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僕の前世はたぶんオランダ人。

おもしろきこともなき世をおもしろく

かがみの孤城(辻村深月)

2022年08月16日 | よむ
中2の娘の読書感想文を
今年は俺推薦としてみた。
作者・タイトル・扉絵
全てが中2向きかなと思ったんだもの。
案の定というか
主人公も女子中学生だったりして
ジャケ買い文庫にしては大当たり。
辻村深月は凍りのクジラで
印象がすこぶる悪く
のび太の月面探査を書いたとはいえ
途中で寝てしまうくらい退屈だったし
とにかくあまり印象がよくない。
内容的にはいくつもの仕掛けで読者をミスリードさせ
どんでん返しで楽しませる
直木賞作家に相応しいもので
児童小説としても秀逸。
予想のつく仕掛けで
読者をニヤニヤさせるものもあれば
あっと驚く展開のものもある。
1カ月ごとに章が分かれているところも
順序だてて読むのに使いやすく
結果、
規則正しく夏休みを過ごす
予定作りにも使えて
いくつもの意味で
夏の1冊に相応しかった。

日蝕(平野啓一郎)

2022年08月07日 | よむ

1998年下半期の芥川賞。
あれの衝撃からもう20年以上経つのか...。
とにかく難解な感じを多用していて
もう辞書なしでは読み飛ばすしかないというか
辞書すら引きようがないくらいに
よめない...。
常用漢字があるのにあえての旧字だったり
なんかもう恣意的すぎて
悪意ともいえる。
15世紀フランスのトマス主義神学生が主人公で
これまでの平野作品と切り口が違いすぎて
まずは肩透かしを食らう。
この人なんでもいけるんだな。
そのテーマ性から遠藤周作を連想するが
背徳に次ぐ背徳の連続で
もはや異端の遠藤周作。
描写が細かくて
文字量が堰をきった濁流のような文字数で表現される
15世紀の荒廃した旅路は
さながら作者が実際に旅をしたかのようにリアル。
難解な文字を使うことで再現できた世界観ともとれるし
また押し付けがましくもある。
いずれにしても
この筆者はいくつの文体を使い分けることができるのだろうか。
のちに本人の提唱する『分人』は
すでに別の意味で確立されていたのではなかろうか。

小説8050(林真理子)

2022年07月23日 | よむ
初めての林真理子。
知名度のわりにメジャーな作品は意外と少なく
時折媒体で見かける丸々としたおばちゃん。
くらいにしか思っていなかったが
数年に1度の嫁推薦話題図書に選ばれたようで
スススッと読み進める。
中学からの引きこもりニートと
彼を抱える父親との奮闘記。
8050とは
引きこもりを放置するのは
近い将来親80歳、子供50歳となり
親子で好んで袋小路に入り込むようなものですよ。
生活力がなくなり文字通り共倒れですよ。
と社会に警鐘をならす造語なのだそう。
知らんかった。
余談ながら8020運動という言葉もあり
こちらは80歳で20本自前の葉を残そうというもの。
話がとんだ。
幸いにもこちらのご家庭では
引きこもりに向き合わざるをえなくなったようだが
概ねのご家庭ではそんな都合よく事は運ばず
ホイホイと解決に至ることなど皆無であろう。
あまりにご都合主義なので
テレビドラマくらいにはなるんじゃないかな。
ネットでの評価もある程度高いみたい。
世の中には後回しにしちゃいけない問題もあるってことだね。

朝が来る(辻村深月)

2022年07月09日 | よむ

凍りのくじらを挫折して以来の辻村深月さん。
その間彼女は映画ドラえもんを脚本したり
直木賞を取ったりと
誠に華々しく活躍をしてこられた。
10年ぶりの辻村作品、
しかも挫折していることから
とてつもなく難読なイメージが先行し
さらに敷居の高いハードカバーで手に取ってしまったため
最初の扉絵を持ち上げるのすら
ものすごく重たかったのだが
あれよあれよと読み進み
気がつけば4時間で読破。
イージーなタイプの作家さんだったのね。
「朝が来る」というすばらしくポジティブなタイトルなのに
最終的には誰も救われる気がしない...。

王家の風日(宮城谷昌光)

2022年06月04日 | よむ

宮城谷がまだ無名であった頃の
初期の名作。
得意先からのおすすめ図書ということで手に取ったが
序盤は中国古代王朝の商(殷)が舞台で
干子、箕子が主役ということしかわからず
手探りで読み進める。
地名も見たことのない字が多く
ずいぶん読みにくい。
この辺りは漢字に対する宮城谷氏のこだわりなのだそう。
また最近の氏の作風に見られる
柔らかで爽やかな読みやすさは見られず
全く異なる時代の挿話を唐突にぶち込んでくるなど
司馬遼太郎のような作風に近いように感じる。
やや軟弱な作風の印象であったがいい意味で裏切られ
かなり好感がもてた。
物語の中盤で太公望、紂王、妲己と
馴染みのあるワードがようやくでてきて
そこで初めて
あ!殷の滅亡と周王朝の始まりの話か!
と気づく。
後半はそんなわけでページをめくるスピードが格段にあがる。
読み切った後の爽やかさはさすが宮城谷といえるものであり
期待を裏切るかなりの面白さだった。
年代別の宮城谷を読み直してみようかと思う。