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戦後ファシズム史(連載第36回)

2016-05-23 | 〆戦後ファシズム史

第四部 現代型ファシズムの諸相

1:現代型ファシズム
 
第四部で取り上げるのは、現代型ファシズムである。このような用語自体、「ファシズムは過去のものである」とする国際常識的な命題に反しているため、論議を呼ぶ可能性がある。しかし、序説でも述べたとおり、ファシズムは決して過去のものではなく、現在進行形であり、また近未来形の事象でもある。
 となると、「戦後ファシズム史」という表題での歴史的な叙述の中に現代型ファシズムを混ぜ込むことはいささか矛盾しているようにも感じられようが、現代型ファシズムが成立したのも、あるいは近未来のファシズムの芽が生じたのも、現時点から見れば過去の時点のことであるので、現代史・同時代史的な意味で、これらの事象も歴史的な叙述に含めるものである。
 ところで、現代型ファシズムは従来型のファシズム以上に、ファシズムとは認識し難いことが多い。従来のファシズムは例外なく、反共主義をイデオロギー的な核心としており、ファシズムとは最も強度な反共主義の表現と言ってもよかった。しかし、現代型ファシズムにこのような定式は当てはまらず、イデオロギー的な曖昧化が進んでいる。
 イデオロギー的曖昧化は冷戦終結後のあらゆる政党・政治党派に共通する現象であるが、現代型ファシズムにあっては、従来のファシズム体制が共通して反共主義をイデオロギー的核心としていたのとは対照的に、反共主義は解除され、むしろマルクス主義やその他社会主義からの変節化形態が極めて多いことが特徴である。
 こうしたことから、現代型ファシズムは、すべてが綱領上明確にファシズムをイデオロギーとしない政党ないし政治集団を通じた不真正ファシズムの形態を採っており、しかも「独裁」批判を回避する目的から、表面上は議会制形態を維持することがますます多くなっている(議会制ファシズム)。
 総じて、現代型ファシズムはイデオロギー要素が希釈され、全体主義的な社会管理を志向するプラグマティックな権威ファシズムの性格を持つと考えられる。そのため、外観上も、ファシズムの域に達しない反動的権威主義との鑑別が困難になっており、実際、当該体制の為政者自身もファシズムを自覚していない場合や、個別的な政策綱領で本性を隠蔽する偽装ファシズムの形態を採る場合もあり得る。
 従って、ある体制がファシズムに分類できるか否かは、全体主義的社会管理の有無、差別的社会統制の強度やカリスマ的支配の有無・程度を基準にして識別する必要がある。さらに、現時点ではファシズムの域に達していないが、ファシズムへの移行可能性を潜在的に持つという限りで、「ファッショ化要警戒事象」というような概念を導入する必要性もあろう。
 他方、近未来につながる現代型ファシズムの別種として、イスラーム原理主義を核とするイスラーム・ファシズムが見られる。後に詳しく見るが、これは単なるイスラーム原理主義を超え、より過激かつ全体主義的な体制として構築されたイスラーム支配形態である。
 このイスラーム・ファシズムとそれがしばしば手段とする国際テロルに対抗する形で、欧州を中心にイスラーム教徒移民の排斥と社会浄化を呼号する反移民国粋ファシズムの潮流が起きている。また、同様の志向を伴った日本における国粋ファシズムの潮流も見られる。ただし、これらはまだ体制化されておらず、近未来ファシズムの萌芽にとどまっている。

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