Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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バー・ラジオのカクテルブック

2005-12-30 21:13:28 | 報道写真考・たわ言
写真の整理に疲れて、コンピュータからはなれて背伸びをすると、本棚に立てかけてあった本の背表紙がふと目に入って来た。

「バー・ラジオのカクテルブック」。。。もう20年近くも前に買った一冊だ。

渋谷にあった老舗バー「ラジオ」(現在もあるかどうかはわからない)でだしているカクテルのレシピ本なのだが、カクテルにまつわるエッセイもふんだんにちりばめてあり、読み物としても粋な本である。しかし何よりも、本の全編にわたって掲載された、きらきらと光る個性的なグラスに注がれた、色とりどりの魅力的なカクテルの写真がなんともいえず美しい。

ページをめくっていくと、すこしカビ臭くなったような古本の匂いとともに、この本を買った頃のことを思い出した。

大学1年のときに、友人の紹介で千葉市内のバーでアルバイトをするようになった僕は、だんだんとその世界にひきこまれ、そのうち授業にもほとんど顔を出さずにバイトの時間ばかりが増えていくようになった。夜の仕事だったので他のアルバイトに比べて遥かに賃金が良かったこともあるが、それだけではない。もともと腕一本で生きる「職人」というものに憧れていた僕は、酒もろくすっぽ飲めないくせに、バーテンダーという職人気質の仕事に惹かれていったのだ。

白いジャケットをスマートに着こなして、シェーカーをふり、ピカピカに磨かれたグラスにカクテルを注ぐバーテンダーの姿はなんとも格好がいい。店の先輩と東京の一流ホテルのバーに客として見学にいったり、またバーテンダー講習会に参加したりしているうちに、バーテンダーとして身を立て、将来自分の店をもちたい、とまで思うようになっていった。

子供時分からの「思い込んだらつっぱしってしまう性格」で、大反対する親の説得も聞く耳もたずに、浪人までしてはいった国立大学を中退。プロとしてバーテンダーの世界に足を踏み入れた。22歳の頃だったと思う。

その頃は、とにかく一流のバーテンダーになりたい。。。そんな一心で、休日には他のプロの仕事を見に行ったり、本を買い漁っては酒やカクテルの勉強をしていた。「バー・ラジオのカクテルブック」は、そんなときに手に入れた一冊だったのだ。

その後数年がたち僕は、バーテンダーとはまるで接点のないような、報道写真家を職業とすることになった。

それでも、毎日のようにシェーカーの振り方やバースプーンのまわし方を練習していたあの頃の自分が、いま僕の撮る写真のどこかに反映しているんだろうな。。。そんな気がするし、そう信じたいとも思う。

ここ数年間開いたこともなかったこの本のせいで、一途だったあの頃をこんな年の瀬にしみじみと思い出すはめになった。