Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

フィルムかデジタルか?

2006-09-24 07:41:37 | 報道写真考・たわ言
「白黒かカラーか?」によせられたコメントのなかにいくつか「フィルムかデジタルか?」という問題提議がでてきたので、あらためて考えてみた。

実は、フィルムとデジタルについてはほとんど意識して考えたことなどなかったのだ。

デジタルが出始めた頃はやはり画質の問題があったので、僕も含めて多くがフィルムを好んで使っていたが、現在ではフィルムとの差などほとんどないし、特に報道写真に関しては、もうデジタル抜きでは仕事自体が成り立たなくなったといってもいいだろう。スタジオで撮る友人のコマーシャル・カメラマン達でさえ、その多くはすでにデジタルに移行している。

イラクやアフガニスタンの電気も水道もない荒野で撮った写真を、その場から翌日の新聞の発行に間に合うようにやすやすと電送することができるのもデジタルならではのことだし、これをフィルムでやろうと思ったら現像器具や使用する水を含め莫大な荷物をはこんでいかなくてはならなくなる。

僕は正直にいって極端に細かい写真の画質などにはこだわっていない。巨大に引き伸ばす芸術写真を撮っているわけではないし、並べて見比べてみなければ分からないほどの些細な違いなどどうでもいいと思っている。ノイズがなく、色がある程度自然でクリアに写っていればそれで十分なのだ。

だから今の僕にとってはデジタルは便利この上ない存在で、もうフィルムで写真を撮ろうという気などはさらさらないが、いまだに頑固にフィルムで撮っている友人もいることだし、「白黒かカラーか?」と同様に結局は個々の好みというところに行きつくのだろう。

僕にとってカメラは所詮僕の見たものを記録するための機械であり、手段にすぎない。使いやすく、その役割さえきちんと果たしてくれるのならデジタルだろうがフィルムだろうがどうでもいいのだ。

写真は、「どう写っているか」よりも「何が写っているか」のほうが重要だと思っているから。







白黒かカラーか?

2006-09-21 21:07:20 | 報道写真考・たわ言
先日同僚とちょっとした議論をした。

「白黒かカラーか?」

メキシコからの移民を撮った一連のポートレートを、彼が白黒に変換しているのをみた僕が、カラーのままのほうがいいのでは、と言ったのが始まりだった。

情緒をだすため、ドラマティクにするためなど理由はいろいろあるが、カラー写真から色を抜いて白黒写真に変換するのは良くみられる手法だし、写真コンテストなどでもわざわざ白黒に変換して応募される作品も少なくない。

確かに目障りになる色をなくすことによって、主題(言いたいこと)がはっきりする写真もあるし、その効果は認めよう。僕の写真の中でも、これまで意識的に白黒に変えたものがいくつかある。

しかし、基本的に僕はそこに写っているものは色も含めてそのまま現実として受け止めたいと思っているから、報道写真に関しては「芸術的にみえる」とか「情緒がでる」というような理由でむやみに写真を白黒に変えてしまうことには抵抗がある。だいたいわざわざ白黒に変えるくらいなら、初めから意思をもって白黒フィルム(モード)で撮ればいいのに。。。とも思うのだ。

身体から流れ出る血の色は赤く、立ち昇る炎はオレンジ色。日に焼けた僕の肌は褐色で、晴れ渡った空は青色。。。それが僕らの接している現実の光景だ。

しかし、そこから色を抜き取ってしまうことで、写真がどこか気高い「芸術作品」のようになってしまい、見る人が普段の生活レベルで共有できる「日常性」を失ってしまうようなことはないだろうか。そこに写されているものは悲惨な現実なのに、どこか非日常で現実的でないような、ある意味美しくさえもある。。。そんな感覚に陥ってしまう恐れはないだろうか。

