真壁 昭夫信州大教授の経済コラムは、筆者も好んで読んでいますが、真壁昭夫氏は昨年10月頃のコラムでも、中国だけではなく、欧州経済の不安定も問題にしておられた。
今年に入って、一挙に世界同時株安が進行しているが、直近の原因はドイツ銀行の金融不安の表面化のようだ。
世界の経済や金融が安定し、経済成長が見込めれば、安心してリスクをとる投資も活発に行われる。
しかし、中国経済の低迷、原油価格安、米国経済好調の疑問、欧州経済の不安定が顕在化してくると、相互に経済活動で関連している現代では、日本経済だけが問題ないはずがない。
中国経済の低迷が長期化すると、日本の高性能部品などの輸出減につながる。中国観光客の来日数の減少懸念もあるかもしれない。
原油価格の低迷は、米国のシェールオイル関連の企業の倒産不安や、貸し付けている金融機関の業績不安も噂されている。
ドイツ銀行の経営不安は、いまだ解消されたわけではなく、欧州の他の金融機関の経営不安も噂されているのが実態だ。
そして真壁教授が指摘しているのは、各国中央銀行のマイナス金利の拡大競争が、決して正常な状態ではないということだ。
どうも今年は、世界の実体経済の需要が低迷しているだけに、金融機関の不安要素も増大しそうだ。
(現代ビジネスより貼り付け)
なぜ「世界経済低迷」の不安が高まっているのか? 得体の知れない株安の理由
真壁 昭夫
2016年02月15日(月)
●ドイツ銀行問題は、世界経済低迷への序曲
原油価格の下落に振り回されリスク回避的に動いてきた金融市場に、もう一つ無視できないリスク要因が浮上した。それは欧州金融機関の経営不安の懸念だ。
2月8日には、以前から業績悪化が懸念されていた、独金融大手であるドイツ銀行の利払い懸念が急上昇した。
これを受けて、欧州の銀行株が大きく売り込まれた。そうした流れは米国やわが国の株式市場にも伝播し、株価が大きく下落することになった。それに伴い、投資家のリスクオフが進み、安全通貨と言われる円はドルに対して一時110.99円まで上昇した。
この動きは、一金融機関の信用問題ではない。一部の金融機関が、今でもバブル崩壊の後始末=不良債権処理が終了していないことを示している。世界経済の減速リスクが高まっていることには注意が必要だ。
世界的な株価下落等の引き金は、「ドイツ銀行のCoco債(偶発転換社債)の利払いに懸念あり」との観測だった。Coco債は、銀行の資本が棄損した場合に強制的に株式に転換されるなどして損失を吸収するよう設計された債券だ。投資家は過度にドイツ銀行の資本の健全性に不安を抱いたのかもしれない。
しかし、利払いへの懸念は問題の一端に過ぎない。ドイツ銀行以外にもHSBC等、欧州の金融機関の株価は全般的に軟調だ。欧州金融機関の株価下落、信用リスクの上昇は、世界経済が陥りつつある低迷への序曲かもしれない。
ユーロ圏では財政問題後の緊縮策を受けて、景気回復の足取りは重い。リーマンショック後、世界的に金融機関のバランスシート調整が進んだが、中国の減速などを受けて、資金需要は低迷している。そのため、大手金融機関を中心に、再度、過剰な債務、投資、人員のリストラが必要になるだろう。
金融機関の経営が悪化すれば、お金の流れが滞る可能性がある。これが信用収縮につながり、景気は悪化する恐れがある。すでにドイツ銀行は21015、2016年の無配、1.5万人もの人員削減を決めた。これは、同行がリスクをとって投資や融資を増やす体力を失いつつあることを意味する。それは信用収縮を引き起こすトリガーとも考えられる。
●台頭する世界経済の減速懸念
資金の需要が伸び悩む中、ECBや日銀はマイナス金利の拡大を模索している。追加的なマイナス金利は、銀行にとっての重要な収益源である国債利回りを低下させ、資金の運用難につながる。お金を貸し出そうにも、需要が低迷している以上、収益は低迷しやすい。
今回、欧州金融機関に対する懸念を受けた株安は、多くの投資家の想像を上回るペースで進んだこともあり、投資家は一種のパニック状態に陥った。今後、徐々に市場は落ち着きを取り戻すだろう。今月26日に開催されるG20で、主要国間の政策協調の仕組みが整えられる可能性もある。それは金融市場を安定させる効果がある。
しかし、それで世界経済が抱える問題をすべて解決するわけではない。
ユーロ圏の景気を支えてきたドイツでの金融機関の経営悪化は、無視できないマイナス要因だ。中国経済の減速も重要な要素である。世界の牽引役である米国経済に減速傾向が見えるようだと、米国に代わる牽引役が見当たらなくなる。
名目金利がゼロ近傍、あるいはそれ以下に落ち込んだ状態では、追加緩和の効果も限定的だろう。徐々に、金融機関の経営不安が信用を収縮させやすくなっている。先行きの不透明感、金融市場の下方リスクも上昇する可能性が高い。そうなると、各国の中央銀行は今まで以上に利下げ、量的緩和の拡大、マイナス金利の拡大を進めようとするだろう。もはやそれは競争だ。
しかし、実体経済の需要が低迷している以上、追加緩和が景気を根本から立ち直らせることはできない。財政の出動余地も限られている。むしろ、マイナス金利は金融機関の経営を追加的に圧迫し、景気のリスクになる恐れもある。
欧州金融株の下落は、先行きの低迷リスクを市場が認識し始めたサインである可能性がある。「その一手」は慎重に考えた方がよいだろう。
