Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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初めての中国

2015-08-26 06:28:13 | アジア
株の値下がりや人民元の切り下げでニュースを賑わせている中国だが、いまや世界経済に大きな影響を与えるこの「アジアの巨頭」の首都北京で、数日を過ごす機会があった。僕にとって中国を訪れるのはこれが初めて。日本の隣国として色々な意味で近い国にも関わらず、これまでずっと縁がなかったのだ。

出発前、八月に中国を訪れることに、少しばかり神経質になっていた。来月はじめの「戦勝記念日」を前に、太平洋戦争がらみのプロパガンダが増えるので、反日感情が高まる時期でもあるからだ。しかしそれも杞憂に過ぎなかったようで、日本人だからとネガティブな経験をすることもなく過ごすことができた。もっとも、3日間の仕事を終えて自由に町を歩けたのはたったの1日だけ。こんな限られた時間での経験を語るのもおこがましいが、初めての中国の印象をいくつか述べてみたい。

(1)思っていたより、英語を話す人がまだまだ少ない。宿泊していた5つ星ホテル(いいクライアントをもつとラッキーだ!)のレストランでも、英語をあまり解さないウェイトレスがいたのには驚かされた。ハウス・キーピングのスタッフはもう論外。もっとも初歩的な「I」や「 You」、「 Big 」とか「Small」といった単語さえ通じないので、会話が全く成り立たない。不完全であっても、漢字での筆談のほうがよほど意思疎通ができる。

(2)建物が巨大。高さはそれほどでもないが、幅や長さが日本や米国の2−3倍はありそうなビルがゴロゴロしている。こんな威圧的なほどに大きな建物が並んでいる光景をみていると、巨大なこの国のスケールを感じずにはいられない。

(3)一昔前によく映像や写真で目にした、広い道路を埋めつくすように走る何百という自転車の姿はもう過去のもの。自転車よりも電動モーターのついた原付を良く見かけるが、中流階級はみな車を持てるようになったということだろう。さらに、メルセデス、BMW、アウディなどの高級車がやたら目につく。ランボルギーニが街を走っているのさえ、4日のあいだに2度もみた程だ。多くは「ニュー・リッチ」とよばれる成金だろうが、裕福層の増加はめざましい。ある晩、まだ新しいブティックホテルが併設するショッピング・センターの前に立っていると、目の前で横づけされていくのはほとんど高級車ばかり。それを運転する多くはまだ20代とか30代前半にしか見えない若者たちだった。

(4)観光客の多さに圧倒される。日本にあれだけの中国人観光客が訪れているのだから、国内旅行者の数は言わずもがなだ。観光スポットである世界最大の宮殿、故宮を訪れた朝のこと。混雑を避けようと朝7時半に到着すると、チケット売り場の開く30分前だというのにすでに何千の人だかり。所構わず地べたに腰を下ろして休む家族やグループ観光客の姿は、まさにインドを思い出させる光景だった。インド同様、観光客の増加は、人々の間に経済的余裕ができたことの反映だろうか。

(5)撮影の仕事は、制約が多くてやりづらかった。政府のメディアに対するコントロールがまだまだ強いことを実感。

(6)蛇足だが、評判通り、老若男女みな大声。すぐ隣に座ってる人や、携帯で喋るのに、なんであんなに声をはり上げなくてはならないのか、理解に苦しむ。この大声文化に何か歴史的背景はあるのだろうか。

言葉に関して、僕にとっては珍しい経験をさせてもらった。機内のエアーホステスから、ホテルのレセプション、 吉野家のおばちゃんまで、10人中10人、例外なく中国語で話しかけられたのだ。僕は中国でよく見かける短髪だし、顔も平均的東洋人なのでもっともな話ではあるのだけれど、考えてみたら、「人種の坩堝」である米国を除いては、これまで住んだり訪れた国では、僕は明らかな「外国人」だったのだなあと実感。何処にいっても「中国人」として目立たずにいられるのは嬉しかったが、話しかけられる度に「すいません。中国語できないんです」と弁明するのがそのうち億劫にはなった。

滞在時間が短すぎたのが残念だったが、天安門広場を訪れることができたのはいい経験だった。これまで幾度となくテレビや新聞、雑誌で目にしてきたこの場所。戦勝記念日の式典準備のために近くまではいけなかったが、実際に広場に立ち、あの見慣れた赤門に掲げられた毛沢東の肖像を前にしたら、どういうわけか鳥肌がたつほどの感動を覚えてしまった。1989年の天安門事件で撮られた、もっとも歴史的な写真のひとつ「戦車の前に立ちふさがる男」が胸に蘇ってきた。

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(この記事はYahoo Japan ニュースにも掲載してあります)