シャープの行く末に関して、経済ニュース面を賑わせていたが、台湾の鴻海精密工業の傘下で生き残る合意が整ったようであったが、偶発債権3000億円が、合意の直前に出されたために、契約時期が延期されている。
しかし、どういう形をとるかは両者間で決まることではあるが、遅かれ早かれ既定路線でスタートするのではなかろうか。
日本の消費者は鴻海精密工業などという社名を知らない人が大部分だろう。アップルのIphoneやIpadは愛用しているが、この製品の受託生産社であったのだから知るはずもないわけだ。
しかしIphoneのウエイトが高いだけに、ひとたび売れ行きに陰りが出だすと、鴻海の収益悪化の大きな要因になりかねない。
シャープという自社ブランドを持てるようになると、最終製品の開発・販売という新しい力を鴻海は得ることができる。
世界的なスマホのシェアは低くなっているが、日本国内でのシャープブランのスマホは、アップル、ソニーに続いて3位の座にある。
今まで手掛けていなかった白物家電のシャープブランドも、世界中に認知されている。液晶TVなど情報家電も韓国サムスンやLGなど強豪が存在するが、鴻海のコスト競争力のある工場で生産し、販売攻勢をかけることができれば、あるいは世界市場での液晶TVのかなりのシェアを取ることが可能かもしれない。
資本力で経営力が発揮できなかったシャープが、すっかり変わる可能性は十分考えられる。
ルノーの傘下になり経営再建を図った日産自動車のように、海外資本の傘下に入ることは、今のグローバル経済では当然のことだ。
東芝にしても、筆者は、苦境に落ちった根本原因は原子力企業のウエスチングハウスの巨額買収が、大きく収益の足を引っ張るこn原因になっていたとみているが、経営判断のミスが会社存続を揺るがす事態になる典型であり、シャープも液晶事業への超大型設備投資の判断ミスが、苦境を招いた原因であるとみている。
さて、鴻海の傘下になってシャープが見事に再生するかは、両社の経営努力による。今のところ両社はお互いの特徴を補完できる関係であり、筆者の個人的な判断では、大きく再生できる可能性が高いとみている。 今後の発展を期待したい。
(日本経済新聞電子版より貼り付け)
転機の鴻海、危機のシャープを救う
編集委員 後藤康浩
2016/2/29
世界最大のエレクトロニクス製品受託製造企業(EMS)である鴻海(ホンハイ)精密工業が、経営が揺らいでいた家電大手、シャープの買収を決めました。紆余曲折があり、なお未確定な部分も残っていますが、受託製造の鴻海と研究開発、ブランドのシャープの組み合わせは、アジアのモノづくりに新たな可能性を示唆しています。
■理想的な補完関係
台湾の電機・電子産業は鴻海と半導体の受託メーカーを指すファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の両雄がけん引し、今世紀に入って急成長しました。両社のような受託製造を産業分析のツールである「スマイルカーブ(付加価値曲線)」(表)のうえに位置づけると、ちょうど真ん中、すなわち付加価値が最も低い場所に来ます。発注企業から与えられた設計図、指示書、支給された部品、原料のままに組み立てや加工生産するビジネスは、他社との違いを打ち出しにくく、どうしてもコストと納期だけの競争になってしまいがちだからです。
そこからTSMCは半導体の線幅の微細化などの研究開発力を高め、世界のトップグループに入ることで、他社にできない製品をつくりだせるようになり、スマイルカーブの左側、高付加価値の分野に移動することに成功しました。一方で、鴻海などEMSは部品の調達を代行したり、設計や商品企画の分野も取り込むことで付加価値を高めようとしてきました。しかし、鴻海単独の研究開発力では限界があり、受託する規模を大きくするしか利益を拡大する方法をみつけられませんでした。幸い鴻海はアップルのiPod、iPhoneなどの生産受託が急拡大したことで、成長路線を走ることができましたが、受託製造の構造的な弱みから抜け出ることはできませんでした。
