先日従軍を終えてバグダッドの支局に戻ってきた。
従軍の後半数日は反米勢力の攻撃が重なって、隣の宿舎で寝起きしている部隊の6名がパトロール中に路上爆弾で死亡、さらにキャンプ内にも砲弾が落ちて1名が殺された。僕は今回の従軍中8回ほどパトロールに同行したが、幸か不幸か(怪我がなかったのが幸いだが、ニュース・カメラマンの立場としては不幸、といっておこう)ロケット弾に見舞われたのが一回、それも100メートルほど離れたところだけで、あとは何事もなく無事に過ごしてきた。
従軍前には米兵だけでなく、イラクの市民からの視点をもった写真も、と思っていたが、今回も残念ながらそれはかなわなかった。これまでのイラク滞在も含め何度も挑戦してきたが、やはり米軍に従軍していては、市民の生の生活を撮ることなど無理なのだ。
それでも、キャンプに滞在しているイラク人通訳や、支局の地元スタッフ達との会話をとおして、現在の生活状況をある程度掴むことはできた。
「サダム時代のほうが良かったよ。。。」
これは現在バグダッドに住むイラク人の大部分が共通して感じていることだ。
支局で雇っているドライバーたちはみな口を揃えてこういった。
「水はほとんどでなくなったし、電気もない。車のガソリンを買うのにも、2日間車で寝泊りしながら列をつくって待たなくてはならない。あまりに爆弾テロが多すぎて、もう人の多いマーケットにも行けなくなった。。。サダム時代には、政権批判さえしなければ、日用品にも特別不自由なく平和に暮らせたんだ」
あまりの治安の悪さは物資の産出にも影響し、野菜や果物なども手に入りにくくなった。トマトなど、2003年の米軍侵攻以前には1キロ150ディナー(約20セント)だったのが、現在ではなんと10倍の1500ディナーになったし、ガソリンなどは1リットル当たり20ディナーだったのが、いまでは400ディナーだ。2日間も列に並ぶ時間がなくて、闇市でガソリンを購入するとなんと1リットル1000ディナーになるという。
治安は悪化し続ける一方で、生活に困窮するバグダッド市民達だが、「一体どうすれば事態はよくなるのか?」という僕の問いに、はっきりと答えられた人間は一人もいなかった。
「米軍にはイラクから撤退して欲しい。しかし、撤退すれば権力争いの内戦が勃発するだろう」
これもバグダッド市民たちのほぼ共通した認識だ。もとはと言えば米軍の占領がきっかけで始まった宗派間の武力対立なのに、地域によっては米軍に治安維持を頼らなくてはならないという皮肉な現状がある。かといって完全に国内の治安を回復するだけの力は米軍にはない。
僕個人の意見としては、とにかく米軍は撤退して、仮に内戦が起こってももうあとはイラク人自身の手に将来を委ねるしかない思っているが、現実的には永続的に軍を駐留させておきたいアメリカの思惑もあるし、イラクを裏から掌握しようとしているイランの存在もあるからそうもいかないだろう。自己の利益だけのために、イラクをここまで破滅させたアメリカの罪はあまりに大きすぎる。
状況は複雑化しすぎて、解決の糸口も見えない。支局のドライバーたちのようにまだ定期収入のある恵まれた男たちは、家族をシリアなどの国外へ移住させはじめた。宗派間の争いが激化し、これ以上バグダッドにいるのは危険すぎるからだ。
「街に増えたのは携帯電話と缶入りコカコーラくらいだよ」
朝食を共にしながら、ドライバーのひとり、シナンは皮肉交じりにこう洩らした。
従軍の後半数日は反米勢力の攻撃が重なって、隣の宿舎で寝起きしている部隊の6名がパトロール中に路上爆弾で死亡、さらにキャンプ内にも砲弾が落ちて1名が殺された。僕は今回の従軍中8回ほどパトロールに同行したが、幸か不幸か(怪我がなかったのが幸いだが、ニュース・カメラマンの立場としては不幸、といっておこう)ロケット弾に見舞われたのが一回、それも100メートルほど離れたところだけで、あとは何事もなく無事に過ごしてきた。
従軍前には米兵だけでなく、イラクの市民からの視点をもった写真も、と思っていたが、今回も残念ながらそれはかなわなかった。これまでのイラク滞在も含め何度も挑戦してきたが、やはり米軍に従軍していては、市民の生の生活を撮ることなど無理なのだ。
それでも、キャンプに滞在しているイラク人通訳や、支局の地元スタッフ達との会話をとおして、現在の生活状況をある程度掴むことはできた。
「サダム時代のほうが良かったよ。。。」
これは現在バグダッドに住むイラク人の大部分が共通して感じていることだ。
支局で雇っているドライバーたちはみな口を揃えてこういった。
「水はほとんどでなくなったし、電気もない。車のガソリンを買うのにも、2日間車で寝泊りしながら列をつくって待たなくてはならない。あまりに爆弾テロが多すぎて、もう人の多いマーケットにも行けなくなった。。。サダム時代には、政権批判さえしなければ、日用品にも特別不自由なく平和に暮らせたんだ」
あまりの治安の悪さは物資の産出にも影響し、野菜や果物なども手に入りにくくなった。トマトなど、2003年の米軍侵攻以前には1キロ150ディナー(約20セント)だったのが、現在ではなんと10倍の1500ディナーになったし、ガソリンなどは1リットル当たり20ディナーだったのが、いまでは400ディナーだ。2日間も列に並ぶ時間がなくて、闇市でガソリンを購入するとなんと1リットル1000ディナーになるという。
治安は悪化し続ける一方で、生活に困窮するバグダッド市民達だが、「一体どうすれば事態はよくなるのか?」という僕の問いに、はっきりと答えられた人間は一人もいなかった。
「米軍にはイラクから撤退して欲しい。しかし、撤退すれば権力争いの内戦が勃発するだろう」
これもバグダッド市民たちのほぼ共通した認識だ。もとはと言えば米軍の占領がきっかけで始まった宗派間の武力対立なのに、地域によっては米軍に治安維持を頼らなくてはならないという皮肉な現状がある。かといって完全に国内の治安を回復するだけの力は米軍にはない。
僕個人の意見としては、とにかく米軍は撤退して、仮に内戦が起こってももうあとはイラク人自身の手に将来を委ねるしかない思っているが、現実的には永続的に軍を駐留させておきたいアメリカの思惑もあるし、イラクを裏から掌握しようとしているイランの存在もあるからそうもいかないだろう。自己の利益だけのために、イラクをここまで破滅させたアメリカの罪はあまりに大きすぎる。
状況は複雑化しすぎて、解決の糸口も見えない。支局のドライバーたちのようにまだ定期収入のある恵まれた男たちは、家族をシリアなどの国外へ移住させはじめた。宗派間の争いが激化し、これ以上バグダッドにいるのは危険すぎるからだ。
「街に増えたのは携帯電話と缶入りコカコーラくらいだよ」
朝食を共にしながら、ドライバーのひとり、シナンは皮肉交じりにこう洩らした。