Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

「ふりだしに戻る」

2010-02-24 20:38:09 | 報道写真考・たわ言
昨夜、旧知のカメラマン仲間、デイビッドと食事をする機会があった。メキシコ在住の彼はWHO(世界保険機構)の奨学金を得てこの一ヶ月ムンバイで結核問題の写真プロジェクトをおこなっていたのだが、それもあと数日で終わるという。

インド人のカメラマン2人も合流し、今年のワールド・プレス・フォトのことや、日常の撮影のことなど、愚痴も混ぜながらだらだらと話しをしていたのだが、そのなかで僕のボストンでの写真学校のことにも話が及んだ。ほろ酔い加減で家に戻り、布団に入ってから再び写真学校時代のことを思い出し、何年に卒業したかをあらためて思い出してみて少なからず唖然とした。

あれからもう18年になるのだ。

思えば日本を離れてからすでに20年近く。これまでの人生の半分近くを国外で過ごしたことになる。冴えない黄土色のリュックサックを背負い、母親と祖母に見送られながら、今は跡形もなくなってしまった仙台の実家を後にしたことはいまでもはっきりと思い出すことができる。

14年間の新聞社スタッフというポジションを離れ、フリーランスとなったいま、駆け出しだった頃のことを良く思い出すようになった。写真を撮るという根本的業務以外に、編集者たちへのセルフ・プロモーションや写真の売り込みに追われ、その結果に一喜一憂する日々。いまやっていることは、写真学校を卒業したての自分がやっていたこととそれほど変わらないのだ。すごろくでいう「ふりだしに戻る」という感じがしないわけでもない。

この18年の間、歳は確実に重ねてきたが、写真家として僕はどれだけ成長し、何を残してきただろうか? デイビッドのプロジェクトのように、社会的意義のあるテーマをどれほどつきつめて撮ることができただろうか?

あまり深くは考えたくないこの問いを頭の片隅に押しのけて、今日も写真の編集に追われている。

キャンプのサドゥーたち

2010-02-16 02:11:40 | アジア
ハリドゥワから帰ってきたと思ったら、その夜の爆弾テロのおかげでプネに行く羽目に。片道車で3時間の道中を含めて一日撮影してきたが、すでに事件の翌日ということもあってろくな写真は撮れなかった。ようやく今日から腰を落ち着けてクンブ・メラの写真整理にとりかかる。

今回は先月にはほとんど姿のみえなかったサドゥーたちを中心に撮ってきたが、ただの数日間とはいえこの「仙人」の如き存在に接しているうちに、ひとつの疑問が浮かんできた。

ガンジス川周辺につくられたサドゥー・キャンプに集まっていた何千という数のサドゥーのうち、一体「本物」はどれほどいるのだろうか?

キャンプで生活する彼らの多くは、1、2枚ならともかく、何分か腰を据えて写真を撮っていると金を要求してくるし、日中することといえば、もくもくと煙を吹き出しながら大麻を吸うか、ごろりと横たわっているくらい。悟りをひらくために修行を積んでいるはずなのだが、短期で気性が荒い輩も少なくない。それでも多くの一般人たちが彼らの神聖さを信じ、教えを乞いにやってくる。

インド人の友人曰く、「本物のサドゥーは、金など要求しないし、写真をやすやすと撮らせるようなところにはでてこないよ」

ということは、僕の接したサドゥーたちの多くは擬い者ということか。。。

しかし、こんなことを考えること自体意味のないことかもしれない。大体サドゥーというもの明確な定義など僕は知らないし、こちらが勝手に聖人とか仙人とか解釈しているだけで、実際のところこういう俗っぽい連中もひっくるめてサドゥーの社会(?)は成り立っているのかなとも思う。

サドゥーに限らず、インドという国は「曖昧」なことが多い。物事がきっちりと決められている日本とは対照的だ。悪く言えば「テキトー」、良く言えば「懐が広い」といったところか。。。

そういえば、キャンプに掲げてあったポスターでみかけたが、日本人の女性サドゥーも来ているようだった。今回会うことはなかったが、いつか機会があったらどういうわけでサドゥーになったか尋ねてみたいものだ。







ネパール(2)

2010-02-03 20:43:35 | アジア
2日ほど前にネパールから戻ってきた。また来週からクンブ・メラを撮りにハリドゥワに出かける予定なので、今週は写真の整理と原稿書きにおわれている。
http://blog.goo.ne.jp/kuniphoto/e/e1c9620eb3968533f0febd5a7cd0f49a

これまでネパールのことはほとんど知らなかったので、記事を書きながらいろいろと勉強しているが、この国はこれから注目していくに値するだろうと思う。この5年という短いあいだにマオイストとの内戦終結、王制から絶対君主制、そして連邦民主共和制へと劇的な変化を遂げてきた。地理的にも急速に経済大国としての道を歩むインドと中国に挟まれ、両国との政治的な駆け引きもなかなか面白い。

滞在最後の数日間でストリート・チルドレンやインドからの出稼ぎ労働者の問題を少しばかり撮影してきたが、アジア最貧国のひとつとして、社会問題も山積みだ。

5月終わりに新憲法制定の期限がやってくるが、ひょっとしたら一波乱あるかもしれない。地元のカメラマン達数人や、通訳も兼ねられるタクシー運ちゃんともいい友人関係になれたことだし、そのときにまたカトマンドゥー戻って取材できたらと思っている。

(写真:カトマンズ郊外、インド人キャンプの子供達)