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Sアミーユ川崎の介護職員による殺人事件から、政治問題まで抉り出す山田厚史氏のコラムを読む。

2016年02月18日 18時48分21秒 | 日記
 今年に入り社会面をにぎわす事件が立て続けに発生しているが、つい最近に逮捕されたSアミーユ川崎老人ホームの殺人事件ほど、衝撃を与えた事件はなかった。

 筆者なども他人ごとではなく、10年前後先になると、お世話になるような老人ホームが舞台であるからだ。

 しかも犯人はそこの若い介護職員であったといことだ。

 介護の仕事は、筆者も知っているが、結構体力を必要とし、その割には給与が低い職場である。

 この施設に入居している老人達は、比較的裕福層でないと入居できない。

 まさに最近の日本で問題になりつつある、格差社会を舞台としで発生した事件なのだ。

 ジャーナリスト山田厚史氏のコラムは、この事件に絡み日本の金融資本主義経済の行き詰まりや、若い世代の給与格差のある労働環境の問題点も抉り出す、快心のコラムだ。

 筆者があれこれ書き込むより、じっくりと山田厚史氏のコラムをぜひ読んでほしい。 
 

(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)

川崎老人ホーム連続殺人から金融資本主義の末路が見える
山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
2016年2月18日

 値動きの荒い株式市場、安定しない外国為替、マイナス金利に嵌った金融。騒然とする市場の陰で、有料介護施設「Sアミーユ川崎幸町」の捜査が進んでいた。転落死は一転して連続殺人事件になった。「清原逮捕」を上回る衝撃は16日から始まった「日銀のマイナス金利」など霞ませるに十分だった。

 ジャニーズのSMAP解散騒動、ベッキーの不倫、甘利大臣の斡旋収賄容疑が浮上し、イクメン議員の不倫まで発覚。社会面を賑わすスキャンダルが立て続けに起きたが、「Sアミーユ」を舞台にする連続殺人は現代の深い闇を投影している。老人の終末、格差社会、若者の閉塞感、社会保障の崩壊。事件は深いところで「市場の混乱」とつながっていないか。有料老人ホームで起きた事件から地球規模に広がるマネー資本主義の病理を考える。

●入居費は高額、職員は薄給
高級老人ホームは「格差の館」

 殺人の疑いで逮捕された今井隼人容疑者は、高校を卒業し医療系専門学校で救命救急士の資格を取って2014年4月からSアミーユ川崎幸町で働いていた。この施設は認知症など要支援1以上の利用者を対象にする介護施設だが、介護士の資格がない人も雇っていた。

 高齢化の進展で老人施設は2015年に全国で1万2400ヵ所に増えたが、介護人材の確保が追い付かない。人が足りなければ給与が上がるのが経済原則だが、介護職場は低賃金労働で知られている。

「男性職員に寿退職が目立つのが特徴です。結婚して家庭を持てば、介護職では共働きでも家族を養うのは無理というのが実情です」

 職場経験のある人は言う。介護には体力も必要だ。一人身でいる若いうちはできても、長く続けられるか。気持ちだけでは続かない仕事でもある。

 似た構造が幼児を預かる保育所でも指摘され、一部の施設で暴力やネグレクトが問題になっている。だが未来のある幼児には特有の愛らしさがあるが、日々衰えていく老人向けの施設には未来への明るさがない。

 認知症や寝たきり老人を支える仕事は精神的にも辛い。暴言を浴びたり、認知症患者への対応は心が折れる時がある、という。

「介護は気持ちが表れる仕事なので入居者との人間関係が大事です。経験が足りないと面食らい、相手の人格を尊重できなくなり問題行動が起きる」

 と前出の関係者はいう。入浴の世話や、オムツ換え、苦情の対応、と忙しく立ち働いているうちに、老人の人格が見えなくなり、自分を追い詰める「厄介者」と映ることもある。肉体的にもつらい環境の中で精神のバランスを崩す職員は少なくない。

 介護は「きつい、つらい、安い仕事」とさえ言われているが、政府は昨年、介護保険から支払われる介護報酬を減額した。税と社会保障の一体改革の一環。緊縮財政が職員給与を押し下げる力となっている。

 逮捕された今井容疑者は、介護士の資格がない。仕事に就いたばかりで、手取り給与は20万円足らず。「辛かった」と供述している夜勤は月に5回はある。深夜にコールが鳴り、オムツ換えやトイレの付き添いに走り回っても、あちこちから苦情が出る。そんな夜勤の日に事件は起きた。

