真夏の方程式」を読みました。
夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。
一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。
翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。
その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。
これは事故か、殺人か。
湯川が気づいてしまった真相とは―。
ガリレオ・シリーズの長編第3作目です。
6月末から映画が公開されるというので読んでみました。
本作は夏休みの海沿いの田舎が舞台。
観光地の海岸で元刑事の塚原が変死体で見つかり、CO中毒死で殺害されたことがわかる。
たまたま同じ宿に泊まっていた湯川はその出来事の解明に乗り出す。
やがて湯川が気がついた事件の真相は、あまりにも切なく、そしてこれから関係者の未来を大きく変えてしまうものだった・・・。
「容疑者Xの献身」には劣りますが、ストーリー展開は相変わらず絶妙で、一気に読めました。
この小説の満足度:☆☆☆☆
吉村昭 著 「深海の使者」を読みました。
太平洋戦争が勃発して間もない昭和17年4月22日未明、一隻の大型潜水艦がひそかにマレー半島のペナンを出港した。
3万キロも彼方のドイツをめざして…。
第二次世界大戦中、隔絶された日本とドイツの間を5度に渡り行き来した潜水艦乗りの苦闘を描いたノンフィクションです。
両国関係者の必死の努力により、連合国の封鎖下にあった大西洋を潜航し人員・情報交流が行われました。
深い海の底がつなぐ日本とドイツ。
60日間潜水し続けて酸素が欠乏した船内はまさに地獄、命を懸けた、死と隣り合わせの壮絶な航海でした。
そんな潜水艦の航海の様子に加え、それぞれの潜水艦がたどった運命
欧州大陸の戦況や日欧航空路開拓の試みなど戦中秘話が随所に書き込まれて幅広くストーリーが展開されます。
昭和の歴史の忘れられた一部を知る、また潜水艦ものの読み物としても秀作です。
この小説の満足度:☆☆☆☆☆
道尾 秀介 著 「鬼の跫音」を読みました。
刑務所で作られた椅子に奇妙な文章が彫られていた。
家族を惨殺した猟奇殺人犯が残した不可解な単語は哀しい事件の真相を示しており…(「〓(ケモノ)」)。
同級生のひどい攻撃に怯えて毎日を送る僕は、ある女の人と出会う。
彼女が持つ、何でも中に入れられる不思議なキャンバス。
僕はその中に恐怖心を取って欲しいと頼むが…(「悪意の顔」)。
心の「鬼」に捕らわれた男女が迎える予想外の終局とは。
「鈴虫」、「ケモノ」、「よいぎつね」、「箱詰めの文字」、「冬の鬼」、「悪意の顔」の6作を収めたホラー短編集です。
どの話も暗く、妖しげな雰囲気がプンプン漂います・・・。
人が悩み次第に狂気の世界へと踏み越えてしまう過程がジワジワと・・・。
誰の心の奥底にも<鬼>が住んでいる・・・。
そしてラストは・・・。
そう来たか!!
道尾さん、上手いね~!!