僕の同僚は、カラーは目障りになるという理由で一連のポートレートをすべて白黒に変えた。

それらは彼の撮った写真だし、彼自身の写真を通しての主張があるから、もともと僕がうんぬん意見することではなかったかもしれない。結局のところ、白黒かカラーかは個々のフォトグラファーの好みの問題ということになってしまうのだろうし、それがいいか悪いかなど、他人が判断できるわけでもないのだから。。。











ポールの帰米(2)

2006-09-11 15:57:39 | 報道写真考・たわ言
ポールが無事戻ってきた。

拘禁中に体調を崩していたと聞いていたので心配だったが、元気そうな笑顔で、ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソンに続き、ワイフのリンダと飛行機を降り立った。

彼の姿を撮影しながら、僕らも抱きあって再会を喜んだ。もともと痩せていた彼が、牢屋のなかでハンガーストライキなど無理なこともやったようで、いっそう体重を落としていたようだ。それでもピューリッツアー賞2回受賞暦を誇るこの一流記者のスピリットは健在で、到着後の記者会見ではジョークを交えながら質問に答えていた。

今回の彼の釈放の舞台裏には、リチャードソン知事をはじめとした、相当数の政治家らによる働きかけがあったようだ。ジミー・カーター元大統領、将来の大統領候補と評価の高い上院議員のオバマ、それからU2のボノまでもが、スーダン政府にポール釈放を求める声明を発表していた。

ポール達はもともといわれのないスパイ容疑で拘禁されていたわけだし、これだけの多くの釈放要求のプレッシャーをうけて、スーダンのバシル大統領もこれ以上彼らを拘禁していても利益はないと踏んだのだろう。リチャードソンがバシルと個人的に親交をもっていたことも大きな助けになった。

ポールが拘禁されていたのは33日間。

この間、現地で任務にあたっていた米兵将校なども頻繁に彼を訪れ、必要なものの差し入れなどしてくれたという。

記者会見での彼の話を聞きながら、これがもし日本人だったらどうだったろうと、ふと考えていた。
僕は2004年に高遠さんら3人の邦人がイラクで人質になったときのあの「自己責任」バッシングの嵐を思い出していたのだ。

もし拘禁されたのが日本人記者だったら、アメリカの政治家たちがポールに対しておこなったほどの努力を、果たしていまの日本政府に期待できるだろうか?

ポールとの再会の嬉しさとは裏腹に、日本国籍をもつ一人の報道者として、僕は少々寒い思いを感じていた。


(写真:空港に降り立つポール)

ポールの帰米

2006-09-09 05:10:09 | 報道写真考・たわ言
ポールと、チャド人2人のスーダンでの釈放が決まった。
(詳しくは8月28日のブログ参照)
http://blog.goo.ne.jp/kuniphoto/d/20060828

ポールの住むニューメキシコ州の州知事を含めた政治家たちをはじめ、トリビューン、ナショナル・ジオグラフィックのスタッフたちとスーダン政府との粘り強い交渉がようやく身を結んだのだ。

それで、急に僕にニューメキシコ行きの仕事が来た。

ポールの帰米を撮影するためだ。

彼のワイフのリンダはすでにスーダンにいっており、ふたりは一緒に帰ってくることになっているので、彼らの劇的な再会を撮る、ということにはならないが、まあ個人的にポールに会って、
「お疲れさま」
といってやれるだけでも、行くかいがあるものだ。

あと一時間ほどでニューメキシコに向かい、家をでる。




自由な館長さん

2006-09-05 01:39:59 | 写真展・雑誌掲載
「アフリカの絵本原画と児童書展」が滋賀県東近江市でおこなわれている。

作家、翻訳家のさくまゆみこさんを中心にしたグループが、アフリカの人々の生活を、絵本をとおしてもっと身近に感じてもらおうと昨年から始めたものだ。

僕は国外に住んでいるため、グループのミーティングや活動には全然参加できずに非常に恐縮しているのだけれど、リベリアの写真絵本をだしていたので、「戦争が終わっても」からの写真を初回から展示させてもらっている。

