかった。着ている服や容姿からして、まるで彼女自身もお人形さんみたいだ。
そこへ、先ほどの人形達がケーキを切り分け、紅茶と一緒に持ってきた。
「魔道師になると、永遠を生きるんですか?」
「そうだ。だから厳密に言えば、人間ではない。しかし、妖怪でもない」
あくまで食事をしなくてもいいのだが、嗜好として、たまにはしてもいいのだろう。
「どうして、この森にお1人で?」
すると、マリアは不愉快そうな顔になった。
「そんなことを聞きにわざわざ来たのか?」
「あ、いえ!すいません」
「さっさと本題に入れ」
「は、はい。あ、あの、死生樹って知ってますか?」
「死生樹?」
「はい。その葉っぱを使えば、どんな死体もたちどころに生き返るっていう奇跡の葉っぱです」
「ふむ……」
マリアは眼鏡を掛けて、百科事典のような本を開いた。眼鏡もよく似合う。
「この本は?」
「師匠から一人前になった記念に頂戴した魔道書だ」
「……あの、何も書いてませんけど?」
ユタが見ると、全てのページが白紙だった。
「それでいいのだ。魔道書は、基本的に人に見せるものではない」
「はあ……」
ペラペラとページを繰っていたマリアだったが、あるページで手を止めた。
「これだな」
そして、本をユタの方に向ける。そして、右手の人差し指を紙に当てると、文字と絵が浮かんだ。
最初は外国語で書かれていたが、文字が崩れたと思うと、日本語表記に変わった。
(何だか、タブレットPCみたいだなぁ……)
「葉っぱの特徴は、楓の葉を固く大きくしたような感じ。人間の手よりも大きい」
「そんなにですか?それで、この死生樹はどこに?」
すると、魔道書が元の白紙に戻った。
「その前に、私から質問させてもらう。正直に答えろ」
「は、はい」
何を聞いてくるのだろうか。教えてやる代わりに、魔術の実験台になる覚悟があるか?という内容だろうか?