報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

原案紹介 4 とりあえず今日はここまで。

2013-10-11 20:59:06 | 日記
 翌日になり、ユタと威吹は民宿を出た後、商店街に立ち寄った。花屋では花束、洋菓子店ではケーキを買った。
「手土産無しじゃ、ブッ殺されるのが関の山だからってかい?」
 そんな様子を見て、威吹が言った。
「そういうつもりじゃないけど、確かに何かをお願いするのに、そもそも手ぶらというのも非常識だよね」
 それにそうユタは応える。

 1日2本しか無いバスに乗り込み、それでまた例の森へ向かった。街中を出発する時は乗客も7~8人くらい乗っているのだが、街から離れれば離れるほど乗客はいなくなり、やっぱり最後にはユタと威吹しかいなくなるのだ。一体、どういう利用客を想定しての路線なのだろうか?
「僕達以外に、この森に来る人達っているんですか?」
 降りる時にユタは、運転手に聞いてみた。
「時々、林業関係者が乗りますよ」
 昨日とは違う運転手は、そう答えた。だからこそ、明らかにそうでないユタ達が不審がられたのか。
(でも林業関係者って、自分の車で来るんじゃ……???)
 森の中に入った時、ユタはふとそう思った。林業のことは、あまり詳しくない。

 また違う問題が出されるのかと思ったが、1度クイズに合格すれば、あとは普通の道標になるのだろう。ユタ達が近づくと、まるでタッチパネルのモニタみたいに矢印が浮かび上がるのだった。
 威吹は無言で、ユタに話し掛けようとはしない。実は民宿を出るまで、口論になったのだった。ユタの作戦は1つ。それは、ユタが単独で魔女の元を訪れること。あまりに危険だと威吹は猛反対した。だが、ユタには魔女が完全に訪問お断りのような気がしなかったのだ。恐らく魔女は、威吹が気に入らなかったのではないかと思った。初音ミクみたいな人形を投げつけたのを見たのかもしれないし、元々妖怪が嫌いなのかもしれない。それなら印象が悪いのは当然だ。
 それでも威吹は、ユタの単独乗り込みに猛反対だった。しかしここまで来て帰るわけには行かず、ほぼ無理やり同意させたのである。
「とにかく危険だと分かったら、すぐに逃げるんだよ?」
「ああ」
「1日待つ。それで戻って来なかったら、屋敷に火を放つ」
「それ、僕ごと焼き殺すってことかい?」
「ごめん。直接乗り込むわ」
「そうして」
 ユタ自身、威吹が同行しても意味が無いような気がしたので……。

 再びあの屋敷の玄関前に立つ。
「こんにちはー!」
 やっぱり鍵は開いていて、ドアが開いた。そして、やはり薄暗いホールがある。
「昨日お邪魔した稲生ユウタでーす!どなたかいらっしゃいませんかー!?」
 大声で奥に向かって呼びかける。
「お前、また……!」
 上から声がした。すると、吹き抜けの階段の上に険しい顔をした女主人と護衛(?)の人形が3体宙を舞っていた。
「昨日はすいませんでした」
 キリスト教の修道服、フード部分と十字架が無くて、色調も黒から青色にすると、女主人が着るような服になるのではないだろうか。とにかく、服装もおよそ魔女に似つかわしくない。本当に魔女なのだろうか?この屋敷に仕えるメイド長とかじゃないよな???
「お詫びに、これを……」
 ユタが花束とケーキの入った箱を差し出すと、女主人は一瞬意外そうな顔をした。
「……何も知らないようだから、言っておく」
「は?」
「私は“魔道師”だ。そして、魔道師は食事の義務は無い」
「……え?」
「魔道師は永遠を生きる。だから、食事の義務は無い」
「ええっ?」
「ま、せっかくだから……」
 女主人は人形達に目配せした。武器を持っていない人形が3体やってきて、代わりに花束と箱を受け取り、どこかへ持って行った。
「話を聞こう」
「あ、ありがとうございます!」