 Sアミューズ川崎幸町のホームページによると、入居資格は要支援1以上の障がいがある人。「入居頭金ゼロ」で7畳ほどの個室に入れるのが売りだが、月の費用は22万1700円(賃料・管理費・食費)。この上にさまざまな経費が上乗せされる。等級ごとに介護保険の1割負担があり、被害者の丑沢さんの場合、月額2万2726円。医療費・薬代、おむつ代、行事参加費などが加算され、おおむね月に30万円程度の費用が必要だ。

 これだけの費用を年金で賄える人は稀だろう。サラリーマンなら年収1500万円は必要だ。十分な貯蓄や首都圏に持ち家があったり、経済力ある親族がいるなど恵まれた条件がなければ個室の介護施設に入所できない。

 Sアミーユ川崎幸町は、豊かな老人を薄給の若者が介護する「格差の館」でもあった。

●親から子へ「格差の固定化」で
日本は次第に階級社会へ?

 NHKで放送中の英国ドラマ「ダウントン・アービー」は第一次大戦前後の貴族の暮らしを描いたものだ。人に序列があり立ち居振る舞いまで異なる英国では、階級による差別は社会秩序に組み込まれている。戦後民主主義で高度成長を駆け上がった日本は、いま「一億総中流」の崩壊があちこちにひずみを生じている。所得や教育の差が、子世代に受け継がれる「格差の固定化」である。

 階級社会では下層の市民が裕福な貴族に仕えるが、Sアミーユのような現象は、日本も次第に階級社会へと進んでいることの現れかもしれない。少子化・高齢化が進めば、次は外国人労働者を受け入れて介護や家事労働を担ってもらうことになる。

 農業や漁業の現場で便利に使われている外国人研修生のように、「外国人だから(口実は研修生だから)安く使える」という人の差別化が始まろうとしている。

 介護職は安い労働と位置付けられ、就くのは低所得層か外国人という階層化が進むかもしれない。

 企業経営者なら「今更の話ではない」と思うだろう。日本の製造業は安い労働力を求めてアジアや中国に進出した。国際競争を勝ち抜くため、人件費の安い国に生産を移転させた。その結果、国内の労働者が外国の安い労働力と競争させられた。高い賃上げを要求すると、外国に職場を奪われる。自動車・家電などが次々と日本から離れる産業の国際化は国内賃金を抑え込み、GDPの6割あまりを占める個人消費を湿らせた。

 それが不況の主因ということに、安倍首相は今になって気づいた。企業が儲けても賃金として支払われなければ国内消費は盛り上がらない。生産が増えなければカネは国内に回らない。首相は「賃上げと設備投資を」と財界に要請している。だが、経営者には企業の論理がある。一時、収益が好転したからといって賃金水準を上げると、将来の重荷になる。景気の変化に対応できる柔軟性を確保するには、賃上げは避けたい。好況の時は非正規社員を増やし、不況になったら雇い止めできるようにするのが合理的だ、と考えている。

 経営者の立場ならそうだろう。政権はその言い分を聞いて「改正労働者派遣法」など、財界が望む政策を行ってきた。その結果、非正規労働者が全従業員の40%に広がり、正社員になれない若者が増えた。正社員と非正規社員の生涯給与は倍以上の開きがあり、若者世代に将来不安を広げた。

●経済政策は大企業の後押しばかり
社会構造の変化には手当てなし

 労働者の立場が悪い現実は、介護職場でも待遇改善まで妨げている。

 長引く不況の主因は国内消費が振るわず、カネが国内に回らないことにある。「お願い」ではなく、若者が将来に希望を描けるような安定した雇用をたくさん作ることが政治の目標であるはずだ。

 強い企業は世界展開することで儲ける。グローバル化に伴い国内はリストラされた。その被害を受けたのは一部の高齢者と若者である。退職に応じても条件のいい再就職先はない。健康な時はいいが、体調を崩したりすると暮らしはたちまち変調する。企業に長く勤めることを前提に制度ができている日本の社会福祉は、企業から離れると支えを失う。「下流老人」という層が長期停滞の中で形成された。この間、企業経営はひたすら人減らしで経営の好転を目指した。手っ取り早い方法が新規採用の絞り込みである。穴が開いた職場は非正規で埋める。高齢化社会を支える重要な役割を担うべき若者世代は、粗略な扱いを受けたのである。

