Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

帰らぬ息子を待つ母親たち

2009-12-23 23:06:36 | アジア
インド北部のカシミール地域でのアサインメントを終えて、数日前から首都のデリーに来ている。

しかしカシミールは寒かった。まあシカゴの冬に比べればたいしたことはないにせよ、州都スリナガーは朝晩0度くらいまで冷え込むので、27度のムンバイからやってきた身体にはなかなかのショック。

ここではアサインメントの撮影以外に少し時間があったので、自分で別な取材もおこなってきた。

カシミール地方では、インドからの独立を求めて1990年初頭から武力闘争が続いているが、それを制圧するために駐屯しているインド兵士たちによって相当な蛮行がおこなわれてきた。特に闘争がピークだった90年代には、兵士達による深夜の家宅捜索や不当逮捕、拘束が相次ぎ、無数の若者達が武装グループに属しているという根拠のない疑いをかけられ連れ去られたという。以来消息のわからなくなった逮捕者の数は8千人とも1万人ともいわれている。

すでに10年以上経つ現在も生死のわからない、そんな息子達を待ち続ける母親たちの話しを聞いてきたのだが、これはあらためて何らかの媒体で報告したいと思っている。

デリーではパキスタンのビザを申請。心配していたほど面倒ではなく、無事2日間でジャーナリストビザを取得できた。まだ仕事がはいったわけではないが、いずれにしても近いうちパキスタンへは出向く必要があると思うのでその準備だ。

明日、クリスマスイブの夜にまた暑いムンバイへと戻る予定だが、インドでのクリスマス。。。どんな感じなのだろう?


「硬派」雑誌の厳しい未来

2009-12-16 20:39:11 | 報道写真考・たわ言
個人的に付き合いのある東京の編集者からメールがはいった。

彼の関わっている雑誌「フォーサイト」が来年4月号をもって休刊することになったという。

原因は言わずとも知れた売り上げの問題で、会社として「収支改善の見通しが立たない」らしい。

「フォーサイト」は、僕も愛読させてもらっている数少ない経済誌だが、経済関係に疎い僕にも興味深く読める記事が多く、この雑誌からは多くを学ばせてもらった。だから今回の知らせはとても残念に思う。

雑誌休刊のニュースを聞く度に思うのは、出版社にとって、こういう「硬派」の雑誌を残すことはそんなに難しいことなのか?ということだ。勿論売り上げ事情があるのはわかるが、社の中でも売れている本や雑誌があるはずだし、そちらの利益で穴埋めしながら、何とかならないものなのか?

すべてを「売れる」、「売れない」だけで淘汰していけば、行き着く先は知れている。

そういう金勘定だけでなく、たとえ会社が望むほど売れなくても、社会にとって必要な、「発信し続けなくてはならない」情報、というものはあるはずだ。その辺を理解して、損得ではなしに、意義のある雑誌を守る姿勢を貫いてくれる上層部の人間というのはいないのだろうか?

さもなければ、「軽チャーばかりにどっぷり浸かった」日本の総白雉化がどんどん進んでしまうのではないかと、恐ろしくもある。

状況はやや違うが、僕も過去に何度か写真記事を掲載させてもらった「Days Japan」も苦境に陥っているようだ。こちらは報道写真家の広河隆一さんが個人で立ち上げたもので、購読数がそのまま雑誌の将来を決めることになる。海外在住ということで、僕もこれまで定期購読はしていなかったのだが、インドまで雑誌を送ってもらえるようなら遅ればせながら申し込もうかと思っている。

フォト・ジャーナリズムを全面に押し出したこの希有な硬派雑誌には、これからも長生きしてほしいからだ。

ちょっと長いが、先日転送されてきた広河さんからのお願いのメールを転載しておきたい。

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広河隆一からのお願い(転送歓迎)
 

 DAYSは12月9日に日本写真家協会賞を受賞しました。
写真界では日本でもっとも権威ある団体から評価を受けてうれしく思っています。
フランスのペルピニヤンでの審査員を務めるなど、海外での評価も高まっています。
世界で今ではほとんど唯一となったフォトジャーナリズムの雑誌を絶やしてはいけないという励ましも、多く受けます。
 
