ザ・コミュニスト

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日本版民間軍務会社

2014-08-24 | 時評

シリア領内で民間軍務会社―メディア上では「軍事会社」と訳されているが、活動内容からは「軍務会社」が適切と考える―の代表を名乗る日本人が、イラクのイスラーム過激勢力に拘束された事件は、日本社会で起きている近年の大きな変化の悲喜劇的な予兆である。

国などと契約し、営利目的で一定の軍務に従事する民間軍務会社は、元来は欧米で職業軍人経験者が「脱サラ」して設立するケースが大半を占めるが、その点、憲法上軍隊を保有しないことから、公式には「職業軍人」が存在しない戦後日本では成り立ちにくい企業モデルと考えられていた。

もっとも、自衛隊で職業自衛官の経験を持つ人であれば設立可能であるが、平和憲法と同居してきた自衛隊には実戦経験がなく、自衛官経験者でも民間軍務会社の任務を果たすだけの戦闘経験がないことが課題となるはずであった。2005年に、英国系民間軍務会社に勤務する元自衛官でフランス傭兵部隊経験者の日本人がイラク武装勢力に殺害されたケースはある

今回拘束された日本人は、報道等によればミリタリーショップの経験者であるが、自衛隊等で銃器を扱った経験はないようで、民間軍務会社の任務をこなすだけのスキルがあったか疑わしい、素人同然の人のようである。それでも、日本版民間軍務会社のパイオニアたらんとする志だけはあったようで、今回のシリア反政府軍への従軍はその準備活動であったらしい。

思えば10年前のイラク戦争渦中、平和的な目的をもって丸腰でイラク入りした日本人青年たちがイラク武装勢力に拘束された事件では、被害者たちが政府の渡航自粛勧告に反してイラク入りしていたことから、「自己責任論」の糾弾を受け、以後、こうした海外危険地での民間平和活動はすっかり萎縮してしまった。

そうした中で、今回の事件である。当人は近年のネオ軍国主義とも言うべき運動の中心人物でもある元自衛隊高官とも接点があり―元高官は記憶にないと主張―、シンパでもあるらしい。そうした運動ともリンクした民間軍務会社の活動を考えていたのだろうか。

本来の民間軍務会社要員は銃器の扱いもできることが前提であるから、丸腰の平和ボランティアとは異なり、「自己責任」的な営利活動である。集団的自衛権解禁後の自衛隊が実戦にも踏み込めば、日本でも本格的な民間軍務会社が見られるようになるかもしれない。

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