Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

ミシシッピー川の洪水

2008-06-18 21:46:30 | 北米
洪水被害の取材で隣にあるアイオワ州にきている。

例年にない多雨のせいでミシシッピー川が増水し、堤防が破れて川沿いの町に次々と水が流れ込んでいるのだ。その水量は1993年の大洪水のときを上回る記録になった。

それでも、まだ記憶にあたらしいニューオーリンズのハリケーン・カトリーナに比べれば、人的犠牲ははるかに小さい。住民たちはみなある意味洪水慣れ?しているというか、避難するタイミングを心得ているためだ。

イリノイとアイオワをつなぐ橋の多くが閉鎖されてしまっているので、州越えをするのにえらく時間がかかり、取材するのにも非常に効率が悪い。昨日は朝の5時半から夜6時まで食事をする間もなく走り回るはめになった。

川の水位上昇は今日明日あたりが山なので、どうなることか。天気予報ではこの先数日は晴れるようなので、それだけは救いだ。

ジムの出所

2008-06-14 11:25:12 | シカゴ
先日ジムが刑務所から出所した。(彼については以前のブログ参照)
http://blog.goo.ne.jp/kuniphoto/e/5f2b9da2e542d895c77ea6ff70f6e549

ホームレス生活をおくっていたロックフォードには戻りたくないという彼の希望がかない、ジムはシカゴのトランジショナル施設であらたな人生のスタートをきることになった。

トランジショナル施設とは、出所して、所持金も戻る家もない人間が、自立した生活が送れるようになるまで各種のサポートをうけながら過ごす寮のような場所だ。ここでジムはしばらくの間コンピュータークラスを受講したり、ケース・ワーカーのカウンセリングを受けながら仕事探しをすることになる。寮費は払わなくていいが、初めの30日間は門限が夜9時(その後は11時)で、飲酒なども不可だし、抜き打ちの薬物検査もあるので規則は厳しい。薬物使用などでここを追い出されると、仮釈放規則違反でまた刑務所へ逆戻りということになる。

まだ出所1週間なので、健康診断やその他サポートグループとの面接などが終わるまでは就職活動も出来ない状態だが、ジムはとにかく仕事をしたがっている。なんせ収入がないことには何も出来ないのだからこのジムの欲求も尤もなことだ。車はもちろんのこと、ホームレス時代に足として使っていた自転車も買えないので、暇な時間は施設のまわりを散歩するくらいしかできないようだ。初めて生活するシカゴで、随分歩き回ったのでだいぶ地理がわかってきた、とは言っていたが。。。

今日の午後彼から連絡があって、なんと自分のメールアドレスと作成したという。昨年、コンテナに住む彼と初めて出会ったとき、まさか将来ジムとメールのやりとりをすることになろうなどとは夢にも思わなかった。

長年の間、コカイン中毒のホームレスだったジム。この先数ヶ月が、あらたに生まれ変わろうとしている彼にとっての正念場になるだろう。

そんなわけで今年の夏はジムと過ごすことが多くなりそうだ。

(写真:10ヶ月の刑期を終え、刑務所から釈放されるジム)

写真展および朗読会のお知らせ

2008-06-05 23:37:25 | 写真展・雑誌掲載
ちょっと急になってしまいましたが、仙台でのユニセフ主催の僕の写真展に先がけて、アナウンサー渡辺祥子氏による拙書の朗読会がひらかれます。機会がありましたら足を運んでいただけると嬉しいです。詳細は以下のサイトにて。

http://www.unicef-miyagi.gr.jp/topics/index.php?action=detail&id=40

「戦争が終わっても」高橋邦典写真展 6月10日-20日 みやぎ生協会館ウィズ・ギャラリー 022-374-8531

片腕のゴールキーパー

2008-06-03 11:30:53 | リベリア
先月のリベリア滞在中に、思いがけなかった嬉しい再会がひとつあった。

2003年の内戦時、モンロビアの病院でたまたま撮影したジョセフにまた会うことができたのだ。

当時、彼は砲弾の破片で負傷し、病院で右腕の切断手術を受けたばかりだった。肩から包帯を巻かれ、どこかうつろな眼差しでベッドに座る彼にレンズを向けて、僕は数枚シャッターをきったのだった。

実はその翌年、子供たちを探すために再びリベリアを訪れたとき、モモやムスと同様にジョセフも見つけ出したのだが、それ以来彼を訪ねていなかったのだ。

それが今回、アンピュティー(手足を切断された人)のサッカーチームの練習を取材中に、偶然ユニフォーム姿のジョセフに再会することになった。幼さの残る顔はそのままだったが、チームでゴールキーパーを務める彼は見違えるほど逞しくなっていた。さらに、今年3月におこなわれたアフリカン・カップでベスト・ゴールキーパー賞を受賞するほどの活躍ぶりだ。

「あれからどうしてる?」

そう訊ねた僕に、リベリア人が良く使う単語を使って、彼はぽつりと答えた。

「Small, small(まあまあ)。。。かな」

話はそれるが、リベリア人はなんでもSmall small、だ。直訳では「小さい」という、大きさを表す尺度の意味の「スモール」だけれど、この国では量とか程度、適当な具合、もみな「スモール」の一言で片付けてしまう。「ご飯食べた?」「スモール、スモール」、「調子どう?」「スモール、スモール」、路上の物乞いもみな「俺に何かスモールください。。。」といった具合なのだ。

ベスト・ゴールキーパーの栄冠を得たとはいえ、それがジョセフの私生活に反映するわけでもない。繁華街の路上で、彼は違法コピーされた海賊版の映画DVDを売りながら細々と暮らしている。食べるので精一杯だから学校にいく余裕もない、という。

部屋を提供してくれる叔母がいるのでジョセフはまだ恵まれているほうだが、チームの選手の多くはその日暮らしのホームレスだ。スーパーマーケットや路上で物乞いをしながらなんとか食いつないでいる。もともと失業率80パーセントをこえるこの国で、片手片足といったハンディキャップをもつ人間たちが仕事にありつくのは至難の業だ。

「サッカーやってるときが一番楽しいよ。本当はプロになりたいけど、リベリアじゃ無理かな。。。」

ジョセフは言った。

経済立て直しに苦戦している政府にとって、ハンディキャップを持つ人のための福祉向上や、スポーツ振興まではなかなか手が回らないのが現状だ。残念ながら、民間スポンサーでもつかない限り、チームのプロ化はおろか、ジョセフを初めとする選手たちがまともな生活をおくれるようになるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。