報恩坊の怪しい偽作家!

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原案紹介 9

2013-10-13 19:33:28 | 日記
[13:00.長野県某所の森に建つ洋館 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 私の名はマリアンナ・ベルゼ・スカーレット。長い名前なので、マリアと呼んでくれて構わない。師匠もそう呼んでくれている。ミドルネームはキリストの洗礼を受けたからではなく、魔道師が名乗るものなのだそうで、7つの大罪にまつわる悪魔から取っているのだそうだ。
 先日は面白い訪問者がやってきた。これから気の遠くなる時を過ごすことになる私だが、しばらくの間、記憶に残すことになるだろう。何しろ、私の弱点をいち早く見抜き、負かしたのだ。いくら師匠から一人前と認められたとて、どこかに驕りがあったとするならば自省しなくてはならない。例の弱点の克服は難しいだろうが、それを知られずに……または知られたとしても、それを防ぐことはできたはずだ。
 今朝も、また哀れな訪問者がやってきた。何故なら最近の訪問者にあっては、私の魔術向上の実験台になってもらっているからである。おかげさまで、今では一気に10体もの人形に戦隊を組ませることができるようになった。あくまでも、実験段階ではあるが。
 私の1日はただ魔道書を読み漁り、そして人形作り。魔道師とは、かくも退屈な存在であったか。まあ、師匠もそう言っていたが。因みに唯一緑色の髪で、何故か稲生某が『はつねみく』と呼んでいた人形、私は『ミカエラ』と名付けていたのだが、その名前も悪くないと思った。
 その『はつねみく』が、別の人形が弾くピアノの音色に合わせて歌う仕草をした。無論人形なので、歌はもちろんのこと、喋ることさえできない。だが、ぜんまいを回し、カタカタと音を立てながら、まるで声楽家のような身振り素振りで口をパクパクさせる姿は、いかにも歌っているようにしか見えない。こんな現象は、稲生某が訪問してからだ。奴が何かしたとは思えない。魔道師の素質はあるようだが、修行も積んでいない奴にそんな芸当ができるわけがない。
「分かった。分かったよ。もう少し私が力を付けたら、お前は歌えるようにしてやる。それで好きなだけ歌うがいいさ」
 私は“歌い終わって”、無表情で見つめる『はつねみく』にそう言った。

[15:00.同場所 マリア]

 いつものように人形作りも一段落して、窓際のソファでうたた寝していると護衛の人形が私を起こしてきた。幸い今日はアンジェラの夢を見ることもなく、目が覚めた。……アンジェラって誰かって?まあ……かつて私がまだ普通の人間だった頃に知り合った親友だ。今はこの世の者ではない。今はそんなことどうでもいい。それより、人形達が浮き足立っているのが分かった。どうやら、いつもとは違う訪問者がやってきたようだ。そういう時、さすがの私もエントランスに出向くようにしている。私は師匠からもらった紺色のローブを羽織ると、自室を出た。

[15:05.屋敷のエントランスホール マリア]

「あ、あなた達……!?」
 私は人形達が浮き足立った理由が分かったし、私もその訪問者達を前にして息を呑んだ。そこにいたのは、もう2週間前になるだろうか。その時訪ねて来た稲生某と狐妖怪に他ならなかったからだ。
 稲生某は右側の額に大きな絆創膏を貼り、左腕は骨折したのか、包帯を巻いて吊るしている。右足にも包帯を巻いていて、松葉杖を付いていた。狐妖怪の方は、さしたるケガもしていないようだが……。
「こんにちは。マリアさん。教わった通り、死生樹の葉を取ってきましたよ」
「は!?」
 私は耳を疑った。死生樹というのは魔界という名の幻想郷に自生しているもので、生身の人間は足を踏み入れることすら困難のはずだ。一体、どうやって?
「これでいいんですよね?」
 稲生某は標本ケースに入れた、大きな楓の葉のようなものを差し出した。それは確かに死生樹の葉に他ならなかった。
「……信じられない。人間と……妖怪の分際で……」
「信じようが信じまいが、事実は事実だよ。さあ、約束を守ってもらおうか」
 狐妖怪は私の前に1歩出た。すぐに人形が割って入ったが、私はそれを制した。
「ちょっと、待ってくれ」
「男に二言……って、女か。女でも、誇りある魔道師なら二言はやめろよ!」
 狐妖怪は私を睨みつけた。無論、二言を言うつもりはない。
「いや、まさか本当に持ってくるとは想定外だった。私の師匠を呼ぶから、中で待っててくれ」
「本当だな?」
「本当だ。約束は守る。証拠になるかどうかは分からんが、稲生氏。こっちに」
「は?」
「何をする気だ!?」
「心配ない」
 私は稲生氏の前に立つと、魔道書を開いて呪文を唱えた。そして、彼の前に右手をかざした。その手から、緑色に近い色の光が飛んで稲生氏を包む。その光が消えると……。
「あれ?痛みが消えた?」
「ケガを回復させた。架空の話の中にあるようだが、実際にある」
「うわっ、凄い凄い!」
 稲生某は包帯を取って喜んでいた。まあ、これくらいはサービスしてるやるさ。

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