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世界共産党史(連載第19回)

2014-08-05 | 〆世界共産党史

第9章 ソ連邦解体後の共産党

3:朝鮮の「主体社会主義」
 朝鮮民主主義人民共和国では建国以来、朝鮮戦争を越えて南北分断状況が続く中、他名称共産党としての労働党が一党支配体制を維持してきたが、中国共産党をはじめ、ソ連邦解体後の同種支配政党が程度の差はあれ、開発独裁党路線へ進む中、独自の社会主義を純化する独異な路線を歩んでいる。
 朝鮮労働党はすでに60年代からソ連や中国とも異なる独自の社会主義思想として「主体」(チュチェ)思想を掲げ、国家イデオロギーとしていたが、それは建国者にして党創設者でもあった金日成とその子孫を最高指導者として絶対的に奉じる個人崇拝の体制を根拠づける理念であり、事実上の世襲制に基づく一族社会主義という他に例を見ないものである。
 ただ、実質的に見れば朝鮮流にモデルチェンジされたスターリン主義の亜型とも言え、徹底したイデオロギー統制と粛清・強制収容を伴う厳格な社会統制は、ある意味でスターリン主義の究極点を示している。ジョージ・オーウェルが小説『1984年』の世界で描いた「偉大なる兄」が独裁支配する全体主義国家は、朝鮮において驚くほど現実のものとなっているとも言える。
 ただ、最大の援助国であったソ連が解体した後は、経済運営で困難に直面し、次第になし崩しの市場経済化が図られる中、2010年には党規約から共産主義の文言が削除されたことで、朝鮮労働党はもはや他名称共産党でもなくなり、主体思想に基づく独自の社会主義政党として純化されることになった。
 しかし、一族支配維持のためのイデオロギー統治と体制護持を担保する核開発のような軍事が最優先され、開発独裁党路線には乗り遅れる中、後ろ盾である中国との関係も冷却し、困難はいっそう増している。

4:「緑の共産主義」の模索
 ソ連邦解体後の残存共産党の多くが、社民主義的転換か開発独裁党路線かという岐路に直面する中、第三の道として、環境主義との合流を目指す潮流も生じている。その先駆けは、ポルトガル共産党であった。
 ポルトガル共産党は30年代から74年の民主革命まで長く続いたファシスト政権の下では非合法化され弾圧される存在であったが、左派青年将校が主導した74年の革命後は革命政権に浸透して社会主義的な改革を実現させた。
 しかし、75年、革命のさらなる急進化を狙ったクーデターが鎮圧され、革命が収束した後は議会政党としての道を歩み、87年以降は環境政党・緑の党と「民主統一連合」を組んで選挙参加し、議会では統一会派「民主介入」を形成している。
 この赤‐緑連合は、共産党と緑の党という他国では理念や党運営の相違から疎遠な関係にありがちな二党が合併しないまま長く連合体制を維持する稀有の事例であるが、これとは別に、北欧では2004年に環境社会主義的な国際政党連合として「北欧緑左派同盟」がアイスランドで結成された。この国際同盟の中心政党はスウェーデン共産党を前身とする左派党であるが、核となったのはアイスランドの環境左派政党・緑左派運動である。
 この「緑左派」はもはや文字どおりの共産党を主体とする運動ではなく、環境的持続可能性を目指す社会主義という新たな理念に基づく独自の潮流と言うべきであるが、欧州議会では各国共産党が加わった統一会派「欧州統一左派/北欧緑左派同盟」を形成する形で、共産党とも拡大連合している。
 このような環境に重点を置く社会主義の新潮流は元来環境意識の高い欧州ならではのものであるが、共産党を緑色に変えるところまでは進んでおらず、共産党にとって脅威となる緑の党の台頭に対抗するため、「環境」に便乗したユーロコミュニズムの新たな生き残り戦術ではないかとの辛辣な見方を払拭できるほどの展開を見せるかどうかは未知数である。

*アイスランドの緑左派運動は、2017年総選挙で第二党につけ、同党議長カトリーン・ヤコブスドッティルを首相とする保守系及び中道系政党との大連立政権を率いることとなった。早くも政権政党となったわけだが、このような既存政党、それも保守系との雑居的連立による党本来の理念の後退が懸念される。

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