Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

最貧州ビハールの選挙

2010-11-24 23:48:43 | アジア
6週間にわたったインドのビハール州での議会選挙が終わり、州知事の座が決定した。
仏教徒には馴染みの深いブッダガヤが位置し、日本からの参拝者も少なくないビハール州だが、インドのなかでも最も貧しい州だ。州都のパトナをいったんでると、まともに電気もとおっておらず、夜は闇に包まれる。

(僕は3月にやはり選挙関係の取材でここを訪れた HTTP://BLOG.GOO.NE.JP/KUNIPHOTO/E/A0D9396325CA9F08385F3400D35F1E5E

急激な経済成長を遂げるインドのなかでも、「後進州」などと揶揄されるビハールだが、2005年に知事に選ばれたニティーシュ・クーマが経済発展を主目標に手腕を発揮し、徐々にその成果が現れていた。彼の前任者だったラルー・プラサドとその妻による15年の支配の間は、自分たちと同じカーストや支持者たちのみに利権を与える腐敗ぶりで、ビハールを「暗黒の時代」に陥れたと批判される。今度の選挙では、その彼がクーマの対立候補として再び名乗りをあげたのだ。

僕自身がビハールに住んでいるわけでもないし、自分で体感できるほど長い日数を過ごしたわけではないので断言はできないが、端から見ればどう考えてもクーマの方が順当な候補だと思われた。それでもプラサドが以前のように自分と同じカーストを中心に支持者を集め再選に自信をみせていたし、何がおこるかわからないのがインドの選挙なので、僕もこの選挙には少なからず興味があった。

結果はクーマが当選。順当な勝利だと思う。

先週撮影した選挙集会での印象でも、(少なくとも表向きは)誠実に有権者に話しかけ、僕ら報道陣にもきちんと挨拶をしていたクーマに比べて、プラサドは礼儀も糞もない高圧的な態度。自分が一番偉いのだ、といわんげな傲慢さがやたら鼻についた。よく言えばカリスマ性があるといえなくもないが、これでは州を下から引っぱりあげていくことは難しいなと感じていたのだ。

クーマの続投は、ビハールだけでなく、インドにとって正しい選択だったと思うが、数年後この州がどれだけ前に進んでいるか期待してみよう。


シンガポールの戦争博物館

2010-11-10 13:09:40 | アジア
数日前シンガポールから戻って来た。

かなり長文の執筆の仕事があったため、美味しい食べ物を満喫する以外にはあまりあちこち町をみてまわることはできなかったのだが、ひとつだけ是非見ておきたいものがあった。

シンガポール一の観光地、セントサ島にある戦争博物館だった。

1941年の日本軍によるマレー、シンガポール侵攻から、1945年に占領が終わるまで、そしてその後のイギリスによる占領統治の様子が詳しく展示されている。実物大のマネキンをつかった再現展示も精巧で、その生々しさには感心するほどだ。

日本人として、ここに展示されているような日本に関わりのある歴史を学ぶことは重要だと思う。現代になっても似非右翼のような偏狭な国粋主義者たちが、南京虐殺はなかっただの、従軍慰安婦は自発的な売春だったなどといって歴史をねじ曲げ、国外に住む僕もたびたび恥ずかしい思いをさせられるが、過去の過ちにきちんと向き合うことなしに被災国とあらたな関係を構築することなど無理がある。

この博物館の展示はかなり勉強になったし、行って良かったと思うのだが、ひとつだけ気にかかることがあった。

来館者がほとんどいなかったことだ。

セントサ島には年間500万人もの観光客が訪れると言われているが、一体そのうちどれだけの人がこの博物館を訪れるのだろう?この日もショッピングセンターやビーチなど、島のあちこちは家族連れや若いカップルで賑わっていたにも関わらず、僕が博物館で見かけたのはせいぜい6、7人といったところだ。

島の観光パンフレットをみて驚いた。博物館のあるシロソ砦の位置は地図にのっているが、博物館についてはなにも言及されていない。大体この場所は島の西端にあってそれほど便利な場所ではないので、観光客が偶然にみつける、という可能性は低いだろう。

この日はたまたま来館者が少なかった、と願いたいものだ。特に若い世代の人たちにとって、こういう歴史から学ぶべきことは多いはずだ。毎年100万人を超える日本人がシンガポールを訪れるというが、そのほとんどはショッピングが目的だ。彼らの幾ばくかでも、たったの数時間でもいいから時間を割いてこの戦争博物館を訪れてみてほしい。入館料もたかだか500円ほど。ブランドものを漁ることに比べればたいした額ではないだろう。

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