Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

紛争地の取材

2008-08-29 08:41:38 | 報道写真考・たわ言
数日前に友人のカメラマンQさんがグルジアから戻ってきた。
(しかし日本ではどうしてグルジアと表記するのだろうか?地名はGeorgiaで、西洋ではそのままジョージアとよんでいるんだけれど。。。)

知っての通り3週間ほど前からロシアがグルジアに侵攻し、戦争状態(といってもロシアがほぼ一方的に侵略したようなものだ)になったので、その取材のためだ。

ニューヨークに帰ってきた彼と電話で話すと、現場に入るのも遅かったし思ったようには撮れなかった、と少々残念がっていたが、何よりも金がかかったようで、撮れる写真との割が合わないとぼやいていた。

飛行機代だけで3000ドル近くかかり、現場に着いてからもドライバーやホテル代で一日300ドル。(その他食費や雑費もかかる)他のカメラマンと経費を折半したのでなんとかなったとQさんは言うが、これでは一人だったらアサインメント抜きではとてもやっていけない。

紛争地の取材はもともと金がかかる。地元のドライバーや通訳たちも、自らの危険を冒して仕事をするわけだから、そうそう安い額では納得しない。悪い事にCNNやABCなどの大手テレビ・ネットワークが、金に糸目を付けずにそういう現地人をどんどん雇うので、それがさらに相場を引き上げる事になる。

また、ドルが弱くなったのもアメリカ在住の僕らには痛いところだ。ヨーロッパ圏では特に厳しい思いをすることになるが、Qさんの話では、ドライバーによっては一日200ユーロを要求してくる輩もいたらしい。

いずれにしても、こういう状況では、フリーランサーにとって、雑誌や新聞社から経費を保証されたアサインメントがはいっていない限り黒字をだすのは難しい。

今回も、僕も行きたいのはやまやまだった。今年は全然紛争地帯に取材に入っていないし、欲求不満がたまっている。しかし、不景気のトリビューンからアサインメントをとれないのはわかっていたし、仮に休暇をつかって自費でいったとしても、エージェントの後ろ盾のない僕が写真を売る事などほとんど不可能。少なくとも3~4000ドルは赤字になるのはわかっていたし、残念ながらこれはとても手の出せる取材ではなかった。だいたい今年4月に自腹を切ったリベリア取材の元さえまだとれていないのだ。

こう考えると、トリビューンがほぼ崩壊状態になってしまった現在、国際取材に関してはスタッフである僕もフリーランサーとほとんど変わりはない。しかし写真を自由に売れないだけ、こちらのほうがフリーでやるより条件は悪いといえる。

いずれにしても、僕らとっては厳しい時勢になった。





航空ショー

2008-08-18 11:32:51 | シカゴ
今日は航空ショーの撮影。ここシカゴでは毎夏おこなわれる恒例のイベントだが、今年は第50回目。3日間で200万人以上を動員するという、全米で最も大規模な入場無料の航空ショーだ。

実を言うとこのイベント、撮りたくなかった。

なんといっても人が多いので会場となるミシガン湖沿いのビーチへのアクセスが面倒このうえない。駐車場所がないため車で行くことができず、タクシーで近くまで行ってあとは徒歩。帰りは何万という人が一斉に帰るのでタクシーをつかまえることもできず、さらに長い距離を歩いて帰る事になる。

2年前にこの面倒さをひしと味わったので、この仕事は避けたかったのだが、どういう訳か僕にお鉢がまわってきた。やりたくないなあと思っているアサインメントに限っていつもこっちにまわってくるようだ。

しかし写真の事とは別に、この航空ショーでは考えさせられる事が多い。

民間機はそうでもないのだが、F22とかブルー・エンジェルスなどの軍用戦闘機の爆音はただ事ではない。頭上真上を飛ばれると一瞬鼓膜が破れたかと思うほどの激衝撃をうける。年に一回こういうのを見たい人間にとっては快感かもしれないが、こんな爆音に毎日晒される基地のそばに住む人々にとっては大変な事だろう。

こういう経験をして、あらためて沖縄や三沢、岩国などの住民の苦労に思いを馳せてしまう。

しかし、もともと航空ショーになんで軍用機をいれなくてはならないんだろうか?