 案内された応接室のような所は玄関ホールや廊下と違い、日光が差し込む明るい部屋だった。テーブルを挟んで、ソファに向かい合って座る。
「僕、稲生ユウタと申します」
「マリアンナ・ベルゼ・スカーレット。マリアでいい」
「よろしくお願いします」
 マリアという名の魔道師は、表情が変わらなかった。着ている服や容姿からして、まるで彼女自身もお人形さんみたいだ。
 そこへ、先ほどの人形達がケーキを切り分け、紅茶と一緒に持ってきた。
「魔道師になると、永遠を生きるんですか?」
「そうだ。だから厳密に言えば、人間ではない。しかし、妖怪でもない」
 あくまで食事をしなくてもいいのだが、嗜好として、たまにはしてもいいのだろう。
「どうして、この森にお1人で?」
 すると、マリアは不愉快そうな顔になった。
「そんなことを聞きにわざわざ来たのか?」
「あ、いえ!すいません」
「さっさと本題に入れ」
「は、はい。あ、あの、死生樹って知ってますか?」
「死生樹?」
「はい。その葉っぱを使えば、どんな死体もたちどころに生き返るっていう奇跡の葉っぱです」
「ふむ……」
 マリアは眼鏡を掛けて、百科事典のような本を開いた。眼鏡もよく似合う。
「この本は?」
「師匠から一人前になった記念に頂戴した魔道書だ」
「……あの、何も書いてませんけど?」
 ユタが見ると、全てのページが白紙だった。
「それでいいのだ。魔道書は、基本的に人に見せるものではない」
「はあ……」
 ペラペラとページを繰っていたマリアだったが、あるページで手を止めた。
「これだな」
 そして、本をユタの方に向ける。そして、右手の人差し指を紙に当てると、文字と絵が浮かんだ。
 最初は外国語で書かれていたが、文字が崩れたと思うと、日本語表記に変わった。
(何だか、タブレットPCみたいだなぁ……)
「葉っぱの特徴は、楓の葉を固く大きくしたような感じ。人間の手よりも大きい」
「そんなにですか?それで、この死生樹はどこに?」
 すると、魔道書が元の白紙に戻った。
「その前に、私から質問させてもらう。正直に答えろ」
「は、はい」
 何を聞いてくるのだろうか。教えてやる代わりに、魔術の実験台になる覚悟があるか?という内容だろうか?
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原案紹介 3

2013-10-11 18:03:58 | 日記
 屋敷の外に飛び出したユタと威吹。
「う……」
 やっと威吹は意識を取り戻した。
「大丈夫かい?」
「いってー……」
「本当に、凄い人だったね」
 屋敷が見えない所まで逃げてきた。
 威吹は悔しそうにガンッと近くにあった木を叩いた。たちまち木がメキメキと音を立てて倒れる。こんな力を持つ威吹の刀が斬れず、いとも簡単にやられてしまったのだ。
「このままじゃ収まりつかん!」
「どうするの?」
「知れたこと。あの屋敷を焼き払ってやる!」
「焼き払う!?」
 威吹の突拍子も無い発言に、ユタは飛び上がらんばかりに驚いた。
「見たところ、あの屋敷自体が魔術の賜物だと思う」
「多分そうだろうね。“魔法使いサリー”だって、魔法で家を建ててたからなぁ……。って、だったら、普通に火がつくとは思えないけど?」
「無論、つける火は普通の火じゃない。“狐火”だ」
 威吹は右手から青白い炎を出した。
「ダメだって!森に燃え移ったらどうするの!」
「案ずるな。狐火は燃やしたいものしか燃えない妖術だ。上手く屋敷だけ焼き払うさ」
「い、いや、やめておこう!僕達の目的は、そもそも魔女を倒すことじゃないんだから……!」
 その魔女から情報をもらうのが目的だ。そりゃ、魔女を倒すのが目的であるのなら、屋敷を焼き払うというのも1つの戦法なのかもしれない。
 しかし、だ。ユタには、どうもあの魔女が悪者には見えなかった。
「とにかく、今日は出直そう。早く戻らないと、最後のバスに間に合わない」
 ユタは威吹を何とか宥めて、森の外へ向かった。