液晶パネルなどデバイスメーカーの買収、中国での家電小売りへの進出など様々な模索はしてきました。スマイルカーブで言えば、デバイスは左側、小売りは右側への挑戦です。ただ、いずれも構造転換には明らかに力不足でした。そこに訪れたのがシャープ買収のチャンスです。シャープは液晶ディスプレーを世界の先頭に立って開発したメーカーです。基礎的な研究、その成果の商品化などに力を持ち、斬新な商品企画力や高度の生産技術も持っていました。ブランド力もありましたが、グローバル市場に全面的に浸透し、トップシェアを取るには経営資源が追い付かず、ライバルのサムスン電子や台頭した中国メーカーなどに対抗できず、経営が悪化してしまいました。
整理すれば、鴻海に欠けた技術力とブランド力をシャープが持ち、シャープに欠けた資金を鴻海が持っていたわけです。そしてスマイルカーブでみれば両社を合わせれば左から真ん中、右まできれいにそろいます。両社の組み合わせは理想的な補完関係といえるのです。日本、韓国を除けば、アジアのモノづくりは大量生産、労働集約型です。人件費が安く、若年労働力を確保しやすいという環境が要因です。スマイルカーブの真ん中で強みを発揮するわけです。ただ、中国、タイのように中進国レベルまで成長すると、賃金は上がり、少子化、高齢化も進むため、そうした強みは急速に薄れます。工場はより賃金の安い次の途上国に移っていくわけです。アジアでめまぐるしい生産拠点の移動が起きるのはこのためです。
■アウトバウンド型からインバウンド型へ
中進国レベルまで成長した国の製造業が次のステージに上がる時に、日本企業との連携は不足するものを補い、力になるでしょう。グローバル企業になりきれないまま成長の限界に達した日本企業にとって、途上国、中進国のメーカーが持つコスト競争力や市場開拓力は魅力的です。そうした連携をつくるのは従来は日本企業によるM&A、すなわちアウトバウンド型でしたが、これからは日本企業がアジア企業に買収されるインバウンド型も受け入れていくべきでしょう。
転機に立っていた鴻海が、危機の瀬戸際にあったシャープを救うことで、両社には新たな可能性が広がったといえるでしょう。
(貼り付け終わり)
しかし、どういう形をとるかは両者間で決まることではあるが、遅かれ早かれ既定路線でスタートするのではなかろうか。
日本の消費者は鴻海精密工業などという社名を知らない人が大部分だろう。アップルのIphoneやIpadは愛用しているが、この製品の受託生産社であったのだから知るはずもないわけだ。
しかしIphoneのウエイトが高いだけに、ひとたび売れ行きに陰りが出だすと、鴻海の収益悪化の大きな要因になりかねない。
シャープという自社ブランドを持てるようになると、最終製品の開発・販売という新しい力を鴻海は得ることができる。
世界的なスマホのシェアは低くなっているが、日本国内でのシャープブランのスマホは、アップル、ソニーに続いて3位の座にある。
今まで手掛けていなかった白物家電のシャープブランドも、世界中に認知されている。液晶TVなど情報家電も韓国サムスンやLGなど強豪が存在するが、鴻海のコスト競争力のある工場で生産し、販売攻勢をかけることができれば、あるいは世界市場での液晶TVのかなりのシェアを取ることが可能かもしれない。
資本力で経営力が発揮できなかったシャープが、すっかり変わる可能性は十分考えられる。
ルノーの傘下になり経営再建を図った日産自動車のように、海外資本の傘下に入ることは、今のグローバル経済では当然のことだ。
東芝にしても、筆者は、苦境に落ちった根本原因は原子力企業のウエスチングハウスの巨額買収が、大きく収益の足を引っ張るこn原因になっていたとみているが、経営判断のミスが会社存続を揺るがす事態になる典型であり、シャープも液晶事業への超大型設備投資の判断ミスが、苦境を招いた原因であるとみている。
さて、鴻海の傘下になってシャープが見事に再生するかは、両社の経営努力による。今のところ両社はお互いの特徴を補完できる関係であり、筆者の個人的な判断では、大きく再生できる可能性が高いとみている。 今後の発展を期待したい。