 東京都写真美術館では、サルガド展開催中に、DAYSのサルガド特集号は300冊以上を売ることができました。
週末の私の大阪講演で、年間定期購読者は19人増え、これでキャンペーン開始からの新規定期購読者は、370人になりました。
私の写真展を開催していただいている三重県の宮西さんのメールが発信されてたった1日半で、
21人の方々が定期購読を申し込んでくださいました。これで390人になりました。
(宮西さんのメールは添付しますので、転送歓迎で広めてください)。
DAYSが存続をかけたキャンペーンをしているということを聞いて、朝日ニュースターの上杉隆キャスターは、
22日(火)の8時から生放送を準備していただいています。
皆さんのおかげで、DAYSはなんとか6周年に向けて進んでいます。
「500人定期購読者が増えれば、存続できます」というキャンぺーンの500人という数字に、あと110人に迫ってきました。
 
 しかし正直言いますと、DAYSはまだ6周年を迎える3月以降も存続できるかどうか、
確約することはできない状況です。
お金が全くないというわけではありません。
DAYSはこれまでまったく借金をしないで、6年近く続けてきました。
そしてまだ私たちが手をつけていないお金があります。
それはDAYSにもしものことがあって、休刊せざるを得ないことが起こったら、
すでに定期購読をしていただいている方々に、残金を返金するためにとってあるお金です。
このお金に手をつけざるを得ない状態になりそうになったら、私は皆さんに事情をお話して、
DAYS休刊のお知らせをする覚悟でいます。
 
 営業や拡販をする立場から言いますと、年末年始の休暇は、恐ろしい時期です。
この時期には書店に行く人は激減し、すべての雑誌の売りあげが低迷するからです。
今出ている12月号は店頭からあと数日で姿を消し、1月号が書店に並びます。
しかし世間はすぐに年末・年始の休暇に入るのです。
 
 その前にこのメールを出しておきたいと思いました。
「努力すれば続けることができたのに、しなかったから休刊になった」
などと、あとで後悔したくないからです。
 
  これまでDAYSを支えていただいた方々にお願いします。
 
 まず定期購読をお申し込みください。
年内の特別キャンペーン中にお申し込みいただけますと、定期購読料は7700円と1000円引きになります。
かつて購読していただいたけれども、最近は購読を止めているという方は、もう一度購読をご検討ください。
すでにご購読いただいているは、周囲の人に広めてください。1人でも2人でも増やしてください。
定期購読期間がまだ残っている方も、継続手続きを今していただけますと、7700円になります。
 
 あと数日で書店から姿を消す12月号も、読んでいただいた方からは、高い評価をいただいています。
まだお読みになっていない方は、ぜひとも書店でのDAYSを購入してください。
書店の人に、「おや? DAYS販売の流れが変わってきたな」と思わせるような、動きを作りたいのです。
 
 ボランティアの方々にお願いします。さまざまなイベントでのご支援、本当にありがとうございました。
物販、定期購読拡大、周囲の人へのDAYS購読呼びかけなど、いま一度のご支援をお願いします。
 
 
 
DAYS JAPAN編集長
 
広河隆一
 
 
 
≪定期購読は下記の方法のいずれかでお願いします≫
 
方法①
DAYS本誌48ページ綴じ込みの振替用紙、または郵便局備え付け振込用紙にて7700円のご入金
(通信欄に、◆存続キャンペーンお申込みの旨◆お名前◆ご住所◆電話番号◆希望購読開始号をご記入ください)
 
方法②
FAXにてのお申込み
◆存続キャンペーンお申込みの旨◆お名前◆ご住所◆電話番号◆希望購読開始号
をご記入頂ければ別用紙でも結構です。
(後日お手元に払込用紙とDAYS JAPAN本誌をお届けします)
FAX 03-3322-0353
 
方法③
E-mailにてのお申込み
 
◆存続キャンペーンお申込みの旨◆お名前◆ご住所◆電話番号◆希望購読開始号
をご記入の上弊社まで送信ください。
(後日お手元に払込用紙とDAYS JAPAN本誌をお届けします)
E-mail info@daysjapan.net 
 




久しぶりのニュース取材

2009-12-13 22:47:14 | アジア
先週ニューヨーク・タイムスからの仕事が入り、久々にニュースの取材でインド南部にあるハイドラバードに行ってきた。

ここではあまり詳しくは書かないが、ハイドラバードを州都とするアンドラ・プラデッシュ州において、50年近くにわたり独立した州の設立を要求してきたテランガナ地域の住民達がついにその悲願を達成するか、という状況の撮影だ。

