Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

カシミール:抗争から利益を得る輩

2013-08-29 09:55:02 | アジア
少し前になるが、警察官によるでっちあげ殺人の遺族を撮るために、カシミール地方の奥深くにあるドダという村を訪れた。この地域は数年前まで武装勢力の抗争が激しく、カシミールのなかでももっとも危険な村のひとつともいわれていたところだ。

今年はじめ、警察官のシュリ・クマー・シャーマが逮捕された。武装兵に仕立て上げた若者をうまくまるめこんで、警察署への手榴弾投げ込みを画策した容疑だ。

シャーマはこれまでも多くのでっちあげをおこなってきたようだが、手口はだいたいこんな具合。携帯電話と現金(時にはなんと8万円も)を与えて若者をうまくまるめこみ、なにがしらの理由をつけて山中に行かせる。その後若者を追いかけいって殺害し、遺体のそばに武器を置いて、若者を武装勢力の一員にみせかけるのだ。武装兵を殺したという手柄で、シャーマは階級昇進と特別ボーナスをものにすることができる。

シャーマのでっちあげの犠牲者の一人とされる、フセイン・マリックが殺されたのは2009年。仕事から家に戻る途中で襲われ、撃たれた。

フセインの弟バシアーが、未亡人のシャナザの5人の子どもと共に住む山奥の小さな家を訪れた。殺されたあとフセインの遺体の横に、まるで彼が持っていたかのように銃が置かれてあったという。兄は銃など持っていなかったし、ただの貧しい労働者で、家族の誰もが武装勢力とはなんの関わりもなかったとバシアーは言った。シャーマが逮捕されたことで、ようやく彼は兄の死について語れるようになったのだ。

「それまでみなずっとシャーマを恐れながら暮らしてたんだ」

警察官によるこんなでっちあげはこれまでも多く噂にはなっていたが、シャーマの件のように逮捕まで至ることはごく少ない。カシミールに限らず、武装抗争がなくならない理由のひとつに、シャーマのように暴力から利益を得る人間が後を絶たないから、というのは悲しい現実でもある。

話は変わるが、カシミールの首都スリナガールからドダに行くのに車で6時間。ここからフセインの家に辿り着くのに、細い山道と岩路を2時間かけて登らなくてはならなかった。この徒歩での行程はまったく予期していなかったので、村まで降りてきたときにはもう膝ががくがく。胸が悪くなるような事件の撮影だったが、少なくとも普段みる機会のない美しいカシミールの山々や川に接することができたのは、幸運だったか。

(もっと写真をみる:http://www.kunitakahashi.com/blog/2013/08/29/kashmir-benefiting-from-militancy-battles/ )
(この記事はヤフーニュースブログにも掲載してあります)

子供たちを殺す謎の病気

2013-08-16 13:31:34 | アジア
原因不明の病気の記事のための撮影で、先月北部のビハール州を訪れた。

死亡率の高いこの病気がビハール州で集中的に報告されたのは1995年。以来、年間数千人が死に至っているというが、その多くは子供たちだ。症状としては高熱や頭痛、発作など日本脳炎にそっくりなのだが、同一ではない。蚊が媒体になり、主に雨期に多い日本脳炎と違って、この謎の病気は4月あたりから猛威を発揮し、雨期の始まる7月には収まっていくのだ。研究者達の懸命な調査にも関わらず、原因となるものはまだ何一つわかっていない。

病室に足を踏み入れると、目に入ってきたのはベッドに横たわる4人の子供達だった。みな白目を開けているような状態で、意識もほとんどない。何もできずに憔悴しきった親たちの前で、点滴や酸素のチューブに繋がれていた。
「もうすぐ雨期が始まるので患者の数は減ったけれど、一月ほど前は2つの病室が子供達で一杯でした」
案内してくれた医者が言った。

病気の追跡調査をおこなうチームに同行して、農村を訪れた。医者と看護師が数週間前に退院した患者の家を訪れ、2度目の採血をおこない、さらに住居環境などを細かく調べる。病気の原因を究明するために必要なフィールドワークだ。

村の奥にある一件の家の裏に辿り着くと、幼い子供二人と赤ん坊がテントの下で座っていた。泥でつくられた彼らの家が、数日前に崩れてしまったという。典型的な極貧農家の家族だった。
「サンジュウはどこですか?」医者が尋ねた。サンジュウは4歳の患者で、病状が良くなって数週間前に病院を退院していたはずだった。
「亡くなりました…」父親が答えた。退院した直後にまた症状があらわれ、発作が起こってあっという間に死んでしまったという。

人の死や不幸などこれまでいくらも撮ってきたが、今回の仕事はなかなか胸の痛くなる仕事だった。幼い娘をもつ僕にとっては、ファインダーをのぞきながら、いやでも子供たちと自分の子が重なり合ってしまったのだ。

(もっと写真をみる http://www.kunitakahashi.com/blog/2013/08/16/child-killing-mysterious-disease/ )
(同記事は、Yahoo Japan News にも掲載しています)