日々是好日

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「最先端研究開発支援プログラム」あれこれと民主党への注文

2009-09-06 09:57:12 | 学問・教育・研究
9月4日の夕刻、最先端研究開発支援プログラム「中心研究者及び研究課題」の決定を内閣府が発表した。その内容は「中心研究者及び研究課題」の選定結果で見ることが出来る。asahi.comは

 課題別では、ナノテク、環境、材料、情報通信など「出口を見据えた研究開発」が25件を占め、基礎科学研究は5件だった。11人は東京大学教授らで、東北大学、京都大、大阪大、慶応大から複数の研究者が選ばれた。富士通や日立製作所、東レなど企業の研究者も4人入った。
(2009年9月4日22時20分)

とも伝えた。やはり基礎科学研究の比重は軽く5件に留まった。かりにこのプロジェクトが動き出すにせよ、私が恐れた日本の科学研究基盤を崩壊が最小限に食い止められそうである。

生物系で私が何とかついて行けそうな領域で、審良静男氏の「免疫ダイナミズムの統合的理解と免疫制御法の確立」とか、山中伸弥氏の「iPS 細胞再生医療応用プロジェクト」などは、申請するのが当然、と期待されて申請した結果のように思う。また私は不案内であるが、岡野栄之氏の「心を生み出す神経基盤の遺伝学的解析の戦略的展開」とか、柳沢正史氏の「高次精神活動の分子基盤解明とその制御法の開発」なども、この領域では知る人ぞ知るの存在だったのではなかろうか。もしそうなら今回のような大仰なセレモニーをしなくても、「天の声」がどこかでつぶやけばそれで済んだことである。

ついでに感じたままを述べておくと、島津製作所の田中耕一氏が「次世代質量分析システム開発と創薬・診断への貢献」で選定されている。島津製作所とあろうものが、田中氏の研究を支援するのに税金を当てにしないといけないとは、そこまで会社が逼迫しているのだろうか。外村彰氏の日立も同じである。

何人がヒアリングを受けたのかはっきりしないが、公表された議事録では、『ヒアリング対象とする必要があると思われる提案80件を上限に選択し』とあるので、80人がヒアリングを受けたとしよう。応募総数は565件、そして選定手順に『(3)全件審査の原則 構成員は、原則として全ての提案を審査する。特別な事情があり全ての提案の審査が困難な場合には、構成員は事務局に連絡し、必要な調整を行う。』とあるから、ワーキンググループの構成員にとっては、565件を80件に絞るまでも大変な作業であっただろう。本庶座長代理の言葉が記録されている。

私も昨日、大分一生懸命やった。それでわかったことは、自分の専門分野はやれるということ。しかし、専門外のところは、読むのに物すごく時間がかかる。理解しながら、つまり、字面だけ読んでも意味がないわけで、したがって、このままこの時間で私がやるとすれば、私がやることは専門分野外でちょっとおもしろそうなものを何件かピックアップする。そのほかは、自分がわかるところからピックアップするという形にならざるを得ない。ほかはちょっと、ページをめくるだけで大分時間がかかるから、現実問題としてそういう形にならざるを得ない。(後略)

極めて率直、明快である。全件審査の原則というような「お役人的発想」ではなくて、構成員が自分の得意とする分野で名乗りをあげて、その分野での提案を集中的に精査することで、より申請の理解を深めるべきではなかったのか。そうすればヒアリングの質疑応答を通じて、提案の評価すべき要点がより浮き彫りされたことだろう。ヒアリングは『持ち時間:25分(発表10分(時間厳守)、質疑10分、(ヒアリング対象者退席後)採点時間5分)』であったようだ。提案の内容がすでに構成員によって精査されているのに、なぜその形式的な繰り返しに過ぎない口頭発表が必要なのだ。ヒアリングに入ったら直ちに質疑応答に入るべきなのである。質疑応答に入る前に、主要な質問予定者が構成員に質疑のポイントを説明しておけば、十分質疑の目的は達成されるはずである。ヒアリングを受けたにもかかわらず落選した申請者には、ヒアリングを含めてその審査方法に数々の不満があることだろう。その不満を何らかの形で集約し、研究費申請の審査のあり方を今後ともより合理的なものにすべく役立たせていただきたいものである。

「最先端研究開発支援プログラム」のぜひはともかく、選定に至る過程がかなり迅速に公表されているので、これはそれなりに評価されるべきであろう。「最先端研究開発支援ワーキングチームスケジュール」はあらかじめ公表されている。最終的には『8月下旬以降 総合科学技術会議本会議・中心研究者及び研究課題の決定』と定められていたので、9月4日の読売新聞の記事は

 同基金は、民主党も賛成して創設された。しかし、政権交代直前での選定について、民主党の岡田幹事長は同日、「この時期に決まることに違和感を覚える。駆け込み的なものは精査して、場合によっては凍結もありうる」と語った。
(2009年9月4日21時08分 読売新聞)

と伝えるが、岡田幹事長の違和感というのは、このことに関する限りいわれなき思い込みである。

予算の凍結はまったく政治的な判断である。私は凍結には賛成であるが、民主党はかりそめにも総合科学技術会議本会議が決定した中心研究者及び研究課題の個々に口を挟むべきではない。凍結するのなら「最先端研究開発支援プログラム」そのものの予算執行を停止すべきなのである。節度ある判断を期待したい。