 何とかバスに間に合い、駅に向かう。ローカルチックな田舎町ではあるが、民宿や商店街もある。今夜は民宿に泊まることにした。
「くそっ、忌々しい……!」
「もういいじゃんよー、威吹ぃ~」
 女に負けたということがよほど悔しかったようだ。封印前には巫女にやられたこともあって、そういった所にトラウマがあるのだろうか。
「魔女と言えば火あぶりだったな」
「いや、だからね……」
 因みに地元の人達はどう思っているのだろうかと疑問に思ったユタは、民宿の女将などに聞いてみた。すると、誰も知らなかった。屋敷のある森は国有林であるが、ほとんど農水省も手付かずの状態であるという。
(ますます、サリーちゃんに近いわけか……)
 話を聞いて、ユタはそう思った。もっとも、威吹を完敗させた魔女はホウキに跨ることはない。怪しげな黒ミサをするわけでもない。人形を使役するだけである。
「僕は、あの人が悪い人には見えないんだ」
 ユタが言うと、威吹は訝しげな顔をした。
「何だって?」
「どっちかって言ったら、僕達はあの人から見れば不法侵入者だろ?もし悪い魔女だったら、そんな侵入者を生きて帰したりはしないと思うんだ」
「歯牙にも掛けんということかもな」
「あの森から最寄りの街は、ここしかない。バスで1時間掛かる距離だ。それもほとんど信号や渋滞も無い田舎道をひたすら走る道路で1時間だから、なかなかの距離だよね。悪い魔女ならそんな距離でも、魔法を使って何か悪さをしてくると思うんだけど、そんな噂も無い」
「あったら今の時代、大変なんじゃないの?」
 だからこそ威吹も、表向きは盟約上の理由にしてはいるが、おとなしくしているのである。
「まあね。とにかく、僕達は魔女を倒すのが目的じゃないから。もう1度、トライしてみよう」
「2度と来るなと言われたけど?」
「いや、だからそこはさ……。とにかく、僕に考えがあるから。明日もう1度、訪ねてみよう。ね?」
「まあ、いいけど……」
 
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原案紹介 2

2013-10-11 14:56:59 | 日記
 玄関には呼び鈴もインターホンも無かった。来訪者など、全く想定していないのだろう。しょうがないので、ドアをノックする。
「こんにちはー!稲生ユウタと言いますが、どなたかいらっしゃいますかー!?」
 何度かノックをして呼び掛けてみたが、中から応答は無かった。
「……留守かい?」
 威吹は藁製のブーツを脱ぎながら、訝しげにユタを見た。
「いや、どうだろう……?」
 試しにドアを開けてみた。すると、開いた。
「鍵が開いてるよ」
「居留守は困るなぁ。こっちは遠路はるばる武州から訪ねてきたってのに……」
「まあまあ」
 文句を言いたげな威吹に、ユタはなだめた。クイズ形式の道標に辟易していたのが、ここに来て文句という形になって出てきたか。
「とにかく、入ってみよう」
「うん」
 ドアを開けて、中に入る。
「お邪魔しまーす」

 玄関ホールは薄暗く、中に人の気配は無かった。向かって正面には吹き抜け形式の、2階に上がる階段がある。
「この場合、洋館の主人ってのは2階に住んでるんだったっけか???」
 ユタは首を傾げた。威吹はフンフンと鼻をヒクつかせる。
「誰かが住んでいるようだな……。空き家ではない」
 と言った。
「そりゃそうだろ」
 ユタも空き家だとは思わない。屋敷の周りや屋根の除雪はしっかりされていたし、ホールは薄暗いが、埃っぽいわけでも、朽ちているわけでもない。
「まあいい。奥の方へ行ってみよう」
 と、威吹。
「奥?」
「霊力は2階じゃなく、奥から感じる」
「おお、そうか」
 階段ではなく、左奥のドアを開けてみた。

