Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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後藤さんの死に思う

2015-02-02 23:24:35 | 中東
ああ~、やっぱりでたなあ「自己責任」論。湯川さんに続いて後藤さんも捕まってから、また高遠さんたちのときのように彼らが責められるんじゃないかと心配だったが、それが現実になってしまった。しかし、殺された彼らを非難する人たちには、ちょっと冷静になって以下のことを考えてもらいたいなあと思わずにいられない。

(1)なぜ後藤さんたちが殺されたのか?それはイスラム国が日本を「敵」とみなしたからでしょう。ではなぜ日本が彼らの敵になってしまったのか?もっとも直接の原因は安倍総理による「イスラム国対策のため」の中東諸国への2億ドルの支援と、イスラエルとの関係拡大の示唆だろう。中東情勢はとても複雑なのに、熟考もせず、ただ己のいいカッコしのために金をばらまいただけの総理の外交で、日本はイスラム国から敵とみなされることになってしまった。殺された2人がイスラム国を怒らせたわけではない。彼らは結果的に安倍外交のつけを払わされたのだ。

(2)「政府から行くなと言われているのに勝手にいったのだから、責任は自分にある」という意見に関しては、基本的にはこれは僕も同意。ただ、そんなことはジャーナリストの後藤さんならわかっていたはず。僕自身も、ここ2年ほど紛争地の現場から離れているが、イラクやアフガニスタンなどに出向くときはそれなりの覚悟をもってでかけていたし、戦地に行くジャーナリストであればそれはあたりまえのことだと思う。だいたい政府から行くなといわれて、ハイそうですかと従ってばかりいたのでは紛争地での仕事などできはしない。社員に対する責任をとったり、リスクを冒したがらない報道各社は、そういうフリーランスの人たちを利用してネタを仕入れるわけだし、彼らがいるからこそ一般の人たちは現場で何が起こっているのか知ることができるのだ。そういう意味では視聴者や読者は恩恵を被っているのに、人質になった途端、救出するのに税金つかうな、とか騒ぎ立て、あまりに非情ではありませんか?これが仮に、自らの意思で紛争地に出向いて、地元に貢献していた医者とか看護婦だったとしても、人質になってしまったら「自己責任」だから税金使って救出するな、と責めるんだろうか?

(3)救出につかう税金は無駄遣いというが、それでは安倍総理が中東諸国に支払う2億ドルもの金はどうなんだろう?後方支援とはいうけれど、支援金をもらった国がどういう使い方をするかなどわからないし、それが戦闘に使われることだってないとはいえないと思うんだけど…。そうなると、僕らの税金は人殺し(それも日本とは関係のない人たち)に使われることになるのに、それは気にならないのか?

これまで僕が、中東やアフリカ、アフガニスタンなどの現場でいつも感じてきたことは、「日本人は受けがいい」ということだった。日本人の勤勉さ、技術の高さや日本製品の品質の良さはどこにいっても褒められたし、アメリカに原爆を落とされてから50年の劇的な復興はいまでも敬意をもって語られる。「どこから来た?」と尋ねられて、「日本から」と答えたその瞬間、並々ならぬ好意をもって迎えられることがほとんどだった。これは、日本はそういった中東やアフリカの紛争地に軍事的に介入することなく、誰からも敵とみられることが一度もなかったことが大きな理由でもあるのだ。こんな日本のポジティブなイメージが、僕らカメラマンやNGOの職員など、現場で働く日本人の仕事をいかにやりやすくしていたか、経験のない人にはわからないかもしれない。
しかし、安倍総理の米国を盲信追従する外交と日本の武装化推進のために、そんな状況が大きく変わろうとしている。「日本人はどこにいても標的にする」といわれるほどまでの敵をつくってしまったのだ。

以前フェイスブックで紹介した「世に倦む日日」さんのブログの内容(http://critic20.exblog.jp/23387686/)が正しかったとすると、後藤さんは、日本政府に利用され、作戦が失敗した挙句「見捨てられた」ともいえる。その真偽はともかく、彼が殺されたことは、安倍総理にとっては吉報だろう。「テロリストたちを許さない!」と、この事件に対するイスラム国への日本国民の怒りを利用して、さらに日本を武装化しやすくなったのだから。米国と連帯してどんどん軍事に金をかけ、あげくに憲法9条まで改変できれば、米国にとっても安倍総理にとっても万々歳というものだ。そんな目的達成のためには、国民一人や二人の命など安いもの。特に安倍総理は経済政策でも弱者切捨てが大得意だ。

日本を愛する国民のみなさん、感情に流されずに、冷静になって、いまこそ日本の将来の平和のためには何が必要なのか考えてください。それは決してテロとの戦いに軍事力で参加することなどではないはずでしょう。人質になった人たちを「自己責任」と非難する前に、どうして日本人が人質にされ殺されるようになったのかその背景を考えてみてください。以前から述べていることだが、国際貢献をするのなら、自衛隊を派兵するのではなく、医者や技術者を派遣すればいい。税金を使って支援をするなら、武器に使われるかもしれない金ではなく、復興の手助けをすればいい。それが敵をつくらず味方を増やし、結果的に日本の安全につながるのだと思う。

後藤さんとは面識はないけれど、戦争の現場の醜さをよくわかっている人のようだし、弱者に寄り添う視点をもっていた人だったと聞く。そんな人であれば、いかなる理由をもっても戦争には反対の立場だったろう。そんな彼の死が安倍政権にうまく利用されて、日本の軍国化に拍車をかけるようになることがあってはならないと思う。それでは彼も残された妻や子供たちも浮かばれない。

(同記事はYahoo!ニュースにも掲載してあります)