東近江での展示は永源寺図書館が会場ということで、僕は最初、「お寺の図書館か、珍しいなあ」などと勘違いしてしまったのだが、実は永源寺町という町の図書館のことであった。町立といえどもこの図書館は規模も蔵書数もずいぶん充実しているようで、さくまさん曰く、ここの女性館長さんは「なるべく規則をつくらない」運営方針で、町の人の顔をひとりひとり思い浮かべて本を入れるようにしている、ということらしい。土地柄農業の本もたくさんあるし、子供の本のセレクションもすばらしい、とべた褒めだ。

こういう話を聞くと、ほっとするというか、嬉しくなる。

写真展示を企画してもらった時にもそんな経験があったが、どうも日本では学校とか市の建物とか、公共の場所ではいろいろと規則がきびしかったり、制約があったりして自由な展示や表現活動がやりにくいようだ。

僕はまったくといっていいほど図書館とは無縁の生活をおくってきたので、実際に日本の図書館がどんな状況におかれているのかはわからないのだが、それでもこういう「規則をつくらず、自由を尊重」するような館長さんのもとでは、普通の図書館では入れてもらえないような本も借りられるだろうし、既成の概念にとらわれないいろんな可能性がでてくると思う。

ちなみに、僕のリベリアの写真群は、なんと和室に展示されているそうだ。図書館に和室があるということ自体驚きだが、畳好きの僕にとっては写真が和室に飾られているというのは嬉しい限りだ。さらに、いつも問題になる例のムスの写真も、他の写真同様ありのまま並べてある。
(この写真については、1月18日のブログ参照)
http://blog.goo.ne.jp/kuniphoto/e/61075fc354544c794fdc51db59e74248

こういう館長さんのような人が、図書館に限らず、すべての職業でもっと増えてくれれば、もっと世の中楽しくなるんだろうな、などとふと思った。



(展示の詳細)
◆ アフリカを知ろう ~アフリカの絵本原画と児童書展~
・8月26日~9月17日 10:00-18:00
・東近江市立永源寺図書館(『エンザロ村のかまど』原画と『戦争が終わっても』『AはアフリカのA』『エンザロ村のかまど』写真パネル展示)滋賀県東近江市山町830-1 tel/0748-27-8050 月・火休み
・東近江市立八日市図書(『ゴリラと赤いぼうし』原画展示)東近江市八日市金
屋2-6-25 tel/0748-24-1515 月休み
・東近江市立湖東図書館(『ジンガくんいちばへいく』原画展示)東近江市横溝町1967 tel/0749-45-2300 月・火休み
http://www.city.higashiomi.shiga.jp/subpage.php?p=6202&t=1150610827



体調は万全だけど。。。

2006-09-03 07:47:15 | 報道写真考・たわ言
シカゴでくすぶっている日が続いている。

何度かブログにも書いているが、トリビューンの経営状況のために最近めっきり国外取材の数が減ってしまったからだ。

そんなわけで、ここのところジムに行く回数が随分増えた。トリビューンビルの地下にスポーツジムがあるのだが、社員は比較的安い会費でメンバーになれる。僕も今年に入って契約して、平均して週に2回ほど仕事帰りに汗をながしていた。

それがいまは週4回も通っている。出張取材が全然なくなったので、時間ができてしまったのだ。

先週の休みなど、同僚のカメラマンと一緒にミシガン湖でカヤックを漕いできた。

本当は、記事書いたり、写真の整理したり、もう1年も更新してないウェブサイトのアップなど、しなくてはならないことが山積みなんだけど、そういうことをする代わりに身体ばかり動かしている。取材にでれない欲求不満をせめて運動で解消しようとしているのか。。。

報道写真という仕事は、やっぱり身体が資本だから以前から運動不足には気をつけてきた。

最近は取材にでれないせいで、生活もやたら規則正しくなって、ジムに行く回数も増えて体調も万全。。。

皮肉なものだ、と思う。