 こんな森の奥に、電気は通っているのだろうか。左のドアを開けると奥に続く廊下があって、こりゃまた薄暗いのだが、まるで人感センサーの如く、廊下のランプが灯った。
「ユタ、気をつけて」
 威吹は髪の中から刀を取り出し、それを左の腰に差して言った。
「さっきから霊気が強くなってる。いきなり襲ってくるかもしれない。ボクから離れない方がいい」
「あっ、ああ……」
 ユタは緊張しながら頷いた。その時、何かを踏んづけた。
「うわっ!」
 ユタはびっくりして、威吹の手を掴んだ。
「……人形だな」
 威吹はユタの足元を見て言った。
「はー、びっくりした……」
 それはフランス人形によく似ていた。似ていたというのは、ユタはその人形を見てもっと別のものを連想したからである。
 緑色の長い髪をツインテールにしているその人形は、
「初音ミクみたいだ」
 と、思った。
「はつねみく???何だい、それ?」
 当然知らない威吹は首を傾げる。
「いや、別に……」
「全く。邪魔な人形だ。廊下のど真ん中で寝てやがって」
 威吹は無造作にその人形を掴みあげると、壁際に放り投げた。
「ダメだよ。人んちのもの、勝手に……」
 ユタは呆れて威吹に突っ込んだ。
 その時、威吹の耳には聞こえた。風を切る音が!
「くっ!」
 威吹が刀を抜くのと、奥から高速で武器を持った人形が飛び掛ってくるのは同時だった。
 ヒュウッ!と、威吹が刀で風を切る音がユタの耳にも聞こえた。
「何奴!?」
 そこにいたのは、フランス人形の衣装を着た人形が3体。しかし人形らしく、表情は固定的で変わることはない。しかし、手に持っている武器は、およそ人形には似つかわしくない大型でゴツいものだった。死神が持つような鎌と、西洋の騎士が持っていたようなスピア、そしてサーベルである。
「出ていけ。ここからすぐに」
 更に奥から、別の大きな人形が現れた。宙に浮かんでいる先ほどの3体の人形と違い、大きさが人間と等身大のせいか、ちゃんと廊下を歩いて……って!
(いやいや!人形じゃなくて人間だ!)
 ユタはそれに気づいた。表情が無く、また見た目も人形みたいな容姿をしていたからか、つい見間違えた。
「特に、そこの汚らわしい妖怪」
「何だと!?」
 威吹は無表情で冷たい目をしている女を睨みつけた。
「あ、あの、すいません!勝手に入ってしまって!僕達、ここに住んでいると言われてる魔女の人に会いに来たんです!あなたがそうでしょうか?」
「帰れ!」
 だが、ユタの質問に答えることもなく、ただ退出を勧告するだけであった。その言葉に応じるかのように、更に人形の数は2体増えた。
「ユタ、危ない!」
 刃物がユタの頭上をかすめた。
「来訪者の歓迎がなってないな、ここの屋敷の主は!」
 威吹は刀を抜いて、宙を舞う人形の1体に斬りつけた。
「!?」
 威吹の妖刀は人間は斬れない。なので江戸時代、人間の侠客と斬り合う機会にあった時は脇差を使用していたという。脇差は妖刀ではなく、本物だからだ。
 その妖刀が、弾き返された。
「愚かな妖怪め」
 女は右手を挙げて、威吹を指差した。手の空いている大鎌を持った人形が、それを威吹に振り落とす。
「ま、待ってください!すぐに出ますから!」
 だが、人形が攻撃する方が先だった。ところが、人形は刃のある方ではなく、反対側のハンマーになっている部分で、威吹を殴りつけただけだった。
 威吹は床に倒れこみ、意識を失った。
「2度と来るな!」
 威吹を抱えて逃げる刹那、背後から屋敷の主人と思しき女の冷たい声が背中に突き刺さった。
(威吹が簡単に負けるなんて……)
 ユタは絶望的になってしまった。
 そして、命からがら屋敷の外へ飛び出したのだった。
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原案紹介 1

2013-10-11 00:02:52 | 日記
 “ユタと森の魔女”

 その魔女は森の奥に住んでいるという。いつから住んでいるのか、どうしてそこに住んでいるのか、全くもって分かっていない。ただ、人ならざる者なら噂で聞いている。屋敷に侵入した妖怪は2度と生きて帰ってくることはなく、人間についても生きて帰れる者とそうでない者がいるということを。生きて帰ってこれた人間達は、口を揃えて言う。
「あの屋敷は人形の館だった」
 と。

