日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

一弦の琴

2004-11-01 20:08:04 | 音楽・美術
昨日は年に一度、習い事の成果を披露する催しが京都であった。一弦琴演奏会である。

勤めの関係でかって京都で20年余り単身赴任の生活を送った。京都に赴任することが決まった時に、日本の伝統芸能の一つでも身に付けたいとの望みをいだいが、現実には仕事に追われて、気がついてみると、何一つ習得することなく京都で定年を迎えてしまった。
神戸に引き揚げてきてからあるきっかけで一弦琴なるものの存在を知り、この道に足を踏み入れることになった。第二の故郷となった京都でまたとないお師匠さんに出会い、それ以来ほぼ5年が経過した。

一本の弦をひき渡しただけの楽器であるから、勘所を押さえて弦を弾くとその位置に応じて音程が変化する。すなわち曲を演じることが可能になる。一時に一カ所を押さえて弦を弾くだけのことであるから、演奏技法はきわめて単純である。その単純さにも惹かれてお稽古を始めることにした。

お稽古でとにかく気に入ったのは、師匠宅を訪れて一対一の差し向かいで曲の伝授を受けることである。昔、家庭教師で生徒と一対一に対したことはあったが、立場を変えて教わる側に身をおくと、なんと贅沢をさせて貰っているのだろうとの思いが高まる。

一弦琴では琴を弾きながら唄うのが基本になっている。演奏の指使いなどを目の前に示して貰ったうえ、口移しで唄を教わる。一応お師匠さんの工夫になる教本はあるのだが、曲に緩急をつけまた間合いをとる、これは身でもって覚えるしかない。西洋音楽では楽譜通りに拍子などを数えることで曲の流れが浮かび上がってくるけれど、一弦琴では教本に忠実な予習をしていってもなんの役にも立たない。あくまでも復習、すなわちお浚いを重ねることでポイントを会得することになる。

一弦琴は昔は男性が演奏していたそうである。幕末の頃、一弦琴の会とかの名目で倒幕の志士などが会合を開いていたこともあるらしい。ところがこの世界はいち早く女性に取って代わられて、男性奏者は有るか無きかの存在である。昨日の演奏会でも男性は私ただ一人になってしまった。

一弦琴はもともと人に聞かすためのものでなく、自分で楽しむためのものである、というのがいい。人が寝静まった頃、一人で琴をかなで思うままに唄う、そして工夫を加える。一人の世界を生き生きと遊び回っているこの楽しさに、人生の豊饒を味わう。