Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

「紛争地からのメッセージ」写真展にて思う

2014-08-01 09:11:21 | 日本
2週間の日本滞在を終えて、先週また暑いデリーに戻ってきた。
今回は、キャノン・ギャラリーでの自分の個展開催のために東京に戻ったのだが、銀座の会場に詰めているあいだ、訪れてくれた人々と話をしながらいろいろと考えさせられた。

個展のタイトルは「紛争地からのメッセージ」。その名のとおり、僕がこれまで15年ほどのあいだに訪れた紛争地からの写真を集めたものだが、実は僕がみせたかった写真の6割程しか展示できなかった。キャノンから「死体や血はダメ」と釘をさされていたからだ。
「戦争写真の展示なのに、死体や血がみせられないとは…」
どうにも理解し難い条件ではあったが、ここで意地を張ってせっかくの機会を逃すのも惜しいので、妥協の上、死体や血も「ちょっとだけ出した」作品を混ぜ込んだ。

まあこういった要求はキャノンに限ったことではなく、以前このブログでも紹介したヤフー・ジャパンとの一件も含めて、日本企業の保守的な「事なかれ主義」なのだと思う。結局のところ、死体などの衝撃的(?)な写真を展示して、見た人から苦情がきたら誰も責任をとりたがらない、ということなのだろう。こんな状況だから、写真展でいえば、日本でひらかれるものの大半は風景や動物など当たり障りのないものばかりで、政治的な主張を含んだり、社会的問題提議をするようなものは敬遠されがちになる。一昨年にニコン・ギャラリーが、開催の決まっていた安世鴻氏の慰安婦写真展を、在特会や右翼の脅しに負けて一方的に中止したのも情けない一例だ。僕の写真展を訪れてくれた人々の何人もが、「こういった写真はなかなかギャラリーでみる機会がない」と言っていたように、今の日本のメジャーなギャラリー、特に企業の絡む会場で、現代の戦争や社会問題を扱ってくれるところなど、非常に少ないのではないだろうか?

いくつかの新聞社がとりあげてくれたこともあって、6日間で1200人以上という、僕が予想していたより遥かに多くの人たちが今回の個展を訪れてくれた。面と向かって話ができたのはそのうちほんの一部だが、「もっとこういう写真を頻繁に、多くの人たちにみせるべきだ」と言ってくれた人が少なくなかったことは励みだ。と同時に、こんなことに気づかされた。実は、人々がみたくないからこういった写真が展示されにくいのではなくて、みせる側が、「こういう硬くて深刻な題材は一般受けしない」とか「ショッキングな写真をみて気分を害したという苦情が怖い」という理由で単に「自己規制」しているだけなんじゃないか、と。

特定秘密保護法案とか集団的自由権の閣議決定などで、いまの日本はすごいスピードで歴史を逆行し、戦前に戻るかの如く危ない方向に向かっている。そんななか、メディアやギャラリーのように「発信する側」が、こんな検閲のような「自己規制」を続けていくのは問題だと思う。これはぼくら国民から、知る権利や考える機会を確実に奪っているのだから。

(この記事はヤフーニュースブログにも掲載してあります)