この小説の満足度:☆☆☆☆
水の中の犬」を読みました。
探偵の元にやってきた一人の女性の望みは恋人の弟が「死ぬこと」。
誰かが死ななければ解決しない問題は確かにある。
だがそれは願えば叶うものではなかった。
追いつめられた女性を救うため、解決しようのない依頼を引き受けた探偵を襲う連鎖する悪意と暴力。
それらはやがて自身の封印された記憶を解き放つ。
木内作品は「藁の楯」に続き2作目です。
元刑事の中年私立探偵が主人公の3つの短編がつながる連作となっています。
物語そのものは「藁の楯」と同様に全体的に暗めのバイオレンス小説です。
依頼人も依頼内容も一筋縄ではいかない事情を抱えており、探偵はただの探偵らしからぬ挙動によりどんどん傷を負い、裏の世界の住人に目をつけられてますます深みにはまる・・・。
主人公がボロボロになりながらも信念を曲げずに突き進む姿がスピーディに描かれていて一気に読み進めることができました。
この小説の満足度:☆☆☆☆
横道世之介」を読みました。
大学進学のため長崎から上京した横道世之介18歳。
愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。
友の結婚に出産、学園祭のサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い…。
自分の学生時代の空気を思い出しつつ読みました。
大学進学のために上京した「横道世之介」18歳の、なんでもない一年間の話。
世之介のどこかのんびりして、でもどこかで一生懸命な生き様と彼と出会った人々の20年後が差し挟まれる構成になっています。
呑気でお気楽な世之介の日常を笑いながら読んでいると、突然、強烈な一発が飛んできます。
え? 何これ・・・
これが彼の物語ではなくて、彼と出会った人々の物語であることに気づくのです。
第7回本屋大賞第3位、柴田錬三郎賞受賞作。
「交戦規則ROE 」を読みました。
新潟市内に三十数名の北朝鮮精鋭特殊部隊が潜入!拉致情報機関員の奪還を端緒として“戦争”が偶発したのだ。
初めての実戦を経験する陸上自衛隊の激闘―。
防衛庁対遊撃検討専任班の桂川は対策に追われるが、彼の狙いは他にもあった。
それは…。
「交戦規則」とは敵対勢力と交戦する際の規則。
日本国内での国外特殊精鋭部隊と自衛隊との戦いが描かれています。
武装した外国のテロリスト集団が攻撃してきたら、警察は、そして自衛隊はどこまで戦えるのか・・・。
外国軍の侵入に対応する各省庁の動きや自衛隊の装備・戦術などが細部に描かれていてなかなか興味深く読めました。
この小説の満足度:☆☆☆☆
風の軍師 黒田官兵衛」を読みました。
秀吉の懐刀として武勲を立てた官兵衛は、戦況膠着する文禄の役で朝鮮行きを申し出る。
しかし知略家・官兵衛の真意は、キリシタンを弾圧する秀吉を討つことだった。
関ヶ原の戦いでも伴天連の王国を造るべく九州で挙兵。
下克上の時代、異国の風を受け、夢を追う男の壮絶な生涯。
直木賞作品の「蜩ノ記」で葉室作品に魅了され、また「黒田官兵衛」が来年の大河ドラマになるというので読んでみました。
軍師、「黒田官兵衛(如水)」の戦国末期から江戸時代までの生涯が彼がキリシタンだったと云う視点から描かれています。
如水が本能寺の変や秀吉の死、さらには関が原の戦いの黒幕だったり、明智光秀が実は小栗栖では死んでいなかったりと、独特の解釈がなかなか面白い。
人は殺すよりも使え。
戦いに勝つ最大の秘訣は情報を作る事。
先が見えるのではなく、先を作る事。
智力で敵を下す。
生涯50数度の合戦で一度も負けを知らなかった戦の天才の生涯とは・・・。
やっぱり葉室作品はおもしろい!
この小説の満足度:☆☆☆☆
木内 一裕 著 「 藁の楯」を読みました。
「生きる価値のない男」を守る。
命を懸けて。
2人の少女を惨殺した殺人鬼の命に10億円の値がついた。
日本警察史上、最も過酷な任務に投げ込まれた5人の男たち。
全ての殺意が1人の男に向けられたとき、5人の警察官の孤独な戦いが始まった!
「人間の屑」の楯になることを拒否した警察官たちが直面する絶望の果ての最悪とは!?
幼女を強姦・殺害した10億円の懸賞金のかかった犯人を九州から東京まで護衛移送すると云うストーリー。
ハリウッド映画では有り勝ちなストーリーですが、日本が舞台だったら・・・。
著者がマンガ家(ビーバップハイスクールの著者)であり映画監督であることから、
まさにシナリオとしてそのまま使える展開となっています。
読んでいても、映像が頭に浮かびスラスラ読めてラストまで楽しめました。
人間の屑を自分の命を楯に守らねばならない事への葛藤、何が正義なんだろう?
職務を全うする、これは正しい事なのか?
今週末から公開される映画では、”人間のクズ”の犯人役を藤原竜也が演じるそうですが、どんな演技をするのかこちらも楽しみです。
この小説の満足度:☆☆☆☆