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民事弾圧を許した「憲法の番人」

2021-12-06 | 時評

NHKが映らないテレビの所有者であっても、NHKとの受信契約・受信料支払の義務がある━。そんなトンデモ判決を今月2日、「憲法の番人」たる最高裁判所が発した。

放送法はNHKの放送を受信できるテレビの設置者にはNHKとの受信契約締結の義務があると規定しているところ、この事件の原告はNHKの放送信号を減衰するフィルターを組み込んだ特殊なテレビを購入・所有していたが、最高裁はフィルターを外すなどすれば受信できると認定した二審高裁判決を支持したのである。

不覚にも知らずにいたのだが、最高裁は2017年の段階で、NHKとの受信契約を法的義務とみなし、NHKからの契約申し込みを承諾しない相手に対して、NHKは裁判に訴えて承諾を命ずる判決を得て契約を強制的に成立させることができるという強硬な判決を発していた。今般判決は、これをさらに拡大し、技術的にNHKを受信できなくしたテレビの所有者であっても契約義務ありと判断したものである。

これらの司法判断によって、NHKは、当面受信できなくてもテレビを技術的に受信可能な状態に工作させたうえで強制的に受信契約を結ばせることまで可能となったわけである。このようなむたいな理屈が近年NHKが値下げして契約率向上を狙う衛星契約にも拡大されれば、問題はいっそう深刻化する。

これは、受信料の強制徴収という経済問題にとどまらず、NHKと強制的に契約させることにより、どの媒体を通じて情報を取得するかに関する市民の選択権を奪う権利をNHKに与えたことになるという点で、広い意味での言論の自由に関わる問題である。

現行法上、NHKとの契約拒否者に対して刑事罰を科する規定はさすがに存在しないが、民事訴訟を提起して市民を法廷紛争に巻き込むこともある種の懲罰的対応であって、これはNHK拒否者に対する民事弾圧である。このようなことを容認する「憲法の番人」は人権泥棒に加担していると言っても過言でない。

しかし翻って、それほどにNHK受信料制度を護持したければ、「契約」法理に固執せず―契約は自由が原則であって、「強制契約」はブラックジョーク的な概念矛盾である―、受信料を一種の税金として実際に税金とともに付加徴収すればよいのである。

だが、そこまでするなら、7年前の拙稿で提唱した通り、いっそのこと、日本放送協会:NHKを完全なる日本国営放送:NKHに再編すればよかろう。そうすれば、受信料制度は廃止され、文字通り税金で運営される御用放送局となり、政府与党は堂々と放送内容を統制できるようにもなる。

しかし、政府与党があえてそうしようとない理由も想像はつく。全国50を超す放送局、1万人を超す職員を抱える巨大メディアを国営化すれば、高額とされる職員給与も含め、すべて国庫負担となるからである(増税の口実には使える)。

NHK拒否者を民事弾圧してでも、国民から強制徴収した受信料に支えられた公共放送という名の御用メディアを維持するほうが経済的と打算されているのである。


[追記]
2022年6月、NHKとの受信契約を拒否する者からも割増金を徴収するなど、受信料制度を強化した改正(悪)放送法が成立した。こうした懲罰的割増制度の導入により、民事弾圧性はいよいよ強まった言える。


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