テランガナ地域の住民やその支持者たちによるストライキやデモで、日曜日からハイドラバード市内は騒然。僕が撮影を始めた水曜日も、大学キャンパスや州議会でデモをおこなった支持者が多数逮捕されるなど緊張は高まっていた。

結局、10日間を超える抗議の断食を続けていたテランガナ地域の政党リーダーが押し切ったかたちで、州議会はテランガナの独立を容認した。テランガナ住民達は歓喜に沸いたが、今度はその翌日には反独立の議員達や市民がデモをおこすなど、僕がムンバイに戻ってきた現在も混乱は続いている。

新しく州が独立するということはインドにとっては大きなニュースだ。

テランガナ以外にも、国内では現在9カ所で独立州としての地位を求める運動が続いており、今回の決定によって他地域の独立運動が勢いを増す可能性もある。そうなるとインド政府としても収集がつけられなくなるだろうし、この問題はこれからも注意して追っていきたいと思う。

最近の仕事はビジネスものが多かったので、僕としては人々の熱気のうねるニュース現場にまた戻れた嬉しい数日間ではあった。

(写真:逮捕されるテランガナ支持者たち)

おことわり(2)

2009-12-10 02:41:26 | Weblog
以前にも書きましたが、最近あまりにも低俗かつ愚劣なコメントが増えました。こちらでも削除などの対処をしてきましたが、こういう卑怯者の相手をいちいちしているほど暇人でもありませんので、今後からコメントはgooIDに登録してから書き込んでいただく、という措置をとらざるを得なくなりました。できるだけ多くの人の自由な意見交換の場にしたかったので、こういう余計な手順は踏みたくなかったのですが、仕方がありません。ご理解ください。

ベトナム枯れ葉剤

2009-12-09 02:59:51 | アジア
お知らせ

今年7月に取材した、ベトナム枯れ葉剤の記事がようやくトリビューンに掲載されました。以下が僕のつくったマルチメディアのリンクです。

http://www.chicagotribune.com/videobeta/?watchId=cf95025f-9f01-49db-bd21-7b05279862b4


http://www.chicagotribune.com/videobeta/?watchId=a9c58162-cd1c-41e8-adae-80eb8d99718c

http://www.chicagotribune.com/videobeta/?watchId=bfa6526a-856a-4b46-99d4-061256179a79

排ガス削減?

2009-12-05 22:05:13 | Weblog
昨日インド政府が二酸化炭素排出量を2020年までに20-25%削減するというニュースを新聞で読んだので、夕方のラッシュアワーに合わせて車の渋滞を撮りに街に出た。別にアサインメントではなかったが、ストックとしてそのうち使い道でもあるだろうと思ったからだ。フリーになるとこういうことにも気をまわさなくてはならないので、いつもニュースにはアンテナを張っておく必要がある。

それにしても、悪名高いムンバイの交通渋滞はひどいものだ。

先日も水不足に対するデモを撮ろうと出かけたのはいいが、ダウンタウンに向かう途中渋滞に巻き込まれて撮りそこねた。いまは冬なので(とはいっても日中は30度をこえる)まだましだが、それでもエアコンなど装着していない一般のタクシーで渋滞にはまるともう悲惨。両隣に停まったの車の熱気と、ここのドライバーたちはみな気違いか、と思うほどけたたましく鳴らされるホーンの騒音のために、座っているだけでもうぐったりしてくる。

排出量削減、といっても、国内総生産(GDP)の伸びに対する排出量の割合を減らすということで、経済成長が続けばそれに伴う総排出量が減る訳ではない。もともとインドは地球温暖化の原因は先進国によるもの、として、自国のような途上国に必要な経済発展の阻害となる温室効果ガスの国際的な削減義務は受け入れてこなかった。いまだにその基本的立場は変わっていないが、それでもこの国としてははじめて具体的な削減目標をあげたことは評価されるべきかな、とは思う。まあ、目の敵にしている中国が削減目標値を揚げたことに対する、ライバル意識のあらわれなのは間違いないのだが。。。

しかし、毎日のように渋滞に巻き込まれるたび、工場などからの工業排気以外に、これだけ多くの車が毎日排ガスをまき散らし続けるこの町で二酸化炭素排出量削減などありえるのかと、疑がわしくなってしまうのが正直なところだ。