 その屋敷に住む女主人はそんな噂など意に介することも無く、天気のいい日は屋敷で1番日当たりの良い部屋でうたた寝をするのがマイ・ブームとなっている。だが、その目覚めは決して快適なものではないようだ。
「……うう……。一人ぼっちは嫌だよう……」
 よく悪い夢を見て目が覚める。それは彼女が魔女になることを決心した大きな出来事が断片的に現われるものだが、魔女になってもそれが払拭できないのが口惜しいところだ。
「……大丈夫。大丈夫だから」
 彼女は顔を覗き込む、金髪に鮮やかなドレスを身に纏った人形に言った。
「……なに?また訪問者が来たの?……分かった。じゃあ、ちょっと行ってみる」
 彼女は横たわっていたソファから、重い腰を上げた。

 3月某日。まだ雪の積もる道を走る1台の路線バス。その中に、乗客が2人だけ乗っていた。1番後ろの席に座るのは稲生ユウタ。その隣に座るのは、着物姿の威吹邪甲である。
 彼らはある目的があって、このバスに乗っていた。長野県でも屈指の都市からローカル線に揺られること2時間。そこから更にこのバスに乗って、1時間ほど乗っている。鉄道の本数は1時間に1本しか無かった上、バスの本数に至っては1日に2本しか無い有様だった。
「終点です。お忘れ物にご注意ください」
 バスが終点に到着する。はっきり言って、何にも無い。あるのは、鬱蒼とした森だけである。運転手も、どうしてユタ達がここまで来たのか不思議そうな顔をしていた。
「次のバス……。15時25分発なんだけど、それがもう最終だから。乗り遅れないようにね」
 ユタ達が運賃を払って降りる時に、運転手がそう言った。といっても、6時間くらいは空いている。
「分かりました」
 ユタはそう応えた。
 ユタ達の目的地こそ、この森。この森の奥に住むという魔女に会う為である。

 事の始まりは3ヵ月前に遡る。その時、ユタが交際していた彼女が死亡した。交通事故だった。一生懸命折伏をして、先生にお応えして行けば、必ず幸せになれると聞いていたのに……。失意の底に落ちていたユタを何とか復活させようと、威吹は色々と考えた。そして、ユタの食指を動かしたのは、彼女を生き返らせる方法だった。魔境には、威吹の故郷である“妖狐の里”がある。そこで情報を集めて行くうちに、人間界に住むという魔女が、死んだ人間を蘇生させる方法を知っているのだという。それはどこの世界にあるのかは不明だが、死生樹という木に生える葉っぱ。これを使用すれば、たちどころに息を吹き返すとのこと。遺体はどんな状態であっても構わない。生前の元気な状態にしてくれるというのだから、これほど素晴らしい話は無い。しかもその魔女の居場所を調べて行くと、長野県の某所にある森の中に住んでいるそうだ。
 決行日はユタが高校を卒業して、大学に入るまでの間の春休み。約1ヶ月ある。それを利用して、まだ春遠い現地に赴いたというわけである。

「噂は本当だったねぇ……」
 ユタはそう呟いた。広大な森のどこに魔女が住んでいるかは分からない。しかし、道ならぬ道には要所要所に道標があって、それに記載されている内容に従って行くと、魔女の屋敷にたどり着けるのだそうだ。
 道標は10個あった。その全てが、ユタや作者にまつわるクイズだった。これに正解して行くと、道標に正しい方向が表示されるという、いかにも魔女らしいものだった。
 今、ユタ達は魔女の屋敷の前に立っている。因みにクイズに間違うと、最初からやり直しになるというアドベンチャー性抜群の(?)道中だった。屋敷は昔の洋館風。一見すると空き家のようであるが、ちゃんと住人がいて手入れされているのが分かった。ここまで来る途中の獣道は全く除雪されていなかったのに、屋敷の周りはもちろんのこと、屋根の雪下ろしもちゃんとされていたからである。
「じゃあ早速、魔女さんを訪ねてみよう」
 ユタは固唾を飲んだ。
「この期に及んで、留守でしたってのはカンベンだな」
 威吹は冗談ぽく言った。そして、玄関のドアに近づいたのだった。
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