Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

世界最大の動物生贄

2015-01-27 14:56:29 | アジア
ネパール南部、インドとの国境から20キロ程離れた農村バリヤプールにある寺院で、5年に一度ひらかれるガディマイ祭。ガディマイとはヒンドゥー教の女神のひとつで、1ヶ月に及ぶ祭りの期間中、寺院は女神を詣でる数百万の人々でごった返す。もっとも賑わう「神への生贄日」に、祭りを訪れた。

高いレンガの壁で囲まれた広大な空き地に集められた水牛たちが、草を食みながらゆっくりと歩き回っている。ざっとみても2−3千頭はいるだろう。かなりの数だ。午前9時をまわった頃だったか、壁の入り口から入ってきた100人を超える男たちが、水牛たちの間を縫うように、広場に散らばっていった。彼らはみな刃渡り50センチ以上もあるナイフを手にしている。まもなく男たちは、ナイフを大きくふりあげ狙いをさだめると、片っ端から水牛の首を切り落としはじめた。頭を失った胴体は一瞬で地面に崩れ落ち、首から血が吹き出してくるのがみえる。2時間たらずで広場は黒い屍でびっしりと埋め尽くされ、僕の目の前にはこれまで見たこともなかった凄惨な光景が広がった。生贄にされるのは水牛だけではない。鳩、ネズミ、鶏、ヤギ、そして豚といった動物の新鮮な血を神に捧げることによって、人々は病からの回復や、豊作を願うのだ。祭りのあいだに殺される動物の数は、20万を超えるといわれる。

ガディマイ寺院の生贄の伝統は18世紀にはじまったといわれるが、この残酷ともいえる大量殺戮に対して、近年は批判が高まってきた。 生贄の中止を求めて欧米でもデモがひらかれるようになったが、寺院側は「これは伝統。やめることはできない」と、聞く耳をもたない。しかし、伝統だけではなく、経済的利益も大きな理由との声もある。

水牛の持ち主から徴収する「生贄代」や、殺戮後の肉や皮を業者に売る利益など、生贄は寺院にとって無視できない収入源だ。さらに、宿泊や飲食費など、祭りの期間中に訪れる数百万の人々による経済効果もかなりのものになる。田畑しかない田舎町では、5年に一度とはいえ、この祭りは観光客を呼ぶ大切なイベントだ。ガディマイ祭りを誇りに思っている地元民たちも決して少なくない。それでも、動物福祉組織をはじめとした地道な啓蒙活動も徐々に実を結び、殺された水牛の数はおよそ4千頭。前回の2009年に比べて半分近くまで減少した。

果たしてこの「悪しき伝統」をなくし、生贄なしのガディマイ祭りが実現するのか。次の2019年を期待しよう。

(もっと写真をみる http://www.kunitakahashi.com/blog/2015/01/27/the-worlds-largest-animal-sacrifice/ )

(この記事はヤフージャパン・ニュースにも掲載しています)

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1 コメント

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Unknown (高橋さんへ)
2016-06-15 19:31:22
すごいですね。日本では食べるために牛とか豚とか犠牲になりますが。
神様のためにそんなにとは。宗教の違いですかね?よく分かりませんが。
あっ、この前コメント返し有り難うございます。
リベリアの国は今はどうなったのですか!
高橋さんは、外国の報道カメラマンなんてすごいですね。
命がけで撮影してるからすごいですね。
きっと先祖だか誰か守ってくれる人がいるんでしょうね。
絵本と書きましたが。
写真と文読んでると。
すごいなぁと思う。
生きるためにあの中で水くみにいったり。
自分が死ぬかもしれないのに兵隊になったり。
その中に日本の報道カメラマンもいるとは。
何がきっかけで、報道カメラマンになったのですか?なんて思いました。
これからも体に気をつけてお仕事お疲れ様です。
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