Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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3年ぶりのアフガニスタン

2008-11-25 12:14:17 | アジア
アフガニスタンでの2週間の取材を終え、先日インドに出てきた。

今回は従軍ではなく、難民やドラッグ関係などの米軍とは別の取材をおこなったのだが、2週間で7つのストーリーを手がけたのでかなり忙しいスケジュールだった。

この国を訪れたのは3年ぶりだが、残念な事に治安は以前に比べだいぶ悪化してきたようだ。頻発する誘拐のために、特に首都のカブルを離れ地方に出るのが極端に難しくなった。それでも従軍しなければほとんど外に出る事もできないイラクの状況よりはまだましで、カブルなら通訳と2人で歩き回って撮影するのは十分に可能だった。

アフガニスタンにはハザラというモンゴル系の民族が多く住んでいるので、僕のような顔つきをした男達はよく見かける。おかげで僕はあまり人目を引かずに行動できるので取材がしやすいのだ。これがイラクだとひと目で外国人だとわかるので、誘拐の巻き添えを恐れるドライバーが僕を乗せることさえ嫌がる。

来年大統領に就任するオバマがすでに公言しているように、この先アフガニスタンへの米軍増兵が現実になると、誤爆や誤射による一般市民の犠牲は増えるし、それに伴い人々の反米感情は増すことは目に見えている。アフガニスタンの人たちと話をしても、僕の知る限り米兵が増える事を望んでいる人など皆無に近い。米軍に対抗するため国外の武装原理主義者たちがアフガニスタンに侵入し、戦闘が激化すると考えられるし、近いうちカブルがバグダットのようになってしまう恐れも十分にあると思う。

こういう悲しい予想が現実にならないように、オバマにはインフラ援助および対話を中心としたアフガニスタン政策を期待したいが、果たしてどうなることか。。。

今日から民族分離主義グループたちの取材でインドの山奥にはいるので、またしばらくブログの更新はできなくなると思います。


大統領選挙の熱い夜

2008-11-06 13:47:39 | シカゴ
松山千春の歌ではないけれど、昨夜は「長い夜」だった。勿論、大統領選挙の話だ。

知っての通り、民主党候補のオバマが地元のシカゴで大集会を開いたため、僕らトリビューンのスタッフもほぼ総出で忙しい一日をおくることになった。

一般客のセクションを担当した僕は、一体何時頃にどのくらい人が集まるのか検討がつかなかったため、余裕を持って午後3時に会場入りしたのだが、結局すべて仕事を終えたときには午前1時をまわっていた。

ほとんど座る事もできず、さすがに長い夜ではあったが、僕自身、選挙速報が広場に備え付けられた大画面に映るたびに興奮してアドレナリンがビンビンでていたし、なにより集まった人々の凄まじいエネルギーを分けてもらったようで、寝床に就くまでほとんど疲れなど感じなかったほどだ。

オバマの勝利が確定した瞬間には、感無量で涙を拭う年配の黒人女性たちの姿も眼についたが、人種差別を受け公民権運動を闘ってきた世代の黒人たちにとって、待ちこがれていた一瞬だったに違いない。そんな彼女たちの姿をファインダー越しに見つめながら、僕の胸もこの歴史的瞬間に居合わせる事ができたという高揚感で一杯になっていた。

こういうイベントに接するたびに、アメリカの底力、というものを見せつけられるような思いがする。老若男女、肌の色を問わず何十万もの人間が一同に集まり、自分たちの将来を託した新大統領の誕生を祝う。これはすなわち、それだけ彼らが真剣に自分たちの生活、それを取り巻く社会、そしてアメリカという国の将来を考えている、ということだ。

日本では、スポーツや芸能イベントならともかく、政治集会でこれだけの人が集まるなど、ありえないだろう。

「誰が総理になったところで生活は変わらない。。。」

確かに、現在必要とされている経済や外交政策の本筋から全くはずれたとんちんかんな日本の多くの政治家の面々をみれば、日本国民の冷めた態度ばかりを責める事もできないだろうとは思う。

しかし、無関心を決め込んで、自らの権利のための声をはりあげなければ、それこそ政府の思うつぼ。国民は犠牲になるばかりだ。そういうことに僕らはもっと敏感になるべきだと思う。これは権力と対峙し、市民の側にたって本質をついた報道しないメディアの責任も大きいだろう。

僕は特にアメリカ贔屓というわけでもないが、やはり昨夜のようなイベントに体験すると、この国の国民性が心から羨ましくなってしまう。と同時に、この先落ちていくばかりの日本の将来を憂慮せずにいられなくなるのだ。


感心の薄いストーリー

2008-11-01 11:05:23 | リベリア
5月に取材にいったリベリアのスライドショーがようやく出来上がった。来週にはトリビューンのウェブサイトに掲載されるだろう。とはいっても、僕ができる部分はもう随分以前に終わっていたのだが、写真部のウェブ担当が、オリンピック、党大会と続くニュース、それ以外の日常の仕事に追われ、いつの間にかもう11月になってしまった、という感じだ。

はっきり言ってリベリアのストーリなどは全然重要視されていない、ということで、次々に後回しになってきたわけだ。

取材した者としては残念だが、これはトリビューンだけの話ではない。

いくつか写真原稿を書いて週刊誌をはじめとした日本の媒体に売り込んだが、掲載してくれたのは「週刊金曜日」くらいなもので、 打診した5社ほどはみな撃沈。読者や編集部の感心が薄いため、日米を問わずもともとアフリカのストーリーは売りにくいのだが、特にリベリアなどどこにあるかも知らない人が多いような国の出来事は輪をかけて売り込みが厳しくなる。日本とも関係が薄いし、こんな遠い小国で起こっていることに興味を示してくれる編集者などほとんどいないのだ。

この先どこかが掲載してくれる見込みも薄いし、結局今年のリベリア取材はもとをとるどころか大赤字で終わりそうだが、これは如何ともしがたいところだ。経済も落ち込んでいく一方だし、この先、僕らにとってこの種の取材を続けていくのは一層難しくなるだろう。

ヌードやゴシップなど売れ線ものばかりでなく、こういう硬い記事をあつかってくれる骨のある媒体がもう少しでも増えてくれると助かるんだがなあ。。。

(写真:リベリア、モンロビア郊外の孤児院にて)