 15日の朝日新聞が報じていたが、法人減税の恩恵を受けているのは海外展開に力を入れる大企業ばかり。国内で雇用を維持しているのは中小企業やサービス業である。にもかかわらず政府の産業政策は、高度成長の名残を引きずる大企業の後押しだ。

 貯蓄を持つ老人は消費者として活躍してもらわなければならない。高齢者市場が大きくなれば若者の雇用も広がる。社会構造の変化に対応する政策はなく、安倍首相が採用したのは日銀が国債を買い上げ銀行に資金を注入する「異次元の金融緩和」だった。

 お手本はまたアメリカだ。2008年に住宅バブルが弾けたアメリカの、窮余の一策が「金融の量的緩和」だった。資金繰りが危うくなった銀行や企業を救済するため、中央銀行であるFRBが3度にわたり計3兆ドルを超える資金を放出した。

 この資金は米国の銀行を通じ中南米やアジア、中国などに流れ込み、新興国への投資ブームを起こした。経済が落ち込んだら金融を緩和すれば景気はよくなる、という古典的な経済原理に沿った政策だが、先進国への効果は鈍くなっている。

 金融緩和はカネが不足している経済には効くが、カネ余りが常態化する地域には効き目が薄い。典型が日本だ。前回にも書いたが2013年に始まった黒田緩和で200兆円を超える日銀マネーが放出されが、ほとんどが日銀の中に溜まっている。銀行が資金決済する当座預金に預けたままになっているのだ。だから当座預金の金利をマイナスにして追い出しにかかったのが今回の措置だ。

●金融資本主義は早晩行き詰まる
日本がとるべき道は一つ

 まともな資金需要がないからカネがあっても貸せない。そんな現象が日本で起きているのは二つの理由がある。ドルのように世界で流通する基軸通貨ではない「円の限界」。もう一つが「バブルの教訓」である。

 1980年代に起きた金融バブルを体験した人たちが経営トップに居る。日銀マネーが注入されようが危ない融資はできない、という節度がまだある。

 アメリカはそうではない。リーマンショックで懲りてはいない。危ない貸し先こそおいしい。バブルが弾けるギリギリまで儲け話に食らいつき、弾けそうになったらいち早く逃げる。それが金融の醍醐味と考えるマネーハンターが少なくない。

 発展の余地のある途上国で有効需要を創り出せば世界経済は活性化する、という作戦は当たったが、一方で危ない事業や投機にカネが流れた。ハイリスク投資は経済が回っているうちは高いリターンが得られる。リーマンショックの引き金を引いたサブプライムローンのような、金融工学を駆使した怪しげな金融商品が隠れているのだろう。

 金融緩和が長く続くと必ず不良債権が増える。それは過去の実績が物語っている。緩和マネーは使い道を選ばない。ハイリスク投資はカネが付いてくる限り損害は表に出ない。金融が締まり、資金が逆流すると一気に表面化する。

 FRBは金融緩和が危険水域に入ったから量的緩和を止め、金利引き締めに転じた。だが、まだ本格的な引き締めには踏み込めない。緩和の副作用が噴き出せば、今でさえ不安定な世界経済の屋台骨が揺らぐことを心配している。

 リーマンショックの余波は終わっていない。米国の金融緩和と中国の財政出動で世界の需要を支えたが、その無理がいま反動となって世界を揺さぶっている。市場の値動きが大きいのは投資家がおろおろしていることの表れだ。

 金融は痛みを和らげることはできても、経済を変えることはできない。黒田緩和の失敗が物語っている。アメリカ発のマネーが新興国で焦げ付くのは時間の問題だろう。中国での調整も始まった。

 問題はマネーで解決できる、という拝金的な経済政策が世界規模で行き詰まっているのだ。日本が取るべき道は一つ。国内にカネを回すこと。そのためには労働者の賃金を上げ、若者が暮らしの安定と将来の希望を見出せる社会をつくることだ。

 Sアミーユが見せつけた悲惨な現実は、格差を広げる成長戦略より分配構造の見直しが大事だ、という警鐘と受け止めたい。

 金融頼みで失敗したアベノミクスは終わった。次の政権の課題が見えてきたように思う。

(貼り付け終わり)