(貼り付け終わり)
今年に入って、一挙に世界同時株安が進行しているが、直近の原因はドイツ銀行の金融不安の表面化のようだ。
世界の経済や金融が安定し、経済成長が見込めれば、安心してリスクをとる投資も活発に行われる。
しかし、中国経済の低迷、原油価格安、米国経済好調の疑問、欧州経済の不安定が顕在化してくると、相互に経済活動で関連している現代では、日本経済だけが問題ないはずがない。
中国経済の低迷が長期化すると、日本の高性能部品などの輸出減につながる。中国観光客の来日数の減少懸念もあるかもしれない。
原油価格の低迷は、米国のシェールオイル関連の企業の倒産不安や、貸し付けている金融機関の業績不安も噂されている。
ドイツ銀行の経営不安は、いまだ解消されたわけではなく、欧州の他の金融機関の経営不安も噂されているのが実態だ。
そして真壁教授が指摘しているのは、各国中央銀行のマイナス金利の拡大競争が、決して正常な状態ではないということだ。
どうも今年は、世界の実体経済の需要が低迷しているだけに、金融機関の不安要素も増大しそうだ。
(現代ビジネスより貼り付け)
なぜ「世界経済低迷」の不安が高まっているのか? 得体の知れない株安の理由
真壁 昭夫
2016年02月15日(月)
●ドイツ銀行問題は、世界経済低迷への序曲
原油価格の下落に振り回されリスク回避的に動いてきた金融市場に、もう一つ無視できないリスク要因が浮上した。それは欧州金融機関の経営不安の懸念だ。
2月8日には、以前から業績悪化が懸念されていた、独金融大手であるドイツ銀行の利払い懸念が急上昇した。
これを受けて、欧州の銀行株が大きく売り込まれた。そうした流れは米国やわが国の株式市場にも伝播し、株価が大きく下落することになった。それに伴い、投資家のリスクオフが進み、安全通貨と言われる円はドルに対して一時110.99円まで上昇した。
この動きは、一金融機関の信用問題ではない。一部の金融機関が、今でもバブル崩壊の後始末=不良債権処理が終了していないことを示している。世界経済の減速リスクが高まっていることには注意が必要だ。
世界的な株価下落等の引き金は、「ドイツ銀行のCoco債(偶発転換社債)の利払いに懸念あり」との観測だった。Coco債は、銀行の資本が棄損した場合に強制的に株式に転換されるなどして損失を吸収するよう設計された債券だ。投資家は過度にドイツ銀行の資本の健全性に不安を抱いたのかもしれない。
しかし、利払いへの懸念は問題の一端に過ぎない。ドイツ銀行以外にもHSBC等、欧州の金融機関の株価は全般的に軟調だ。欧州金融機関の株価下落、信用リスクの上昇は、世界経済が陥りつつある低迷への序曲かもしれない。
ユーロ圏では財政問題後の緊縮策を受けて、景気回復の足取りは重い。リーマンショック後、世界的に金融機関のバランスシート調整が進んだが、中国の減速などを受けて、資金需要は低迷している。そのため、大手金融機関を中心に、再度、過剰な債務、投資、人員のリストラが必要になるだろう。
金融機関の経営が悪化すれば、お金の流れが滞る可能性がある。これが信用収縮につながり、景気は悪化する恐れがある。すでにドイツ銀行は21015、2016年の無配、1.5万人もの人員削減を決めた。これは、同行がリスクをとって投資や融資を増やす体力を失いつつあることを意味する。それは信用収縮を引き起こすトリガーとも考えられる。
●台頭する世界経済の減速懸念
資金の需要が伸び悩む中、ECBや日銀はマイナス金利の拡大を模索している。追加的なマイナス金利は、銀行にとっての重要な収益源である国債利回りを低下させ、資金の運用難につながる。お金を貸し出そうにも、需要が低迷している以上、収益は低迷しやすい。
今回、欧州金融機関に対する懸念を受けた株安は、多くの投資家の想像を上回るペースで進んだこともあり、投資家は一種のパニック状態に陥った。今後、徐々に市場は落ち着きを取り戻すだろう。今月26日に開催されるG20で、主要国間の政策協調の仕組みが整えられる可能性もある。それは金融市場を安定させる効果がある。
しかし、それで世界経済が抱える問題をすべて解決するわけではない。
ユーロ圏の景気を支えてきたドイツでの金融機関の経営悪化は、無視できないマイナス要因だ。中国経済の減速も重要な要素である。世界の牽引役である米国経済に減速傾向が見えるようだと、米国に代わる牽引役が見当たらなくなる。
名目金利がゼロ近傍、あるいはそれ以下に落ち込んだ状態では、追加緩和の効果も限定的だろう。徐々に、金融機関の経営不安が信用を収縮させやすくなっている。先行きの不透明感、金融市場の下方リスクも上昇する可能性が高い。そうなると、各国の中央銀行は今まで以上に利下げ、量的緩和の拡大、マイナス金利の拡大を進めようとするだろう。もはやそれは競争だ。
しかし、実体経済の需要が低迷している以上、追加緩和が景気を根本から立ち直らせることはできない。財政の出動余地も限られている。むしろ、マイナス金利は金融機関の経営を追加的に圧迫し、景気のリスクになる恐れもある。
欧州金融株の下落は、先行きの低迷リスクを市場が認識し始めたサインである可能性がある。「その一手」は慎重に考えた方がよいだろう。
(貼り付け終わり)