(日本経済新聞電子版より貼り付け)
転機の鴻海、危機のシャープを救う
編集委員 後藤康浩
2016/2/29
世界最大のエレクトロニクス製品受託製造企業(EMS)である鴻海(ホンハイ)精密工業が、経営が揺らいでいた家電大手、シャープの買収を決めました。紆余曲折があり、なお未確定な部分も残っていますが、受託製造の鴻海と研究開発、ブランドのシャープの組み合わせは、アジアのモノづくりに新たな可能性を示唆しています。
■理想的な補完関係
台湾の電機・電子産業は鴻海と半導体の受託メーカーを指すファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の両雄がけん引し、今世紀に入って急成長しました。両社のような受託製造を産業分析のツールである「スマイルカーブ(付加価値曲線)」(表)のうえに位置づけると、ちょうど真ん中、すなわち付加価値が最も低い場所に来ます。発注企業から与えられた設計図、指示書、支給された部品、原料のままに組み立てや加工生産するビジネスは、他社との違いを打ち出しにくく、どうしてもコストと納期だけの競争になってしまいがちだからです。
そこからTSMCは半導体の線幅の微細化などの研究開発力を高め、世界のトップグループに入ることで、他社にできない製品をつくりだせるようになり、スマイルカーブの左側、高付加価値の分野に移動することに成功しました。一方で、鴻海などEMSは部品の調達を代行したり、設計や商品企画の分野も取り込むことで付加価値を高めようとしてきました。しかし、鴻海単独の研究開発力では限界があり、受託する規模を大きくするしか利益を拡大する方法をみつけられませんでした。幸い鴻海はアップルのiPod、iPhoneなどの生産受託が急拡大したことで、成長路線を走ることができましたが、受託製造の構造的な弱みから抜け出ることはできませんでした。
液晶パネルなどデバイスメーカーの買収、中国での家電小売りへの進出など様々な模索はしてきました。スマイルカーブで言えば、デバイスは左側、小売りは右側への挑戦です。ただ、いずれも構造転換には明らかに力不足でした。そこに訪れたのがシャープ買収のチャンスです。シャープは液晶ディスプレーを世界の先頭に立って開発したメーカーです。基礎的な研究、その成果の商品化などに力を持ち、斬新な商品企画力や高度の生産技術も持っていました。ブランド力もありましたが、グローバル市場に全面的に浸透し、トップシェアを取るには経営資源が追い付かず、ライバルのサムスン電子や台頭した中国メーカーなどに対抗できず、経営が悪化してしまいました。
整理すれば、鴻海に欠けた技術力とブランド力をシャープが持ち、シャープに欠けた資金を鴻海が持っていたわけです。そしてスマイルカーブでみれば両社を合わせれば左から真ん中、右まできれいにそろいます。両社の組み合わせは理想的な補完関係といえるのです。日本、韓国を除けば、アジアのモノづくりは大量生産、労働集約型です。人件費が安く、若年労働力を確保しやすいという環境が要因です。スマイルカーブの真ん中で強みを発揮するわけです。ただ、中国、タイのように中進国レベルまで成長すると、賃金は上がり、少子化、高齢化も進むため、そうした強みは急速に薄れます。工場はより賃金の安い次の途上国に移っていくわけです。アジアでめまぐるしい生産拠点の移動が起きるのはこのためです。
■アウトバウンド型からインバウンド型へ
中進国レベルまで成長した国の製造業が次のステージに上がる時に、日本企業との連携は不足するものを補い、力になるでしょう。グローバル企業になりきれないまま成長の限界に達した日本企業にとって、途上国、中進国のメーカーが持つコスト競争力や市場開拓力は魅力的です。そうした連携をつくるのは従来は日本企業によるM&A、すなわちアウトバウンド型でしたが、これからは日本企業がアジア企業に買収されるインバウンド型も受け入れていくべきでしょう。
転機に立っていた鴻海が、危機の瀬戸際にあったシャープを救うことで、両社には新たな可能性が広がったといえるでしょう。
(貼り付け終わり)