確かに飛行機としての性能は軍用機が最高なのだろうけれど、これらは戦争のための道具であって、見せ物ではないはずだ。こんな空飛ぶ殺人兵器が曲芸をするのをみて喜ぶ人の気がしれない、といいたいところだが、正直言うと僕も子供の頃は航空自衛隊のブルー・インパルスをみて「カッコいー」などと騒いでいた馬鹿だった。

それでも、イラクやアフガニスタンでの米国戦闘機による理不尽な爆撃被害を目のあたりにしてから、軍用機の曲芸飛行などとても楽しめる気にはなれなくなった。

おまけにこういう軍用機を飛ばすには莫大な燃料費がかかる。こんな見せ物のために多くはない給料から納めた税金が使われていることにも腹が立つではないか。

いっそのこと航空ショーから、軍用機をすべて排除して民間だけのものにすれば、もっと素直にパイロットたちの熟練技術を堪能できるいいイベントになるんだけどね。。。

朝日のアエラ

2008-08-15 08:17:37 | 日本
今月、アエラにハイチの写真記事が載ったので、編集部の人がこちらまでその掲載誌を送ってくださった。

久しぶりに手にしたアエラだったが、ページをめくってちょっと意外に感じてしまった。

「アエラってこんなに軽かったっけ?」

一人暮らしのコストとかフジテレビ女性社員達の話、はたまた男の尻のかたちがどうだとかといった記事が続いている。確か以前はもっと政治的な事や国際情勢の記事が多かったように思うが、勘違いだったかな?

これが僕の思い違いでなければ、アエラも軽くなっていく時代の波には逆らえない、ということだろうか。

こういう現実はトリビューンにしても同じ事だから身に染みて感じてしまうのだ。特にトリビューンのウェブサイトのほうはひどい。芸能関係とか、読者からの投稿写真とか、そういう軽いものがフロントで幅を利かせ、時間をかけて取材した特別記事やフォトストーリーなどはどこにあるのか探し出すのも大変なほどの奥のページに押し込められている。

以前にも書いたけれど、社会的に重要で、ジャーナリストとして発信したいと思う記事よりも、単に読者の好奇心をそそり、「クリック数」が多くなりそうなものが優先されてしまうわけだ。そんな風潮が現在の硬派ジャーナリズムの形態をどんどん変えていっている。

まあアエラに関しては新聞ではないし、内容はもっと多岐にわたっていて当然なのだけれど、やはり「朝日のアエラ」という看板にふさわしい、読んで勉強になる記事をもっと期待したい、と個人的には感じてしまう。

しかしこんな生意気書いてると、もうアエラに写真載せてもらえなくなるなあ。。。トホホ






青空色の滝

2008-08-11 14:38:05 | 報道写真考・たわ言
久しぶりに仕事を離れて10日ほど休暇をとって息抜きをしてきた。

はじめの5日間はアリゾナでキャンプ、その後はニューヨークへ。

いまシカゴに戻る便を待ってラガーディア空港でこれを書いているのだが、天候が悪くもう6時間もここで足止めを食っている。

アリゾナでは、グランドキャニオン近くのネイティブ・インディアン居住区までテントを担いで訪れたのだが、ここではこれまで見た中でも最も美しい滝で泳ぐことができた。

ハバスパイ族の居住地にあるこの滝の水の色はまるで青空のようなミルキーブルー。冷たく、寒がりの僕には身体を入れるにはちょっと度胸がいったが、その水はまるでそのまま飲んでしまいたくなるように透き通っていた。滝壺の青色は水に含まれる石灰のためだという。

3日分の食料を含めた重いバックパックを背負っての5時間ハイクは、こんなキャンピングに慣れていない身体にはこたえたが、この滝を一目見たときにそんな疲れは吹っ飛んだ。

写真の事などあまり考えず、久しぶりに自然を満喫した数日間を過ごせたのだが、一つ残念だったのは、かなりの奥地に入ってもペットボトルなどのゴミが目についたこと。

はじめは心ない観光客が捨てていったものだと腹をたてていたのだが、どうもそういう外部の人間達だけのせいではないらしい。

ゴミの件に限っていえば、地元のインディアン達のモラルもあまり見上げたものではないようだ。村の中でも、地元の子供達がお菓子を食べた後に包装紙などを放っていったりするのを何度か見たし、中庭がまるで竜巻がきた後のようにゴミで散らかっている家も数件あった。

取材でいった訳ではないので特に調べた訳ではないけれど、この先住民コミュニティーが主な収入源として僕らのような観光客に頼っているのは明らかだ。それならばなおさらこういう環境には気を使ってしかるべきだと思うのだが、そういう配慮はあまり感じられなかった。

まあ彼らにしてみれば、観光客を受け入れなければ生き延びる事ができないので仕方なくやっている事かもしれないし、本心では外部の人間がこの土地にやってくる事を快く思っているかはわからない。

ヨーロッパからの入植者たちが先住民から土地を強奪して建国したここアメリカ。その政府の先住民政策のひずみがこんなところにも現れているのかもしれないと思うと少々複雑な気分にはなったけれど、そういう政治的なこととは別にこの土地の美しさ(この土地にはハバスパイ滝を含めて3つの滝があるがそのすべてが素晴らしい)は一見の価値ありだと思う。キャンプやハイキング好きの人にはお勧めです。