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旧ソ連憲法評注(連載第3回)

2014-06-14 | 〆ソヴィエト憲法評注

第六条

1 ソヴィエト社会の指導力および先導力ならびにその政治システムおよび国家的組織と社会団体の中核は、ソヴィエト連邦共産党である。ソ連共産党は人民のために存在し、人民に奉仕する。

2 マルクス・レーニン主義の理論で武装した共産党は、社会の発展の総合的な展望およびソ連の内外政策の路線を決め、ソヴィエト人民の偉大な創造的活動を指導し、共産主義の勝利のためのかれらの闘争に計画的で、科学的に根拠のある性格をあたえる。

 共産党一党支配の直接的な根拠として、(悪)名高い条文であった。第一項第二文で、付け足しのように人民への奉仕が謳われているとはいえ、第一文で共産党の指導性が明確に宣言され、第二項では共産党がソ連の内外政策の路線や未来まで決定するという形で、事実上恒久的に指導政党であり続けることが示唆されているからには、人民への奉仕は空虚なレトリックにすぎなかった。
 結局、この条文はソ連最末期の「ペレストロイカ」の中で、削除されることになったが、ソ連共産党の指導なきソ連とはソ連の解体・消滅へのステップにほかならなかった。

第七条

労働組合、全連邦レーニン共産主義青年同盟、協同組合およびその他の社会団体は、その規約の定める任務にしたがい、国家的および社会的なことがらの管理ならびに政治的、経済的および社会的、文化的な問題の解決に参加する。

 労組をはじめとする社会団体の役割に関する規定であるが、前条と合わせ読むと、これら社会団体もあくまで共産党の指導下に所定の管理と問題解決に参加するという枠付けがなされているのであり、各社会団体の自立性は保障されていない。

第八条

1 労働集団は、国家的および社会的なことがらの討議と決定、生産と社会的発展の計画づくりおよび労働条件と生活条件の改善の問題ならびに生産の発展、社会的、文化的措置および物質的奨励にあてられる資金の利用の問題の討議および決定に参加する。

2 労働集団は、社会主義競争を発展させ、先進的作業方法の普及および労働規律の強化を促進し、その構成員に共産主義的倫理を教育し、かれらの政治的自覚、文化および職業的技能の向上について配慮する。

 労働集団という独自の概念は、およそ企業的組織における経営管理層を含む全従業員を包括するもので、当時の「発達した社会主義国家」の段階にあっては資本主義的な労使対立はもはや存在しないという想定(プロパガンダ)で成り立つ概念であった。
 従って、資本主義的な用語では労働集団は企業と置き換えても誤りではない。すなわち、労働集団=企業は生産計画や労働問題のみならず、国家社会に関わる問題や公的資金の利用に関する討議や決定にも参加するという原則が本条で与えられていることになる。
 企業を単なる生産組織に限局せず、社会の基礎集団としてこうした幅広い役割を与えることは、社会主義の一つの特徴とも言えるが、これとて第六条が規定する共産党の指導下での「参加」という枠付けに変わりはなく、いわゆる自主管理社会主義とは異なるものであった。
 ちなみに、第二項に労働集団の対内的な役割の一つとして、「社会主義競争を発展させ(る)」とあるのは、社会主義にも市場的な競争原理を一部導入しようという試みの表れと読めるが、すでにこの時期、こうした市場経済への接近傾向が生じ始めていたことの証左である。

第九条

ソヴィエト社会の政治システムの発展の基本方向は、社会主義的民主主義のいっそうの展開、すなわち国家と社会のことがらの管理への市民のますます広範な参加、国家機構の改善、社会団体の積極性の向上、人民的監督の強化、国家生活および社会生活の法的基礎の強化、公開の拡大ならびに世論についての恒常的な考慮である。

 第一章の末尾を飾る本条はやや唐突な観もあるが、前文でも宣言されていた共産主義の実現へ向けたソ連社会の未来展望を改めて具体化して述べ、政治システムについて定める第一章の締めくくりとしたものである。
 それは「社会主義的民主主義」という概念で総括されているが、内容上は市民参加や法治主義、情報公開、世論重視などブルジョワ民主主義的な項目がやや雑多に並べ立てられており、「社会主義的民主主義」固有の特質には乏しいように感じられる。西側からの非民主性への批判を意識したのかもしれない。
 ただ、いかに「社会主義的民主主義のいっそうの発展」を謳ったところで、それは共産党の指導性を大前提としたうえでのことであるから、憲法内部での理論的な矛盾をいっそう深めるだけであった。

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